麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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第三章 ちゃんと私を見てくださいよ先輩!

Addiction-1

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 熊はゲラゲラ笑いながら能力を発動させる。

「みんなブッ飛んじまえッ! “豪傑熊”ァ! アヒャハハハハ!!!」

 熊の身体が黒い霧に包み込まれ、その中から巨大な黒い熊が姿を現す。

 前に見た時よりも大きくて爪が長くなっており、凶暴さが増したように見える。
 どうなってるの……?

「逃げて下さい琥珀さん! ここは私が引き受けます!」
「バカ! あんたまだ反動が治ったばっかでしょ!? 無理だって!」

 私の前に立とうとする凍牙を強引に引き留める。
 確かに立場的に私を守らないといけないかもしれないけど……。

 せっかく助けたのに何かあったら困る。

「でも私は――」
「仲間割れですかァ!? もっとやって下さいよォ!!」

「くっ!」

 そんな私達に熊が鋭い爪を振り下ろす。
 凍牙は言葉を発するのを止め氷で爪を受け止める。

 だがみるみる氷にヒビが入っていってしまう。
 ウソ……凍牙の能力でも防げないなんて……。

 それは、もう――。

「脆い! モロすぎますぅ! アヒャハハハハ!!!」
「何!?」

 レベル5の域を遥かに超えている……。
 頭がおかしくなる薬物で無理矢理レベルを引き上げたのか……! 

 凍牙の氷が、パリンと音を立てて砕け散った。

 氷から解放された熊の爪が私達を引き裂こうとするのを凍牙がまた新たな氷を出して食い止める。

「無駄ですよォ……アナタの能力には威力があまり無いようですからねェ……」
「ぐううっ……!」

 また段々と押されてしまう凍牙。
 でも凍牙の“フリーズバレット”は精密性を重視した能力とは言ってもレベル8の平均程度には威力があるはず。

 なのに押し負けるという事は、今の熊のレベルは8以上だと見た方がいいだろう。 

 一体どんだけヤバい薬物を使ってるんだ……! 
 私はそう分析しながら黄玉を出し熊にぶつける。

「これでも食らえ!」
「ガアッ!?」

 琥珀色の光球が熊の腹で爆発し、熊を怯ませた。
 割れかけていた凍牙の氷から熊の手が離れる。

「流石は琥珀さんですねェ……トッテモ親孝行なお子さんをお持ちデ……!」
「うるさいクズがぁっ!」

 耳障りな熊に私は黄玉を乱射した。
 金色の花火が熊の身体に咲き乱れる。

「ひゃははははははは!!! キレイです! キレイですよォ! これは将来が期待できますねェ! 犯罪で出来た子供とはとても思えませんよォ!」

 熊はその太い腕で黄玉を防ぐ。
 黄玉も防げるなんて……やっぱりコイツ強い……。

 ここは……とやかく言ってる場合じゃない。

「凍牙! 立場は分かるけど一人で戦ったら確実に負けるよ! 一緒に戦って!」

「やむを得ませんね……確かに琥珀さんの言う通り奴は強敵……そうしましょう……」

 私は凍牙に共闘を提案する。
 凍牙も反動が治った直後とはいえ普通に能力を使う分には大丈夫みたいだし、これがベストだろう。

 凍牙も渋々提案を受け入れてくれる。

「二人でかかって来るんですかァ……まあいいでしょウ……アヒャハハハハハハハ!!!」

「あいつ……薬でだんだんおかしくなってきてない? 語尾が変だし……」
「そうですね……」

 熊は薬の影響でラリッてきている。
 あれはかなりヤバい薬みたいだ。

「おそらく威力が跳ね上がる分精密性が失われると思われます……だからここは私が攪乱するので琥珀さんは能力を溜めて下さい!」

「大丈夫なの……?」
「攪乱は私の一番の得意技です。耕一郎さんに教えられましたから……!」

「……分かった。お願い」
「お任せを」

 そう言って凍牙は足に氷の刃を生やし熊の方へと滑り始めた。
 すごい……いつの間にか地面が氷に覆われてる……。

 普段のヘタレさがまるで嘘のよう。
 これなら何とかなりそうだ。凍牙を信じよう。

 私は黄玉を全身全霊で溜めた。
 一撃で決める……! 

 凍牙は氷の上を高速で舞い、熊を翻弄する。
 熊は凍牙のスピードにまるで付いて来れていないようだ。

 五月雨のように放たれる氷の弾に熊は反応出来ずにただの的となった。

「グッ! ガッ! アガァ! ハ、ハヤい……」
「やはり決定打には欠けるか……これ以上の加速は無理だ……!」

 だが致命傷は与えられない。
 でも今はそれでいい。

 私が決める……! 

「準備出来たよ! 避けて!」
「はいっ!」

「ナッ!? オまエ!?」

 私は限界まで溜めた黄玉を放った。
 稲妻を凝縮させたような光が、熊を包み込みそして爆ぜた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「よし……」
「凄い……」

 熊が居た辺りが焦土と化し、生き物の気配が消えた。
 今ので倒せたかな……最大火力だったと思うけど。

「私が氷で様子を探ってみます」
「あ、お願い」

 凍牙が地面に手を付き葉脈のように氷を伝わらせる。
 麗紗とか見てると霞むけど結構汎用性高いなこの能力。

 そうして凍牙がしばらく探っていると、眉をひそめてこう言った。

「……居ない!? どこに行ったんだ……」
「え? じゃあ遠くに吹き飛ばされたんじゃ――」

「ここに居ますよォ!」
「なっ!?」

 私が言葉を発そうとしたその時、熊が私達の目の前に現れた。
 結構ボロボロにはなっていたけど、まだ動けるみたいだ。

「あれを食らって耐えるなんてね……」
「どうやって私の氷を……」

「私の能力ハ体を覆うタイプの具現発動型なのデそレが緩ショウ材にナったんですよ。氷は木に登レばカイヒはカんタンでシた~」

「……だとしてもやる事は変わらないよ」
「また本気で行くだけです!」

 変な呂律でそう種明かしをする熊に、私達はそう返した。
 奴は大分ダメージが来ているはずだ。

 勝てる……! 
 私の中で、その確信は揺らがなかった。

 この瞬間までは。

「そウ言うト思いまシた。でハこチらも、出シ惜しミはいケまセんネェ……」

「……まだ何かあるの?」
「まさか……」

 熊が、薄ら笑いを浮かべながら言う。
 本当に何なんだコイツの余裕は……。

 迂闊に動けずにいると――。

「こレを、ツかいまスか寝」

 熊がボロボロの懐から、染色解放銃を取り出す。
 そして半笑いで撃鉄を引く。

『安定解除』

「特色者が、こレをツカえバどうナるでしょー!? キャハハッハハハハハ!!! へんシン!」

「何だと……!?」
「嘘……!?」

 染色解放銃を、特色者に撃つ!? 
 それをすればまた更に狂気が増すのだろう。

 狂気が増す。
 レベルが、跳ね上がる。

 熊の身体を、赤黒い火花が迸る黒い霧が覆った。

「グあああああああああああああああああああああああははははははははギェええええええええええええええええええええええええええええひゃはははははははははははははhそあいfwehfiweoiうおさ」

 人間ではないナニカが、産声を上げた。




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