麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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誰にも邪魔はさせないから

呪われた子

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「“恋色紗織”!」

 麗紗は桃色の糸を操り、藍羅に巻き付けた。
 絶対的な拘束が、藍羅を縛り付ける。

 藍羅はただ何の抵抗もせず、動かない。

「私の糸が速すぎて何も出来なかったかしら? あっけないわね」
「あなた今私に何かしたの?」

「は? ……ごふっ!?」

 麗紗の口から、突然血が溢れ出す。
 そして麗紗は遅れてようやく理解する。

 自分が今、攻撃されたことを。

「“時色織羅ときいろしきら”……内臓の三つか四つは潰れたんじゃないかしらね」

「い、今何をしたのよ……!」
「聞くだけ無駄よ」

 麗紗はあまりの激痛に腹を押さえて蹲った。
 藍羅はそんな麗紗を冷ややかな目で見下ろす。

 藍羅の能力、“時色織羅”はありとあらゆる行動の無駄を一切無くす能力だ。

 例えば、歩く時に“時色織羅”を発動すると、足を前に出すのに掛かる時間、重力、空気抵抗など様々な要因を無視して、歩く、という行為だけを無駄なく行う事が出来る。

 つまり“時色織羅”を発動すれば無限に、時間を消費せずに歩くことが出来るのだ。

 藍羅は先ほど麗紗に“時色織羅”を発動して突きを無限に入れ続けたため、麗紗の内臓はなすすべもなく破壊されたのだ。

 もちろん、その“無駄”には他の特色者が掛けてきた能力も含まれている。

 麗紗の“恋色紗織”も、誠司の“ロストポジション”も無視することが出来るのだ。

 しかし周囲の人間の都合までは無視できなかった。
 だから彼女は、誠司に逆らえなかったのである。

「ぐっ……こは、くせんぱい……私に力を……! “恋染珀――」

「無駄よ。“時色織羅”」

 麗紗は軋む体を奮い立たせて切り札を切ろうとした。
 だがそれを許す藍羅ではない。

「嘘……そんな……!」

 麗紗を包もうとした桃色の糸が微塵となって消え失せる。

「抵抗するだけ無駄よ。むしろ楽に死ねなくなるわ」
「……腐ってるのは昔から変わらないわね、あなた」

 麗紗は恨みの籠った目を藍羅に向ける。
 藍羅はふっと鼻であしらい、嘲るような笑みを浮かべて言う。

「そうね、私は腐ってるわ。あなたの父親に腐らされたせいでね」
「あいつなんか父親じゃないわよ……っ!」

「あなたがそう思っても、あれの血はあなたに流れているのよ。ふふ……冥土の土産にたっぷりと教えてあげるわ。あなたの父親が、どれだけ腐ってるか……あなたがどれだけ呪われて生まれてきたか……!」

「えっ……!?」

 麗紗は藍羅の言葉に目を見開いて驚いた。

 知る由もなかった自分の出生を、ここに来て知ることになったのを。

 だが、世の中には知らない方が幸せなこともある。
 それがまさに今藍羅が言おうとしていることだった。

 藍羅は、薄く笑いながら粘着質に語る。

「私は名家に生まれてからずっと令嬢としての教育を受けて来たの。地位の高い人間の所に嫁ぐために……それで選ばれたのが社長として業績を伸ばしていたあの人だった」

「……」

 静かに藍羅の話に聞き入る麗紗。

「その時の私は愚かにも幸せな結婚生活が待っているって勘違いしてたわ。きっと大事にしてくれるに違いないって。でもそれは大間違いだった。あの人は私を拒絶した。私に関わりすら持とうとしなかった。あの人は金に目が眩んで失明した屑の屑だった」

「……」

 麗紗は軽く、ほんの少しながらも藍羅に同情した。

 金を稼ぐ時間が無くなると、一度だけ会った時にそう言われて殴り飛ばされたのは麗紗も同じだった。

「でもあの人は想像を遥かに超えて屑だった。あの人は……あの人は……政略結婚をさせる為の子供が欲しいと言って……私を無理矢理……後は言わなくても分かるわよね? それで出来たのがあなただったのよ」

「は……?」

 藍羅の言葉に、麗紗の思考が止まる。

「まあ、政略結婚ぐらい大昔ならよくある話よね。でも……どうして私の相手が、よりによってあんな屑だったのかしらね。私はどうすれば、自分の人生を手に入れられたのかしらね」

「あ、あなたは……」

「あなたに同情される筋合いは無いわ。あなたの人生もあいつに呪われているじゃない。あなたは生まれた時から、屑の子供。この世に存在しちゃいけないモノなのよ」

 藍羅は淡々と言って、近くに落ちていた染色解放銃の銃口を麗紗の額に向ける。

「ひっ……!?」
「あの屑の娘らしく、醜く死になさい」

 藍羅が銃の引き金を引き、麗紗の額に弾丸が炸裂した。







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