麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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誰にも邪魔はさせないから

おかあさま

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 孤独だった、か……。
 確かに、小さい頃の麗紗は本当に一人ぼっちだった。

 その孤独を少しでも私が和らげることができたのかな。

 できてると、思いたい。

「私は琥珀先輩に会って正しい道に戻れました。だからあなたもきっと……!」

 麗紗は、お義母さまにそっと手を差し伸べる。
 その手を、お義母さまは――。

 バチンと、弾いた。

「……えっ」

「同情なんていらないのよ。あなたは良かったわねーいい人に恵まれて。私の周りには屑しか居ないのよ。そんなに自慢したいならいくらでもすれば? 私はどうせ負け犬よ」

「そ、そんなつもりは……」

「そういうつもりでしょう? 私だって昔あなたにした事を忘れているほど人間辞めてる訳じゃないわ」

 刺々しい言葉を麗紗に投げつけるお義母さま。
 麗紗の気持ちが、この人には全然届いていない。

 麗紗の優しさは私が一番よく知っている。

 でも、私が言ったところで、この人はまるで耳を傾けてくれないだろう。

 この人は、耳を両手で塞ぎきっている。

「もういいですよ。昔の事ですし……」
「嘘言わないで。誰だって根に持つわよあんな事されたら」

「そんなことないですよ……それ以上の幸せを、私は手に入れましたから」
「ふーん良かったわね」

「あいつも私が殺しま」
「え!? 本当に!? 本当にあなたがあいつを殺してくれるの!?」

「え……? あ、はい……」
「すごい食い付いた……」

 麗紗のその一言に、さっきまでの反応が嘘のように、お義母さまは目を輝かせた。

 あいつって……誰のことなんだろう。
 どれだけその人のことを恨んでいるんだ……。

「いや……でも駄目ね……気持ちはすっごく嬉しいけど私には……」

「ええ……」

 しかしお義母さまは暗い表情で俯いた。
 何か殺せない理由でもあるのかな。

 ていうかあいつって誰のことなんだ? 
 麗紗に聞いてみるか。

「ねえ麗紗……あいつって誰のことなの?」
「桜月誠司って名前の……あっ、私をここに飛ばしたあいつです」

 そう言われてピンときた。
 私がミンチにしてやったあいつのことか! 

「ああ! あの人ね! あの人なら私が殺しましたよお義母さま! 内臓が飛び散ってて面白かったです!」

「はあ!?」

 私の言葉に飛び付くお義母さま。

 なんか信じられないって顔をしてるけど、当然のことをしたまでなのになあ。

 私と麗紗を引き離すなんて一番の大罪じゃないか。
 死んで当然のことをしたんだよあいつは。

「そ、そんな……嘘でしょ……」

「信じられないかもしれませんが本当なんですよ……お悔み申し上げます……」

「………………はは」

 凍牙が追悼の意を述べると、お義母さまは天を仰いで乾いた笑いを零した。

「……家の都合でどうしてもあいつに嫁がないといけなかったけど……死んだならもういいわよね! あははは! 実家ももうどうでもいいわ! 潰れればいいのよあんな所! あひゃひゃひゃひゃ!」

「あ、あの……え……? 大丈夫、ですか……?」
 
「ありがとう麗紗! あなたの大切な人のおかげで私とっても大切なことに気付けたわ! 私ももっと好き勝手に生きていいんだって……他人の事なんて気にしなくていいんだって! 何をしようが暴れて黙らせればいいんだって!」

「お、お母さま……?」

 笑い狂うお義母さまにたじろぐ麗紗。
 お義母さまがなんか壊れちゃった。なんでだろう。

 それにしてもこの母娘は似てるなあ。
 雰囲気といい見た目といいよく似ている。

 麗紗がもっと大きくなったらこんな感じになるのかな。

 まあお義母さま以上に美しくなることは間違いないだろうけど! 

「麗紗ぁ……私、決めたわ。自分の楽しみのためなら何もかも全部引っ掻き回してやるって! だから……」

 お義母さまは、狂った口元を和らげて麗紗に微笑んだ。

「あなたも自由に生きなさい。周りの言いなりになってばかりの人形みたいな……誰かさんのような人間になりたくなかったらね」

「……お母さま」

「あなたは私と違って、いい人に出会えた。せいぜいその縁を大事にしなさいよ。それがどれだけ有難いことかを肝に免じてね」

「はい……」

 お義母さまの言葉に、麗紗はこくりと頷く。

 その言葉には、お義母さまの人生を通じての重みを感じた。

 そしてお義母さまは、私の方を向いて、こう言った。

「この子を、よろしくね」
「は、はい……! 絶対幸せにしてみせます……!」

 私の答えを聞いた時のお義母さまの顔は、ふわりと、優しさに満ちた笑顔だった。

 私達の言葉が、届いたのかは分からない。
 でも、お義母さまが前を向いたことだけは確かだった。

「それじゃあね……麗紗。ありがとう」
「あっ……お母さま……」

 お義母さまは私達の目の前から煙のようにふっと消えた。

 麗紗がなにかを口に出す隙も見せずに。

「…………」
「あの人なら、また会えるよ。きっと」

「……そうですね」

 私はそっと麗紗を抱きしめた。
 麗紗は私に体を預けて、少しだけ微笑んだ。



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