弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

文字の大きさ
2 / 178

2「顔は寝て起きたら必ず洗え」

しおりを挟む
「あー、今朝方、中央区で行方不明者が出た。治療院所属の回復術師だそうだ」
 朝の申し送りで、西区警備隊隊長のオロフス・アルムグレーンが難しい顔でそう告げる。
「回復術師ということは、例の連続誘拐事件絡みですか?」
 隊員の一人が質問した。この二ヶ月ほどの期間で、魔術師や神官など、魔力持ちばかりが十数人行方不明になっている。
「分からん、痕跡は似ているらしいがまだ調査中だ。今までとは地区が違うしな」
「今までは東区ばかりでしたね、無関係なのか、拠点を移したのか」
 事件を受けて東区には重点的に警備が敷かれているため、犯行グループがそれを嫌った可能性はある。


「ともかく捜索応援要請が来ている。うちからは偶数班を出す、奇数班は警邏の範囲が二倍になる、倍速でしっかり働け」
「えええええええ――――――」
 奇数班所属の隊員から野太い悲鳴が上がる。半数を他所に応援に出して人数が減っても西区の警備範囲が狭まる訳ではないが、倍速とは無茶振りが過ぎる。
「アルムグレーン隊長! その場合、給料が倍になったりは……?」
 さっと挙手して質問を投げ掛けた猛者がいたが。
「する訳ないだろう」
「くっ」
 秒で撃墜されて膝を折った。




「結構な人数ですけど、応援て何をするんですか?」
 偶数班所属のユランは、先輩のヴェイセルと、後輩だが同い年のカイと連れ立って、応援部隊の集合場所に向かいながら尋ねた。
「聞き込みと、現場は運河沿いだそうだから人海戦術で川底攫いかな……倍速で警邏する方が楽かもしれん」
 どっちもきついのは間違いないが、とヴェイセルが答えた。
「えー、川に入りたい季節じゃないんだけどなあ」
 カイがはああっと肩を落とす。季節は春になったばかりで、水は冷たい。
「まだ決まったわけじゃないよカイ、聞き込みのほうに割り振られるかも」
 ユランはカイを励まそうとしたが、ヴェイセルが首を横に振った。
「こういうのは若手からきつい方に回されるに決まってんだろ……ああ、俺はもう若くないのにお前ら二人の所為で巻き込まれるんだ」
 警備隊の任務は基本三人一組を最小単位として行われる。今回もそうだ。


「え、先輩も充分若いですよね?」
 ユランとカイは二十一歳、ヴェイセルは二十五歳。どちらにしろ若手である。
「十代の女の子から見れば立派なおじさんさ……」
 十代の女性と一体何があったのか、ふっと息を吐いて遠い目をするヴェイセルに、焦るユラン。
「大丈夫です! 二十一歳の僕からはとても素敵なお兄さんに見えます!」
「ユラン、悪いが、俺はお前にモテても全然嬉しくない」
「あ、いえ、僕も先輩のことは全然そういう意味では好きじゃないですけど……僕は先生一筋ですので! ごめんなさい!」
 お気持ちには応えられません、などと言い出すユランに。
「いや待て、なんで俺が振られたみたいになってんだよ」
 おかしいだろ、とヴェイセルは吠えた。






「先生、ただいま。今夜も泊めてください」
「ああ、お帰り。って、うわ、随分な惨状だな」
 夜も遅くに、泥だらけの上に葉っぱなどまで服につけて戻ってきたユランに、エイダールは、ぎょっとしたような声を上げる。
「腕も顔も擦り傷だらけだし、何をしたらそんなになるんだ」
「えへへ、捜索でちょっと藪漕ぎを」
 今日の任務は、ヴェイセルが予想した川底攫いではなく、藪を漕いでの痕跡と遺留品探しだった。
「大変だったな、御苦労さん。うーん、大きな怪我はないな。あとで薬塗ってやるから、とにかく風呂入ってこい風呂」
 ざっくりと体の傷の有無を確認したエイダールは、風呂へとユランを押し込んだ。




「痛たたたたたたっ、沁みるっ、沁みる―――――っ。先生、もっと優しく!」
 風呂上がり、ユランはエイダールに豪快に消毒液を振り撒かれた。
「沁みるってことは生きてるってことだよ、良かったな」
 悲鳴を華麗に聞き流し、腕の傷に軟膏を塗りつけるエイダール。
「頬の傷はちょっと深いな」
 エイダールに顔を近付けられて左頬に手を添えられ、傷口を見ているだけだと分かっているのに、ユランは心臓が止まりそうな気持ちになる。
「ここだけ治癒を使っとくか……『治癒ヒール』」
 ほわん、と頬が一瞬熱くなり、ぴりぴりとした痛みが消えた。
「あ、こんな傷に魔法使わなくていいのに……ありがとうございます」
 治癒の魔法は、擦り傷程度には通常使わない。使い過ぎると自然治癒力が落ちるという理由もあるが、小さな怪我が日常茶飯事のユランのような職業であれば尚更、この程度の傷に使っていてはきりがない。
「まあ、膿んだりしたら面倒だし……な?」
 そのことはエイダールも分かっている。ユランに甘いという自覚はあるのか、僅かに目を逸らして自分を納得させるように呟く。
「そうですね! 先生の愛を感じます! 嬉しいです、この頬は記念にもう洗いません」
 にこにこと頬に手を当てるユランに、エイダールは一瞬頭を抱えたが。
「ユラン、怪我の治療に愛もクソもないからな。あと、顔は寝て起きたら必ず洗え」
 訳の分からない記念など俺は認めない、とぴしりと言い渡した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...