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61「そんな死力尽くさなくていいから」
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「とりあえず、その辺に座って、これに充填しててくれ」
昼前に、侯爵邸の離れから押収した大きな魔力石とともに神殿にやって来た回復術師に、エイダールは箱いっぱいの空の魔力石を示した。
「これ、全部に? 半分くらいで私の魔力は枯渇すると思いますが」
回復術師は、魔力量は多い方だが、この量の魔力石を充填するのは無理である。
「いや、そんな死力尽くさなくていいから」
エイダールはとんでもない、という風に手を振る。この箱の中の空の魔力石は、神殿全体での今日の作業量の目安である。
「枯渇するまでやったら、体が魔力生成を張り切っちゃうだろ。既に過剰に作り過ぎて洩れてんのに、悪化させてどうする。余剰分をちょろちょろ入れるくらいの気持ちでいい」
手伝いに呼んだが、回復術師は療養中の身なのである。
「無理言って外出許可をもぎ取ったから、あんたに何かあったら俺の責任になる。だから無理はするな」
責任を取りたくない、と顔に書いてあるエイダールに、回復術師は少し笑った。
「分かりました、気を付けます」
「じゃあ俺は、こっちの処理をしてくるから、また後で」
エイダールは、持ち込まれた大きな魔力石が入った三つの箱のうち、一つを抱え上げた。
「へえ、結構早いな」
最深部まで一箱目を運んだエイダールは、二箱目を取りにまた上ってくる。十数分しか経っていないのだが、回復術師は五個の魔力石の充填を終え、六個目に取り掛かっていた。
「補助具なしでここまで損失無く充填できるってことは、魔力操作が相当上手いんだな、これなら例の魔法もすぐにものに出来そうだな」
よいしょっと、と言いながら、二箱目を抱え上げる。
「いつ教えてもらえるんですか」
回復術師的には、それを教えてもらうのが最大の目的なので、食い気味に尋ねる。
「そうだな、昼にはこの持ち込み分は片付きそうだし、昼飯食いながらでも」
一緒に食おうぜ、と言われて、回復術師は大きく頷いた。
「あなたが手伝いに来て下さった方ですね」
無心で魔力石の充填をしていた回復術師は、声を掛けられて顔を上げた。そして、相手が枢機卿であることに気付いて慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。
「お目に掛かれて光栄です、枢機卿。回復術師のフォルセ・ブラッサリアと申します」
誘拐された被害者仲間な訳だが、枢機卿はずっと閉じ込められていたし、救出後は神殿からの迎えが囲うように張り付いていて、話すことも出来なかった。当然名乗りもあげていない。
「これは御丁寧にありがとうございます、私はアシュレイ・ルニウムです。そんなに緊張なさらず、気楽にどうぞ」
「そうそう、枢機卿なんて言うと偉そうだけど、なんてことないおっさんだからな、砕けた感じで大丈夫だぞ。普通でいいんだ普通で」
枢機卿と一緒に深層部から上がってきたエイダールが言い添える。
「ギルシェ殿、お言葉ですが、あなたは砕け過ぎです。枢機卿に対する態度というものは、こちらの方のものが普通なんですよ!?」
礼を尽くせ、と側仕えの神官が拳を震わせる。
「エイダールは初めて会った子供の頃からこんな感じですよ。言葉遣いが雑なだけじゃないですか」
枢機卿は、あまり気にしていなかった。言葉遣いの所為で無礼な印象を与えがちなエイダールだが、実はそうでもない。
「慇懃無礼な相手と話すより、私も楽に呼吸できますし。では、四人で食事に行きましょうか」
枢機卿の言葉に、回復術師は、枢機卿、側仕え、エイダールと目で数えて。
「もしかして私も入ってます……?」
四人目は自分なのだろうかと、恐る恐る確認する。
「ええ、そうですよ」
「いえ、あの、私は作法も心得ておりませんし」
枢機卿と御一緒できるような身分ではございませんと尻込みしたのだが。
「普通にしてれば大丈夫だって。あんた、俺よりよっぽど上品だぞ」
エイダールに肩を掴まれて食堂へ連行された。
「本当に、温泉に入ったようにぽかぽかする魔法ですね」
ほんわりと温かい空気に包まれた枢機卿が感心したように呟く。
「しかも持続回復つきとは。これは私も教えていただきたいですね」
食事をしながら、回復術師がここに来た理由などを話していて、枢機卿がエイダールの魔法に興味を持ち、実際に使って見せたところである。
「あんたは普通に光魔法を使えばいいだろ。『癒しの光』と『持続回復』の合わせ技だから」
神聖力は光属性の魔力を帯びている。わざわざ水魔法に移植した物を覚える必要などない。
「水魔法であれば、魔力石で維持できるでしょう?」
火・水・風・土の魔法は、魔力石からの魔力供給が可能だが、光と闇の魔法はそれが出来ない。
「え、何か商売始める気なのか?」
展開した魔法の維持を考えるということは、どこかに設置するつもりということである。
「商売ではなく、神殿に癒しの場があればいいな、と思いまして」
「入場料でがっぽがっぽ?」
儲けるのか、と問うエイダール。
「ですから商売ではないです、無料で提供しますよ……まあ、集客力は上がるでしょうね」
人が増えれば寄付も増えるというものだ。
「いやそれもう商売だろ? まあ誰かが損する訳じゃないからいいけどさ、そういう長期的な設備にするなら、魔導回路組んだ方がいいぞ」
効果が切れたら掛け直すという形では管理が大変である。
「そうですね、ちょうど目の前に専門家もいますし。よろしくお願いします」
専門家とはエイダールのことである。
「俺かよ……まあいいか、魔導回路にすれば特許手続きが取れるしな」
特許料で儲けよう、と思うエイダールだった。
昼前に、侯爵邸の離れから押収した大きな魔力石とともに神殿にやって来た回復術師に、エイダールは箱いっぱいの空の魔力石を示した。
「これ、全部に? 半分くらいで私の魔力は枯渇すると思いますが」
回復術師は、魔力量は多い方だが、この量の魔力石を充填するのは無理である。
「いや、そんな死力尽くさなくていいから」
エイダールはとんでもない、という風に手を振る。この箱の中の空の魔力石は、神殿全体での今日の作業量の目安である。
「枯渇するまでやったら、体が魔力生成を張り切っちゃうだろ。既に過剰に作り過ぎて洩れてんのに、悪化させてどうする。余剰分をちょろちょろ入れるくらいの気持ちでいい」
手伝いに呼んだが、回復術師は療養中の身なのである。
「無理言って外出許可をもぎ取ったから、あんたに何かあったら俺の責任になる。だから無理はするな」
責任を取りたくない、と顔に書いてあるエイダールに、回復術師は少し笑った。
「分かりました、気を付けます」
「じゃあ俺は、こっちの処理をしてくるから、また後で」
エイダールは、持ち込まれた大きな魔力石が入った三つの箱のうち、一つを抱え上げた。
「へえ、結構早いな」
最深部まで一箱目を運んだエイダールは、二箱目を取りにまた上ってくる。十数分しか経っていないのだが、回復術師は五個の魔力石の充填を終え、六個目に取り掛かっていた。
「補助具なしでここまで損失無く充填できるってことは、魔力操作が相当上手いんだな、これなら例の魔法もすぐにものに出来そうだな」
よいしょっと、と言いながら、二箱目を抱え上げる。
「いつ教えてもらえるんですか」
回復術師的には、それを教えてもらうのが最大の目的なので、食い気味に尋ねる。
「そうだな、昼にはこの持ち込み分は片付きそうだし、昼飯食いながらでも」
一緒に食おうぜ、と言われて、回復術師は大きく頷いた。
「あなたが手伝いに来て下さった方ですね」
無心で魔力石の充填をしていた回復術師は、声を掛けられて顔を上げた。そして、相手が枢機卿であることに気付いて慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。
「お目に掛かれて光栄です、枢機卿。回復術師のフォルセ・ブラッサリアと申します」
誘拐された被害者仲間な訳だが、枢機卿はずっと閉じ込められていたし、救出後は神殿からの迎えが囲うように張り付いていて、話すことも出来なかった。当然名乗りもあげていない。
「これは御丁寧にありがとうございます、私はアシュレイ・ルニウムです。そんなに緊張なさらず、気楽にどうぞ」
「そうそう、枢機卿なんて言うと偉そうだけど、なんてことないおっさんだからな、砕けた感じで大丈夫だぞ。普通でいいんだ普通で」
枢機卿と一緒に深層部から上がってきたエイダールが言い添える。
「ギルシェ殿、お言葉ですが、あなたは砕け過ぎです。枢機卿に対する態度というものは、こちらの方のものが普通なんですよ!?」
礼を尽くせ、と側仕えの神官が拳を震わせる。
「エイダールは初めて会った子供の頃からこんな感じですよ。言葉遣いが雑なだけじゃないですか」
枢機卿は、あまり気にしていなかった。言葉遣いの所為で無礼な印象を与えがちなエイダールだが、実はそうでもない。
「慇懃無礼な相手と話すより、私も楽に呼吸できますし。では、四人で食事に行きましょうか」
枢機卿の言葉に、回復術師は、枢機卿、側仕え、エイダールと目で数えて。
「もしかして私も入ってます……?」
四人目は自分なのだろうかと、恐る恐る確認する。
「ええ、そうですよ」
「いえ、あの、私は作法も心得ておりませんし」
枢機卿と御一緒できるような身分ではございませんと尻込みしたのだが。
「普通にしてれば大丈夫だって。あんた、俺よりよっぽど上品だぞ」
エイダールに肩を掴まれて食堂へ連行された。
「本当に、温泉に入ったようにぽかぽかする魔法ですね」
ほんわりと温かい空気に包まれた枢機卿が感心したように呟く。
「しかも持続回復つきとは。これは私も教えていただきたいですね」
食事をしながら、回復術師がここに来た理由などを話していて、枢機卿がエイダールの魔法に興味を持ち、実際に使って見せたところである。
「あんたは普通に光魔法を使えばいいだろ。『癒しの光』と『持続回復』の合わせ技だから」
神聖力は光属性の魔力を帯びている。わざわざ水魔法に移植した物を覚える必要などない。
「水魔法であれば、魔力石で維持できるでしょう?」
火・水・風・土の魔法は、魔力石からの魔力供給が可能だが、光と闇の魔法はそれが出来ない。
「え、何か商売始める気なのか?」
展開した魔法の維持を考えるということは、どこかに設置するつもりということである。
「商売ではなく、神殿に癒しの場があればいいな、と思いまして」
「入場料でがっぽがっぽ?」
儲けるのか、と問うエイダール。
「ですから商売ではないです、無料で提供しますよ……まあ、集客力は上がるでしょうね」
人が増えれば寄付も増えるというものだ。
「いやそれもう商売だろ? まあ誰かが損する訳じゃないからいいけどさ、そういう長期的な設備にするなら、魔導回路組んだ方がいいぞ」
効果が切れたら掛け直すという形では管理が大変である。
「そうですね、ちょうど目の前に専門家もいますし。よろしくお願いします」
専門家とはエイダールのことである。
「俺かよ……まあいいか、魔導回路にすれば特許手続きが取れるしな」
特許料で儲けよう、と思うエイダールだった。
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