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92「人目のない場所で会いたいか?」
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「噴水広場で待ち合わせなんて、デートみたいですね」
ユランとエイダールは、冒険者ギルドから大通りを歩き出した。向かっているのは冒険者向けの店が軒を連ねている一角だ。
「この辺で人目があって分かりやすい場所なら、あの噴水一択だろう。あと何度も言うが、デートじゃないからな」
俺とお前が出掛けるのもデートじゃないからな、と念を押す。
「分かりやすいのは大事だと思いますけど、人目がある必要あります?」
「手紙でやり取りしただけの、今回は手紙じゃなくて紙鳥だが、信用できるかどうかも分からない相手と、人目のない場所で会いたいか?」
エイダールは聞き返した。
「そう言われると会いたくないって答えになりますけど」
身の安全のためにもできるだけ人の多いところで会いたい。
「弓使いのケニスさんは危ない人じゃないですよ?」
年かさということもあるのだろうが、弓使いは割と常識があるほうだった。
「ああ、俺はいいんだ、仮に向こうが危ない奴でも何とでもなるから。だけど向こうからするとどうだ? 突然指名依頼で魔弓がどうのこうのって言われてみろよ」
「怪しい勧誘っぽいですね」
警戒して当然である。うまい話には裏があるものだ。それでも弓使いが話に乗ってきたのは、ユランの知り合いらしいということと、魔弓への欲である。
「太陽の下、人目の多い健全な場所で待ち合わせれば多少は怪しさも薄れるだろ」
「あ、いたいた、ケニスさーん!」
噴水広場のベンチに座っていた弓使いのケニスを見つけて、ユランが手を振る。
「ユラン?」
何故君がこんなところに、という顔で立ち上がるケニス。
「あんたがケニスの待ち合わせの相手か?」
ケニスの隣にいた男が誰何してくる。
「待ち合わせ相手は俺だ」
ユランの後ろからエイダールが答えた。
「先生、こちらがケニスさんです、ケニスさん、こちらが今日見学させていただくことになってる先生です」
ユランが間に入って紹介する。
「会うのは初めてだな、今日はよろしく頼む、エイダールだ」
「よろしく、ケニスだ」
エイダールから差し出された手を、ケニスは握り返した。
「先生とは? 学者か何かなのか」
「研究者かな……一応、アカデミーで教鞭も執ってる。講座一つだけだけどな」
不人気で閑古鳥が鳴いているような講座だが。
「あんた、あの時ギルドに来てた……」
ケニスの隣にいた男が、エイダールの顔を見て思い出す。ケニスに指名依頼を出しに行った時に冒険者ギルド内にいて、無遠慮に声を掛けてきた男である。
「知り合いのパーティーと組んで魔獣討伐に行くって話だったが」
その関係か? と、男を見る。
「ああ、そのパーティーのリーダーが俺だ。ブレナンという。仲間は他に二人いる」
先に現場に入って、下見をしている。
「見学を許可してくれたこと、感謝する」
ブレナンとエイダールも握手を交わした。
「そりゃまあ、魔弓がどうとかって言われれば協力もするさ。あんた随分ひょろっとしているが、本当についてくるのか?」
ついてくるのか、というよりは、ついてこられるのか、という顔をしている。
「それが目的だからな」
「そっちの若いのは?」
ブレナンはユランが気になるようだ。
「僕はユランと言います。今日は先生の護衛です。よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げる。
「そうか、護衛を雇ったのか、それならまあ……随分若いが大丈夫なのか? 魔獣狩りの経験は?」
ユランの若さが、ブレナンには経験不足に見えるらしい。
「何度かあります」
腕を疑われたようなものだが、ユランはあまり気にしていなかった。
「ブレナン、彼はこの間の討伐にも参加していた。腕は俺が保証する。魔弓を貸してくれたのも彼だ」
ケニスが口を挟んだ。
「すまないなユラン、ブレナンは心配症で、若いのを見ると無茶しないかって気になって仕方がないんだ」
若くなくてもケニスのことも心配していて『一人で素性の知れない奴と会うな、腕を見たいって言ってんなら、俺のパーティーと組んだ時にしろ』と止めて、今日を迎えた形である。
「はい、大丈夫です」
心配されるのはエイダールで慣れているユランは、無茶もしません、と素直だ。
「人を年寄りみたいに言うなよ」
ブレナンは不満そうだが。
「俺よりは年食ってるだろ」
ケニスは素っ気ない。
「一つしか違わないだろ、誤差の範囲だろっ」
「誤差の範囲広すぎだろ」
「うるせえ」
「お二人は仲がいいんですね、お付き合いされてるんですか?」
三十を過ぎて子供のような喧嘩をしている二人も問題だが、それを見てにこにこしているユランは脳内がお花畑だった。
「「………………」」
揃って無言になるケニスとブレナン。仲がいいと言われることはあったが、付き合っているかと問われたことは一度もない。
「付き合ってたら、魔獣討伐もデートになりますよね」
にこにこにこにこ。
「「………………」」
無言のままケニスとブレナンは、ならないよな? と目で会話する。
「そんな訳ないだろ」
「痛っ」
ユランは、エイダールにばしっと背中を叩かれた。
「今後こいつがデートがどうとかって言いだしても、無視してくれ」
有無を言わせない口調でそう告げたエイダールに、ケニスとブレナンはこくこくと頷いた。
ユランとエイダールは、冒険者ギルドから大通りを歩き出した。向かっているのは冒険者向けの店が軒を連ねている一角だ。
「この辺で人目があって分かりやすい場所なら、あの噴水一択だろう。あと何度も言うが、デートじゃないからな」
俺とお前が出掛けるのもデートじゃないからな、と念を押す。
「分かりやすいのは大事だと思いますけど、人目がある必要あります?」
「手紙でやり取りしただけの、今回は手紙じゃなくて紙鳥だが、信用できるかどうかも分からない相手と、人目のない場所で会いたいか?」
エイダールは聞き返した。
「そう言われると会いたくないって答えになりますけど」
身の安全のためにもできるだけ人の多いところで会いたい。
「弓使いのケニスさんは危ない人じゃないですよ?」
年かさということもあるのだろうが、弓使いは割と常識があるほうだった。
「ああ、俺はいいんだ、仮に向こうが危ない奴でも何とでもなるから。だけど向こうからするとどうだ? 突然指名依頼で魔弓がどうのこうのって言われてみろよ」
「怪しい勧誘っぽいですね」
警戒して当然である。うまい話には裏があるものだ。それでも弓使いが話に乗ってきたのは、ユランの知り合いらしいということと、魔弓への欲である。
「太陽の下、人目の多い健全な場所で待ち合わせれば多少は怪しさも薄れるだろ」
「あ、いたいた、ケニスさーん!」
噴水広場のベンチに座っていた弓使いのケニスを見つけて、ユランが手を振る。
「ユラン?」
何故君がこんなところに、という顔で立ち上がるケニス。
「あんたがケニスの待ち合わせの相手か?」
ケニスの隣にいた男が誰何してくる。
「待ち合わせ相手は俺だ」
ユランの後ろからエイダールが答えた。
「先生、こちらがケニスさんです、ケニスさん、こちらが今日見学させていただくことになってる先生です」
ユランが間に入って紹介する。
「会うのは初めてだな、今日はよろしく頼む、エイダールだ」
「よろしく、ケニスだ」
エイダールから差し出された手を、ケニスは握り返した。
「先生とは? 学者か何かなのか」
「研究者かな……一応、アカデミーで教鞭も執ってる。講座一つだけだけどな」
不人気で閑古鳥が鳴いているような講座だが。
「あんた、あの時ギルドに来てた……」
ケニスの隣にいた男が、エイダールの顔を見て思い出す。ケニスに指名依頼を出しに行った時に冒険者ギルド内にいて、無遠慮に声を掛けてきた男である。
「知り合いのパーティーと組んで魔獣討伐に行くって話だったが」
その関係か? と、男を見る。
「ああ、そのパーティーのリーダーが俺だ。ブレナンという。仲間は他に二人いる」
先に現場に入って、下見をしている。
「見学を許可してくれたこと、感謝する」
ブレナンとエイダールも握手を交わした。
「そりゃまあ、魔弓がどうとかって言われれば協力もするさ。あんた随分ひょろっとしているが、本当についてくるのか?」
ついてくるのか、というよりは、ついてこられるのか、という顔をしている。
「それが目的だからな」
「そっちの若いのは?」
ブレナンはユランが気になるようだ。
「僕はユランと言います。今日は先生の護衛です。よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げる。
「そうか、護衛を雇ったのか、それならまあ……随分若いが大丈夫なのか? 魔獣狩りの経験は?」
ユランの若さが、ブレナンには経験不足に見えるらしい。
「何度かあります」
腕を疑われたようなものだが、ユランはあまり気にしていなかった。
「ブレナン、彼はこの間の討伐にも参加していた。腕は俺が保証する。魔弓を貸してくれたのも彼だ」
ケニスが口を挟んだ。
「すまないなユラン、ブレナンは心配症で、若いのを見ると無茶しないかって気になって仕方がないんだ」
若くなくてもケニスのことも心配していて『一人で素性の知れない奴と会うな、腕を見たいって言ってんなら、俺のパーティーと組んだ時にしろ』と止めて、今日を迎えた形である。
「はい、大丈夫です」
心配されるのはエイダールで慣れているユランは、無茶もしません、と素直だ。
「人を年寄りみたいに言うなよ」
ブレナンは不満そうだが。
「俺よりは年食ってるだろ」
ケニスは素っ気ない。
「一つしか違わないだろ、誤差の範囲だろっ」
「誤差の範囲広すぎだろ」
「うるせえ」
「お二人は仲がいいんですね、お付き合いされてるんですか?」
三十を過ぎて子供のような喧嘩をしている二人も問題だが、それを見てにこにこしているユランは脳内がお花畑だった。
「「………………」」
揃って無言になるケニスとブレナン。仲がいいと言われることはあったが、付き合っているかと問われたことは一度もない。
「付き合ってたら、魔獣討伐もデートになりますよね」
にこにこにこにこ。
「「………………」」
無言のままケニスとブレナンは、ならないよな? と目で会話する。
「そんな訳ないだろ」
「痛っ」
ユランは、エイダールにばしっと背中を叩かれた。
「今後こいつがデートがどうとかって言いだしても、無視してくれ」
有無を言わせない口調でそう告げたエイダールに、ケニスとブレナンはこくこくと頷いた。
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