弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

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99「何でもないって顔色じゃないぞ」

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「ギルシェ先生、配布用の日程表は、これで間違いありませんか?」
 エイダールは、スウェンから魔法紋様の講座の日程表の原稿を渡される。
「合ってると思うぞ、曜日固定だし、場所もいつものところだし」
 人数が多い人気講座だと中央の大講堂を交代で使うことになるが、少人数の場合、小さな講義室が詰まっている東か北の講義棟の一室が割り当てられる。立地が悪い北の講義棟だと競合相手がおらず、講義室に物が置きっぱなしに出来るため、エイダールは毎年そちらを確保していた。
「では、印刷に回します。初講義の挨拶は考えましたか?」
「え、いつも通りの簡単な自己紹介でいいだろ」
 名乗って、ざっくりと講座内容を説明するだけである。
「あ、魔法紋様でこんなことができるって実演を交えて受講生の心を掴もうと思ってたんだっけ」
「思っただけなんですね」
 具体的な話を一切聞いていないスウェンが突っ込む。
「一応考えたぞ、水を注ぐと氷が出てくる魔法陣とか」
「それこの間、特許申請しましたよね……」
 宴会芸的な感じのものを目指して書き上げたのだが、実用的すぎたので普通に特許申請した。
「水を注ぐと火が出る魔法陣も考えたぞ。水から氷なんて当たり前すぎるが、火が出たら面白いだろ?」
 面白さ重視である。
「そうですね……」
 水と火では性質が真逆なので、途中の損失が大きい。効率を重視した場合ありえない組み合わせである。
「魔法陣はともかくとして、シビラさんはどうするんですか、講座助手として紹介しておいた方がいいのでは」
 研究を手伝う訳ではないが、講義の補助に入ってもらう予定である。
「そうだな、一度打ち合わせておいた方がいいか」






「ただいま戻りました」
「お帰り」
 帰宅したユランは、厨房でごそごそしていたエイダールの手元を見る。
「何してるんですか、こんなに鍋を出して」
 浅い鍋から深い鍋まで、いろいろ出ている。
「講義の挨拶に使おうと思ってな」
「挨拶に鍋を?」
 意味が分からない。
「もしかして、みんなで鍋を囲んで親睦を深めよう的な?」
 少人数の講座なので、家庭用の鍋でも数があれば可能な気がする。
「それはそれでいい考えだな」
 エイダールはふっと笑って、一つの鍋を掴んだ。
「この浅鍋にするか、でか過ぎて全然使ってないからこれからも使わないだろうし」


「鍋にこの魔法陣を描いた紙を入れて、水を注ぐと……」
 口で説明するより見たほうが早いと、エイダールはユラン相手に実演を開始した。
「え、どうなってるんですかこれ」
 ユランは目を丸くした。底に沈んだ魔法陣から小さな炎が幾つも生まれて、宙にふわりと浮かび上がる。花びらが舞うようなひらりひらりとした動きを見せつつ、余韻を残して消えていく。
「なかなかいいだろ?」
「凄く綺麗です」
「最初は水を注いだら火が出るだけだったんだけどな、見映えにも気を遣ってみた」
 俺頑張った、と自画自賛するエイダール。
「もう少し派手にしたいんだが、何か思いつかないか?」
 とにかくびっくりさせたい。
「このままで雰囲気いいと思うんですけど」
 これ以上派手にする必要はないとユランは思う。
「周りを暗くするとか、炎の色を虹色にするとか?」
 周りが暗ければ自然に光が明るく感じる。
「虹色はやり過ぎの気もするが、色はつけてみるか……」
 エイダールは鍋から魔法陣を取り出した。



「魔法紋様の可能性って、あんまり理解されてないからな、こういうのを掴みに使おうと思ってな」
 魔法陣を書き換えながら、エイダールはユランに説明した。
「成程、学生の人に魔法紋様でこんなことが出来ますよって見せる訳ですね」
「ああ。俺の講座を取ってる時点で無関心てことはないと思うが、興味が出るかどうかでまるで習熟度が違うからな、よし、書き換えできた、ちょっと暗くするぞ」
 ランタンの光量を絞り、水が入ったままの浅鍋に魔法陣を落とす。
「うわあ……」
 幻想的な光景に、ユランの口が開く。
「色と一緒に強弱もつけたぞ」
 ふわりふわりと何色かの炎が踊る。
「ずっと眺めていたいですね」
 鍋の前にユランはぺたりと座り込む。
「水が切れるまで出続けるぞ」
 途中で水を足すことも可能だ。


「これ、雰囲気作りに凄くいいと思います、記念日とかの」
 暗い中でちらちらと揺れる炎を見ていると、とても落ち着く。
「揺らぎ効果ってやつだな」
「そうかも」
 相槌を打ったユランは、炎に照らされたエイダールの首筋から不意に目が離せなくなった。昼間のジペルスとの会話を思い出して、心臓が波打つ。
「ん、どうした?」
 様子のおかしいユランに気付いて、エイダールはランタンを元の明るさに戻した。
「顔が赤いぞ」
「え、いえ、なんでもありませんっ」
 手を伸ばされて後退る。
「いや、何でもないって顔色じゃないぞ」
 一方の手で肩を掴まれ、もう一方の手を額にあてられる。
「うひゃああ」
 裏返った声を上げてエイダールの手を押し返す。
「うひゃああ、って……」
 声にも驚いたが、こんな風にユランに拒絶されたことが初めてだったエイダールが固まる。
「な、何でもないんです、本当にっ」
 エイダールに意識させなければならないのに、自分が意識してしまうユランだった。
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