弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ

文字の大きさ
138 / 178

138「無駄って言うなよ」

しおりを挟む
「階段は何処でしょうか……」
 昼休み、研究所を訪れたサフォークは、受付を済ませると、エイダールの研究室に向かっていた。案内すると言われたのだが、迷路でもあるまいしと、研究棟三階の右側の奥だと場所だけ聞いたのだが、階段が見つからない。廊下をぐるりと回っていたら、中庭に出てしまった。迷子である。
「内階段でしたら、引き返して、受付すぐのところを左に折れるとありますが」
 サフォークは、背後から声を掛けられて振り向く。
「そうでしたか、御親切にありがとうございます」
 サフォークは、声を掛けて来た男に頭を下げる。カスペルである。
「外階段なら中庭を突っ切った、その大きな木の向こうに……どちらをお訪ねでしょうか?」
 カスペルは、サフォークに尋ねる。
「ギルシェ教授とお会いする約束をしています、三階の右奥だと聞いたのですが」
「ああ、エイダールの……ギルシェ教授の研究室なら、外階段からのほうが近いです。よろしければ御案内します、私も彼に届け物をするところですので」
 エイダールに借りていた服を返しに来たカスペルは、服の入った紙袋を持ち上げてみせた。




「はいどうぞー……ってカスペルか。何しに来たんだよ」
 扉を叩く音に、時間的にサフォークだと思って出迎えたエイダールは、カスペルの姿を見て突っ込む。
「借りていた服を返しにきた。ついでにこの間の認識系の魔導回路の可能性について詳しく話を聞きたくてな」
 カスペルは、持って来た紙袋をエイダールに押しつける。
「今日は人と会う約束があるから……あれ?」
 今は無理だぞ、と言い掛けたエイダールは、カスペルの背後にいたサフォークに気付く。
「そこで会ったんだ、目的地が同じだったから一緒に来た。彼が約束の相手?」
 カスペルは、サフォークとエイダールの間から体をひいて、二人を引き合わせる。
「あー、えっと、エクセターさん?」
 サフォークの顔を知らないエイダールは、名前を確認する。
「初めてお目にかかります、サフォーク・エクセターです。本日はお時間をいただきありがとうございます」
 丁寧なサフォークの挨拶に、エイダールも背筋を伸ばした。
「エイダール・ギルシェです、初めまして」
 ユランを通じて手紙を交わしてはいるが、会うのは初めてである。


「どうぞ、奥へ」
 勝手知ったる研究室なので、カスペルは簡易な間仕切りの奥にある来客用の区画にサフォークを誘導する。
「何でお前が案内してんだよっ」
「誰が案内しようと別に構わないだろう?」
 いつまでも客を立たせておく方が失礼だと、カスペルはエイダールの抗議をするりと流す。
「そうですね、どうぞこちらへお掛けください」
 スウェンがサフォークにソファを勧めた。


「認識系の魔導回路というのは私がお聞きしたいと思っていることと?」
 もしかして、と座りながらサフォークが問い掛ける。
「ああ、あなたと同じようなことをこの男も言ってきていて……」
 エイダールは、ふと考え込み、サフォークとカスペルを交互に眺めた。
「二人は気が合う気がするんで、一緒に話をさせてもらっても構いませんか?」
 別々に話すと二度手間な予感がひしひしとしたので、そう提案する。
「私は構いませんが」
 サフォークは了承し、カスペルも頷く。
「よろしくお願いします、カスペル・サルバトーリと言います」
「よろしくお願いします」
 カスペルの名前に、サフォークは引っ掛かりを覚えた。この国では王家の次に有名な筆頭公爵家の家名のような気がする。しかしこんなところにそんな高位貴族がいるとは思えないし、平民だと聞いているエイダールとは、気の置けない友人といった雰囲気である。きっと似た名前を聞き違えたのだろうという結論に達する。




「文字じゃなくても認識できるかだって? そのほうが簡単だけど?」
 精度についての幾つかの質疑応答のあと、文字ではない模様のようなものでも出来るのか、と問われて、エイダールは何言ってんだという顔になる。
「そういうものなのか?」
 カスペルは今一つ理解が追い付かない。
「文字認識のほうが、文字として成立してるかどうかの確認をする分、複雑になるんだよ。見本となる文字にかなり似ていても、例えば点が一つ足りなくて文字として成立してない場合は大きく減点だ……まあ、それは今回作った物の用途が『見やすい文字の練習』だからそういう風にしたんだけど、線の繋がりや抜けなんかを、他と同じ基準で判定することも出来る」
「成程。文字として成立することが大前提ですね」
 この用途の場合その考え方で合っている、とサフォークはうんうんと頷く。
「そうそう。設定で変えることもできるし、今回は見送ったけど、掠れた文字なんかに対応したければ、魔導回路にもうちょい書き込めばいいし」
「そんな複雑そうなものを知り合いの文字の練習のために一晩で作り上げるなんて、才能の無駄遣いもいいところだというのは分かった」
 カスペルは大きく嘆息する。
「無駄って言うなよ……無駄にならないんだろう? こんなにすぐ訪ねてくるなんて、具体的にしてほしいことがあるってことなんじゃないのか?」
 さっさと吐け、とエイダールは促した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...