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「その程度の魔力しかないなら、猫にならない方がいいのでは……」
 父さまが、私の将来のなけなしの魔力を封じようとしてくる。
「アスター卿、その程度でも魔力があることが逆に問題になってくる」
 ふっとジスカール卿の声が低くなる。あ、これ、真面目な話だ。
「こんな小さいうちから魔力の流れを弄ると、命に係わる魔力障害を引き起こしかねない。魔術師としても薬師としても絶対に容認できないよ」
 後で聞いた話なのだが、ジスカール卿の奥さまは、若い頃に魔力硬化症という病を患っていて、生死をさまよったこともあるらしい。
「命に係わるようなことはさせられませんよ!?」
 父さまが青褪める。娘の魔術師としての可能性は潰せても、命に係わるとなれば是非もないようだ。父さまが人の道をぎりぎり踏み外さなくて良かった。
「ですが、猫になるなどという噂が広まったら……結婚できなくなるのでは」
 私の将来のことも心配なようで、父さまが頭を抱える。
「世間は広いですし、猫になっても構わないという方もいるでしょう」
 御子息が父さまを宥め始めるが、そんな人はただのもの好きであって、そこに愛があるとは思えない。
「いらっしゃるかしら、そんな奇特な方」
 母さまが悩み始める。
 奇特な方ってなんなの母さま。私との婚姻が慈善事業の様相を呈してきた。
「結婚なんて縁と勢いでしょう? 私の結婚前の噂も散々だったけれど、ちゃんと結婚できたもの、大丈夫よ」
 レティーシャさまの結婚は、縁と勢いだったらしい。
「そうだね、勢いって大事だね」
 同意する御子息の目が、心なしか虚ろに見える。この二人が結婚するとき、一体何があったのか。
「そうそう、だから今は、そんな先のことなんて気にせずに、人間のデイジー嬢も、猫のデイジー嬢も可愛い、でいいじゃない。ね、ハルシャ」
「はい、レティーシャさま!」
 母さまが秒で陥落する。我が母ながらブレがない。




「ふらつくといけないから、座ってから、ここに手を置いて」
 魔術式の作成に私の魔力紋……魔力における指紋みたいなもの? が必要らしい。読めない文字のような模様のようなものが書かれた小さな紙の上に手を置くように、御子息に指示される。触れると魔力を一定量吸い上げる魔術式が書かれた紋様符という紙らしい。何それ恐い、と思ったが、ほんの微量だそうだ。ただし、人によっては勢い良く持って行かれてふらついたりするらしい。
「きれいな黄色だね、デイジー嬢は土の属性だね」
 暫く手を置いていたら、紋様符が黄色に染まった。
「土?」
 私、土属性なの? 土ってちょっと地味なイメージなんだけどな。
「そうだよ、黄色は土属性なんだ。僕は火属性だから赤になるよ」
 御子息が予備らしき紋様符に手を置くと、一瞬で深紅に染まる。魔力のことも魔法のこともよく分からない幼女&転生者だけど、御子息がなんかすごいことは分かる。
「水属性だと青、風属性だと緑になるよ」
 勉強になります、御子息さま。
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