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元、王子さま
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「きゃっ」
今日は魔導研究所での定期健診に、母さまと来ている。クマのぬいぐるみを抱えて、ジスカール卿の御子息……クリストフさまの研究室に向かう途中の廊下の角で、私は誰かにぶつかった。
「えっ」
ぶつかった相手も声を上げている。
私は尻もちをつきながら、手から飛び出したクマのぬいぐるみの行方を目で追う。私からの距離は約三メートル、大丈夫、ぬいぐるみに仕込まれた呪い阻害の効果範囲は半径十メートルだから、セーフだ。
「ごめんね、大丈夫? どこか痛くしてない?」
私の前にかがんで、心配そうに手を差し伸べてきた男性の顔を見て。
「ほわあっ!?」
私は思わずおかしな声を洩らしてしまった。
きらっきらの金髪に晴れた空みたいな澄んだ碧眼、優しそうな面差し。絵に描いたような王子さまキャラが、そこにいた。
「デイジー嬢? どうかした? ぼうっとして」
クリストフさまの研究室に着いても、私は呆然としていた。
「廊下で人とぶつかって、驚いてしまったみたいで……」
母さまが説明を入れる。
「すっごいきらっきらの髪の人だったの」
私を助け起こし、クマのぬいぐるみを拾って返してくれたのだが、うまくお礼も言えなかった。
「まるで王子さまみたいな……」
美人度でもレティーシャさまとタメを張れると思う。
「きらっきらの髪の王子さまみたいな人? ああ、元王子さまかな」
クリストフさまは、心当たりがあるようだ。
……って、元、王子さまとは。
「元?」
そこのところをはっきりさせようと、私は首を傾げる。
「元第二王子殿下、今は王弟殿下だよ」
成程、代替わりで王子殿下から王弟殿下に。
「デイジー嬢はお会いするのは初めてかな、学園を卒業されて研究所に入られて、しばらく経つのだけれど」
この魔導研究所で邂逅する可能性があったらしい。初対面だ。
「初めてお会いしました」
王弟殿下に限らず、王族をあんな近距離で見たの初めてだからね!
「ああ、殿下に会ったのね」
いつも通り『異常なし』の診断を貰い、向かいのレティーシャさまの研究室にお邪魔した。というか、ここからが母さま的には本番なのだと思う。
「びっくりしましたわ、デイジーがてけてけ走ったかと思ったら、殿下にぶつかって転ぶんですもの」
よくよく考えれば、王族に体当たりをかました訳である。罪に問われたりしないのだろうか。
「ど、どうしよう」
意図的に危害を加えたと判断されたら、物理的に首が飛んでもおかしくない。
「大丈夫よ、穏やかな性格の方だし、ここではお互い一研究員ということで、多少のことで不敬は問わないってことになっているし」
低姿勢な王弟殿下らしい。
「レティーシャさま、王弟殿下はご結婚は?」
あんなきらっきらの王子さまがモブな訳がないので、可能性を探る。
「まだね」
「婚約は?」
「してないわね」
「学園で、どこかの御令嬢と噂になったりは……?」
王弟の肩書とあの容姿。この世界が乙女ゲームならメインヒーロー間違いなしである。ヒロインと浮名を流していないだろうか。
「学園で? よく分からないわ、同じ時期に通った訳でもないし」
レティーシャさまとは年代が違うようだ。
「どうしたのデイジー嬢、もしかして王弟殿下に一目惚れ?」
レティーシャさまの目が、悪戯っ子のように輝いている。
「えっ」
とんだ濡れ衣である。
今日は魔導研究所での定期健診に、母さまと来ている。クマのぬいぐるみを抱えて、ジスカール卿の御子息……クリストフさまの研究室に向かう途中の廊下の角で、私は誰かにぶつかった。
「えっ」
ぶつかった相手も声を上げている。
私は尻もちをつきながら、手から飛び出したクマのぬいぐるみの行方を目で追う。私からの距離は約三メートル、大丈夫、ぬいぐるみに仕込まれた呪い阻害の効果範囲は半径十メートルだから、セーフだ。
「ごめんね、大丈夫? どこか痛くしてない?」
私の前にかがんで、心配そうに手を差し伸べてきた男性の顔を見て。
「ほわあっ!?」
私は思わずおかしな声を洩らしてしまった。
きらっきらの金髪に晴れた空みたいな澄んだ碧眼、優しそうな面差し。絵に描いたような王子さまキャラが、そこにいた。
「デイジー嬢? どうかした? ぼうっとして」
クリストフさまの研究室に着いても、私は呆然としていた。
「廊下で人とぶつかって、驚いてしまったみたいで……」
母さまが説明を入れる。
「すっごいきらっきらの髪の人だったの」
私を助け起こし、クマのぬいぐるみを拾って返してくれたのだが、うまくお礼も言えなかった。
「まるで王子さまみたいな……」
美人度でもレティーシャさまとタメを張れると思う。
「きらっきらの髪の王子さまみたいな人? ああ、元王子さまかな」
クリストフさまは、心当たりがあるようだ。
……って、元、王子さまとは。
「元?」
そこのところをはっきりさせようと、私は首を傾げる。
「元第二王子殿下、今は王弟殿下だよ」
成程、代替わりで王子殿下から王弟殿下に。
「デイジー嬢はお会いするのは初めてかな、学園を卒業されて研究所に入られて、しばらく経つのだけれど」
この魔導研究所で邂逅する可能性があったらしい。初対面だ。
「初めてお会いしました」
王弟殿下に限らず、王族をあんな近距離で見たの初めてだからね!
「ああ、殿下に会ったのね」
いつも通り『異常なし』の診断を貰い、向かいのレティーシャさまの研究室にお邪魔した。というか、ここからが母さま的には本番なのだと思う。
「びっくりしましたわ、デイジーがてけてけ走ったかと思ったら、殿下にぶつかって転ぶんですもの」
よくよく考えれば、王族に体当たりをかました訳である。罪に問われたりしないのだろうか。
「ど、どうしよう」
意図的に危害を加えたと判断されたら、物理的に首が飛んでもおかしくない。
「大丈夫よ、穏やかな性格の方だし、ここではお互い一研究員ということで、多少のことで不敬は問わないってことになっているし」
低姿勢な王弟殿下らしい。
「レティーシャさま、王弟殿下はご結婚は?」
あんなきらっきらの王子さまがモブな訳がないので、可能性を探る。
「まだね」
「婚約は?」
「してないわね」
「学園で、どこかの御令嬢と噂になったりは……?」
王弟の肩書とあの容姿。この世界が乙女ゲームならメインヒーロー間違いなしである。ヒロインと浮名を流していないだろうか。
「学園で? よく分からないわ、同じ時期に通った訳でもないし」
レティーシャさまとは年代が違うようだ。
「どうしたのデイジー嬢、もしかして王弟殿下に一目惚れ?」
レティーシャさまの目が、悪戯っ子のように輝いている。
「えっ」
とんだ濡れ衣である。
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