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いざ往かん騎士団へ

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「さすがに外に籠は持って行けないから、代わりに」
 ロイドさまがそう言いながら、ハンカチを首に巻いてくれた。
「籠の代わり?」
 ルークさまが首を傾げる。
「回復魔法を掛けてある」
 そっか、籠から出ると回復魔法が掛からないから、お出掛け用にハンカチに掛けてくれたんですね! つまりお出掛けできるんですね!
 いざ往かん騎士団へ!
 トリウさまを見つけてお家に帰るための第一歩だ!


「猫ちゃんに直接掛けるんじゃだめなのか?」
「ミャミャミャー、ミャン?(そういえばそうだよね、何で?)」
 ルークさまの疑問は、私の疑問でもあった。
「理由は分からないが、この猫は魔法の効きが悪い。治癒魔法も傷が完治する程度の強さで掛けたのに治りきらなかったからな。だからといって強めに掛けるのは、体が小さい分危ないし」
 過ぎたるはなお及ばざるが如しということだろうか。
 気を遣ってくれてたんですね、ありがとうございますロイドさま。
「まあ、危なくなっても俺は別に構わないんだが」
 ちょっとロイドさま、何か酷いこと言ってません? 前言撤回しますよ!?
「俺は構うから、猫ちゃんには優しくしてやってほしい」
「俺も構う」
 ルークさまとハンスさまは、優しかった。






「あれ、意外に狭いんだな……」
 昼食後に徒歩で騎士団に向かい、見学者に開放されている回廊のようなところに差し掛かったルークさまが、きょろきょろと周囲を見る。
 私はといえば、ルークさまの肩掛け鞄の中に詰められて同行している。歩いて行けるほど回復していないと判断されたからである。
「ミャ?(狭いの?)」
 私は、鞄から顔だけ出して回廊の外の方を見た。中庭っぽいそこは、ルークさまは狭いといったが、広めの通路みたいな感じである。五十メートルプールくらいの大きさはある。
「ここは小さい訓練場の一つだ。剣術大会が開催されるような大きいのはもっと奥にある」
 ロイドさまが解説を入れた。
「そうなんだ、ロイドは何回か来たことあるんだよな」
「ああ、伯母が戦闘狂だから。『見るのも勉強』と言って、伯母の息子である従兄と一緒に大会開催時によく連れてこられた」
 戦闘狂の伯母さま……なんかパワーワードだなあ。
「へえ、じゃあその従兄は騎士に?」
 ルークさまの問いに、ロイドさまは首を横に振った。
「いや、従兄は職業としての武官を選ばなかったから。なっていたとしても魔導騎士寄りの魔術師って位置付けになるんじゃないかな」
 どんな位置付けなのかよく分からない。そもそも魔導騎士って何なの。言葉の感じからすると、魔法も使える騎士のことかなあ。
「それはともかく、大きい訓練場で、見学者向けの対戦形式の訓練が行われる筈だから、そっちへ行こう」
 ロイドさまは奥に向かって歩き出し、ルークさまとハンスさまも続いた。
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