可愛いものをより可愛くする祝福

大森deばふ

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クリティカルヒット

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「昼って、食ってから出るんでいいんだっけ」
 三十分も経たないうちに勉強に飽きたらしいルークさまが、昼からのお出掛けの話を始めた。
「ああ、門の開放が正午、訓練が始まるのは午後一時。昼食を取ってのんびり歩いて行っても充分間に合う」
 すぐそこだからな、とロイドさまが返す。
 お出掛けって、どこかに訓練に行くの?
「女の子たちは『朝から準備しないと』って言ってたけど、準備って何だろう」
 女の子たちが朝から準備しないとならない訓練? え、何の訓練?
 会話について行けない。
「彼女たちはなんであんなに、騎士団の公開訓練の日時や内容に詳しいんだろう」
 騎士志望でもなさそうだったのに、とハンスさまが不思議そうに呟く。
 ああ、騎士団の公開訓練があるんだ。さっきルークさまは騎士志望って言ってたし、ハンスさまも体格からして騎士を目指しそうだし、その見学ですね、なるほど。
 そしてハンスさまが女の子慣れしていないことがよく分かる。女の子はお目当ての騎士を見に行くものなのだから、騎士志望じゃなくても、逆にそうじゃない方が、きゃあきゃあ言いそう。
 出会いの場と捉えれば、当然身支度にも時間が掛かります。




「ミャッ!?(ああっ!?)」
 待って、騎士団の公開訓練って、その話、最近どこかで聞いた覚えが。
 そうだ、トリウさまのお友達が来たがってて、トリウさまを誘っていた。はっきりとした日時は聞いてないけど、次の公開訓練日と言ってた。それが多分、今日のことなんだ。
「ミャ! ミャウ!!(私も! 連れてって!)」
 つまりはトリウさまが見学に来ている可能性が高いということである。
 私は籠から出て、ルークさまの膝に飛び上がる。
「え、どうしたんだよ、突然」
「ミャアアアアアアアアッ(どうしたもこうしたもあるかああああっ)」
 バシバシとルークさまの腹に猫パンチを食らわせる。
 家に戻れるかもしれないんだよ! トリウさまに会えれば!
「本当にどうしたんだよ、どっか痛いのか?」
 ルークさまがおろおろしている。
 残念なことに、私の猫パンチのダメージは低そうだった。


「具合が悪いって訳じゃなさそうだ」
 じたばたと暴れていると、ロイドさまに首根っこを掴まれて持ち上げられた。
「騎士団、という言葉に反応した気がするな」
「ミャッ(そうそう)」
 ロイドさまは鋭い。
「何で?」
 ルークさまは全く分かっていない。
「もしかして、騎士家系の家の飼い猫なんじゃないか? それで騎士団って言葉を聞き慣れてて反応したのかも」
 ハンスさまが、きっとそうだ、と目を輝かせるが、ハズレである。うちは騎士家系ではない。父さまは文官だもん。領地にいるお祖父さまも騎士だったなんて話聞いたことないし。
「それなら、騎士団に猫ちゃんのことを知ってる人がいるかもしれないってこと?」
「ミャッミャッ、ミャアア(いないと思うけど、連れてって)」
 首を傾げたルークさまに、訴える。
 あ、トリウさまのお兄さまならいらっしゃるかも。ただ、トリウさまとは人間としても猫としても親しくさせていただいてるけど、トリウさまのお兄さまと猫の私はあまり接点が無いんだよね……。


「騎士団に、行きたいのか?」
 ルークさまの膝の上に戻された私は、ロイドさまに見下ろされる。
「ミャア(はい)」
 私も真っ直ぐ見上げて、しっぽをパタパタさせる。
「連れて行かない、と言ったら?」
「ミャアアアッ(意地悪言わないで!)」
 まあ、置いていかれても後をつけるけど。
 分かってて言ってるよね!? ダンダンと地団太を踏むと。
「ぶっ」
「……っ」
 ロイドさまは吹き出し、ルークさまは呻いた。
 あ、膝の上で暴れたりしてごめんなさいルークさま。猫パンチは効かなかったのに、地団駄はクリティカルヒットしちゃったのかなあ。仔猫程度の体重なら大事には至らない、よね?
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