亡国の王子の復讐

朝日

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決別の朝、曇る視界 Ⅱ

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驚いたイリスは思わずディルの服をぎゅっと掴み、戸惑いながら上目で見つめる。性急な動きでディルは花のアーチを抜け、どこかへ移動していく。


縦に揺れるディルの腕の中は温かい。瞬く間に辿り着いた場所は、今は使われていない城内の客室だった。

イリスは思い出す。ディルはサイの見習い騎士によって、よくここに閉じ込められていた。人気のない奥の城内でも、この部屋は目立たないところにあった。


月光が射す窓際にはベットが淋しく置かれている。ディルは素早い動作でイリスを降ろし、銀の目を妖しく光らせた。

息をのむような圧倒にイリスは不安げに目を揺らして、無意識に顔を背けた。


「逃がさない」

ディルは膝を曲げると身を屈め、イリスの両腕を押さえつける。口を斜めに傾け、イリスの体の自由を奪い、ディルは荒々しく唇を重ねた。


「はぁっ、んっ、あ……」

飢えを満たすかのように強引に迫りくるディルの舌に翻弄され、筋張った胸板に手を当て、息が苦しいと薄く目を開けて訴える。

しかし受け入れてもらえず、ならばと奥へ忍び寄ってくる熱に何とかついていこうとしたが、逆に絡み取られた。


――目眩が、しそう…


徐々に全身の力が抜け、火照った顔のイリスは頼りなくベットに寄りかかる。

チュク、ペチャ、クチュと音が響くたびに、擦られるような、くすぐられるような快感を味わう。

体のあらゆる箇所を同時に触れられているような刺激だった。それだけで気が狂いそうで、湿った吐息が口から漏れていく。


「ディル!ん、ぅ……っひ…あ!」

温かさと溶けるような感覚に頭がぼんやりとしてきたが、今この時を一瞬たりとも無駄にはしたくなかった。

時間をかけてたっぷりと口内を攻められ、意志に反して顎に唾液が伝っていく。貪るような激しい接吻に息が止まりそうになった。



ディルの手が耳を掠め、イリスの喉元へ舌を這わせた。熱に浮かされたように、イリスの体は弓なりに大きく反応する。

ディルが触れると、その部分が焼けつくように熱い。とらえどころのない小さな歓喜は意識の波に飲み込まれていく。


「ん……っ」

背中に回されている腕の大きさに、時の流れを感じた。

自分よりも小さかったディルはもう大人に引けを取らないほど成長し、覆いかぶさる体は不安を消し去るほど逞しく力強かった。

誰よりもそばで見てきた自信はあるのに、実際彼はどんな人にも負けないくらい立派に育っていた。


「我慢しなくていい。もっと乱れて」

チュク、とディルの唾液が絡み合った舌は、今度は耳の中で淫靡な音を出す。と同時に生地の上から胸の曲線を指先でなぞられて敏感な声が漏れた。

その手が頂きに一瞬だけかすめるとイリスはピクッと弾ける。やがてジワジワとじれったく揉まれ、やっと乳房を包むと先端を押さえられる。ドレス越しからではもどかしくて仕方ない。無意識に身体がよじれ、涙目でディルを見上げた。


「はぁ、はっ……ん、ディルっ」

身内から込み上げてくる、揺さぶられるような感覚は怖いくらい甘美なものだった。

ディルが片方の手でドレスの背中に並んだボタンを器用に外していくのに気付かず、イリスはゆったりとした愛撫を受け下腹部に熱が集中する。入念かつ抑制された動きに、イリスは待てなくなっていた。


「ディル……あっ…だ、め……」

「何がだめ?」

「おねが…ぃ、ちゃんと、触ってっ……上からじゃなくて…っ、直接が…いいの……」

衝動のあまり理性を失いかけ小さく瞳を揺らすイリスに、ディルがごくっと息をのんだ。


「どこを?」

「っ…ここ…」

イリスは真っ赤に染まった顔で、震えながらディルの手を導いた。

普段のイリスからは想像もつかないほどの厭らしさで、ディルは自制心が追いつかなくなっていく。気付けばドレスをたくし上げ、イリスの白い肌が姿を現していた。

胸の尖った先を食い入るように見つめ、ディルは葛藤と戦うように目を細める。


「――…きっと、優しくなんてできない。散々焦らされた仕返しをしないと気が済まない」

絡ませたディルの手が、小さく震えている…イリスはぎゅっと握り返した。


「ずっと欲しかった……イリスだけを見てきた。泣いても叫んでも、もう止めるつもりはないから」

淡い月の光を浴びて、ディルは舌で粟立つ乳首を刺激した。

搾り取るように強く吸われて、時には歯を立てられ、ディルが口に含む度に形が変わっていく。


「やぁあ、んっ…そん、な…舐めない、で…ぁ、ああっ…!」

「嘘は言わない方がいい。こんなにも、尖らせてるくせに」
 
膨らみを強く揉まれ、右に左に押さえ付けられ、イリスは必死に声を我慢する。

濃い色に変化する先端部分は薄い歯形が刻み付けられ、ジンジンと腫れていた。 


「分かる?勃起してるのが…」

「恥ずかし……ぃっ…んあっ、んっ、はあぁ……」


キュッと摘み取るように指の腹でしこりを潰される。

グリグリグリッと指を揺らす度に、どうしようもない快感が波のように押し寄せてきて、背中に汗が伝っていく。



「あっ、はぁ……んっ…」

不規則に荒く息を吐き、行き場のない快感に流され、短くなったディルの髪をくしゃっと掴む。

ディルの手はいつの間にか太ももの内側に移動していき、気付いたイリスは羞恥のあまり手で遮ろうとした。しかしディルは「だめだ」と呟いて、イリスの手をどける。


「見ない、でぇ…っ!」

「じっとして」

か細く訴えかけるイリスを無視すると、ディルは徐々に頭を下げ内股に唇を押し付けた。


「あっ」

突然の刺激によって電流が走ったかのようにイリスの身体が跳ねた。大きな手で膝を掴み、イリスの脚を広げるとディルの動きが止まる。凝視する銀の目にイリスはブルッと身体を震わせた。


「濡れてる」

甘く官能的な香りに包まれた秘部に手を這わして、柔らかく湿って呼吸とともに小刻みに揺れる部分を探り当てた。

ピチャ、クチャ…と水温が漏れ、ディルは長い指を奥まで忍び込ませる。敏感な箇所を見つけると重点的に攻めてイリスの感度を確かめた。
 
何度もひだを押し広げ、指を絡ませ、ズポズポと抜き差しを繰り返す。
 

「んっ、あぁっ……!」

濡れた場所からはグチュ、チュクッ、プシャッ…と、どんどん愛液が溢れ出ていく。

指の抽送が滑らかになっていき、ディルは膨らみかけた中を躊躇なく掻き乱す。イリスの熱い窪みがディルの指をとらえ、中まで収縮し深く沈んでいった。


「あああぁ…っ!」

ジュル、ペチャッ、ツゥ―…今度は口に含んで吸い続け、ディルは蕾が尖ってくるまで愛撫を続けた。

さらに脚を大きく開かせると、腰を浮かせるイリスを押さえつける。 足の先は小さく震えを刻み、体内の熱は下腹部に集中していった。


記憶が飛ぶような、あの不思議な感覚が近づいてきて、残り少ない意識に危機感が芽生える。

ダ、メ…もう、もう、限界が近い。イリスはじわっと涙を零した。


「待っ……イッ、ちゃ…ぁああっ!」


プシャッ――…ディルの顔に愛液が飛び散る。

頭に白い光がいくつも弾け、イリスの世界は揺れるような快感に包まれた。


「あっ、ぅ……っ」

絶頂の余韻でビク、ビクッとイリスの体が震える。裸体を隠すように背中を丸め、何度も息を切らした。

ディルは顔にかかった愛液を拭うと、指についたそれをペロッと舐める。イリスを見つめる目の奥には完全な欲望が渦巻き、ギンギンと反応する下腹部の衝動を感じて乱暴に上の服を脱ぎ捨てた。

顔を見るのも恥ずかしくて死んでしまいそうだったのに、お互い赤い顔をしてパチッと目が合う。


「……まだだ」

ディルは感情の昂りを誤魔化すように再度イリスの脚を掴むと、今度は指を二本入れた。濡れた秘部は簡単に指を受け入れ、奥まで侵入を許していく。


「何、してっ」

さっきしたばかり…!とイリスはディルを非難するように見る。

敏感になったソコは感覚が研ぎ澄まされ、すぐにまた指を咥えこんだ。ディルは秘部を刺激しながらイリスの頭を上に向かせ固定すると、唇を重ねて素早く舌を流し込む。

イリスの声にならない声が口付けによって消され、感じるところに当たる指が快感の波を呼んだ。突き上げるたびに、揺れ動くたびに、あの白い絶頂が近づいてくる。


「ん、んーー…っ!」

もう、どうにかなりそうだった。

貪るようなキスを続けたまま、パッと閃光が舞うように目の前が揺れたかと思うと、一気に力がなくなっていく。また達したのだとイリスの霞む頭が悟った。



二人を繋ぐ銀の糸がゆっくりと途切れる。熱い息を放ちながら、ディルとイリスは切なげに見つめ合った。

ディルの手がベルトを外しにかかる。カチャッと音が響き、もう待てないとばかりに乱雑に投げられ、ついには全てがさらけ出された。


「ディ、ル……」

ギシ、とスプリングの音がする。激しく誇張するディルを見てイリスは身を硬くした。

月の光によって影絵のように浮かぶディルの美しい体。贅肉のない均斉の取れた男らしい体が顕わになり、息が詰まる。

ディルは無言のまま荒っぽい息を吐くと、イリスの脚に触れた。


「イリス」
 
そっと囁く声に、応じるかのように小さく頷いた。


もう、戻れない。胸にあるのはそんな思いだけで。

ただ欲しいと。自分の中で共有したいと。誰にも触れさせることのなかった心をすべて、この人に捧げたい。



「いれて……」

覆いかぶさる体を抱きしめて、ディルが、中へ――…入ってきた。

ズプッと突き上げられた途端、中を締め付ける大きな存在に喘ぎ声が漏れた。

満たされる歓喜と一つになった安堵。それは経験したことがないほどの幸福感に包まれ、自然に涙が溢れていく。


「…痛い?」

「大、丈夫……っ」

ディルから伝う汗がポタッとイリスの顔にかかり、恍惚とした表情を浮かべる彼に愛おしさが込み上げてくる。

やがて少しずつ動き出し、熱い質量がもっと奥へ挿し込まれた。ズチュ、クチャッ…と接合部から水温が聞こえ、緩い律動に二人の影が揺れる。

 
「力、抜いて…締め付けすぎ…」

「そん、な…ディル、大きい…のに…ッ」

ズプッと沈んでいくディルに、イリスは首を振って切迫感を訴えた。

ぎゅっと縋りついていないとすぐにイってしまいそうになる。ディルも余裕がないのか、腰の動きがますます加速していく。


「リス…っ、イリ、ス…イリスッ…!」

パン、パンッ、パンッと力強く激しく突かれる。

痛いくらいの悦びが押し寄せ、中の筋肉は収縮を繰り返し、心臓は大きく脈打つ。ディルは律動を止めずに身を屈めて、勢いのままイリスの乳房を口に含んだ。

桃色の乳首を噛み、吸って、引っ張る。その間も真っ直ぐに貫かれ、イリスは何もかもに圧倒された。


「ディル――…!あ…あぁあっ…」


言葉にならない感覚に吸い込まれていく。


「く、そっ…もたない…」

「い、いっしょに……いっしょが、いい…っ」

イリスが掠れた声で懇願すれば、理性を飛ばしたディルがズンッと最後に大きく腰を揺らす。


「――ッ…!」

強烈なエクスタシーが体の内側から外側へ飲み込み、二人は汗ばむ体を密着させ、全身に震えを感じた。

ドプッとイリスの子宮に精液が注ぎ込まれる。ディルは後から気付くとイリスの中から引き抜こうとしたが、それを止める手があった。


「お願…抜かない、で…このまま、ディルを感じていたい……」

「…っ」

ディルのものがドクンッと反応する。ドピュッと中に出されていく熱を受け止め、イリスは満ち足りた解放感に酔いしれた。



脈打つ存在感にイリスの中がヒクヒクと反応する。ディルは止まることなく、再び肥大する熱はさらに質量を増した。


「ディ、ル……?」

イリスは戸惑い名前を呼ぶと、返ってきたのは欲情を孕んだ眼差しだった。


「……これで、満足すると思った?」

思わず背筋がゾクッとなる声がイリスの耳元で聞こえる。ギラついた目を向けてくる彼に、感じた事のないドロドロとした情欲が体の底から湧いて出てきた。

ディルは勃起したままズプッと引き抜き、有無を言わさぬ口調でイリスに命令する。


「後ろを向いて、四つん這いになって。イリスの中、もっと深くまで見たい……」

「っ!」

まるでピリピリと電撃が発されるような眼光と、逆らえない無言の威圧にイリスは息を飲む。

焦らされたディルは我慢できずイリスの体を抱き上げ、腰を持ち上げて四つん這いにさせた。頬をベットに寄せ、イリスの長い金髪が無造作に広がり、白い肌が月の光を浴びた。


「…いい眺め」

その言葉にカッと頬が赤くなる。這いつくばって尻だけ突き上げるという羞恥しか感じないポーズにイリスの体が震える。

そしてディルは無遠慮に最奥まで一気に貫いた。いきなり衝撃を感じて、イリスの脳天に熱い火花が飛び散る。


「…っ、あぁ!」

すぐにディルの腰が打ちつけられ、パンパンッと後ろから激しく突いてくる。果てたばかりのイリスの体には強烈な刺激だったのか、軽くイッた媚肉がぎゅっとディルを締め付けた。

冷静を失ったディルがイリスの腰を鷲掴み、子宮まで届きそうな動きを何度も繰り返す。イリスは嬌声を押し殺そうとしても抑えきれなかった。


「ディ、あっ…はげしっ…!やだ…ぁっ、また……ああぁッ」

「くっ…きつ……」

ディルの視線が接合部に注がれ、性感によって涙を溢し乱れるイリスの姿をとらえる。ぎゅっとシーツを握りしめ、快感に耐えるイリスは背中を弓なりを反らし、淫美な曲線を描いていた。

ディルの中で溜まってた猛りが動きに集まり、華奢なイリスの体を壊しそうなほど押しつける。


「んっ…や、あぁっ……だめ、きちゃ…」

体が密着する一瞬、腰に感じるディルの温度、全身を揺さぶる衝動。徐々に高まる快楽は、限界が近いことを示す。

止めと言うようにディルがイリスの腹部をかかえ、正常位では届かなかった奥にまで強く突き上げた。


「―――っ!!」

声にならない声が、ビクンと波打つ体から放たれる。ぐっと収縮する入口はディルを咥えたまま、勢いよく出された白い液をもう一度飲み込んだ。

その瞬間、ガクンッとイリスの体が垂れ、息を弾ませてベットに沈む。ディルは長い射精が終わるまで、イリスの体を優しく撫で続けた。


「…ディル」

眉根を寄せて求めるイリスを見て、ディルがゆっくりと腰を引く。体液に濡れた膣からイリスの太ももへ熱い精液がこぼれていった。


二人は見つめ合うと、自然の流れのように口付けを交わした。擦り合う肌を引き寄せて、ディルはイリスの上に覆いかぶさる。

この時間がずっと永久のものであればいいと願う。誰にも邪魔されることなく、引き裂く壁もなく、何もかも解放された世界にいきたい。



――そんな淡い夢なんて、どこにも存在しない。

痛いほど突き刺さる現実は、残り少ない時間を残酷なまでに蝕んでいった。


お互いに、分かっていた。

いくら激しく体を求めても、今夜だけしか味わえない夢のような時間は、最初で最後なのだと。

朝がくればこの愛しい温度も、すぐ傍にある心も、全てが泡沫のように消えてしまう。

待っている人たちがいる。必要としている仲間もいる。その存在が心の中にある限り、裏切ることなど出来はしない。


このまま、二人でいなくなりたい。

そう口にしてしまえば、身を裂くようなこの切なさから逃れられるのだろうか。ずっといっしょにいたいと泣いて縋りつけば、ディルは連れ出してくれるのだろうか。

イリスは表現できない切なさに包まれ、分け合う熱を感じながら、ディルに縋り付いた。


「……どうして、イリスなんだ」

薄い唾液が少しずつ離れ、ディルの口から小さく漏れる声に、胸が苦しくなる。


「ディルじゃなきゃ、駄目なの。貴方のほかに、私はこんな幸せを感じられない…」

初めて本当の幸せの意味を理解した。一つに繋がったとき全身が呼応し、欣幸の至りを感じた。

たとえそれが刹那の時であっても、ひしめき合うような幸福に包まれたことは、生涯きっと忘れることはないだろう。


「好きだ。もう何もかも、全てを棄ててしまいたいくらい…好きだ」

その言葉だけで、もう十分、十分すぎるほど、伝わってくる。抱きしめ返してくれるその腕が震えているから。

ありがとう…言葉にしてくれて、想いを形にしてくれて、ありがとう。どんなに希求してもこの手が離れていくことを知っている。あるべきところへ帰って行くのだと分かっている。だけど今この時間は、私だけのものだから。イリスは応えるように、淡く微笑んだ。


「ディル…っ」

疲れた体を密着させ、イリスは嗚咽を零してディルの背中に爪を立てる。

苦しいほど、狂おしいほど、この人が愛しくてたまらない。いくら言葉を重ねても、どんなに名前を呟いても、心に想いは溢れ出てくる。

好きだという気持ちの枠を踏み越え、心の浅瀬に揺らめく波紋が、ディル以外知ることはないたった一つの尊い感情が、奥の最果てにまで届いていく。



「三年だ…三年で、国を立て直す。もう誰にも文句は言わさない。イリスにも悲しい思いはさせない。どんな手を使っても、ライアンの元から奪い去る…だから、三年…待てる?」

問いかけるディルの目が真剣さを帯びる。本気だと強く語るその口調に、揺らぐような迷いは感じなかった。

三年。短いようで長い。それでも嬉しさが込み上げ、イリスは唇を震わせながら、何度も何度も頷いた。


「何年でも、待ってる…貴方がくれた言葉があるから…私はどんなことにも、耐えられる」


新しい約束を、二人だけで交わそう。途切れる事のない愛を、この夜に誓おう。

貴方だけの場所がいつでもここにあるから。共に暮らせる未来を、隣で笑いあえる明日を、ずっとずっと待っているから。


「ありがとう」

ディルの目が愛おしげに細められる。そしてもう一度だけ、深い口付けをかわした。


「ん…っ」

こんなに近くにいるのに、時間だけが朝を呼び寄せていく。

時よ、止まって。この人を連れて行かないで。この暗闇に光なんて射さなくていい。このままずっと、二人だけで居たいのに。ただ、それだけなのに。


「……愛して、る」

今は、それだけを伝えたい。


イリスの身体が徐々に力をなくしていった。泣き疲れた顔は未だに涙が光り、それでも手は強くきつく絡み合う。

ストン…と意識の中へ堕ちるように、ディルの優しい温もりを感じながら、イリスは静かな眠りについた。



手を繋ぎ小さく寝息を立てるイリスを、ディルは優しく見つめた。

ずっと手に入れたくて、欲しくて堪らなかった存在が、自分の傍で安心したように眠っている。


今でも幻ではないかと思う程、現実味が欠けていた。

底を知らない欲望が一気に顔を出せば、頑なに保ってきた自制を容易く踏み越え、目の前のイリスを壊すほどに抱いていた。


一つの花を静かに愛でるのではとても理性が間に合わず。

甘美な薫りを投げかける魅惑の一輪を荒々しく手折り、己の欲求のまま押し潰し小さく丸め、もうどこにも行かないようにと掌の中に閉じ込めておくように。


陶酔、恋慕、独占、執着。もうこの黒い感情など、どうでもいい。

ただ、穢れを許さないような白磁の肌に自らの存在を色濃く刻みつける方法しか頭になかった。何度も何度も口付けを重ね、漏れ出る息を吸い込み、過ぎ去っていく一瞬を共有した。


触れることが許されないからこそ美しく思えた。手が届かないからこそ輝きは強くなっていった。

いつでも笑ってほしい人が、いま一番悲しい顔をしていた。どうしてこんな風に傷つけてしまうのか。距離が近づくたびに泣かせてしまう。そんなことをしたいわけじゃない。

それでも、涙に濡れたその顔を、快楽に歪ませてしまいたいとさえ、考えた。


幾度、脳内で抱いたか分からない。

狂った突風のように心を騒ぎ立てる無垢な体を蹂躙してしまいたい。強欲に、貪欲に、何もかも曝け出させて、性という原始的なやり方で、自分しか感じなくなるようにしてしまいたい。
 
獣じみた本能に呆れかえり失望し、理性を押し殺さないと抑えきれないリビドーに、何年も苦しまされた。心の深淵を疼くような誘いは抗う時間さえ惜しく、我慢していたことが馬鹿みたいだと振り返る。


理性への抵抗など、一時の逃れでしかなかった。いくら感情で留めようとも、抑制を上回る意思が鈍い亀裂を走らせ、綻びを与えてくる。

解き放たれた幸福感は後から訪れる冷たい現実に勝り、それゆえの過ちさえ、どんな代償も苦に感じない。

後悔を正当化して立派な言葉で繕っても、言い逃れなど出来ない。この淀んだ心底を突き動かしたのは、イリスを愛しいと感じる思いなのだと自分が一番よく分かる。


そして思いが通じあった今、心地いいほどの幸せを全身で感じている。全てを奪い去る、甘い戦慄のように。息をするような、血の巡りのように。


ディッシュに言ったことがある。

溺れるように人を愛することは、自らの身の破滅を招く近道だと。禁忌だからこそ刺激を求め、ギリギリの瀬戸際に立って快感を覚える。

中毒になるような背徳感は底が見えない暗闇のように、どこまでも深く昏く堕ちていく。一度受け入れてしまえば、執拗に絡みつく茨のように、簡単には抜け出せなくなる。

そんな愚かな人間にはなりたくないとポツリ漏らしていた。そして自分が、こんなにもただ一人を愛するなど、その時は考えなかった。

限りなく広い世界で、この思いはどう映るのだろうか。破壊衝動に似た激しいこの感情は、愛だと認識されるのだろうか。

気付けば三年待ってくれと口に出していた。分かち合う喜びを知った途端、もうこの手は離せないと強く思った。離せるはずなどなかった。ずっと追い求めていた温もりだったのだから。



――願いは、一つ。イリスと共に生きること。

それまでは。何処からでもいい、世界を彩る光を集めて、イリスの歩む道が眩しいほど照らされるように、祈ろう。

君の目覚める朝が、優しい光で包まれることを、願っている。その淡い影を見つめて微笑む先にあるのが、イリスの幸せでありますように。



「……必ず、迎えにいくから」

ディルの手が、ゆっくりと静かに宙を切る。

小さく滑り落ちた雫がシーツに染み込んだ。最後に触れるだけのキスをすると、ディルは朝日を浴びながらイリスを振り返らずに部屋を後にした。



――夢のような、人。

目が覚めて気がつけば、目が眩むような朝日に覆い尽くされて、残り香だけを置いて消えてしまった人。

別れの言葉もなく、抱きしめた余韻に浸ることもなく、ディルは音もなく、ここから去っていった。


『必ず、迎えにいくから』

自分でつくり出した幻聴だったのかもしれない。でも、確かに、この心まで聞こえた気がした。


「ディル……」

温かい朝の光が窓から差し込んでくる。肌に残ったディルの温かさに縋るように、イリスは自らの腕を引き寄せた。

脈打つ心臓の鼓動が一拍ごとに切なさを生み、一人だけの世界で大きく泣き叫びたい衝動に駆られた。


どうして、こんなことになったのだろう。もっと早くディルに思いを伝えていれば、今は違ったのだろうか。

一晩。ただそれだけの時間。けれど自分にとって、何ものにも代えがたい、全てだったのだと思う。


三年という選択肢をくれたディルに、私が応える為に出来ることはただ一つ。何があっても彼を思い続け、ひたすらに待つということ。 

ディルとの約束が私を強くしてくれる。たとえ不透明な未来だとしても、ディルが形にしてくれる。涙は、流さない。もう、十分すぎるほど流した。


だからこそ、隣を歩けるその日がきたら、笑顔で迎えられるように。


イリスは強い光を目に宿して、ベットから起きあがった。下肢に鈍い痛みが走ったが、その重みが愛しく感じられた。

そして寝ている間にディルが着せてくれたドレスを整え、最後に契りを交わしたベットを見つめ薄っすらと笑んだ。


きっとディルは振り返らなかった。だから私も、真っ直ぐに部屋を出よう。照らされるその先を一歩一歩踏み出し、待っている人のもとへ帰ろう。



「三年後まで、待っているわ…」


ディルに届く声でなくても。

心は、繋がっていると信じて。



目に映る世界が、変わった気がした。

こんなにも色に溢れ、優しい輝きを放っていた。朝の明るい光に包まれ、体が自然に軽くなる。それは間違いなくディルとの一夜があったからだろう。


心は切なさと寂しさが大半を占めているのに、繋がった想いが悲しみを掬い取ってくれる。挫けそうな未来であっても、ディルが残していった言葉が力をくれる。

イリスは胸が温かくなって、回廊の途中で歩みを止めた。それと同時に、誰かの強烈な視線を感じた。


「……誰?」

突き刺さるような違和感に、イリスは一歩足を退く。

無意識に体が構えの姿勢に入っていた。殺気立った空気が相手から発されている。イリスは嫌な予感がした。


「……こんな、ところに!」

物陰に立っていたのは、鬼のような形相のミレイアだった。綺麗な銀の髪は乱れ、呼吸は小さく弾んでいる。

全身から溢れ出る怒りはいつ飛びかかるか分からない動物のようで、イリスはその激しさに目を見張った。

ミレイアの手に強く握られているのは鋭利な刃物でヒヤッと冷たいものが走る。銀に光る短剣はかすっただけでも深く傷が残りそうで、イリスは危険を感じて小さく息を飲んだ。


「よく、も!お兄様に迫ったわね……幸せそうな顔をして……抱かれて満足した、イリス様?」

憎悪が込められた声。ミレイアはポロポロと珠のような涙を零していく。イリスは何も言えずにミレイアを見つめていた。


「何もかも、私から奪っていくのね。家族も、未来も、生きる希望でさえ……絶対に、許さない」

ミレイアはスッと短剣を掲げ、いつでも襲い掛かれる体勢に入る。


「いいことを教えてあげる……貴方の侍女、シンディを追い詰めたのは私よ。少しずつ洗脳してあげた。悪いのはイリス様、憎しみは消えない、殺すしか貴方は救われないって……」

彼女の美しい顔に狂気じみた笑いが漏れ、イリスは体が固まった。

聞き間違いであってほしいと心の底から思い、気づかぬ内に手が震えていった。


「なかなか堕ちなかった。結局シンディはライアン様に矛先を向けた。慕っていたイリス様を恨みたくなかったのかしらね……笑わせるわ、とんだ忠誠心ね」

私にはないものばかり、と声が震えていく。


「最後の最後でシンディは貴方を殺そうとした。そのままイリス様が死んで、シンディが罪の意識で自決したなら、願ったり叶ったりだったのに……」

ミレイアは唇を引き結び、一歩ずつイリスに近づいていった。 


「お兄様の邪魔をするなら、容赦はしないわ。イリス様が傍にいても絶対に幸せにはなれない。私とお兄様は生まれた時から定まった運命にあるもの……私たちを引き裂くことなんて出来ないのよ…」

呪詛のように唱えながら歩み寄ってくるミレイアの目が本気であることをイリスは悟る。 

こちらは身を守るものを何も所持していない。丸腰同然で、斬りかかってきたら避けられる自信もない。

逃げなければと思うのに、苦しそうなミレイアの顔を見ていたら、地面に根が張ったように足が動かない。


「どこまでも善人ぶって…周囲の同情を集めて、悲劇のお姫様でも演じているつもり?いいわよね、貴方には支えてくれる人も愛してくれる人だっているから。私の苦労なんて何も知らないくせに…どうして、こんなにも差があるの…?私が、悪いの?ねぇ……」


やられ、る。

イリスは喉をカラカラにして、目を見開いた。




銀が、空を、裂いた。



「――俺の女に手を出すなと言ったはずだ」

カンッと、剣の響く音が耳元を掠める。

恐怖で固まったイリスは無防備な状態で立ち尽くしていた。突如後ろから伸びてきた手に抱きしめられ、ふわっと柔らかな風が頬を撫でる。

ほんの一瞬の出来事だった。瞬きをすれば、そこにはライアンとレインがいた。


「っ!」

ミレイアはハッと肩を揺らし、野良猫のような反射神経で素早く距離を取った。突然の来訪者に眉間の皺が深くなっていく。

レインは冷酷なまでに無表情で、抜刀している。ライアンの命令があれば、すぐにでも襲い掛かる気迫を醸し出していた。


「ライアン、様…」

呆然とするイリスを、ライアンは腕の中に引き寄せた。驚きで言葉が出ないイリスを宥めるかのように笑みを向ける。


「何度も忠告しただろう。イリスに手を出せば容赦はしないと」

「……確かに、聞きましたわ」

ミレイアの表情には変化は見られなかったが、冷や汗が頬を伝っていた。

起こり得る状況の中で、最も悪い展開を迎えたと悟ったのだろう。目に脅えが浮かび、手に持つ剣が震えていた。


「お前は馬鹿じゃない。が、屑のことになると感情を抑えることが出来ない。イリスを刃を向けるのなら対価は死だ。それが意味する答えは一つ…今ここで果てろ」

慈悲の欠片もない残酷な言い方にイリスはサッと顔を蒼くする。


「カモーアの王女だからと情けをかけると思ったか?悪いが俺はそんなに甘くない。連れ帰ったものの結局は屑の心も奪えず、大して役には立たなかったな」

お前は用済みだと冷たくあしらうライアンに、ミレイアの瞳が憎悪の炎で燃え上がる。

頭に血が上ったのか顔を真っ赤にさせ、射殺すような凄まじい眼力でライアンを見てからイリスを睨む。 


「そんな短剣一つで勝てると思うのか?」

絶望を叩きつけるライアンの一言に、ミレイアの体がたじろぐように揺れる。地面に膝をついて許しを乞うなど出来る筈もなく、ただ怒りのまま短剣を握るだけだった。


「もういい。これ以上無様な醜態は晒したくないだろう。レイン、やれ」

「待っ…!「お待ちください!!」

血の気が引いたイリスが慌てて止めに入ろうとした時だった。

ここにはいなかった第三者の声が介入し、その人物がミレイアの前に駆け込むとその場で正座し、地面擦れ擦れまで頭を下げる。

現れたのは、息を切らしたディッシュだった。イリスは、あ…と思わず声がもれる。


「イリス様に剣を向けたこと、深くお詫び致します。今後一切このようなことはないと誓いますので、どうか、どうかお命だけはお助け下さい」

「ディッシュ!」

ミレイアはやめなさいと声を荒げた。


「ミレイア様は我々にとって必要不可欠な御方。これからの未来になくてはならない存在です。どうかこの場は収めていただきたい」

「ふざけないで!元はと言えば貴方が私に睡眠薬を飲ませたからこんなことになっているんでしょ!半殺しにしても気が済まないわ!」

怒りを散らすミレイアは今にも剣を振りおろす気迫で叫び倒す。


「やべぇ俺殺される…!その件は後ほど。今はライアン様にお謝り下さい!」

 
イリスはその話を聞いて、まさかと思った。

ディッシュはミレイアを足止めしていたのか。ディルと思いを通わす最後のチャンスを与えてくれた?

出立前夜まで気を緩めないはずのミレイアが、昨晩ディルの傍にいなかった。一人になりたいとディルが口にしても、ミレイアならば強引にでも離れようとしなかっただろう。

ディッシュはこうなるかもしれないと勘を働かせて、ミレイアに薬を盛ったというのか。後にどんな罰が下るか分かっていたはずなのに、ディルの思いを優先させた。


「ディッシュ…」

イリスは胸が詰まった。

幼い頃からディルと共に行動し、そして影で支えていた。長年近くにいたからこそ、ディルの見えない葛藤も知っていた。
 

「雑魚が一匹出てきた所で俺の気は変わらない。退かないならお前もあの世に送ってやる」

ライアンは冷たい目で見下ろし、最後の警告をする。



イリスは首を振って、ライアンに縋り付いた。


「待って!命を、奪わないで。もうこれ以上、貴方に手を汚してほしくない……」

ディルと一夜を共に過ごした自分が、こんなことを言える立場ではないと分かっている。

誰を犠牲にしても手に入れたいと言っていたライアンの思いを踏み躙って、ディルを思うことがどれだけ薄情なのか。

だけどこの想いは止められなかった。どうしたって叶えたかった。だからこそ、こんなにも胸が痛む。


「お願い、ライアン……」

綺麗事しか並べられない。それでも、心からの願いだった。

イリスは残酷な言い方と理解したうえで、乞うように見つめ、ライアンの手をそっと握った。


ライアンの目が、一瞬揺れた。


「……まったく、狡い女だ」

数秒の沈黙の後、ライアンは溜息をつき、レインに剣をおさめろと命令した。

ディッシュは安堵した表情になり、ホッと胸を撫で下ろす。ミレイアは屈辱を感じて、込み上げる怒りで体を震わせた。


「ミレイア様、後でお咎めは受けますから……」

許して下さいねとディッシュが呟くと、瞬時にミレイアの背後に迫り、出来るだけ優しく負担をかけないように気絶させる。

反応する間もなくカクンと垂れるミレイアの体を支えると、ディッシュは一気に年を取ったかのようにやつれた顔をして頭を下げた。


「申し訳、ありませんでした……」

「俺の気が変わらないうちにさっさと消えろ」

「……はい」

もう一度だけ深く頭を下げると、ミレイアを抱えて踵を返す。

一瞬だけイリスと視線が交わった。ディッシュからは報われてよかった…と一言聞こえた気がした。


去っていく後ろ姿を見つめて、イリスは胸焼けのような苦しさを覚えた。ディルと共に過ごした時間は、様々な人の犠牲によって成し得たものであると改めて実感する。 

誰かの幸せを奪うことで自分の願いを叶える。罪深いことなのに、どうしても譲れない思いがある。そんな連鎖を続けて、その先に待っているものは何なのだろう。


「――イリス」

ライアンの声で、イリスはハッとなる。見つめ合う眼差しが一点に集中され、身動きが出来なくなるような強さを感じた。


「満足したか?」

たったその一言に、イリスの目頭が熱くなっていく。

素直に頷ける結果が出たわけでもない。それでも二人で約束を交わした、三年。ライアンはその意味を知ることはないのだろう。

傍にいるだけでいい。優しく曖昧な未来を示した彼を裏切ることになると分かっていても、きっとこの心は揺るがない。


「……はい」

イリスは目に涙を溜めて、静かに頷いた。


「ならいい」

短く零したライアンの返事に、イリスは返す言葉がない。そして力強く握られた手に引き寄せられるまま、広い背中を追って歩きだした。レインは無言で後ろからついてくる。



「レイン、下がれ」

無機質な声。その冷淡な音にイリスの体温が少し下がった。はいと一言残して、レインが従順に姿を消す。

やってきたのはライアンとイリスが使っている浴室付きの部屋だった。誰もいない室内は静けさが広がっている。いつもと変わらない光景なのに、重苦しい空気に満ちていた。


「こっちに来い」

有無を言わさぬライアンの命令に、イリスは逆らう意志さえ浮かばず歩みを寄せた。

奥にある浴室は白い湯気が立ちこめ、すぐにでも湯浴みが出来る状態だった。イリスはまさかと思って戸惑いながらライアンを見つめ返す。


「脱げ」

「今からですか……?」

聞くまでもない。ライアンは早くしろと言いたげな目で威圧的に手を組み、イリスの動きを待った。

さすがに眉をひそめて狼狽するイリスだったが、痛いほど突き刺さる視線を受けて、手がドレスの後ろのボタンへ伸びていく。

羞恥に震えが込み上げた。言葉にしなくても、ライアンが怒っていることが伝ってくる。きっと心中は穏やかではないはずだった。
 

「どうした、早く脱げ」

「……っライアン、様」

自分で脱ぐなど、恥ずかしすぎる。後少しという所で手が止まり、イリスは唇を噛んで下を向いた。


「もういい」

ライアンは呆れたように吐き捨てると、軽々とイリスを抱えて中へ入っていく。もくもくと沸き上がる湯気と共に、イリスの小さな声が消えていった。

抱き上げられたライアンの腕の温度が熱い。拒否することも出来ずに身を縮こまらせるイリスは濡れた床に下ろされた。


「屑との夜は楽しかったか」

間近に迫るライアンの顔が怖い。ドッドッドッ…と心臓が暴れ出す。近くでピチャッと水温が弾けると、イリスはビクリと体を大きく揺らした。

ライアンの手がするりとドレスに向かい、焦らすようにゆっくりとした動作で脱がしにかかる。

半身が露わになりそうなところを手で隠し、イリスは微力ながらに防ごうとした。しかし弄る手が押し留め、胸の膨らみを生地越しから撫で始めた。

 
「お前はミレイアが馬鹿な女だと思うか?愛することしか能がなく、邪魔する者がいたら自らを狂気に変えて消し去ろうとする。弱いくせに強くあろうとする惨めな女。情にすがるしか生き方を知らない愚かな奴だ」

ツゥ―…と首筋にライアンの舌が這う。くぐもった声を殺し、イリスは質問の意味を考えようとした。


「ミレイアはずっと孤独の中にいた。戦乱で生き残っても流れ着いたのはエドームの売春宿。娼婦を専門としないだけ救いだったか。口淫を生業とする店だったからな」

鎖骨に移動する熱い舌が唾液を含む。語られていくミレイアの過去に、イリスの心が凍っていった。


「来る日も来る日も汚い男の一物を舐めるのは地獄だったはずだ。時には身体も穢され、貪欲な男も素股で満足させた。やがて才能を買われカモーアの舞を叩き込まれた。血の滲むような努力で、舞を完成させた」

「ん…っ、う」

「賢い一面もある。情報を持つ地位の高い者には媚を売り、兄の現状を取り込んでいた。そして兄と再会する時のため、今までずっと純潔を守ってきた」

なぜだか分かるか?と耳元で囁かれる。



「カモーアの王家のしきたり──男女の兄妹が誕生した場合、どんな事情があっても近親婚を絶対とさせた。混血を嫌い、仲間意識の強いカモーアが血統の純潔性を保とうとした結果だ。俺やイリスが金髪なのに対して、カモーアは銀髪。周辺国でもかなり珍しい。それは代々受け継いできた血脈が表している。
ミレイアがあんなに自信を持っていられる理由の一つだ」


"生まれた時から決まっていた定め"

ミレイアの言葉がよみがえる。イリスは頭が真っ白になった。



蒼ざめるイリスは体を支える力がなくなり、パタンッ……と濡れた浴室の床に背中を預ける形になった。広がる金髪に水が染み込んでいくのすら、遠い感覚だった。

ライアンはイリスの上に跨り、試すように上から見下ろし、無表情の顔を近付けた。


「ミレイアはどうにかして屑の子を孕もうとするだろうな。そうすれば屑も離れられなくなる。カモーアは子を宿すことが出来て安泰になり、ミレイアは王妃として絶対的な地位を獲得できる」

イリスの表情を窺いながら、ライアンは冷たく言葉を続けた。


「いいか。ミレイアは捨て身の覚悟でいる。どれだけ非難されても構わない。その道がいくら穢れていようが、惨めであろうが、どこまでも自分を貫き通すだろう。屑を手に入れるための手段など選ばない」

イリスにはまるで、お前にその覚悟はあるのか?と問われているようだった。

何を犠牲にしても欲しい場所。貪欲なまでの深い執着。すべては、共に笑い合える未来のために。それは一体、私と何が違うというのか。


「はっきり言ってやる。お前と屑に未来なんてない。あるのは交わる事のない平行線だ。どうして苦しい道ばかり選ぼうとする。叶うことがないのに諦められないのは、未練がましい自分から逃避するためじゃないのか」

ライアンの熱い手がイリスの冷たい頬に触れる。小さく眉根を寄せるイリスは、逸らすことなくライアンと見つめ合った。


「そうです。私は、私から逃げています。本当は前なんて向きたくない」

イリスは震える声で絞り出す。


「貴方を傷つけているのだって分かっています。誰かを踏み躙って得る幸せなんて、価値などないのかもしれない。だけど、それでも、何をしてでもっ、欲し…」

最後まで話すことは出来なかった。ライアンの口付けが降ってきて、肝心の言葉が消えてしまう。

イリスはぎゅっと瞼を閉じて顔をずらしたが、動かないように固定された。強引な舌が口内を貪る。すべてを飲みこむように、奪っていく。

ライアンが力任せにドレスを引っ張るとビリッと破れる音がした。引き裂かれた箇所からライアンの手がイリスの素肌に伸びていく。そのまま荒々しく弄ると、ドレスの残骸を放り投げる。

 
「腸が煮えくり返りそうだ。屑一人に、ここまで嫉妬するとはな……」

無防備なイリスの姿を見つめ、悔しそうに顔を歪ませる。


「痕一つすら、残していない。成程…イリスの心には消える事のない自分を存在を深く刻みつけたということか。どこまでも、腹が立つ」

ライアンの長い髪が垂れ、怒りを浮かべる瞳の中に、泣きそうなイリスがいた。

どこまでも交わる事のない感情に押し潰されそうになる。ライアンの手が胸に触れるだけで一気に引き戻される現実が痛い。


「何もかも、消してやる。俺しか見れなくなるように」

また角度を変えてキスをされた。その間にライアンはイリスの胸から腰、下腹部、脚の間に石鹸を滑らせていく。

抵抗しようとしたが力強い手で阻まれ、体全体をなぞる冷たい泡にイリスは体を震わせた。その強引な触れ方がディルへの想いを消し去ろうとしているかのようだった。

やがてズプッ…とその指が秘部へと入り込むと、驚きで思わず声が漏れた。バラバラと動く存在があの夜の名残を呼び寄せようとする。


「屑を咥えて達したんだろうな。今まで溜まっていた分、かなりの量を中に出したか」

「……っ、い…や」

グチュッと奥まで差し込まれ、浴室に音が響く。イリスは足を閉じようとバタつかせる。感じた事のない違和感に顔をしかめて首を振った。


「血迷っても屑の子など孕むな」

湿った空気に混じるライアンの鋭い声にイリスは息が詰まる。少しでも浮上した可能性に喉の奥が乾燥していく。

今まで意識してこなかった未来。もし新たな命が宿る時があれば、私は一体どんな顔をするのだろう。


「……も、やめて…」

その後も隅々まで蠢くライアンの指に翻弄され、愛撫され、イリスはグッタリとした疲労感に包まれていった。




イリスはバルコニーで一人、空に浮かぶ薄い雲を見つめていた。

今にも消えそうな白さが蒼の背景に映り、風に寄り添って遠くまで流れていくのを眺め、ぼんやり頬杖をついて小さく息をつく。


「浮かない顔してんなぁ?」

「……っ!」

背後から突然声が聞こえ、イリスは驚いて振り向く。

気配を感じなかったことに警戒心を強くさせ、じっと目を凝らす。後ろにいたのは今は亡きファンシー家の長男、ルドの姿だった。

なぜこの場所に……と不思議そうな顔をするイリスに対して、ルドは口元に緩い笑みを浮かべた。


「サイの牢はチョロイなー、簡単に抜け出せる造りになってたぜ?」

クルクルと鍵を指で回しながら、いつものお気楽な口調でにんまりと歯を見せる。


「よくここまで来れましたね。私に何か用かしら?」

「あの時の続きをしようと思ってな。もう一回あんたを抱きたくなった」

人を惑わすような艶を感じさせる視線が交わる。しかしイリスはすぐにその本心を見抜き、呆れたように口を開いた。


「残念だけど他を当たってください。私に会いに来たということは本当の用件があるはず。人目がないうちに早く」

「何だよ、つまんねぇな。まあライアン様の立派なモノ咥えてんだから、俺じゃ相手にもなんねぇか」

言葉に対する気遣いを知らないのかと思う程、デリカシーというものが感じられない。イリスは何とか怒りを押し込め、ルドの真意を探ろうと目線を送る。


「そんな警戒するなって。別に変なことなんて考えちゃいない。俺だって安全を保障されたわけじゃないからな」

「ライアン様の監視下にあるのは貴方だって分かっているでしょう。危険を冒してまで私の元に来たのはなぜ?」

そこでルドの表情が少し変化する。どこか真剣味を帯びて、イリスはざわっと空気が変わったのを感じた。


「……俺なりにこれからどうするかを考えた。正直な話、俺は不要だと判断されたらすぐにでも殺される。これでもファンシー家の長男だからな、エドームにとっちゃ厄介な存在だ」

まぁ聞けよ、とルドは笑う。


「俺は死にたくない。生き残るにはライアン様の元に仕えるか、もしくは――…あんたの下で働くかだな」

予想外の言葉にイリスは目を瞬かせる。


「……私?もう貴方は自由の身よ、縛られた人生から解放されて自分の好きなように生きたらいい。その権利があるもの」

「そんな都合のいい話じゃねぇんだよ。邪魔になる者は容赦なく切り捨てる。有益にならねぇものは殺す。後々面倒になるのは排除する。それがエドームだ」

イリスは黙って、ルドの話に耳を傾けた。


「本音を言ったらあのクソ王子に仕える気はまったくない。一日で俺の限界がくる。考えただけでも胸糞ワリィ。となったら残る道は一つだ」

言いたい放題ね……とイリスは冷たい目を向けた。


「仕方ねぇから薄幸な王女様に仕えてやるよ。衣食住完備、んー休暇は俺が決める。基本的に行動は束縛せず、俺が寝たいときに寝る。女は適当に漁るから問題はねぇ。これが絶対条件な」

「ちょ、ちょっと待って…こんなに上から目線でえらそうな人初めて見たわ…」


イリスは軽く眩暈がして頭を抱えた。



イリスはゆっくりとルドに視線を合わせる。

飄々として呑気に思えるルドでも、裏の顔は勘が鋭く頭の切れる男だとイリスは初めてエドームで会った時から知っている。

彼が何を考え、何を目的としているのか、その真意は分からない。冷静に考えて、親の仇である娘に自ら進んで仕えたいという思考には辿りつかない。

しかし状況も状況で、今回の件が彼の命に関わる事態だと言うのなら、放っておくことはできない。


「あー…思ったより疑り深いんだな。まあこれはあんまり言いたくねぇけど……少しでもレインのそばにいたいって言ったら納得するか?」

「あら、弟思いの優しいお兄さまね」

「やめろ、恥ずいだろ」

少し照れたように顔を隠す仕草に嘘は見えない。イリスはふっと破顔してから、真面目な顔つきになった。


「……きっと、貴方は鳥のような人。自由に飛び回ることが出来てはじめて本当の力を発揮する。私の下につくのなら鳥籠の存在になってしまうわ。縛られるのは嫌いでしょう、それでもいいの?」

問うように見つめると、返ってきたのは無邪気な笑みだった。


「なら、あんたが俺の空になればいい。そうしたら俺が不自由に感じることもなくなる」

「上手く言われたような気がするけれど、そうね……じゃあ、私からも条件があるわ」

図々しい奴だなと目が語っているルドを無視して、イリスは目を伏せると静かに続けた。


「お願いだから……私の元から、去っていかないで。もう誰も失いたくない。傷ついた悲しい顔なんて見たくない」

その言葉に、ルドが少し意外そうに見つめてきた。


イリスの頭にはもうこの世にはいない大事な人たちが浮かんでは消えていく。

褪せることなく脳裏に焼き付いている、叫ぶような甲高い悲鳴、苦痛にゆがむ表情、そして微かな生の執着…大事な存在が目の前でいなくなるのはもう嫌だった。


「俺、あんたに尽くすつもりはまったくねぇけどな。そんな条件でいいって言うならお安い御用だぜ」

「何言っているの、それなりに働いてもらうわよ」


「当たり前だ。こんな煩わしいのがいるだけで空気が不味くなる」

えっと声をした方に振り向けば、ライアンが腕を組んでドアにもたれかかっていた。その後ろにはいつもの如くレインがひかえている。


「うっげ、ライアン様とレインで仲良く登場かよ……コンニチハ~!今日もいい天気ですね!」

「とりあえず絞め殺してやろうか。レイン、お前の兄であろうが構わないな?」

「ご遠慮なくどうぞ。悩みの種が消えて楽になります。殺るなら喜んで協力しますよ」

ライアンとレインの理不尽な会話にもめげず、ルドは鼻歌をうたいながら部屋を物色していた。


「おいルド。イリスに服従する意思を見せろ。何でもいい、俺を納得させられたら認めて殺る」

「ちょ、やるの発音違くね?え、えー…無理を押し付けられてもね……」

クッソ、一応俺のが年上だっつのとルドが本当に小さな声で悪態をつく。うーん…と考える素振りを見せて首を捻るルドに、ライアンの苛立ちは募っていく。


「よし、思いついた」

ルドの顔が、一瞬だけ不敵な笑みを浮かべる。



一体何をするのか、イリスを含めた三人の視線がルドに集中する。

ルドの手が右耳の耳飾りへと向かった。慣れた動作で簡単に取り外せば、手の平に乗せて喋り出す。


「ライアン様は、いつか俺が王女様に牙をむくか心配してるんだろ。安心したらいい。俺は過去の憎しみに執着していない。正直そんなのどうでもいい」

そして手から、鮮やかな黄色の輝きを放つ耳飾りを地面へ落とす。レインはその様子を食い入るように見つめ、少しだけ顔を歪ませた。


「ファンシー家の長男であったことは今もこれからも俺の誇りだ。それは変わらない。だがいつまでも過去に囚われているつもりはない」

そしてルドが足を小さく上げ、そのまま縦に下ろす。なんとルドは、ファンシー家の象徴であるルドベキアの花に似せた黄色の耳飾りを――躊躇いもなく、足裏で砕いた。

パキンッと粉々に割れる音が聞こえ、さらにはグリグリと踵で押し潰す。

イリスは信じられない思いで目を見張る。ファンシー家の名を語るだけで豹変したルドと、今目の前にいるルドが同一人物に見えなかった。


「レインでさえ、このピアスは取らなかった。この意味は分かるはずだ。多少は服従の意思は示せただろ?」

「あ、貴方……大事な宝物を」

イリスは地面に砕け散った破片を唖然と見つめ、小さく呟いた。レインもこれには驚いた様子で、目を丸くしていた。


「別になくても生きていける」

ルドは気にもしていないと態度に表し、これでどうだとライアンの反応を窺った。


「意地でも俺の配下にはつきたくないようだな。お前が何を企んでいるのか、今この場で吐かせてやってもいいが?」
 
「だーかーらー、怪しいことなんてないっつーの。ただ食って寝れたらそれでいい。生きることに意味なんて求めてねぇんだから」

面倒臭ぇな~とルドは頭を掻いた。ライアンでは話にならないと思ったらしく、で、結論は?とイリスに答えを要求する。

翳ったようにも見える深い青の瞳が交わると、イリスは少しだけ胸がざわついた。これは第六感によるものなのかと不思議に感じる。


「――そうね。貴方の意思はちゃんと伝わったわ。ライアン様、この人は私が面倒を見ます。少しでも怪しい行動をしたら後の処理はお願いしますね」

ライアンが眉をひそめて見つめ返した。イリスはその反応に、苦笑を浮かべて肩を傾げる。


「オイオイオイ、綺麗な顔して言うこと大胆だな」

「だって貴方を完全に信用したわけじゃないもの。もちろん、タダ飯食らいにはさせないわよ。相応の努力はしてもらわないと」

ね?とにっこり微笑むイリスに、ルドはおっかねぇ……とこっそり愚痴った。ライアンは尚も怖い顔をしていたが、ルドと喧嘩するイリスを呆れて見つめ、最後には好きにしろと許可した。

レインは心配そうな顔を向けるが、決定事項を覆すわけにもいかず、何か言いたそうにするがそのまま閉口した。



「今更だけれど、なんて呼んだらいいかしら」

「ルドで。あ、ルド様でもいいぜ?逆に敬ってほしいくらいだ」

「却下ね。じゃあ……ルド。これからも、よろしく」

ハッとまるで子供のように笑うルドに、どうしてなのかイリスの体内の血が波打つような、騒ぐような、形容しがたい感覚に包まれた。


これが何を意味するかなど、この時のイリスには知る由もなかった。




「ルド、またこんなところでサボっていたのね!花瓶の水を変えてってお願いしたのに!」

城内の隅にある目立たない木陰でルドはのんびりと横になって眠っていた。


「耳元で叫ぶなよ~俺の聖域である睡眠の時間を邪魔すんなって。んじゃおやすみ」

「もう!他にも頼みたいことがあるのに。私だって暇なわけじゃないのよ」

呆れ返るイリスは小さく息をつき、穏やかな顔ですやすや寝息を立てるルドを見下ろす。

こうなったら耳元で怒鳴ろうが、大きく揺すり起こそうが、なかなか起きない。あっ美女ーと呟けば、高速で起きるのが憎たらしい。実は起きているのではないかと最近思い始めた。


「羨ましいくらい自由な人ね……」

近くに座りぐいっと頬をつねると、ルドはんー…と嫌そうに唸って、猫のように顔を沈める。

ルドの首元まで伸びた短い金髪が微風に揺れる。右の耳にはあの黄色い耳飾りをしていた痕だけが残っていた。イリスは立ち上がると、丸まって眠るルドの体を見つめる。

剣奴として十分な食事を与えられなかった過去があるルドは全体的に細身だった。しかし数々の連戦に勝利してきた実績を証明している腕や足には隆起した筋肉があった。

実際に剣を扱う姿はまだ見たことはないが、相当の実力はあるのだろう。でなければエドームの奴隷収容所で他の人間よりも優遇された扱いを受けられず、清潔な牢には入れてもらえないはずだ。


「貴方みたいになりたいわ」

イリスは心底、そう思った。どこまでも奔放で、自分を貫いて生きている。彼はいつだって正直だ。


気付いたら音もなく消えているルドを探すのは大変で、こうやってイリス自ら動くことも多い。徐々にルドの行動範囲を学んだイリスは、見つけ出す時間を短縮できるようになった。

この前は地方の領主に書状の伝達を頼んだが、どこで寄り道してきたのか一日で帰ってこれる距離を、丸二日かかって城に戻ってきた。

詳しく問い詰めても、のらりくらりと話を逸らしてくる。イリスは無駄な体力を使うと判断して、深くは聞かなかった。ルドばかりに時間は割いていられない。


「イリス様ーっ!」

後方からバタバタと走ってくる大臣の一人の蒼い顔を見て、イリスは妙な胸騒ぎを感じた。また何か問題でも起こったのか心配になる。目が血走った様子を見ると、その予感は間違っていなかったらしい。

 
「一大事、です…」

息切れを起こす大臣の呼吸が落ち着くまで待つ。続きの内容を聞くのが怖かったが、イリスはどうしたの?と不安げにたずねる。 

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