亡国の王子の復讐

朝日

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TEARS OF THE MOON

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「いいか、ディッシュ」

低い低い声が、しんと静まりかえった廊下に響く。危ない狂気を纏ったディルは、ディッシュへ切っ先の鋭い剣を向けた。


「この部屋には、誰も、近寄らせるな。もし邪魔する奴がいたら、誰であろうと、どんな理由があろうと、俺が

「分かった!分かった!分かったから!もう目がマジだから!というかそんな危ねぇもんチラつかせんな!俺、何も悪い事してねぇし!?ディルの神聖な時間を奪うつもりもねぇし!?ずっと見張ってるから安心してイけって!」


今まで散々お預けをくらっていたディル。もう見ていて可哀相なほど、耐え抜いてきたディル。

悲願であったイリスとの時間を前にしてこうなるのも無理はないとディッシュは思ったが、なぜその矛先を自分に向けるのかと本気で泣きたくなった。


「虫一匹でも侵入を許すな……」

「ハイハイハイ!畏まりました!何も心配しなくてもいいから!ちょ、頼むからその剣どけろ!俺を殺す気か!まだ死にたくねぇよ!」


無実であるはずのディッシュは、壁ギリギリまで後退した。ディルからは、身の危険しか感じない。怖すぎる。目が合わせられない。


無言のディルは禍々しい雰囲気を発しながら殺気立っていたが、ようやく剣を鞘におさめた。寿命が縮んだディッシュは冷や汗を垂らしながら、ほっと脱力して肩を下げる。

ディルは最後に念押しで、「部屋には誰も入れるな」とだけ言うと、イリスがいる部屋へと歩きだしていった。



「――…まあ、ずっと、我慢してきたんだよな」

ディルの後ろ姿を見送りながら、ぼそっとディッシュは呟く。


ディルは三年もの長い間イリスだけを思い続け、その手で誰も抱かなかった。

疼く欲望を抑え付けることが、どれほど大変だったか。執拗なミレイアの誘惑を避け、他国の姫の縁談も丁重に断り、ただ一途にイリスを愛していた。


男ならば、一度くらい過ちを犯してもおかしくはない。それほど性欲というのは厄介な存在で、一瞬でもグラッとくれば、後はズルズルと堕ちていくだけだった。

ディルは長い日々の中、己の理性と戦い続け、ようやく今その努力が報われた。待ち望んだイリスとの時間。いくらディルでも、込み上げる興奮を鎮めることは出来ないだろう。


「明日まで、イリスが持ち堪えるか、どうかだな…」


ライアンを失って悲しみに暮れるイリスが、どうディルと向き合うのか。

イリスの泣き腫らした目を思い返し、ディッシュは切なげに瞳を閉じると、ゆっくりと廊下を離れていった。







「――んっ…!」

湿っぽい吐息が、イリスの唇から零れ落ちていく。夢中で重ねる接吻に、イリスを包む世界が遠くなる。今支配しているのは、ディルの温度だけだった。


ディルはイリスに寄りかかる形で、その華奢な体を自分の元へ引き寄せた。

もう二人を引き裂く距離が生まれないように。もう誰にもこの時間を邪魔させないように。いつもの冷静さを奥へ押しやり、ディルは加減を忘れ、強い力でイリスを腕の中に閉じ込める。


「あっ……ん、ぅ」

くちゅ、ちゅぱっ…と、薄い唾液が絡まる。一本の銀の糸が垂れ、あと少しで切れそうになるかと思えば、瞬間的にまた深く繋がっていく。

何もかも吸い尽くすような激しい交わりを繰り返し、漏れ出る息さえ逃さないとディルは何度も何度も角度を変えて唇を押し付ける。イリスもディルの胸板の服を掴み、必死に応じながら粘っこい舌を突き動かした。


意識がないうちに、イリスは壁際にまで下がっていた。背中に堅いものが接触したのを感じたが、それでもすぐにディルへ全神経を持っていかれる。

ディルの鋭く誇張するものが、イリスの足の間を割り入って、ドクドクと存在感を増して腹部に伝わってくる。飢えきった凶暴な心を剥き出しにして、今度こそディルは内に滾らせた欲望をさらけ出す。


何分、経過したのか。

はっ、はっ…と互いの荒い息遣いが聞こえ、イリスとディルは一旦口付けを中断させた。

食い入るように見つめる、先の尖った棘のような眼差しを受け、イリスは高まる鼓動と共に、熱く焦げるような衝動が足先まで駆け巡る。全身で欲しているディルの情熱に、逸る心を抑えきれなかった。


「ディル!その……当たっ、てる…」

イリスが恥ずかしそうに火照らせた顔を埋めれば、ディルはあぁ…と気付いたように頭を寄せた。

「……ものすごく、興奮してる……悪い。今日は、寝かすつもりないから」

「…っ」

耳元で囁かれ、その妖しい色気にゾクリとイリスの肩が震える。ギラついた瞳を向けるディルは、切羽詰まったようにイリスのドレスに手をかけていった。

荒っぽい仕草でイリスの胸元を探ったかと思えば、片手で膨らみを鷲掴み、円を描くように乱雑に触れる。もう片方の手はイリスの後頭部を押さえると、ぐっと固定させ、またキスを再開させた。


「んっ…ふ……」

隙間なく密着していく体と、蹂躙するように動くディルの手。圧倒される舌遣いと、上昇していく昂り。イリスは、ディルについていくのが精いっぱいだった。 


「もっと、口を開けて……声も、抑えなくていい。俺だけに、聞かせろ」

唇から離れ、ディルがぺろっと耳を甘噛みすれば、高揚したイリスの体がぴくんと弾ける。分かったと必死に頷くイリスは、全てを預け、ディルの首に腕を絡ませた。


「ディル……っ」

イリスは快感に抗うことなく、嬌声を上げた。


ディルはイリスの舌を逃がさないように追いかけて絡ませ、上下に動かしながら、薄目で反応を窺う。

かつてないほど激しく求められていることを感じたイリスは頬を紅潮させて、じわりと濡れた瞼を閉じ、熱で浮かされたような表情で唇を抉じ開けていた。


「……ッ」

それを見たディルが下腹部をむくりと反応させ、我慢できずにイリスのドレスを肩から肌蹴させる。ビリッと裂ける音が響いたが、気にはしていられなかった。

透けるような白い柔肌が顔を出すと、欲望に駆られたディルは一気に胸元まで脱がせた。突然の出来事にイリスは目を開いて驚いたが、ディルに左胸を掴まれると星が散るような痺れが走った。


「や……っ!」

思わず、イリスは声が出た。

ディルは躊躇いもなく桃色の先端を押し潰し、グリグリと刺激した。硬くなりかけたものがさらに膨らみを増すのが分かり、イリスは羞恥が込み上げて顔を逸らす。

指に張りのある弾力が返ってくると、ディルは満足そうに目を細めた。そして今度はスゥッと口を開け、温かい舌先でコロコロと愛撫を始める。


ディルの唾液に包まれる感触に、イリスはビクッと腰が上がった。


「あぁっ!ひっ、ァ……!」

情けないほどに、感じていた。研ぎ澄まされる感覚に加えて、逆上せるような快感が突き抜ける。触れられているだけで熱を帯び、身体が溶けそうになった。


「勃ってるな」

ディルの言葉を受けて、イリスは恥ずかしくて消えてしまいたかった。


「……興奮してるのは、俺だけじゃないらしい」

手にはおさまりきらない胸を持ち上げ、ディルは形を確かめるように揉む。

二本の指先でこねるかと思えば、ぐっと引っ張り、そして肌に食い込むように押し付ける。もう片方は口内で強く吸い、跡をつけるかのように歯で柔らかく噛んだ。


「そこは、駄目っ……!」

イリスは小さく声を放ち、耐えきれずお尻を浮かせた。ディルに触れられるだけで、痛いほど敏感に奥のひだが波打つのが分かる。

そして、露骨なまでに引き上げられたディルの脈動がイリスの股間に擦られるように押し付けられ、ぎゅっと熱が収縮していく。

歯止めが利かず加速していくだけの動きにイリスは涙目になって体をくねった。


ハッ、ハッとディルは乱れた息を上下させる。

そしてついにドレスがたくし上げ、イリスの下半身を完全に無防備な状態にさせた。すっかり濡れた割れ目を確認すると、いたぶるように指を這わせる。


「悪い……」

ディルは、余裕をなくして呟く。次の瞬間、イリスの中へ、ズプッと二本挿入させた。


「あっ……!」

イリスの目に、電気のような火花が散った。

じんわりと溢れ出す秘部を押し広げるようにディルの指がバラバラと動き回って、奥へと忍び寄る。


グチュッ、クチュと中を烈しく探り当てる存在に足がビクビクと震え、イリスは立つことが困難になった。



頭の回路が、溶け出してしまいそうだった。

深く粘膜を弄る存在に、イリスは体の力を失くしていくと、前屈みにディルへと傾いていく。容赦なくディルの指は前後にピストンを繰り返し、イリスの絶頂を煽った。


「あ、ああぁ……っ、待!」

イリスは崩れ落ちそうになるのを必死で耐え、ディルの引き締まった胸元をぎゅっと握る。

降り注ぐディルの熱視線。耳元では、浅い息遣いが木霊した。滴る内壁だけではなく、尖った胸の先端も忘れずに愛撫され、イリスの中で快感が駆け抜けていく。


「もッ、だめ……イっ、ちゃ…」

来る。

白い頂に上り詰めると思われた矢先、ディルの指がすっと引き抜かれた。太ももに伝う愛液の感触に痺れが起き、どうしてとイリスが息を切らしながらディルを見上げる。


「――俺ので、イけ…」

ディルは甘い声で囁くと、ガチャッと片手でベルトを外し、ズボンを腰からずり下げた。そのまま勢いでイリスの足を持ち上げ大きく広げると、接合部へ押しつけるように挿入の準備を整える。


迫りくる期待と不安を感じ、背中に壁を預けたイリスが小さく身を震わせた瞬間、ディルは呼びかけすらなく、ズプッと最奥まで貫いた。

そそり立ったものが一気に膣へ滑り込むと、驚いたイリスは悲鳴のような声を上げる。それでもディルは遠慮することなく、パンパンと激しく腰を振り始めた。


「大きっ…あッ、ディ……ん、あぁっ……!」

いきなりの圧迫感に、イリスはぐっとディルを締め付けた。顔をしかめたディルだったが、構わずズンズンッと突き上げを止めない。揺らり、揺られて、速度がどんどん増していく。


「イリス…っ」

どこからともなく、口付けが交わされる。んぱっと唾液に溢れた舌と舌が触れ合った。感情のまま相手の口内へ潜り込むと上唇を舐め、歯列をなぞり、ぴちゃっと深く絡まる。

その間、興奮に支配されたディルの一物は、イリスの腰が砕けそうなほど中へと打ちつけていた。性的な緊張が張り詰め、静まる気配を見せない動きは、荒波のようにイリスを圧倒させた。


「はげしっ!ん、んっ……あ、あぁ……」

「まだだ」
 
イリスが達しそうになれば、ディルは頬を上気させながら、猛り立った自分を律する。この快楽を最後まで味わうかのように、緩急な動きに変え、小刻みな抜き差しを続けていく。


いじらしく、じれったい。イリスはどうにも出来ないもどかしさに包まれ、自分から腰を上げていた。



パンッ、パンッ、パンッ!

終わりが見えないような甘い戦慄が、どこか切ない収縮と並行して、真っ直ぐに駆け上っていく。


「んっはぁ、ッ……ああ、あぁっ……ディル…!」

限界を迎えたイリスから乞うような声が部屋に響く。応えるかのようにディルは律動を強め、最後の追い込みへ踏み切る。

何もかも一つに繋がる瞬間が、二人に訪れようとしていた。それは待ち望んでいた時でもあり、ほんの少しの苦しさを伴うものだった。


そんな刹那、窓から差し込む金色の月光が、イリスの目を突き抜けるようにして飛び込んでくる。


「ッ、あぁぁ……!」

「くっ」

明減する光の向こう側を、垣間見たような気がした。

膣内が大きく広がり、グッとディルが弾けたかと思えば、ドピュッと物凄い勢いで精液が奥へ放たれていく。その熱い衝撃に合わせて、ピク、ピクッとイリスの体が小さな痙攣を起こした。


「は、はっ……はぁ…っ」

ぐったりと萎むように倒れたイリスの体を、ディルは優しく受け止める。その間もディルの放出は止まらず、イリスは絶えず絶頂の余韻を感じていた。

ディルの額からポタリと、一滴の汗が滑り落ちる。下を向いていたイリスにかかると、二人は離れていた時間を手繰り寄せるように再び見つめ合った。


「イリス……」

ディルからこぼれる、愛しさが溢れる声。

その柔い響きに、イリスは唇を震わせて、その存在が消えてしまわないように彼の頬に手を添えた。

甦る日々が降り積もるように脳裏を埋める。面影を求めるように夢に見て、朝になっては喪失感に押し潰され一人涙した。そんなことを、いったい何度繰り返しただろう。ただ、この人が欲しかった。それだけだった。他には何も、望まなかった。


――あの優しい人を無に還し、犠牲にし、引き換えにし、やっと、やっと手に入れた幸せ。

罪悪感などと、簡単に処理できる感情なんて一つもない。そんな傷を隠すような逃避を、続けること自体が罪だと感じた。



何かを感じたように、ディルがイリスを抱き上げる。

ズボンを脱ぎ捨て、そのまま流れるように寝台に向かうと、イリスは静かに降ろされた。

ディルの長い指が温度を孕んで、イリスの顔の柔らかい部分に触れる。ギシッと軋んだ音がして、ディルがイリスの上に覆いかぶさった。引き寄せるように距離を縮めて顔を寄せ、ディルは目を閉じ口付けを迫る。


そんなとき、また、金色の月光が、イリスの視界に入ってきた――。



その、金色が。

記憶の中の、誰かと、重なって。ディルではない、他の、人を。


「……っ」

イリスは呼吸を忘れ、近づくディルのキスを拒んでしまった。

なぜ、体が動いてしまったのか。ハッとなり思考が追いつけば、今はもう追憶の彼方に消えてしまったライアンがイリスの瞼に浮かぶ。


ディルはイリスの思いを理解すると、悲しそうに眉根を下げる。

ディルを傷つけてしまったのだと気付いたイリスは、今にも泣きそうな表情を手で覆って隠すと、力なく首を振った。


「ご、ごめん…なさい……わた、し…」

最低だと、掠れた声で呟く。ぎゅっと締め付けられる胸の痛みに襲われ、イリスは目尻の奥が熱くなった。注がれるディルの視線を避けるように、イリスは顔を横に向ける。


「ディルしか、いらないって……ずっと、思っていたのにっ……あの人を失くした痛みが…私から、消えない……!何も返せなかった苦しみが、心の中から、離れない…ッ!」

ひっ…としゃくり上げ、震えながら嗚咽を吐き出す。膨らんでいく思いに耐えかねて、瞳から伝い落ちたイリスの雫が顔のそばのシーツに染め上げていく。


「ライア――…」

イリスが、その名を口にしようとしたとき。

聞きたくないとばかりにイリスの後頭部を掴み、ディルは強引に舌を捻じ込んだ。次の言葉さえ許さないと、噛みつくような荒っぽい動きで潤った唇を押し付ける。

クチュ、レロッ…と淫靡な音が続く。体全体が骨抜きにされるようなキスに、イリスはひどく困惑してされるがままになった。



「分かって、いるんだよ……!」

時間の感覚が乏しくなるような愛を延々と交わして。背筋がゾクッと粟立つ、奥から絞り出すようなディルの声が、イリスの耳元を這った。


「命を賭して、ライアンが残していったもの…俺が、辿りつけなかった、力……イリスの心の一部は、もう、俺の元には戻ってこない」

心底悔しそうに、ディルは拳を握る。そして、歯痒そうにイリスへ視線を移した。


「あいつは、イリスの全てを、譲ろうとはしなかった…俺の一番欲しいものだけを奪って、逝った……あんなにも優しく残酷な方法で、イリスへの愛を貫いた……」

俺には出来ない。そう、虚しく零す。

何か、何か言わなければとイリスは必死に言葉を探すが、頭が白に霞んで見つからない。苦しさばかりが先行し、ディルの手に自らを重ねることしかできなかった。


「俺が耐えた三年……本当に、つらかった。例えようもなく、長かった」

切なさが滲んだ顔で、ディルはイリスと向き合う。


「ライアンの影が、消えることはなくていい。それでも、今。今夜だけは…俺だけの、イリスであってほしい」

それを聞いた途端、イリスは無我夢中で、ディルの首に手を回して抱きついた。



お互いに、大切なものを切り捨てて、ここまで辿りついた。

過去への罪悪は、後から雪崩のように押し寄せる。生涯刻みついて離れないだろう温もりを、心に背負って未来を生きていく。


――それでも今、この瞬間だけは、溢れる幸せを、そっと、噛み締めたい。


「んっ、フ…あぁ、はぁッ…!」

もつれ合って、絡みついて、ディルの匂いを全身で感じ取った。これ以上ない喜びを、一つ一つ丁寧に愛撫するディルの指が、優しく教えてくれる。


やがてディルの温かい舌が、イリスの潤った秘部へ触れた。下から上に熱を持つ存在が動くと、イリスの体が緩く跳ね上がる。

そのままディルは止まることなく奥へ忍び寄り、時々小さな蕾を刺激することを忘れずに、漏れ出る蜜を掻き乱すようにスッと吸い取った。


「そ、こ……!」

「逃げるな」

ディルが逃げるイリスの腰を掴み、深くまで舌を入れると、ぬめりを帯びた蜜がまた出てくる。ディルの指はイリスの愛液でテラテラと輝き、ツゥッと垂れていった。


「見ないで…恥ずか、し……」

秘部を凝視するディルに頬が真っ赤になり、イリスは首を振って足を閉じようとした。もちろんディルはそれを遮って、見えやすいように大きく開脚させた。


「……綺麗だ」

甘い響きに快美感を漂わせるようなディルの声を受けて、イリスの羞恥はさらに募った。

内壁の滑りがいいのを掬い取った蜜で確認したディルは、イリスを仰向けに寝かせると膝を立てる。ズッ…と腰を前進させると、接合部まで躊躇いなく挿し込んだ。


「っ、ああぁ……!」

閃光を浴びるように、イリスから嬌声が弾けた。

覆いかぶさるディルの体は薄い汗で艶めいて、互いの胸と胸がつるんと密着し合う。抱擁によって得られる快感に、ディルの律動も勢いを加速させていった。


「ん、は……ッ」

濃厚なキスを交わして、愛を求め合う。激しい衝動のまま、今度はディルがイリスを抱き上げる。トロンとした目で心地よい余韻に浸っていたイリスは、不思議そうにディルを見つめた。


「ディル……?」

華奢な腰を掴んでいたディルが一気に下へ降ろせば、ズプッとイリスの中へ、硬度を増したディルの一物が深く食い込んだ。
 
脳天が焦げ付くような声にならない声を上げ、イリスが跨る形で背中が反り返り、ディルは下から何度も何度も大きく突き上げる。


「あッ、ん……!あぁっ!」

「くっ、ハッ……」

パンパンッと上下に揺れる世界で、イリスは倒錯的な感情に囚われた。激しい動きについていけず、光る汗だけが寝台に飛び散っていく。


「イッ、ちゃ…!」

「――もう、出る……」


最後、ぎゅう、っと強く締め付けたイリスの膣内で、臨界点を超えたディルは、熱い精液を容赦なく注ぎ込んだ。



それから、疲れ果てるまで何度も抱きあった。渇いた心を潤すかのように、貪欲に、どこまでも、ただ、ひらすらに。

気を失うように眠って、目を開けたらまた求めて。すぐそばで縋り付いていないと、また手が届かない所にいってしまうのではないかと不安で仕方なかった。



眠るディルの手が、イリスの背中に回っていた。

明け方に再び起きたイリスは、一本一本繊細な銀の睫毛が伏せられたその寝顔を、息を殺して眺める。これが夢ではないと温度で確認すると、どうしようもない安堵感に包まれた。

肌で触れ合っている熱を感じて、イリスは甘えるようにディルの方へ体を寄せる。涙で滲んだ視界に、スッとひと筋の光が舞い込んできた。


「――…きれい」

まるで、太陽を思わせる、ライアンのようで。そっと投げかける優しさが、不器用な姿と重なって視えた。

すると、朝日の眩しさにディルの目がしばたいた。光沢を帯びたような銀髪が垂れ、むくりと上体を起こすディルは眠そうに目をこすると、隣のイリスに声をかけた。


「……先に起きていたのか」

「ごめんなさい。起こしてしまった…?」

「いや…」

ディルはまどろむように微笑んだままイリスの頬に手をやり、もう片方の手で髪に柔らかいキスを落とす。

それからイリスの額に、睫毛に、唇に、口付けを移動させていった。

心地よく感じたイリスはふふっと幸せそうに肩を傾げ、くすぐったいと身を捩じらす。口角を上げたままディルは指を絡ませイリスの上に被さると、前髪をくっ付けて二人で楽しそうに笑い合った。


鈴の音が転がるような声を響かせてゴロゴロと抱き合い、勢いで寝台から落ちそうになる。わっとイリスが驚き、ディルが紙一重でイリスの体を支えた。


「あ……」

破顔したイリスは、生まれたままの姿であると思い出し、恥ずかしそうにシーツを手繰り寄せる。

今更だとディルは苦笑いしてその手を外すと、イリスの白い鎖骨あたりに舌を這わす。イリスがチクッとした痛みを感じると、そこにはくっきりと紅い噛み痕がついていた。
 

「俺のものだ」

ディルが悪戯っぽくそう呟く。瞬間的に愛しさが込み上げたイリスは、無意識で遠慮がちに顔を近付けると、触れるだけの曖昧なキスを送った。


「……それだけ?」

ディルは不服そうに口を尖らす。その呆れた様子を見て、イリスはうっと言葉に詰まる。


「そ、それだけって。もう、たくさん…」

「まだ、足りない」

んっと舌を流し込み、ディルがイリスの口内を探り出す。合間に滴り落ちそうになる唾液を吸い寄せ、左右に動く唇をイリスは何とか受け止める。

幸福感に満たされるのを感じながら、イリスは徐々に体の中心の熱が浮き出し、甘く疼きだした。

ディルは薄目で反応を窺っていて余裕が見える。イリスは迫りくるキスに目が潤み、これ以上は駄目だと白旗を上げ、ディルとの距離を取った。

「もう、終わり?」

勝ち誇った顔で不敵に笑うディルに、イリスは息を切らして恨めしそうに視線を返す。

それでも近くにあるディルを見ていたら、ふっと脱力してゆるりと目元を丸くさせた。あぁ、こんなにも幸せだと全身が喜びに包まれていく。望んでいたものはこの時間だったのだと改めて実感が湧いてくる。



「――…大好きよ、ディル」

心から。

嘘偽りなく、最大限の感情で、この想いを伝えられること。簡単なようで難しく、掴みそうで触れられなかった。だけれど今、誰よりも近くで温もりを感じられる事を本当に嬉しく思う。




「……知ってる」

ディルは今までにないくらい、愛情を込めた最高の笑顔を、イリスにむけたのだった。

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