笛ふきの少年とお姫さま

山城木緑

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別れの曲

別れの曲

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 翌朝、村は騒がしさに包まれていました。

 王様一行が村を訪ねてきたのです。

「姫を誘惑した不届き者をここへ連れてまいれ!」

 王様の怒号が響き、村人たちが恐れおののく中で、長老がゆっくりと王様に歩み寄りました。

 村にはいつもより少し強く冷たい風が吹いていたかもしれません。

「王様、少年はお姫さまの心を静めるために笛を吹き、聴かせていただけでございます。不届き者など、そのような者ではございません。王様も少年の音色を聴いていただければきっと分かっていただけますじゃ」

 長老は涙ながらに訴えましたが、家来は長老を蹴りとばし、王様一行は小高い丘の少年の住む小屋へと進んで行きました。

 バタンッ

 寝ていた少年の耳にけたたましくドアを蹴やぶる音が鳴り響きました。

「ひっ捕らえよ」

 四人の大男たちに腕や足を掴まれて連れ出されそうになり、少年は必死に笛だけをふところにしまいました。少年は縄をかけられ、お城へ連れて行かれてしまいました。
 村人たちは大人も子供も泣きながら少年が連れて行かれるのをただただ見送るしかありませんでした。

 村に吹く風は先ほどよりいっそう強く、空は今にも泣き出しそうな黒い雲に包まれていました。


 少年が村から連れ出されて一週間が経ちました。

 少年には遠い遠い海の国への島流しの判決が下されました。
 お姫さまはずっと自分の部屋でふさぎ込み、夜通し泣いていました。
 村の子供たちはいつもいつも少年の小屋がある草むらで少年を待ち続けていました。

「笛ふきのお兄ちゃんはどこへ行っちゃったの?」

 子供たちの問いかけに、村人たちは首を振ることしかできませんでした。

 少年がはるか遠い海の国へ流される日、お姫さまは部屋の窓を開け、かすかに望む港の方を必死で見ていました。
 けれども、とても少年の姿は見てとれません。
 お姫さまは窓辺でまたふさぎ込んでしまいました。

 お姫さまのこぼした涙が床に落ちたそのとき、お姫さまの耳にかすかに、ほんのかすかに笛の音色が聴こえてきました。

 少年は『別れの曲』を吹いていました。

 監視の者が笛を奪い取ろうとしたのですが、その者でさえ、少年の奏でる美しい音色に心を奪われ、笛を奪い取ることはできませんでした。

 『別れの曲』は、別れは辛いものだけど、別れが辛いぶん、どれだけその人が大切だったかを知ることができる唯一の時なんだ。
 だから、人には別れが必要なんだよ。
 別れがあるから、人は出会う人を大切にしようって思うんだ。
 だから別れを悲しまないで。
 その先に、また大切にしたいと思う人との出会いが待っているから。

 そんな曲でした。

 少年の『別れの曲』は小さいながらも、不思議と国じゅうに聴こえる音色となりました。
 村人たちは流していた涙を止め、少年の無事と新たな旅立ちを祈りました。
 お姫さまは音色に耳を傾け、めそめそと流していた涙をこらえました。
 お姫さまが涙をこらえて見上げた空には、さんさんと輝く太陽と珍しい天気雨が降り注いでいました。
 お姫さまも少年も空を見上げたままクスッと笑いました。悲しみと喜びを一緒に歌っているような空へ笑顔を見せていました。
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