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第6話:2年5組 近衛 芽衣子(3)

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メイが・・・死んだ・・・?

そんな・・・そんなわけ・・・あるはずが・・・ない。

だって、メイは今、私の目の前に・・・いるのだから・・・

こうして私と会って、一緒に喋っているの、だから。

そっ、そうだ。

きっとメイ、本当はあのこと根に持ってて、お母さんに相談して、私にこんな、手の込んだひどい悪戯を、しているんだ・・・

絶対に、絶対に、そうに、決まってる。

「め、メイ・・・?」

メイの方を見たら、スマホから漏れたお母さんの声を聞いてから、何も言わず、ただ俯いている。

「う、ウソだよね。アンタ、私を、こっ、怖がらせようようと、お、お母さんとグルになっ、なってるだけ、なんだよね・・・」

言葉を滑らせながらもメイを白状させようとしたが、メイは相変わらず黙りこくっている。

「ひっ、ひどいよ、メイ・・・私、メイに許してもらって、本当に、うっ、嬉しかったのに、後々に、なって、こっ、こんなこと、するなんて・・・」

自分の心が踏みにじられた思いをしたことを必死になって伝えたが、それでもメイは一言も発することはなかった。

シラを切り続ける彼女に、私はついに自分の感情を抑えることができなくなってしまった。

「なっ、なんとか言ってよ!!」

怒り任せにメイを突き飛ばそうとしたが、できなかった。

私の手の平は、メイの身体を、

まるで立体映像のように、見えるだけで形のない彼女の身体に一切触れることができず、私は転倒しそうになりながら、メイの背中側に周ってしまった。

「め・・・メ、イ・・・?」

今起こっている出来事で頭がどうにかなりそうになりながら振り返ると、微動だにしなかったメイの背中が、やがて小刻みに震え出した。

「ぷっ、くくっ・・・あはははははははははははははははははははははははははははは!!!」

恐怖で青ざめる私を尻目にメイは腹を抱えて、まるで狂ったように大声で笑った。

「っはぁ~。もうおばさんったら、タイミング悪いよぉ。私としてはバレないでほしかったんだけどなぁ・・・」

「え・・・じっ、じゃあ・・・まさ、か・・・」

そこから先のことを言うのが恐ろしくてたまらなったが、メイはそんな私の恐怖心に構うことなく真相を打ち明けた。

「そうだよ。おばさんが言った通り、私ね、帰る途中にトラックに撥ねられて・・・死んだの。」

振り返ったメイの顔は生気が一切感じられないほどに青白く、左額からは赤黒い血がツウっと垂れた。

私は驚愕し、バランスを崩して尻餅をついた。

「やっぱり不気味だよね、この見た目。いやぁ、うっかりしてたなぁ。もう少し気付くのが早かったら助かったかもしれなのに。」

メイは半ば呆れたように、自らの注意力散漫によってもたらされた結果を後悔した。

「ど、どう、して・・・」

私は何故、事故で死んだ親友が自分の許に現れたのか、その理由を知らずにはいられなかった。

途端に思い浮かぶのは、

まっ、まさかメイ・・・

わっ、私のことを・・・

「どうしても、弥生に、謝りたかったから。」

「え・・・」

「私がなんでボーっとしてたかっていうと、どうやったら弥生と仲直りできるんだろうってずっと考えてたから。なんて言ったら許してもらえるんだろうって考え込むあまりつい周りが見えなくなってしまったの。その結果事故って死んじゃうんだから笑いごとじゃないよね。でも、意識を失う寸前で思ったんだ。“弥生に謝らないまま死ぬなんて絶対にイヤだ”って。ケンカした挙句に死に別れるなんて親友として最低でしょ?せめて一言、どうしても謝りたいって思ったら、身体中痛いはずなのに立つことができて、そのまま学校に戻ってきたんだ。ビックリしたよ~。だって血だらけになって救急車に運ばれる私が目に飛び込んできたんだからさ。」

私は、死んでもなお自分の許に戻ってきた親友の強い意思に胸が張り裂けそうになり、そんな彼女を一瞬でも疑ってしまった私自身を激しく責め立てた。

「でもこうやって、謝ることができて、弥生と親友でいられ続けるってことが分かったから、もう思い残すことは、ないかな?」

そう言うと、メイの身体は段々薄れていき、今にも消えてしまいそうなほどだった。

「めっ、メイ!!」

気付けば私は涙を流しながら、消えゆくメイに、今度は力一杯抱きしめたくて駆け寄った。

「ちょっと泣かないでよぉ。そんな弥生を見るのがイヤでずっと黙ってたんだからさぁ・・・」

メイもメイで、目元からポタポタと涙の粒を落としながら私に向かってニコッと微笑んで見せた。

「最後にお願いでゴメンだけど、さっき弥生を連れてきた人達に“あなたたちのおかげで気持ちを伝えることができました”って代わりに言っといてくれない?」

「まっ、待って。メイ・・・!!」

「じゃあね、弥生。」

その言葉を残して、メイの身体は跡形もなく消えてしまった。

まるでそこには、初めから私しかいなかったようだった。

「メイ・・・うう、ぐすっ。メイぃ・・・」

もう姿を見ることも、声を聞くこともできない親友がいた場所で膝をつきながら、私は嗚咽を漏らすことしかできなかった。




◇◇◇





僕達が見守る前で、霞のように姿を消した近衛に、僕は言葉を失った。

魅守部長と賽原に目をやると、感慨深く、どこか安心したような眼差しをしていた。

「みっ、魅守部長・・・いっ、今のは・・・?」

「ん?ああ、どうやら驚かせてしまったみたいだね。今のが、というワケだ。」

「それは、つまり、どういう・・・」

魅守部長のどうにも的を得てない解答に僕は再び聞いた。

「私達“お悩み相談クラブ”はね、こうして生徒が心残りにしたことを成就させるために活動している部活なんだ。」

「だからつまり、それはどういうことですか!?」

「つまり・・・」

遠回しに述べようとする魅守部長に代わって、賽原が僕にストレートな答えをぶつけた。

「私達は、死んだ生徒の未練なやみを解決してるんですよ、櫟先輩。」
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