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第7話:2年5組 近衛 芽衣子(4)
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賽原が口にした『お悩み相談クラブ』の“実態”。
それは、この世に未練を残した生徒を対象に、その未練を“悩み”として扱い、その解決のために助力するというもの。
そんな突拍子もない話、到底信じられるはずがなかった。
否、受け入れられなかったと言った方が正しいか。
何故なら今しがた僕は、その確たる証拠となる光景を目撃してしまったのだから。
「そっ、そんな在り得ない話、信じられるはずがないでしょ!?」
往生際悪く、僕は魅守部長と賽原に詰め寄る。
「ん、どうしてだい?君もたった今その証拠を見たばかりじゃないか?」
自分で自覚してるとはいえ、魅守部長にまでそれを言われると、痛い腹を突かれた気分になる。
「だっ、だって、近衛は透けてなかったじゃないですか!?壁を通り抜けないで普通に入口から部屋に入ってきましたよね!?」
「ん~そぉだねぇ。じゃあ聞くけど、縁人君は近衛さんが入ってきた時、ドアの音を聞いたかい?」
僕はドキっとした。
そう、あのドアは長い年月でボロくなっているため、開閉する時に音がよく響く印象だった。
でも僕は、近衛が部屋に入ってくる音を聞いてなかった。
いくら賽原と言い合いになっていたからといって、後々思えば気付かないのがおかしな話だった。
そして、もう1つ。
賽原は近衛に水を差し出し、その際彼女に向かって、合掌した。
僕はてっきり、アレは賽原の悪ふざけだと思っていたが、でも、それがそのままの意味だとしたら・・・
僕の頭の中でほぼ全てのピースが繋がったが、それでもたった1つだけ腑に落ちない点がある。
それは、“どうして僕が霊を見ることができたか。”
僕は生まれてこの方、霊の姿をただの一度も見ていない。
しかし先ほどまで、僕は確かに、死んだ近衛の姿を視認していた。
まさに生きている人間と寸分違わないレベルで。
「でっ、でも、僕は幽霊なんて見たことないですよ!そんな僕がどうして近衛をはっきり見ることができたんですか!?」
魅守部長は額を申し訳なさそうにポリポリと掻いた。
「あ~それは、私の体質のせい、なんだ・・・」
「体、質?」
魅守部長は右手を広げるとヒラヒラと僕に見せびらかした。
「私は元来霊感持ちなんだが、どうやら私の右手に5秒以上触れてしまうとそれが他の人に移っちゃうみたいなんだ。言うなれば、“霊染体質”だね。」
「5秒以上、触れると・・・っっ!!」
部室を訪れ、魅守部長にドアごと蹴り飛ばされた時、僕は魅守部長から差し出された右手を握って立ち上がった。
その時僕は魅守部長から、彼女の霊を見る力をもらい、この部活の体験入部に適した身体に変容させられた。
園田も魅守部長に手を引かれてこの場所に連れて来られた。
ここまでのことから、僕が足を踏み入れたのは、この世ならざる者たちの悩みを解決するために立ち上げられた、ブッ飛ぶにも程がある超絶ヘビーな部活だったというのは、受け入れざるをえない事実のようだ。
だがそれでも、最後に、最後に確かめなければ気が済まないことがある。
「この部活は、生徒の、“誰にも伝えられない悩み”を、解決するための、部活じゃ、なかったん、ですか・・・?」
「死んだ生徒の悩みなんか、誰が聞いてあげることができるんですか?」
賽原の言葉に、僕は何も言い出すことができなかった。
『死人に口なし』とあるように、死んだ者は自分が抱える未練を生きている者に伝えることなど、叶わない。
そんな、者言わぬ死者が最後の最後に縋る希望が、この“お悩み相談クラブ”。
死した者の言葉を聞いてあげられることができる、唯一の場所なのだ。
顔を上げると、魅守部長と賽原は泣き崩れる園田の許に立っていた。
「どうやら君に酷なことをしてしまったみたいで大変申し訳なかった。」
魅守部長がしゃがみ込んで園田に詫びたが、園田は何も言わずブンブンと首を横に振った。
「君の親友は君のことをきっと見守っているから、君もそれに応えて精一杯生きてくれ。」
園田が大きく頷くと、魅守部長はホッとしたように優しく微笑んだ。
そして賽原を連れてその場を去ろうとした。
「あ、あの・・・」
園田に呼び止められた魅守部長と賽原が振り返る。
「メイが、あなたたちに、ありがとうって・・・私も、あなたたちに、お礼が言いたいです・・・最後に、メイに、会わせてくれて、本当に、ありがとう、ござい、ます・・・」
涙で顔をグシャグシャにした園田に、賽原がフッと得意げに笑った。
「どうってことありません。ただの部活動ですから。」
僕は悠々と去り行く2人を大急ぎで追った。
そして僕達は学校の正門に到着した。
「以上で本部活の体験入部を終了する!色々と勉強になっただろう。」
ああ、勉強になった。ある意味で・・・
僕は今日から霊の存在を100、いや200%で信じる。
そして、高慢ちきな否定論者に、頭突きをお見舞いする・・・
「あっ、そうだ。君に移った私の霊感、右手のみだったから24時間もすれば消えるから安心したまえ。」
僕はそれを聞いて安心どころか肝を冷やした。
つまりは、両手で握手でもされようものなら、消えることがない、ということだろう。
多分、一生・・・
「それでは今日のところはこれで解散としよう。縁人君は正式に入部する気があったら後日部室を訪ねてくれ。」
果たして結論が出せるだろうか。
死者と触れ合うことができるなんて、この先の人生で絶対に遭遇しないまたといない機会だろう。
だがそれは、これから先、この世ならざる存在と切れない縁で結ばれないことになる。
その重荷を背負う覚悟が、僕なんかにできるなんて、思えない。
下向きに沈む僕の顔を、賽原が覗き込むような姿勢で見てきて、暫し互いの表情が向かい合う。
「いいお返事を期待していますよぉ~♪」
憎たらしい笑みでそう言うと、賽原は魅守部長とはまた別方向に歩き出した。
2人の個々の背中を見送った後、僕は、我が生涯において最大の非日常体験にどっと疲れて、深く、そして重厚な溜め息をついた。
それは、この世に未練を残した生徒を対象に、その未練を“悩み”として扱い、その解決のために助力するというもの。
そんな突拍子もない話、到底信じられるはずがなかった。
否、受け入れられなかったと言った方が正しいか。
何故なら今しがた僕は、その確たる証拠となる光景を目撃してしまったのだから。
「そっ、そんな在り得ない話、信じられるはずがないでしょ!?」
往生際悪く、僕は魅守部長と賽原に詰め寄る。
「ん、どうしてだい?君もたった今その証拠を見たばかりじゃないか?」
自分で自覚してるとはいえ、魅守部長にまでそれを言われると、痛い腹を突かれた気分になる。
「だっ、だって、近衛は透けてなかったじゃないですか!?壁を通り抜けないで普通に入口から部屋に入ってきましたよね!?」
「ん~そぉだねぇ。じゃあ聞くけど、縁人君は近衛さんが入ってきた時、ドアの音を聞いたかい?」
僕はドキっとした。
そう、あのドアは長い年月でボロくなっているため、開閉する時に音がよく響く印象だった。
でも僕は、近衛が部屋に入ってくる音を聞いてなかった。
いくら賽原と言い合いになっていたからといって、後々思えば気付かないのがおかしな話だった。
そして、もう1つ。
賽原は近衛に水を差し出し、その際彼女に向かって、合掌した。
僕はてっきり、アレは賽原の悪ふざけだと思っていたが、でも、それがそのままの意味だとしたら・・・
僕の頭の中でほぼ全てのピースが繋がったが、それでもたった1つだけ腑に落ちない点がある。
それは、“どうして僕が霊を見ることができたか。”
僕は生まれてこの方、霊の姿をただの一度も見ていない。
しかし先ほどまで、僕は確かに、死んだ近衛の姿を視認していた。
まさに生きている人間と寸分違わないレベルで。
「でっ、でも、僕は幽霊なんて見たことないですよ!そんな僕がどうして近衛をはっきり見ることができたんですか!?」
魅守部長は額を申し訳なさそうにポリポリと掻いた。
「あ~それは、私の体質のせい、なんだ・・・」
「体、質?」
魅守部長は右手を広げるとヒラヒラと僕に見せびらかした。
「私は元来霊感持ちなんだが、どうやら私の右手に5秒以上触れてしまうとそれが他の人に移っちゃうみたいなんだ。言うなれば、“霊染体質”だね。」
「5秒以上、触れると・・・っっ!!」
部室を訪れ、魅守部長にドアごと蹴り飛ばされた時、僕は魅守部長から差し出された右手を握って立ち上がった。
その時僕は魅守部長から、彼女の霊を見る力をもらい、この部活の体験入部に適した身体に変容させられた。
園田も魅守部長に手を引かれてこの場所に連れて来られた。
ここまでのことから、僕が足を踏み入れたのは、この世ならざる者たちの悩みを解決するために立ち上げられた、ブッ飛ぶにも程がある超絶ヘビーな部活だったというのは、受け入れざるをえない事実のようだ。
だがそれでも、最後に、最後に確かめなければ気が済まないことがある。
「この部活は、生徒の、“誰にも伝えられない悩み”を、解決するための、部活じゃ、なかったん、ですか・・・?」
「死んだ生徒の悩みなんか、誰が聞いてあげることができるんですか?」
賽原の言葉に、僕は何も言い出すことができなかった。
『死人に口なし』とあるように、死んだ者は自分が抱える未練を生きている者に伝えることなど、叶わない。
そんな、者言わぬ死者が最後の最後に縋る希望が、この“お悩み相談クラブ”。
死した者の言葉を聞いてあげられることができる、唯一の場所なのだ。
顔を上げると、魅守部長と賽原は泣き崩れる園田の許に立っていた。
「どうやら君に酷なことをしてしまったみたいで大変申し訳なかった。」
魅守部長がしゃがみ込んで園田に詫びたが、園田は何も言わずブンブンと首を横に振った。
「君の親友は君のことをきっと見守っているから、君もそれに応えて精一杯生きてくれ。」
園田が大きく頷くと、魅守部長はホッとしたように優しく微笑んだ。
そして賽原を連れてその場を去ろうとした。
「あ、あの・・・」
園田に呼び止められた魅守部長と賽原が振り返る。
「メイが、あなたたちに、ありがとうって・・・私も、あなたたちに、お礼が言いたいです・・・最後に、メイに、会わせてくれて、本当に、ありがとう、ござい、ます・・・」
涙で顔をグシャグシャにした園田に、賽原がフッと得意げに笑った。
「どうってことありません。ただの部活動ですから。」
僕は悠々と去り行く2人を大急ぎで追った。
そして僕達は学校の正門に到着した。
「以上で本部活の体験入部を終了する!色々と勉強になっただろう。」
ああ、勉強になった。ある意味で・・・
僕は今日から霊の存在を100、いや200%で信じる。
そして、高慢ちきな否定論者に、頭突きをお見舞いする・・・
「あっ、そうだ。君に移った私の霊感、右手のみだったから24時間もすれば消えるから安心したまえ。」
僕はそれを聞いて安心どころか肝を冷やした。
つまりは、両手で握手でもされようものなら、消えることがない、ということだろう。
多分、一生・・・
「それでは今日のところはこれで解散としよう。縁人君は正式に入部する気があったら後日部室を訪ねてくれ。」
果たして結論が出せるだろうか。
死者と触れ合うことができるなんて、この先の人生で絶対に遭遇しないまたといない機会だろう。
だがそれは、これから先、この世ならざる存在と切れない縁で結ばれないことになる。
その重荷を背負う覚悟が、僕なんかにできるなんて、思えない。
下向きに沈む僕の顔を、賽原が覗き込むような姿勢で見てきて、暫し互いの表情が向かい合う。
「いいお返事を期待していますよぉ~♪」
憎たらしい笑みでそう言うと、賽原は魅守部長とはまた別方向に歩き出した。
2人の個々の背中を見送った後、僕は、我が生涯において最大の非日常体験にどっと疲れて、深く、そして重厚な溜め息をついた。
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