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第2章:異端審問官の学び舎
12:入学必需品ショッピング
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テカーノヴァ街。
ウィクトリア王国の国教である聖天教会庁の直轄都市に指定されているこの街は、太古に地上を支配しようとしてきた悪魔と、それを追って舞い降りた天使との間で勃発した大戦の際に、悪魔を打ち倒した天使が生き残った人類に授けたかつての首都だという逸話がある。
もっともそれは、教典の中でのみ語られている伝説なので、真偽は定かではない。
通りを行き交う人々の首には、剣と十字架をモチーフにしたネックレスがかけられている。
教会のシンボルで、聖職者の証だ。
通りを歩くリリーは、好奇心旺盛な態度の鳴りを潜め、落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回す。
「どうしたリリー?さっきまであんなにはしゃいでいたというのに。」
「いやなんか・・・ボクここに合ってないような気がして。」
パリッとした礼装に身を包んでいる人で溢れている中で、リリーが着ているのは家の焼け跡から見つけた、一番マシに原型が残っている普段着。
糸がほつれ、ところどころ焼けて固くなって箇所もあるので、彼女が場違いだと思うのは無理もない。
「まぁ気にするな。すぐに溶け込める。」
そう言ってマリアは一枚のメモを渡してきた。
「せんせい、これは?」
「入学するのに先立つものじゃ。」
教科書、羽ペン、インク、制服(予備込み)・・・。
「なんか思ってたよりフツ~・・・ん?」
最後の項目だけ明らかに一般の学校では絶対に使わないものがあった。
「あのせんせい。何ですかこの最後の概装天使ってのは?」
「異端審問官が魔女と戦う上で欠かせない品じゃ。これはちと骨が折れるゆえ最後に回すぞ。」
「はっ、はぁ・・・。」
「ではまず制服からじゃ。寸法に時間がかかるやもしれんからな。」
マリアとリリーは呉服店に入った。
客は2人だけなので店内は静まり返っている。
カウンターの呼び鈴をマリアが鳴らした。
「はい、いらっしゃいませ。」
店の奥から穏やかな佇まいの年配の女性が出てきた。
「女将さん、しばらく。」
「学長先生!いつもお世話になっております。」
「よいよい。早速で悪いんじゃがこの子に着付けを頼めんか?」
「そちらのお嬢さんは?」
「今年の新入生じゃ。如何せん訳ありな身分でな、わしが直々に用立てていてな。」
「そうですか。どうぞ。丁度いいのが入ったんですよ。」
店の女主人にリードされて、リリーは制服の採寸に入った。
◇◇◇
「おお~!!カワイイ♪」
鏡の前でリリーは大層ご満悦だった。
白いローブに青いインナー、そして黒いブーツ。
スカートにはフリルが付いていて、いかにも女の子に似合う服装だ。
「フフッ。喜んでもらえたようで何よりだわ。」
リリーの笑顔に、女主人も嬉しそうに微笑んだ。
「どうじゃリリー?今だったらお好みでカスタマイズできるが。」
「え?そうですか?ん~どうしよっかな~?」
自分好みで変えられると聞き、リリーは鏡とにらめっこする。
「そうですね~・・・。じゃあスカートをもうちょっと短くしてくれませんか?動きやすいようになりたいんで。」
「かしこまりました。」
「では同じのをもう四着頼む。」
「はい。お直しするので少々お待ち下さい。」
リリーが着替えに試着室に戻ろうとした時だった。
店の扉が開いて三人の少女が入店した。
二人は年が十代後半で、瓜二つなことから双子と思われる。
そして末っ子らしき桃色の髪の、眼鏡をかけた少女はリリーと同じ年齢に見える。
「うっわ学長先生じゃん!」
「すんごい偶~然~。」
「相変わらずじゃの~お主らは。そこの方は?」
「アタシらの妹!今年入学すんの。」
「ん?あの赤ん坊か?こんなに大きくなったとはなぁ。」
「時が経つって早いね~。」
「ほら!ご挨拶ご挨拶っ。」
姉たちに促され、女の子はマリアの前にもじもじしながら向かい合った。
「はっ、初めまして!!アイリス・ロナウドと申しまひゅ!!!」
アイリスは額が膝にピタっとくっつくほど腰を曲げて挨拶した。
「アイリス緊張しすぎwwwもっとリラックスリラックス♪」
「学長せんせ~食べないよ~。」
「中々に無礼なことを言うな・・・。おっと、こちらも紹介せねばな。」
マリアは奥に引いて、代わりにリリーを前に出させた。
「あっ、あのぅ~・・・もう上げていいよ、顔。」
「はっ!?!?学長先生の髪が翠になって短くなってる!?!?」
「違うよ?」
ちょっと変わっているなと思いながら、リリーは初めて会う自分と同い年の女の子に興味深々だった。
「ボクはリリー!アイリス、だっけ?同い年の女の子に会うの初めてだからうれし~な~♪」
「へっ!?わわっ・・・!!」
いきなり固い握手をしてきたリリーに、アイリスは顔を真っ赤にして目をぐるんぐるんさせた。
ウィクトリア王国の国教である聖天教会庁の直轄都市に指定されているこの街は、太古に地上を支配しようとしてきた悪魔と、それを追って舞い降りた天使との間で勃発した大戦の際に、悪魔を打ち倒した天使が生き残った人類に授けたかつての首都だという逸話がある。
もっともそれは、教典の中でのみ語られている伝説なので、真偽は定かではない。
通りを行き交う人々の首には、剣と十字架をモチーフにしたネックレスがかけられている。
教会のシンボルで、聖職者の証だ。
通りを歩くリリーは、好奇心旺盛な態度の鳴りを潜め、落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回す。
「どうしたリリー?さっきまであんなにはしゃいでいたというのに。」
「いやなんか・・・ボクここに合ってないような気がして。」
パリッとした礼装に身を包んでいる人で溢れている中で、リリーが着ているのは家の焼け跡から見つけた、一番マシに原型が残っている普段着。
糸がほつれ、ところどころ焼けて固くなって箇所もあるので、彼女が場違いだと思うのは無理もない。
「まぁ気にするな。すぐに溶け込める。」
そう言ってマリアは一枚のメモを渡してきた。
「せんせい、これは?」
「入学するのに先立つものじゃ。」
教科書、羽ペン、インク、制服(予備込み)・・・。
「なんか思ってたよりフツ~・・・ん?」
最後の項目だけ明らかに一般の学校では絶対に使わないものがあった。
「あのせんせい。何ですかこの最後の概装天使ってのは?」
「異端審問官が魔女と戦う上で欠かせない品じゃ。これはちと骨が折れるゆえ最後に回すぞ。」
「はっ、はぁ・・・。」
「ではまず制服からじゃ。寸法に時間がかかるやもしれんからな。」
マリアとリリーは呉服店に入った。
客は2人だけなので店内は静まり返っている。
カウンターの呼び鈴をマリアが鳴らした。
「はい、いらっしゃいませ。」
店の奥から穏やかな佇まいの年配の女性が出てきた。
「女将さん、しばらく。」
「学長先生!いつもお世話になっております。」
「よいよい。早速で悪いんじゃがこの子に着付けを頼めんか?」
「そちらのお嬢さんは?」
「今年の新入生じゃ。如何せん訳ありな身分でな、わしが直々に用立てていてな。」
「そうですか。どうぞ。丁度いいのが入ったんですよ。」
店の女主人にリードされて、リリーは制服の採寸に入った。
◇◇◇
「おお~!!カワイイ♪」
鏡の前でリリーは大層ご満悦だった。
白いローブに青いインナー、そして黒いブーツ。
スカートにはフリルが付いていて、いかにも女の子に似合う服装だ。
「フフッ。喜んでもらえたようで何よりだわ。」
リリーの笑顔に、女主人も嬉しそうに微笑んだ。
「どうじゃリリー?今だったらお好みでカスタマイズできるが。」
「え?そうですか?ん~どうしよっかな~?」
自分好みで変えられると聞き、リリーは鏡とにらめっこする。
「そうですね~・・・。じゃあスカートをもうちょっと短くしてくれませんか?動きやすいようになりたいんで。」
「かしこまりました。」
「では同じのをもう四着頼む。」
「はい。お直しするので少々お待ち下さい。」
リリーが着替えに試着室に戻ろうとした時だった。
店の扉が開いて三人の少女が入店した。
二人は年が十代後半で、瓜二つなことから双子と思われる。
そして末っ子らしき桃色の髪の、眼鏡をかけた少女はリリーと同じ年齢に見える。
「うっわ学長先生じゃん!」
「すんごい偶~然~。」
「相変わらずじゃの~お主らは。そこの方は?」
「アタシらの妹!今年入学すんの。」
「ん?あの赤ん坊か?こんなに大きくなったとはなぁ。」
「時が経つって早いね~。」
「ほら!ご挨拶ご挨拶っ。」
姉たちに促され、女の子はマリアの前にもじもじしながら向かい合った。
「はっ、初めまして!!アイリス・ロナウドと申しまひゅ!!!」
アイリスは額が膝にピタっとくっつくほど腰を曲げて挨拶した。
「アイリス緊張しすぎwwwもっとリラックスリラックス♪」
「学長せんせ~食べないよ~。」
「中々に無礼なことを言うな・・・。おっと、こちらも紹介せねばな。」
マリアは奥に引いて、代わりにリリーを前に出させた。
「あっ、あのぅ~・・・もう上げていいよ、顔。」
「はっ!?!?学長先生の髪が翠になって短くなってる!?!?」
「違うよ?」
ちょっと変わっているなと思いながら、リリーは初めて会う自分と同い年の女の子に興味深々だった。
「ボクはリリー!アイリス、だっけ?同い年の女の子に会うの初めてだからうれし~な~♪」
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