ずっとここにいるから

蓮ヶ崎 漣

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緊急搬送

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 きっと、疲れて寝るだけ。
そう言い聞かせながら光と蒼に近付く。
けれど、私の最悪の予感は的中してしまって。
蒼の傍には血塗れで横たわる光がいた。
私の後を追いかけてきた聖も光の状態を見て唖然としていて。
蒼は私たちのことをじっと見ていた。
私はどうしていいか分からずその場に泣き崩れる。

「光、光……っ!嫌だ、死なないで。もう二度とあんな風に怒らないから……」

聖は私の横を抜け光に近寄る。
私には聖が何してるか分からなくてただただ戸惑っていると聖が小さく何かを言った。

「聖……?」

私が恐る恐る声をかけるといきなり肩を叩かれる。
驚いて振り返ると知らない女の人が心配そうに私たちを見ていた。
そして、私と同じ目線になるようにしゃがむと口を開く。

「お嬢ちゃん、この猫の飼い主かい?今、電話で動物の救急車呼んだからね。大丈夫だよ。お嬢ちゃんは気をしっかり持ちなさい」

そう言われるがにわかには信じられずますます戸惑うだけだった。

「え?救急車……?光は助かるの……?」

そんな私を見かねた聖が私の肩を掴んで一喝する。

「千冬!しっかりしろ!光のことを一番知ってるのは千冬だけなんだ!」

「……私、だけ……?」

「そうだ!光を生かすも殺すも千冬にかかっている!この人が言ったように気をしっかり持て!光は生きてるから!」

聖がそう言うと蒼も聖に同意するように私にすり寄ってくる。

あぁ、私は何やってるんだろう。
聖に甘えっ放しで自分で考えることを放棄して。
こんなんじゃ、助かるはずの光を助けられるはずない!

私は蒼が離れたことを確認するとガバッと立ち上がる。
聖はその拍子に尻餅をついた。

「そうだよね!光が死ぬはずない!私がしっかりしなくちゃ!光と蒼の飼い主なんだから!心配かけてごめんね、もう大丈夫!」

涙を拭って聖に笑いかける。
聖は安心したように笑って立ち上がった。
私はおばさんにもお礼を言って光の傍に行く。

大丈夫、絶対助けてあげるから!

お世話になっている動物病院に電話を掛ける。
少しして動物の救急車が来た。
光を見るとすぐに乗せて私と蒼も一緒に乗る。
聖は着替えを取ってくると言って病院だけ聞いて一度別れた。
私はお世話になっている動物病院に行ってもらえるように頼む。
すぐに了解を得てそのまま光は病院に緊急搬送された――――
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