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Flowers bloom !
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「ぷっ!ぷはははっ!ありがじゅうって、何それ。だ、だめだぁ。可笑しすぎてお腹が痛いよ、美里」
「そんなに笑わないでよ、灯。必死だったんだから」
翌日、灯に昨日の事を話したら、予想通りのリアクションだった。
「あ~可笑しい。あはは。でもさ、その三人バンドやってたんだ。美里も小さい頃からピアノしてたから気が合うんじゃないの?」
「あの時はそれ所じゃなかったよ」
「まあ、分かるけどね。でも、十年越しに壁を越えられて良かったんじゃない。親友としては一安心かな。……そっか、バンドしてるんだ。ふ~ん」
上目遣いに天井を見詰め、何か思い詰めた表情で考え込んでいる。
「灯、どうかした?」
「あ、いや、いや、何でもないよ。うん」
『……何でもない。違うな。こんな表情を見せる時は、何かを企てているんだけどな』
私の予想は、昼休みになって的中している事が証明されたが、その中身は全く予想外の事だった。
午前中の授業終了のチャイムと同時に、私は灯に手を引かれる様に中庭へ連れて行かれた。
「美里、あそこに座ろっ」指差す先にはあの事件の起きたテーブルとイスがある。
「ちょっと、灯。あの席は止めとこうよ」
「大丈夫、大丈夫。って言うか、今日はここじゃないとダメなんだよね」
「ここじゃなきゃダメって……どういう訳?」
私の質問には答えずに、イスを引き私の肩を押して無理矢理座らせると、自分は対面の席に腰を下ろし何やらニヤついた笑みを浮かべている。
「そろそろ来るかな……」腕時計を見ながら呟く。
「灯、誰が来るっていうの?」相変わらず質問に答える素振りを見せない灯の視線が、私の背後に注がれる。
『後ろに何が……えっ』後ろを振り返り、私は思わず声を上げた。
私の後ろには例の三人が立っていた。
「昨日はホンマ、すまなかった。真鍋……」昨日同様低音だけど、気の所為か言葉に刺々しい響きは無かった。
「あ、あ、こちらこそ。すみませんでしたっ」立ち上り、慌てて何度も頭を下げた。
そんな私の様子を、灯はニヤニヤしながら見詰め続ける。
「美里、曉さん達は昨日の事を謝りたいんだって」
「美里ちゃん、昨日は謝りもせず帰ってごめんね」
「改めて謝るわ。ごめんなさい」
澄香さんに続き、怜音さんも深々と頭を下げた。
「皆さん、態々そんな謝らなくても……私こそ、お礼を言わないと。ありがとうございましたっ」
「お礼?何でなん?」
「私達、何もしてないし」
「一体何でしょう?」
「すごい!美里が普通に『ありがとう』言ってる」
話が分からず、不思議がる三人に、灯が私の子供の頃からのトラウマを話すと、三人は心配気に私を見返した。
「美里ちゃんにそんな事があったんだ……」
「色々……ごめんね」
「……真鍋、しんどかったやろに。ウチは最低や」
「そんな……行き違いでそうなっただけです。皆さんがそこまで気にするなんてダメです。私こそ感謝してるって言ったじゃないですか」
「パンッ!」両掌を叩く音が俯き加減の四人の頭上に響いた。
「はいっ!そこまで!」
私達四人の様子を見ていた灯が私達を見渡す。
「これでお互いの蟠りも解けたね。じゃあ、本題を話そっか」
「本題?」
まだ何かあるのだろうか……私の瞳に不安の色を見取った灯が、こちらを見てニコリと微笑む。……何か企んでいる……ね。
「あのさ、美里。曉さん達が美里にキーボードでバンドに加わって欲しいんだって」
そんなの無理だよ。何年も趣味で弾くだけで、レッスンも受けてないし。足を引っ張るだけだよ。
「灯、曉さん、私ちゃんと練習してないし、迷惑掛けるだけだ……」
「真鍋、大丈夫や。勿論、これから練習はせなアカンけど、一緒にせぇへん?」
「本当に無理だよ。私、そんなに弾けないし」
「大丈夫やって!あんだけ出来れば」
「あれだけって?」
「先週の水曜、放課後に音楽室で弾いてたやろ?山野井から聞いてん。弾いてたの真鍋やって」
「音楽、もうしたくないん?」
そんな事はないけど。
「……練習とか活動って忙しいよね?」
「目標はガールズバンドの全国大会本選出場やからな。あ、でも無理はせんでええよ。真鍋が出来る範囲でええから」
そんな事言われても……目標があるのに私だけ手を抜くなんて出来ないよ。
「私だけそんな風には……出来ないかな」
「……無理……か」
「そうじゃないけど……」
十年越しのトラウマを克服する切っ掛けを作ってくれた三人の力になりたい。それに何かに打ち込む私をママもきっと応援してくれる――そんな気がするから。ただそれに打ち込むと……。チラリと灯を見ると目が合った。
『バンド活動したら灯と一緒に過ごす時間とかどうなるんだろ…』
気を揉む私に、灯は右手を突き出し親指を立てた。
「美里、心配しないで。私も加わるんだから」
「えっ?灯、楽器やってたっけ?」
今度は腰に手を当て仁王立ちに答えた。
「私はね――バンドのマネージャーになるの!」
「ええぇぇっ?!」
灯の予期せぬ爆弾発言に、曉以外の三人が驚いた。
「そういう事やから……灯も一緒やし、真鍋、いや美里……この通りっ!頼むわ」
額が膝に着かんばかりに、腰から体を二つ折りにして頭を下げられた。
「せやから、頼むわ。美里」灯が違和感たっぷりの言葉使いで意地の悪い笑みを浮かべた。
私は数瞹の間、目を閉じ小さく息を吐き――そして決めた。
「うん……分かった。どれだけ出来るか分からないけど、私やるよ。決めた」
「ホンマに?あ、ありがとおぉぉ~。美里ぉ」
「美里ちゃん、頑張ろうねっ」
「よろしくお願いしますわ」
「はいっ!お願いします。あ、あのバンドの楽器担当はどんな感じですか?」
「よしっ!じゃあ美里がメンバーになった所で自己紹介しとこっか」灯が再び掌をパンッと打った。
「じゃあウチから。上門曉、ヴォーカルとギターしてる」
心無しか声の音程は高い。
「安西澄香、ドラム叩いてます。よろしくね」
百五十センチあるかどうかの小さい体でドラム叩くんだ……意外。
「笹井怜音です。ベース担当ですわ。よろしくお願いします」
何か落ち着いた雰囲気で、ベースよりバイオリンが似合いそう。
「ほら、美里も」そう灯に押されて、肺一杯に息を吸い込むとスッと体の力が抜けた。
「キーボードをさせて頂きます。真鍋美里です。足を引っ張らない様に頑張ります」
「そして、マネージャーの山野井灯!よろしく!」
……灯、あなたは、いいって。と言っても今こうして三人と出会えたのは灯のお陰か。
そう思った時、私は礑と気付いた。
「ところで、バンドの名前は何?」
「うーん、それがなぁ……なぁ?」
「そうなんだよね」
「どうしたの?」何か変だな。
「あのね、メンバーが揃ってから決めようって約束なのよ」怜音さんが微笑みながら教えてくれた。
「そうなんだ。でも何て付けるの」
「……う~ん」腕を組んで曉が唸る。
「いざとなると、ね」顎に手を添えて澄香が小首を傾げた。
「大事な事だけに迷いますよね」胸に手を当て上を見上げ、礼音が溜息混じりに呟く。
その時「夢見る少女達よ!迷う事なかれっ!」灯が仁王立ちで私達を見渡した。
灯、段々壊れていってる気がするよ。
「マネージャー、何かいい名前あるん?」
曉の問い掛けに、灯が右手を突き上げ天を差す。私達はその先を追った。そこには頭上を覆うソメイヨシノの満開の花が開いていた。
「つまり、桜とかチェリー何たら……か?」曉が言葉を濁す。
「花が咲く、とか。どうでしょう。英訳してみましょうか…Flowers bloom だって」スマホの翻訳検索画面を怜音が見詰める。
「何か、ちょい長くないかな」澄香が怜音のスマホを除き込む。
「省略してみたらぁ」灯がドヤ顔で提案した。
「Flowers bloom を縮めてFlow bloom (フラウブルーム)……とか」思わず呟く。
「あー、それええな。なあ?みんなどや?」
「Flow bloom ……うん。いいねっ」
「何だか希望が湧く感じですね」
「決りだね!Flow bloom 、私達の新しい名前!」
私達は天を覆うソメイヨシノを見上げた。
「せーのっ!Flow bloom !」私達は心を一つにして産声を上げた――。
END
「そんなに笑わないでよ、灯。必死だったんだから」
翌日、灯に昨日の事を話したら、予想通りのリアクションだった。
「あ~可笑しい。あはは。でもさ、その三人バンドやってたんだ。美里も小さい頃からピアノしてたから気が合うんじゃないの?」
「あの時はそれ所じゃなかったよ」
「まあ、分かるけどね。でも、十年越しに壁を越えられて良かったんじゃない。親友としては一安心かな。……そっか、バンドしてるんだ。ふ~ん」
上目遣いに天井を見詰め、何か思い詰めた表情で考え込んでいる。
「灯、どうかした?」
「あ、いや、いや、何でもないよ。うん」
『……何でもない。違うな。こんな表情を見せる時は、何かを企てているんだけどな』
私の予想は、昼休みになって的中している事が証明されたが、その中身は全く予想外の事だった。
午前中の授業終了のチャイムと同時に、私は灯に手を引かれる様に中庭へ連れて行かれた。
「美里、あそこに座ろっ」指差す先にはあの事件の起きたテーブルとイスがある。
「ちょっと、灯。あの席は止めとこうよ」
「大丈夫、大丈夫。って言うか、今日はここじゃないとダメなんだよね」
「ここじゃなきゃダメって……どういう訳?」
私の質問には答えずに、イスを引き私の肩を押して無理矢理座らせると、自分は対面の席に腰を下ろし何やらニヤついた笑みを浮かべている。
「そろそろ来るかな……」腕時計を見ながら呟く。
「灯、誰が来るっていうの?」相変わらず質問に答える素振りを見せない灯の視線が、私の背後に注がれる。
『後ろに何が……えっ』後ろを振り返り、私は思わず声を上げた。
私の後ろには例の三人が立っていた。
「昨日はホンマ、すまなかった。真鍋……」昨日同様低音だけど、気の所為か言葉に刺々しい響きは無かった。
「あ、あ、こちらこそ。すみませんでしたっ」立ち上り、慌てて何度も頭を下げた。
そんな私の様子を、灯はニヤニヤしながら見詰め続ける。
「美里、曉さん達は昨日の事を謝りたいんだって」
「美里ちゃん、昨日は謝りもせず帰ってごめんね」
「改めて謝るわ。ごめんなさい」
澄香さんに続き、怜音さんも深々と頭を下げた。
「皆さん、態々そんな謝らなくても……私こそ、お礼を言わないと。ありがとうございましたっ」
「お礼?何でなん?」
「私達、何もしてないし」
「一体何でしょう?」
「すごい!美里が普通に『ありがとう』言ってる」
話が分からず、不思議がる三人に、灯が私の子供の頃からのトラウマを話すと、三人は心配気に私を見返した。
「美里ちゃんにそんな事があったんだ……」
「色々……ごめんね」
「……真鍋、しんどかったやろに。ウチは最低や」
「そんな……行き違いでそうなっただけです。皆さんがそこまで気にするなんてダメです。私こそ感謝してるって言ったじゃないですか」
「パンッ!」両掌を叩く音が俯き加減の四人の頭上に響いた。
「はいっ!そこまで!」
私達四人の様子を見ていた灯が私達を見渡す。
「これでお互いの蟠りも解けたね。じゃあ、本題を話そっか」
「本題?」
まだ何かあるのだろうか……私の瞳に不安の色を見取った灯が、こちらを見てニコリと微笑む。……何か企んでいる……ね。
「あのさ、美里。曉さん達が美里にキーボードでバンドに加わって欲しいんだって」
そんなの無理だよ。何年も趣味で弾くだけで、レッスンも受けてないし。足を引っ張るだけだよ。
「灯、曉さん、私ちゃんと練習してないし、迷惑掛けるだけだ……」
「真鍋、大丈夫や。勿論、これから練習はせなアカンけど、一緒にせぇへん?」
「本当に無理だよ。私、そんなに弾けないし」
「大丈夫やって!あんだけ出来れば」
「あれだけって?」
「先週の水曜、放課後に音楽室で弾いてたやろ?山野井から聞いてん。弾いてたの真鍋やって」
「音楽、もうしたくないん?」
そんな事はないけど。
「……練習とか活動って忙しいよね?」
「目標はガールズバンドの全国大会本選出場やからな。あ、でも無理はせんでええよ。真鍋が出来る範囲でええから」
そんな事言われても……目標があるのに私だけ手を抜くなんて出来ないよ。
「私だけそんな風には……出来ないかな」
「……無理……か」
「そうじゃないけど……」
十年越しのトラウマを克服する切っ掛けを作ってくれた三人の力になりたい。それに何かに打ち込む私をママもきっと応援してくれる――そんな気がするから。ただそれに打ち込むと……。チラリと灯を見ると目が合った。
『バンド活動したら灯と一緒に過ごす時間とかどうなるんだろ…』
気を揉む私に、灯は右手を突き出し親指を立てた。
「美里、心配しないで。私も加わるんだから」
「えっ?灯、楽器やってたっけ?」
今度は腰に手を当て仁王立ちに答えた。
「私はね――バンドのマネージャーになるの!」
「ええぇぇっ?!」
灯の予期せぬ爆弾発言に、曉以外の三人が驚いた。
「そういう事やから……灯も一緒やし、真鍋、いや美里……この通りっ!頼むわ」
額が膝に着かんばかりに、腰から体を二つ折りにして頭を下げられた。
「せやから、頼むわ。美里」灯が違和感たっぷりの言葉使いで意地の悪い笑みを浮かべた。
私は数瞹の間、目を閉じ小さく息を吐き――そして決めた。
「うん……分かった。どれだけ出来るか分からないけど、私やるよ。決めた」
「ホンマに?あ、ありがとおぉぉ~。美里ぉ」
「美里ちゃん、頑張ろうねっ」
「よろしくお願いしますわ」
「はいっ!お願いします。あ、あのバンドの楽器担当はどんな感じですか?」
「よしっ!じゃあ美里がメンバーになった所で自己紹介しとこっか」灯が再び掌をパンッと打った。
「じゃあウチから。上門曉、ヴォーカルとギターしてる」
心無しか声の音程は高い。
「安西澄香、ドラム叩いてます。よろしくね」
百五十センチあるかどうかの小さい体でドラム叩くんだ……意外。
「笹井怜音です。ベース担当ですわ。よろしくお願いします」
何か落ち着いた雰囲気で、ベースよりバイオリンが似合いそう。
「ほら、美里も」そう灯に押されて、肺一杯に息を吸い込むとスッと体の力が抜けた。
「キーボードをさせて頂きます。真鍋美里です。足を引っ張らない様に頑張ります」
「そして、マネージャーの山野井灯!よろしく!」
……灯、あなたは、いいって。と言っても今こうして三人と出会えたのは灯のお陰か。
そう思った時、私は礑と気付いた。
「ところで、バンドの名前は何?」
「うーん、それがなぁ……なぁ?」
「そうなんだよね」
「どうしたの?」何か変だな。
「あのね、メンバーが揃ってから決めようって約束なのよ」怜音さんが微笑みながら教えてくれた。
「そうなんだ。でも何て付けるの」
「……う~ん」腕を組んで曉が唸る。
「いざとなると、ね」顎に手を添えて澄香が小首を傾げた。
「大事な事だけに迷いますよね」胸に手を当て上を見上げ、礼音が溜息混じりに呟く。
その時「夢見る少女達よ!迷う事なかれっ!」灯が仁王立ちで私達を見渡した。
灯、段々壊れていってる気がするよ。
「マネージャー、何かいい名前あるん?」
曉の問い掛けに、灯が右手を突き上げ天を差す。私達はその先を追った。そこには頭上を覆うソメイヨシノの満開の花が開いていた。
「つまり、桜とかチェリー何たら……か?」曉が言葉を濁す。
「花が咲く、とか。どうでしょう。英訳してみましょうか…Flowers bloom だって」スマホの翻訳検索画面を怜音が見詰める。
「何か、ちょい長くないかな」澄香が怜音のスマホを除き込む。
「省略してみたらぁ」灯がドヤ顔で提案した。
「Flowers bloom を縮めてFlow bloom (フラウブルーム)……とか」思わず呟く。
「あー、それええな。なあ?みんなどや?」
「Flow bloom ……うん。いいねっ」
「何だか希望が湧く感じですね」
「決りだね!Flow bloom 、私達の新しい名前!」
私達は天を覆うソメイヨシノを見上げた。
「せーのっ!Flow bloom !」私達は心を一つにして産声を上げた――。
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