転生したら、現代日本だった話

千葉みきを

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9.元の世界

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その晩、染谷と康介は大学時代の行きつけの酒場で時子に関する具体的な話をする事になった。開店と同時に入ると、他にも3、4組開店待ちをしている者がいた。最初に生ビールを頼み、康介はレモンサワー、染谷は梅酒をロックで頼んだ。くだらない思い出話を一通りして、だいぶ酔いも回ってきた頃、康介がこう切り出した。

「それで、時子ちゃんが富寿神宝を持っていた件だが」

「これだ」

染谷は、時子から預かっていた富寿神宝をカバンから取り出し、康介に見せた。
康介は、頭を左手でぼりぼりとかきむしりそれをまじまじと見つめた。

「すごい。複製じゃない可能性が高い。長野県で発掘された物と形は似ているが若干いびつさもある」

「ただ、俺は一つ気になっていることがあるんだ」

「なんだ?」

「教科書通りに行くと、平安時代は古銭を含むいわゆるお金が殆んど流通していなかったことだ」

「それもそうだな、確か平安時代といえば、絹や米などの物々交換が主流だったとか」

「時子ちゃんを疑っているわけではないが、なぜ彼女は庶民にも関わらず古銭を持っているのかだ」

「仮に時子ちゃんが本当に平安時代から来た人間だとして、それを証明する方法は無いんじゃないか」

「遺伝子検査でも受けて貰うしか無さそうだな」

染谷は、厄介事に巻き込まれたなあというような、渋い顔をして、腕組をする。
そして、少しの間を置いた後、康介がこう言う。

「遺伝子検査というのは、あまり賢明な判断では無いような気がするな。仮に彼女にそれを受けて貰ったとして、真実が明らかになれば、たちまち大事になるだろう。それは、彼女にとっても良いことじゃないと思うんだ」

「俺もそう思うんだ」

染谷は、梅酒の入ったグラスを見つめ、傾け口に少しだけ放り込む。酸味の効いた甘い風味が口いっぱいに広がる。それを飲み込むと、こう言う。

「しかし、気になることは気になるが、時子ちゃんが何者であるかは、正直俺はどうでもいい。それより、時子ちゃんが、元いた場所に無事に帰れる方法を一緒に探してあげたいんだ」

「一平から聞いた話だと、確か、洞窟の中で寝てしまったら気が付いたら現世だったとかだったな」

染谷は、首を縦に振る。

「だとしたら、もう一度その洞窟の中で寝れば、元の世に戻れるんじゃないか?」

「そんな単純な話じゃないんだよ。そもそも、その洞窟とやらが、一昨日から再開発で封鎖されてて、もう入れないんだよ」

「そうなると、時子ちゃんは永遠にこっちの人か」

康介はそう言うと一気に残りのレモンサワーを飲み干した。

「なんとか元の世界に戻れる方法がない物だろうか」
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