13 / 15
13.漫画
しおりを挟む
染谷の自宅兼事務所はマロウドから歩いて10分ほどのところにあった。綺麗な新築マンションの303号室。売れない漫画家時代は自宅で描いて出版社に郵送していたが、ある日、作品が売れてアニメ化が決定した。当然のごとく、収入が滝の如く入ってくるようになり、実家にいる必要もなくなった染谷は、早速新築のマンションを買い、そこを自宅兼事務所にするようになった。
アシスタントの導入も出版社から提案があったが、自宅に誰かを常駐させるのも嫌であった為、染谷はこれを拒否していた。
その為、自宅に誰かを呼ぶのは久しぶりであった。
「ここが、染谷さんの家か。要塞のような場所であるな」
時子が染谷の自宅を見た最初の一言であった。
部屋に入ると、様々なものが整然と置かれており、部屋の窓際にはポツンと机が置かれていた。その机の両端には様々な絵が描かれた紙がどっさりと置かれていた。そして、光る板が、二つ中央に置かれている。
「この光る板はどうやって使うのだ?」
「こっちはパソコン。そしてこっちは液タブ。どちらも漫画を描くのに使っているよ」
「直接紙に描くものではないのか」
「最近では、液晶化が進んで、漫画を紙で描いてる人は少ないと思うよ」
「よくわからないが、これを使って描くのだな」
時子は液タブを興味深そうに覗き込む。
「で、出来上がった漫画はこれ。時子ちゃんに一冊あげよう」
「いいのか」
時子は、染谷から漫画を奪うようにして受け取る。時子にあげた漫画はつい最近書籍化された「運命の交差点」という青春物だった。
時子は、その場で貪るようにして読み始めた。
「わからない言葉や表現があったら教えて」
結局、時子はその場で座り込み、1時間ほどで一巻を読み終えた。
「絵が生きているようだ。漫画とはこんなに面白いのか。これ、続きはあるのか?」
「もちろんあるよ。これが第二巻」
「それも私にくれないか?」
「いいけど、続きはマロウドで読みなよ。遅くなると市江さんも心配するから」
時子が「私」という言葉を使っているのは、初めて見た気がする。現代の言葉に慣れてきている証拠だろうか。その一方で、元の世界に帰った時に元の言語で話せるかどうか心配になった。しかし、考えてみれば、元は同じ日本語である。関西弁と標準語のような物である。きっと心配御無用だろう。
時子をマロウドまで送る途中、時子がこんな質問をしてきた。
「染谷さんは、なんで漫画家になろうと思ったの?」
「俺は、幼いころから絵を描くのが好きでね。物を学ぶ学校という場所があるのだけれど、学校に行っても勉強なんかせず、漫画ばかり描いてたよ。17になる頃には本を出す出版社の人から出版化しないかお誘いがかかった。現代には、小学校、中学校、高校、大学ってそれぞれ難易度別に学校があって、高校から大学に上がる為には試験があるんだけれどもね、俺はこのまま漫画家になって飯を食おうと思ってたから、大学に行くつもりは無かったのさ。けれど、勉強してないわりに学校の成績だけよかったから親や学校で人を教える先生が大学だけは行ったほうがいいと言うから受けたのさ。けれど・・・。」
「要するに、その大学とやらに行くようになっても、漫画をずっと描き続けていたのか」
染谷が左手で頭の後頭部を撫でながらあははと笑う。
「時子ちゃん勘が鋭いね。その通り。大学は必要最低限だけ通って、殆んど漫画を書く時間に費やしてたんだよ」
時子が着ている、市江さんからプレゼントされたであろう白いTシャツにはこう書かれていた。
“If you only draw manga, you won’t be popular with woman.(漫画ばかり描いていたら、女にモテないぞ)”
アシスタントの導入も出版社から提案があったが、自宅に誰かを常駐させるのも嫌であった為、染谷はこれを拒否していた。
その為、自宅に誰かを呼ぶのは久しぶりであった。
「ここが、染谷さんの家か。要塞のような場所であるな」
時子が染谷の自宅を見た最初の一言であった。
部屋に入ると、様々なものが整然と置かれており、部屋の窓際にはポツンと机が置かれていた。その机の両端には様々な絵が描かれた紙がどっさりと置かれていた。そして、光る板が、二つ中央に置かれている。
「この光る板はどうやって使うのだ?」
「こっちはパソコン。そしてこっちは液タブ。どちらも漫画を描くのに使っているよ」
「直接紙に描くものではないのか」
「最近では、液晶化が進んで、漫画を紙で描いてる人は少ないと思うよ」
「よくわからないが、これを使って描くのだな」
時子は液タブを興味深そうに覗き込む。
「で、出来上がった漫画はこれ。時子ちゃんに一冊あげよう」
「いいのか」
時子は、染谷から漫画を奪うようにして受け取る。時子にあげた漫画はつい最近書籍化された「運命の交差点」という青春物だった。
時子は、その場で貪るようにして読み始めた。
「わからない言葉や表現があったら教えて」
結局、時子はその場で座り込み、1時間ほどで一巻を読み終えた。
「絵が生きているようだ。漫画とはこんなに面白いのか。これ、続きはあるのか?」
「もちろんあるよ。これが第二巻」
「それも私にくれないか?」
「いいけど、続きはマロウドで読みなよ。遅くなると市江さんも心配するから」
時子が「私」という言葉を使っているのは、初めて見た気がする。現代の言葉に慣れてきている証拠だろうか。その一方で、元の世界に帰った時に元の言語で話せるかどうか心配になった。しかし、考えてみれば、元は同じ日本語である。関西弁と標準語のような物である。きっと心配御無用だろう。
時子をマロウドまで送る途中、時子がこんな質問をしてきた。
「染谷さんは、なんで漫画家になろうと思ったの?」
「俺は、幼いころから絵を描くのが好きでね。物を学ぶ学校という場所があるのだけれど、学校に行っても勉強なんかせず、漫画ばかり描いてたよ。17になる頃には本を出す出版社の人から出版化しないかお誘いがかかった。現代には、小学校、中学校、高校、大学ってそれぞれ難易度別に学校があって、高校から大学に上がる為には試験があるんだけれどもね、俺はこのまま漫画家になって飯を食おうと思ってたから、大学に行くつもりは無かったのさ。けれど、勉強してないわりに学校の成績だけよかったから親や学校で人を教える先生が大学だけは行ったほうがいいと言うから受けたのさ。けれど・・・。」
「要するに、その大学とやらに行くようになっても、漫画をずっと描き続けていたのか」
染谷が左手で頭の後頭部を撫でながらあははと笑う。
「時子ちゃん勘が鋭いね。その通り。大学は必要最低限だけ通って、殆んど漫画を書く時間に費やしてたんだよ」
時子が着ている、市江さんからプレゼントされたであろう白いTシャツにはこう書かれていた。
“If you only draw manga, you won’t be popular with woman.(漫画ばかり描いていたら、女にモテないぞ)”
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる