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神埼愁は54歳。頭は剥げていてお世辞でも見た目はそんなに良くはない。五年前にリストラされてその時に家族に見放され妻とは離婚してしまった。その時に三人の子供とも離れ離れになってしまった。
家族に見放された事にショックを受けた愁は仕事を探す気力が無くなり今は浮浪者生活をしている。ようやく今の生活にも慣れてきたところだ。今では新宿中央公園のトイレの側にビニールシートとダンボールでできたテントに暮らしている。
今日もいつものように昼食を探しにコンビニの店舗の裏にあるゴミ置き場を漁りに来ていた。これが愁の毎日の日課だ。運がよければ廃棄された弁当やおにぎりをゲットできる。
愁はそのゴミ漁りをしていたときに空間が裂けて白い光に襲われた。それからの記憶は愁に無い。
「なんだ、コレ…」
愁の前に、いや全周に広がっていたのは、何もない真っ白な空間であった。理解不能の状況に愁がフリーズしていると、後ろから声がかけられた。
「神崎愁さん、ですね?」
愁が驚いて振り向くと、そこには二十歳台半ばの金髪碧眼、女性理想な「いい女」を具現化すればこんな感じになるのかな、というような女性が、ローマ時代の貴族が着ていそうな白い衣服を身に纏い優しく微笑んでいた。
愁は夢ではないかと頬をつねろうとしたが腕が無いことに気付いた。腕どころか足も体も存在しなかった。意識だけがこの場にあるような感じだ。
「ここはどこですか? どうして俺に体が無いのでしょうか?」
「ここはあの世と現実世界の狭間です。愁さん。あなたは私のミスで跡形も無く亡くなってしまったのです。あなたの体が無いのは精神体だけがここにまねかれているからです」
金髪碧眼の美しい女性は愁に頭を下げて命を奪ってしまったことを謝った。そして女性は自分自身のことをこの世界を管理する女神ティラミスだと名乗った。
「どうして俺は死ぬことになったんでしょう?」
女神は申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「ことの始まりは地球とは別の次元にある私の管轄する世界に邪神が現れたことが原因です。邪神はその世界に魔王を召喚して世界を滅ぼそうとたくらみました。
私は魔王への対抗措置として勇者を生み出し魔王を討伐することに成功したのですが、それを面白く思っていない邪神が直接世界に手をかけようとしたのです。
私はそれを止めるために邪心と直接戦いました。邪神に止めをさすために放った攻撃があまりにも威力があったために空間に歪がうまれて地球にいた貴方を跡形も無く消し飛ばしてしまったのです。
すみません。本当にすみません! こんな失敗、ここ数千年はしていなかったんですが…」
女神の話を聞いて愁は突然死んだことを理不尽だと思ったがすぐに自分の境遇が仕事を持たない浮浪者だったことを思い出し死んでよかったのではないかと思った。
そして、本当に悪いと思っているらしく頭を下げて真摯に謝罪するその女神に、愁は仕方ないなぁ、というような苦笑を浮かべた。
「いや、まぁ、いいですよ。いや、良くはないけど、仕方ないんですよね? 女神様が世界を護るためにやって下さっている仕事でたまたまちょっとミスしたってだけで。まぁ、私の運が悪かった、ってだけで……」
痛くも苦しくもなかったし、人間いつかは死ぬんだし、と言って軽く笑う愁に、女神は辛そうな顔をした。
「そう言って戴けますと…。しかし、管理者として何らかの救済措置を取るべきなのは明らかです。幸い意識体と魂の保護に成功しましたので、肉体を再構成して新たな人生を歩んで戴く、ということが可能です」
「え、生き返れるの? じゃあ、また地球で生活できるのですか?」
驚いて訊ねるが、女神は残念そうに首を横に振った。
「すみません。既にあなたの肉体は死亡判定されて処理されています。この世界はかなり調整が上手く行っていまして、無理に私の力による因果干渉を行うと、バランスを崩して大きな歪みが多発する可能性がありまして……」
ああ、もう愁の居場所はなく、無理に割り込むとみんなに迷惑がかかるというわけだ。
「で、お勧めしますのが、他の世界での新たな人生です! まだ調整が進んでいない世界なら、多少無理な力が加わっても大して変わりませんからね。
幸い、そういう未調整の世界の中に、地球によく似た世界がありまして…。おそらく同じ世界がどこかで分岐したか、かなりの過去に大規模な干渉事故で互いの動植物が大量に、それこそ大陸単位での混合があったのではないかと思いますが、人間を始めとして動植物の大半が似通っています。
文明は地球よりかなり遅れており、西欧のローマ時代程度のものではありますが、人間としておおらかに生きられる世界です!」
なんとか愁を異世界に行かせたいらしく、女神、必死である。まぁ、他に良い方法が無い以上、何とか償いをするためにはこれで愁に満足して貰うしかないので当然であろうが…。愁もそれが分かるので、仕方なく頷いた。
「分かりました。他にいい案も無いようですし、じゃ、それでお願いします」
「おお、ありがとうございます! では、すぐに準備を…」
「あ、ちょっと待って下さい!」
愁は安堵と共に急いで準備を始めようとした女神様を制止した。
「文明の遅れた世界って、危険がたくさんありますよね? 怪我とか病気とか犯罪とか戦争とか…。何も知らない俺がひとりで放り出されて、まともに生きて行けそうな気が全然しないんですけど! 良くて奴隷になったり、悪けりゃ行ったその日に即死亡したり、ですよねぇ…」
「………」
女神様、つうっとこめかみから頬へと汗が流れる。汗を流すような肉体構造とは思えないから、恐らく心理描写のためわざとであろう。芸が細かい。
「そこで、チート能力と慰謝料と新しい俺の体には直ぐに死なないような丈夫で若い体を要求します!!」
愁は神様にびしぃっと人差し指を突きつけた。
「ち、チート能力に慰謝料それと夫丈で若い体、ですか?」
女神様はよく分からないのかポカンとしている。
「はい、チート能力です! 右も左も分からない非力な俺がひとりで生きていくには、何か飛び抜けた才能が必要でしょう? それにお金がないと飢え死にすることがあるかもしれませんよね。あ、それと、向こうの言葉や文字も分かるようにして貰わないと」
「あ、あ~、よく分からないですけど、了解しました。身体の再構成や能力付与等は向こうの世界の管理者の権限なので、向こうの管理者に私からお願いしておきますので、詳細はそちらで相談して下さい」
「よろしくお願いします」
「では、あなたが新たに過ごす世界の管理者のもとへおくります」
女神ティラミスがそう言うと目の前が白く輝き意識を失った。気がつくと、白い場所に居た。いやまぁ、2回目ともなれば慣れますけどね。バッと後ろを振り向くと、驚いた顔をして固まった15~16歳くらいの金髪碧眼の美少女の姿があった。
「この世界の管理者の女神様でしょうか?」
尋ねると、ようやく固まりが解けた女神様らしき少女が嬉しそうに答えた。
「はいっ、そうです、私が管理者をやっておりますミネルバと申します! ようこそアウラ! 歓迎致しますっ!!」
なんか、テンション高いなぁ。厄介者を押しつけられて迷惑なんじゃないかと思うんだけど…。
「あの、地球を管理している神様からお話があったかと思うのですが、この度、色々とお世話になることになりまして…」
未来がかかっているから、下手に…、って、相手は女神様なんだから下手に出るに決まってるっての!
「はいはいはいはい、伺ってますよぉ、勿論!」
愁はテンションの高い女神を無視して転生に必要な要求の確認をすることにした。
「とりあえず、ここに送った女神様と約束したのが、チートと慰謝料、会話と読み書き、直ぐに死ぬ事が無い若い身体、がほしいんですけど、大丈夫ですか?」
「あなたの要求はティラミスから聞いています。あなたが気を失っていた10日間の間に新しい体を用意いたしました。これが直ぐに死ぬことの無い若い身体です」
そう言い女神が腕を一振りすると目の前に金色の髪の毛で西洋風の整った顔をして目を閉じている身体が目の前で横たわっている。見た目は15、6歳くらいだろう。
「あ、有難う御座います」
見た目が良さそうな顔なので愁は少しだけ驚いた。その身体には元の貧相な顔立ちの欠片も存在していなかった。次に女神はチートについて説明を続けた。
「こういう事例は初めてですしチートというものは分からないので私の持つ権能全知全能をスキルまで劣化させたものをこの体に付与しておきました。この身体とスキル全知全能があれば簡単に死ぬことはないし地上に降りてもめったに困ることは無いでしょう」
愁は全知全能という言葉に恐縮する。スキルの名前から全知全能というスキルがとんでもないスキルだということは何となく分かる気がする。
「全知全能なんて神様が持つようなスキルを俺が貰っても平気なのか?」
愁の質問に女神は美しい顔で微笑む。
「さっきも言いましたが、このようなことに前例がありません。あなたに特別な力を与えるということは地上であなたが自由に動き回ると厄介ごとの種になりかねない。そこで悪いことが出来ないようにあなたには私の使徒になってもらいます。そうすることであなたはスキルを悪用することができなくなります」
愁は使徒という存在になるらしい。何か制約的なものがあるのか心配になった。
「使徒とはどういう役割をする者のことなんですか?」
「今まで私は使徒という者を活用してきませんでした。それくらい今管理している世界に干渉をしてきたことはありません。まあ、神託くらいは何度かしたことはありますけどね。なので、これといってあなたに何か特別にやってもらいたいことはありません。ただたまに私のお願い事をきいてもらうだけでいいです。今回は様子見としてフランシア王国の王太子を助けてもらいたいです」
「王太子を手助けするだけで良いのですか?」
「はいそうです。王太子の国王への即位を手助けするだけで良いですよ。貴方の力を用いれば貴方だけで十分に成果を出すことは可能ですがそれでは王太子に味方する貴族達の理解が得られなくなるので手助けだけで結構です。決して貴方だけで解決しようとは思わないで下さいね」
愁は面倒なことに巻き込まれなければいいなーと思いつつ新たに過ごす世界に胸を躍らせた。
「分かりました。その依頼を受けます。あと、慰謝料の件はどうなりましたか?」
「慰謝料は【亜空間倉庫】に10億S入れてあります。日本円にして10億円と同じだけの価値があるのでしばらく遊んで暮らせるでしょう」
「10億円あれば十分です。それだけあれば女神様の依頼に集中できます」
「それはありがたいことです。では、さっそくあなたを地上に送ります。地上についたら翌日にフランシア王国とゲルマニア帝国との国境を目指して下さい。貴方と王太子の因果律をこちらで弄っておきます。直ぐに出会うことができるでしょう」
「分かりました。早速地上に送って下さい」
女神が輝きだしと目の前が真っ白に輝き次の瞬間に愁は新しい身体ごと白い空間から消えていた。
家族に見放された事にショックを受けた愁は仕事を探す気力が無くなり今は浮浪者生活をしている。ようやく今の生活にも慣れてきたところだ。今では新宿中央公園のトイレの側にビニールシートとダンボールでできたテントに暮らしている。
今日もいつものように昼食を探しにコンビニの店舗の裏にあるゴミ置き場を漁りに来ていた。これが愁の毎日の日課だ。運がよければ廃棄された弁当やおにぎりをゲットできる。
愁はそのゴミ漁りをしていたときに空間が裂けて白い光に襲われた。それからの記憶は愁に無い。
「なんだ、コレ…」
愁の前に、いや全周に広がっていたのは、何もない真っ白な空間であった。理解不能の状況に愁がフリーズしていると、後ろから声がかけられた。
「神崎愁さん、ですね?」
愁が驚いて振り向くと、そこには二十歳台半ばの金髪碧眼、女性理想な「いい女」を具現化すればこんな感じになるのかな、というような女性が、ローマ時代の貴族が着ていそうな白い衣服を身に纏い優しく微笑んでいた。
愁は夢ではないかと頬をつねろうとしたが腕が無いことに気付いた。腕どころか足も体も存在しなかった。意識だけがこの場にあるような感じだ。
「ここはどこですか? どうして俺に体が無いのでしょうか?」
「ここはあの世と現実世界の狭間です。愁さん。あなたは私のミスで跡形も無く亡くなってしまったのです。あなたの体が無いのは精神体だけがここにまねかれているからです」
金髪碧眼の美しい女性は愁に頭を下げて命を奪ってしまったことを謝った。そして女性は自分自身のことをこの世界を管理する女神ティラミスだと名乗った。
「どうして俺は死ぬことになったんでしょう?」
女神は申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「ことの始まりは地球とは別の次元にある私の管轄する世界に邪神が現れたことが原因です。邪神はその世界に魔王を召喚して世界を滅ぼそうとたくらみました。
私は魔王への対抗措置として勇者を生み出し魔王を討伐することに成功したのですが、それを面白く思っていない邪神が直接世界に手をかけようとしたのです。
私はそれを止めるために邪心と直接戦いました。邪神に止めをさすために放った攻撃があまりにも威力があったために空間に歪がうまれて地球にいた貴方を跡形も無く消し飛ばしてしまったのです。
すみません。本当にすみません! こんな失敗、ここ数千年はしていなかったんですが…」
女神の話を聞いて愁は突然死んだことを理不尽だと思ったがすぐに自分の境遇が仕事を持たない浮浪者だったことを思い出し死んでよかったのではないかと思った。
そして、本当に悪いと思っているらしく頭を下げて真摯に謝罪するその女神に、愁は仕方ないなぁ、というような苦笑を浮かべた。
「いや、まぁ、いいですよ。いや、良くはないけど、仕方ないんですよね? 女神様が世界を護るためにやって下さっている仕事でたまたまちょっとミスしたってだけで。まぁ、私の運が悪かった、ってだけで……」
痛くも苦しくもなかったし、人間いつかは死ぬんだし、と言って軽く笑う愁に、女神は辛そうな顔をした。
「そう言って戴けますと…。しかし、管理者として何らかの救済措置を取るべきなのは明らかです。幸い意識体と魂の保護に成功しましたので、肉体を再構成して新たな人生を歩んで戴く、ということが可能です」
「え、生き返れるの? じゃあ、また地球で生活できるのですか?」
驚いて訊ねるが、女神は残念そうに首を横に振った。
「すみません。既にあなたの肉体は死亡判定されて処理されています。この世界はかなり調整が上手く行っていまして、無理に私の力による因果干渉を行うと、バランスを崩して大きな歪みが多発する可能性がありまして……」
ああ、もう愁の居場所はなく、無理に割り込むとみんなに迷惑がかかるというわけだ。
「で、お勧めしますのが、他の世界での新たな人生です! まだ調整が進んでいない世界なら、多少無理な力が加わっても大して変わりませんからね。
幸い、そういう未調整の世界の中に、地球によく似た世界がありまして…。おそらく同じ世界がどこかで分岐したか、かなりの過去に大規模な干渉事故で互いの動植物が大量に、それこそ大陸単位での混合があったのではないかと思いますが、人間を始めとして動植物の大半が似通っています。
文明は地球よりかなり遅れており、西欧のローマ時代程度のものではありますが、人間としておおらかに生きられる世界です!」
なんとか愁を異世界に行かせたいらしく、女神、必死である。まぁ、他に良い方法が無い以上、何とか償いをするためにはこれで愁に満足して貰うしかないので当然であろうが…。愁もそれが分かるので、仕方なく頷いた。
「分かりました。他にいい案も無いようですし、じゃ、それでお願いします」
「おお、ありがとうございます! では、すぐに準備を…」
「あ、ちょっと待って下さい!」
愁は安堵と共に急いで準備を始めようとした女神様を制止した。
「文明の遅れた世界って、危険がたくさんありますよね? 怪我とか病気とか犯罪とか戦争とか…。何も知らない俺がひとりで放り出されて、まともに生きて行けそうな気が全然しないんですけど! 良くて奴隷になったり、悪けりゃ行ったその日に即死亡したり、ですよねぇ…」
「………」
女神様、つうっとこめかみから頬へと汗が流れる。汗を流すような肉体構造とは思えないから、恐らく心理描写のためわざとであろう。芸が細かい。
「そこで、チート能力と慰謝料と新しい俺の体には直ぐに死なないような丈夫で若い体を要求します!!」
愁は神様にびしぃっと人差し指を突きつけた。
「ち、チート能力に慰謝料それと夫丈で若い体、ですか?」
女神様はよく分からないのかポカンとしている。
「はい、チート能力です! 右も左も分からない非力な俺がひとりで生きていくには、何か飛び抜けた才能が必要でしょう? それにお金がないと飢え死にすることがあるかもしれませんよね。あ、それと、向こうの言葉や文字も分かるようにして貰わないと」
「あ、あ~、よく分からないですけど、了解しました。身体の再構成や能力付与等は向こうの世界の管理者の権限なので、向こうの管理者に私からお願いしておきますので、詳細はそちらで相談して下さい」
「よろしくお願いします」
「では、あなたが新たに過ごす世界の管理者のもとへおくります」
女神ティラミスがそう言うと目の前が白く輝き意識を失った。気がつくと、白い場所に居た。いやまぁ、2回目ともなれば慣れますけどね。バッと後ろを振り向くと、驚いた顔をして固まった15~16歳くらいの金髪碧眼の美少女の姿があった。
「この世界の管理者の女神様でしょうか?」
尋ねると、ようやく固まりが解けた女神様らしき少女が嬉しそうに答えた。
「はいっ、そうです、私が管理者をやっておりますミネルバと申します! ようこそアウラ! 歓迎致しますっ!!」
なんか、テンション高いなぁ。厄介者を押しつけられて迷惑なんじゃないかと思うんだけど…。
「あの、地球を管理している神様からお話があったかと思うのですが、この度、色々とお世話になることになりまして…」
未来がかかっているから、下手に…、って、相手は女神様なんだから下手に出るに決まってるっての!
「はいはいはいはい、伺ってますよぉ、勿論!」
愁はテンションの高い女神を無視して転生に必要な要求の確認をすることにした。
「とりあえず、ここに送った女神様と約束したのが、チートと慰謝料、会話と読み書き、直ぐに死ぬ事が無い若い身体、がほしいんですけど、大丈夫ですか?」
「あなたの要求はティラミスから聞いています。あなたが気を失っていた10日間の間に新しい体を用意いたしました。これが直ぐに死ぬことの無い若い身体です」
そう言い女神が腕を一振りすると目の前に金色の髪の毛で西洋風の整った顔をして目を閉じている身体が目の前で横たわっている。見た目は15、6歳くらいだろう。
「あ、有難う御座います」
見た目が良さそうな顔なので愁は少しだけ驚いた。その身体には元の貧相な顔立ちの欠片も存在していなかった。次に女神はチートについて説明を続けた。
「こういう事例は初めてですしチートというものは分からないので私の持つ権能全知全能をスキルまで劣化させたものをこの体に付与しておきました。この身体とスキル全知全能があれば簡単に死ぬことはないし地上に降りてもめったに困ることは無いでしょう」
愁は全知全能という言葉に恐縮する。スキルの名前から全知全能というスキルがとんでもないスキルだということは何となく分かる気がする。
「全知全能なんて神様が持つようなスキルを俺が貰っても平気なのか?」
愁の質問に女神は美しい顔で微笑む。
「さっきも言いましたが、このようなことに前例がありません。あなたに特別な力を与えるということは地上であなたが自由に動き回ると厄介ごとの種になりかねない。そこで悪いことが出来ないようにあなたには私の使徒になってもらいます。そうすることであなたはスキルを悪用することができなくなります」
愁は使徒という存在になるらしい。何か制約的なものがあるのか心配になった。
「使徒とはどういう役割をする者のことなんですか?」
「今まで私は使徒という者を活用してきませんでした。それくらい今管理している世界に干渉をしてきたことはありません。まあ、神託くらいは何度かしたことはありますけどね。なので、これといってあなたに何か特別にやってもらいたいことはありません。ただたまに私のお願い事をきいてもらうだけでいいです。今回は様子見としてフランシア王国の王太子を助けてもらいたいです」
「王太子を手助けするだけで良いのですか?」
「はいそうです。王太子の国王への即位を手助けするだけで良いですよ。貴方の力を用いれば貴方だけで十分に成果を出すことは可能ですがそれでは王太子に味方する貴族達の理解が得られなくなるので手助けだけで結構です。決して貴方だけで解決しようとは思わないで下さいね」
愁は面倒なことに巻き込まれなければいいなーと思いつつ新たに過ごす世界に胸を躍らせた。
「分かりました。その依頼を受けます。あと、慰謝料の件はどうなりましたか?」
「慰謝料は【亜空間倉庫】に10億S入れてあります。日本円にして10億円と同じだけの価値があるのでしばらく遊んで暮らせるでしょう」
「10億円あれば十分です。それだけあれば女神様の依頼に集中できます」
「それはありがたいことです。では、さっそくあなたを地上に送ります。地上についたら翌日にフランシア王国とゲルマニア帝国との国境を目指して下さい。貴方と王太子の因果律をこちらで弄っておきます。直ぐに出会うことができるでしょう」
「分かりました。早速地上に送って下さい」
女神が輝きだしと目の前が真っ白に輝き次の瞬間に愁は新しい身体ごと白い空間から消えていた。
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