(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

治療 ハロルド視点

馬車が到着するのが見えた。
この家に今日からネイオウミ嬢が住む。
俺達のうち誰かの婚約者になるために…という名の伯父の目を欺くために。
なるべく顔を合わせないようにするが2日間は一緒に過ごさなければならない…まぁその位は何とかなるだろう。
それに約束したとしても懸想される可能性は否定できないから、いざとなれば冷たくあしらえば良いと考えている。
そんな事を考えながら窓際から離れた時だった。

「ハル‼︎今すぐエントランスに来い‼︎」

エドの叫び声が聞こえる。
何事かと思い急いでエントランスに向かう。
慌ただしく使用人が動く中に親父と母さんの姿もある。

「何があったんだ？」

「ネイオウミ嬢が到着したんだけど…怪我をしていて…。」

母さんはかなり気が動転しているようで親父が宥めている。

「怪我？」

「階段から落ちたんです。」

「は？」

「彼女はネイオウミ嬢の侍女だよ。ここに来る前に侯爵家の階段から落ちた…いや正確には落とされたそうだ。」

「落とされた？」

「悪いハル。まずはこの子を動かしても大丈夫か診てくれないか？ヘンリー医師は今日に限って出かけているんだ。」

「あっ…あぁ。」

エドに言われネイオウミ嬢の容体を見る。
興味があって人体学を学んだことが活きるなんて…
額から血は出ているが傷は浅いからそれ自体は大丈夫だろうな。
脈や呼吸も正常だ。
ただ頭を打っているのが心配だが…これは目を覚ますまで様子を見るしかないな。

「傷自体は血の量に比べ酷くはない。とりえず寝かせたほうが良いな。」

「動かしても大丈夫か？」

「今は何とも…呼吸の状態から見て問題はなさそうだ。どのみち侯爵家からここまで運んできてるんだから今更だな。それよりも早く寝かせて切り傷や打ち身の手当てをしよう。一体どういう落ち方をすればこんな傷だらけになるんだ？それに…落ちたのは本当に今日なのか？」

「どういう意味だ？」

「それは後で説明する。まずは休ませよう。それからアリーだったか？何があったか隠さず説明しろ。」

「お嬢様を助けてくださるなら仰せのままに。」

そう話す間にもエドがネイオウミ嬢を連れて行く。
移動途中でダニーが顔を出す。

「騒がしいけど何かあったの？」

「ついでだからお前もついて来い。」

「えっ？まぁ良いけど…母さん顔色悪いけど大丈夫？」

「私は大丈夫よ。ただ1週間も彼女を1人にしなければ良かったとは思っているけれどね。」

〔どういう意味だ？彼女を1人にしなければ？こうなるかもしれない事を知っていたというのか？〕

「どういう…」

「ハル！」

「あぁ。今行く。」

ダニーは何があったか分からないため俺の後をついて来て、ネイオウミ嬢の手当てをする様子を見ている。

「ヘンリー医師が戻ってきたら、もう一度診てもらったほうが良いだろうな。」

「ちょっと待ってよ！ネイオウミ嬢だよね？何でこんな怪我してるの？大怪我だよね？」

ダニーが驚くのも無理はない。
どうしてこんな事になったのかは俺だって知らないから答えられない。

「それについてはこれから聞く。」

そう言い手当てを続ける。
正直に言ってこの怪我は酷すぎる。
必要以上に関わりたくないが話くらいは聞いておくか…

「一通り手当は終わった。何があったか話してもらおうか。」

立ち上がり俺はアリーを見た。