(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

奏直

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ニコラス・レナイトについて知っていること サミュエル公爵視点

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私から見たニコラス・レナイトは八方美人で優男で優柔不断で、だけど女性にはとても人気のある男だ。
亡くなってから私の姉だと聞かされたパトリシア・バーナバス伯爵令嬢も彼に想いを寄せた女性の1人だ。
パトリシア・バーナバスはその美しさと聡明さからとても有名な令嬢だった。
伯爵令嬢でなければ兄の婚約者候補になれたのに…と社交界では有名だった。
その話を聞いた俺は兄に『何故彼女を婚約者にしなかったのですか?』と聞いたことがある。
その時、兄は『彼女だけは妻にすることはない。絶対にだ。』とそう言った。
当時は理由が全く分からなかったが彼女が亡くなってから姉弟だと聞かされ漸く納得した。
そんな彼女が選んだのが妻を亡くしたニコラス・レナイトだった。
兄から詳しく聞くと2人は元々恋人同士だったが私達の父の命…つまり王命によりクリスティーン・ジェダイナ公爵令嬢と結婚した。
兄曰くこの頃のニコラス・レナイトはまだまともだったという。
クリスティーン夫人はイザベル嬢を産んで間もなく亡くなり、その後パトリシア・バーナバスと結婚した。
パトリシア夫人は…姉は結婚して5年後亡くなった。
それまで私は姉の存在を知らされていなかった。
姉は毒殺された。
恐らくジェダイナ公爵家に……
イオも殺されかけ、そのせいで幼い頃の記憶が曖昧になっているようだ。
兄はその頃からニコラス・レナイトはおかしくなったと言っている。
このことはハル達には伝えていない。
イオはもう父親のことは諦めているかもしれないが、自分の父親が既におかしくなってしまっているなんて言えない。
今夜の夜会のドレスも本当はニコラス・レナイトは何もしていない。
私達はイオに嘘を吐いたのだ。
実の父親が既にイオを愛せなくなっていることなど…私は言えなかった。
私は卑怯者だ。
いつかは真実を知り傷つくのは分かっていたのに喜ばせてしまったのだから。
ニコラス・レナイトは最初の妻を事故で亡くし、最愛の女性を毒殺されてしまった。
もし私も同じようにヴィッキーを失ってしまったら…ニコラス・レナイトが狂ってしまったことも理解できなくはない。
だが、実の娘であるイオをどこまで理解できているのか…私達に相談して来た時には僅かに分かっていたくらいだったのかもしれないな。
その位にはイオを想えていたのだろうか?
彼とイオの関係を知っている私は2人の姿を見るだけで胸が締め付けられる思いだ。
だが、彼にはもう容赦をする事はできない。
あの虚な瞳には最愛の人との子であるイオをほとんど写していないのだから。
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