(完)約束嫌いな私がしてしまった、してはいけない約束

奏直

文字の大きさ
197 / 215

次世代に繋ぐ話 ハル視点

しおりを挟む
『ジェダイナ公爵家は我が孫ヴィンセントにお与え下さいませんか?』

公爵夫人はそう言うと深々と頭を下げた。
俺はさすが公爵家の令嬢だと思った。
夫である公爵には我が子を手にかけられた恨みがある夫人は、公爵のことは伯父に言われるまでもなく既に公爵籍から消すつもりだろう。
その後、公爵は貴族籍を剥奪された上で幽閉だな。
灼熱の地にはラグデル家が幽閉されるなら、公爵は極寒の地だろうな。
あの何もない寒いだけの地で平民として幽閉され生きていく。
夫人は今ジェダイナ公爵家をいかに残すかを考えているに決まっている。
キャサリン夫人も貴族籍を剥奪され隣国に送られ、シャーロット嬢も幽閉される。
イザベル嬢はレナイト家を継ぐように言い渡されている。
つまり残るはヴィンセント・レナイトしかいない。

「いかがでしょうか?とは…夫人はどうする気だ?」

「はい。私はジェダイナ家がこの国と王家のために存在していくためならどうなっても構いません。ですがジェダイナ家を継ぐ者はジェダイナ家の血を継ぐ者に任せたいのです。それが愚かな考えだとしても…です。そうなるとヴィンセントしかいません。ヴィンセントが育つまで許されるなら後見人として見守らせて頂きたいです。既にヴィンセントの事は随分前から育てておりました。許していただけませんか?ヴィンセントは先程拐われたネイオウミ嬢を助けております。信用いただけないでしょうか?」

強か。
そう言わざるを得ない。
ジェダイナ家の血を残すため父親が誰かも分からないヴィンセント・レナイトに継がせると言う。
それだけ公爵家の血を残すことが夫人の中で重要なことなのだろう。
いや、公爵令嬢としてそう育てられてきたのだろう。
それに、ヴィンセントがネイオウミを助けた…つまり王家に連なるものを守ったという事だ…知らなかったとしてもその貢献度を評価されるべきだろう。
伯父は認めざるを得ないな。

「今回夫人が問われるべき責は公爵を止めることが出来なかったことだが、それも今回の証拠を揃えるなど評価できる点はある。後見人としてヴィンセント・ジェダイナが当主に就くまでの間の後見人であることを認めよう。ヴィンセント・ジェダイナが我が娘であるネイオウミを助けたことも認めざるを得ない理由になるな。」

娘?

「国王様。」

「ん?何だ?ハロルド。」

「ネイオウミ・レナイト嬢が娘とは一体どういう事でしょうか?」

「ハロルド、ネイオウミ・フィッツジェラルドだ。」

「つまりイオの…ネイオウミ嬢は貴方の娘になるということですか?」

「あぁ、そうだ。挨拶に来る時に事前に言えよ。」

「………………。」

挨拶に来る時…つまり俺がイオと婚約し、ゆくゆくは結婚したいと願っていることを知っているということか…

「そう睨むな。」

睨みたくもなるよ。
約束のことだってイオにまだ謝ることもできないままでいるのに、厄介な壁だ…
俺の沈む心とは別に、高位貴族のスキャンダルに会場は落ち着かない雰囲気に満たされていた。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...