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第零話[娘が欲しい]
しおりを挟む「娘が欲しい」
ヴァロン亜人国王都のとある喫茶店。その喫茶店に何故かある鍵付き、防音魔法による完全防音の個室に二人の男がいた。
身長は一メートル九十程だろうか。長く綺麗な銀髪を肩あたりで結って纏め、細められた銀の瞳でもう一人の男を睨みつけ、貴族の令嬢方が見れば縁談の誘いが雨あられと申し込まれそうな程に美麗な顔をきつく引き締めた病的な印象を受ける白い肌。装飾品は少ないが質素という印象は受けず、逆にそれが甘美な印象を受ける黒の服を違和感なく、その身に纏った細身の男。
その視線だけで低位の竜種ならば死んでしまうのではないかという程鋭い眼光を受けてなお平然としている男は……。
二メートル弱程の身長に全てが常人の二倍以上はあろうかという肉体。服の上からでも分かるほどに隆起した筋肉。そして、袖や裾の短い服装故に見えてしまう腕や脚から見えるのは、数えるのが億劫になってしまう程の傷痕。これら全てを見てなお、視線を惹く黒髪混じりの長い白髪を高等部で結った、所謂ポニーテールと言われる髪型。少しの皺と古傷だらけの威厳を感じる顔と共にある閉じられた左眼の上を走る大きな傷跡と、弱い魔獣が目を合わせれば怯えて動かなくなってしまうのではないか。それほどの印象を受ける力強い漆黒の瞳を細身の男と目線を合わせている。
「……突然呼び出したと思えば、第一声がそれか。その様なくだらん事で私を呼び出すな」
「くだらんとはなんだ。くだらんとは」
「言葉の通りだが? しかし、まあ、来てすぐに帰るというのも店に悪いからな。聞くだけ聞いてやる」
「へいへい。っと、だがまあ、要件はさっきも言った通り。娘が欲しいんだ」
「ふむ。娘が欲しい、か。何故そう思ったのか……。ああ、いい。言うな。どうせ、私と彼奴等の娘自慢を聞いて自分も欲しくなっただけなのだろう?」
「おお、よくわかってるじゃねぇか。流石、百年来の親友だぜ」
「貴様の事など理解したくはなかったがな。お前に振り回され続ければ否が応でも理解する。で? 娘が欲しくて何故私に相談したのだ?」
「そりゃあお前、あいつに相談すると面倒くさい事になるのが目に見えてるだろ」
「ふっ、それもそうだな。しかし、娘がほしい……か。貴様には生殖機能がないし、妻を迎えて産んでもらうという方法も取れぬ。そうなると、養子という事になるのだが……。どうせ貴様の事だ。容姿ならば可愛くて武の才能を持つ娘を迎えたい。などと思っているのだろう?」
「その通りだ! 流石は我が親友だな!」
「先ほども聞いたぞ、そのセリフ。……まあ、先んじて行っておくが、そんな都合の良い孤児などいるわけがない。諦めろ」
「む……」
「まあ、探すというなら別だが。……時間がかかるぞ?」
「む? 時間ならいくらでもあるぞ?」
「そうだな。しかも、資金も人脈も何もかもお前は持ち合わせている。ここまで必要な要素が揃っていてどうして悩む必要があったのか。理解出来ん」
細身の男が呆れた顔で溜息をつく。その溜息に大柄の男は少し、むっとした様子を見せたものの、何かに気が付いた様な表情を見せると、ニヤニヤとした笑みに表情を変えた。
「……なんだ。その神経を逆撫でする様な表情と視線は」
「いやー? 別に俺が相談した理由を気付いていて、相談内容の答えも知っているのに最初から教えないないで、少しずつヒントを与えて行って、俺がちゃんと分かる様にわざわざ答えを言わないでいたお前の優しさに気付いているだけだぞ?」
「……ッチ。そこに気が付くなら、娘を家族に迎える方法くらい最初から気が付いておけ。全く、執務の時間を削って来た私の苦労を返せ」
「それは正直すまんかった……」
コンコンッ
「失礼致します。ヴァロン様、時間です」
「む、もう時間か。それでは、私は帰るとするぞ。代金は払っておく」
「おお、助かる。あ、相談に乗ってくれてありがとな」
「……ふん。いい娘が見つかるといいな。精々頑張れよ。英雄フェシオン」
「おい! その呼び方やめろって言ってるだろ!?」
「ふっ、知らんな」
「あ! おい! ……ああくそ、最後の最後で反撃されちまったか。……さて、俺も帰るかねぇ。明日は早速、未来の愛娘兼弟子を探しに行くとするか!」
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