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第十五話[エルセスのトラウマと宿確保]
しおりを挟む「失礼するよ。少し、フェシオンを借りてもいいか……な?」
「おお、エルセス。やっと戻ったか」
「……フェシオン。これは一体、どういう状況何だい?」
「どういう、ってのは?」
今の状況の何がおかしいんだ? ジレンは気絶してぶっ倒れてて、俺は領主君を絞め落とそうとしてるだけだし、パルと師匠は楽しく喋りながら茶を飲み、リュースさんは領主君を諦めた目でみてるだけだろ? どこが変なんだ?
「……君が! 領主様を! 絞め落とそうとしている事についてだよ! ジレン君は気絶してるし!」
おー、エルセスが俺の事を君って呼ぶっつう事は、かなり動揺してんな? それか、ただただキレてんのか。まあ、どっちでもいいか。……んー、なんで絞め落とそうとしてるか、かー。
「んー……ムカついたから?」
「はぁ!? 君はふざけてるのかい!?」
「ふざけてないぞ?」
「このッ……!」
お? 久々にエルセスの口から、この野郎! が聞けるのか? 前にこの野郎って言われたのは確か、エルセスが古代竜と戦っているのを見ながら酒を飲んでた時だったか? こいつの口調が悪くなるのって珍しいから、ついついからかいが過ぎるんだよなぁ……。いやまあ、古代竜の件は流石にやりすぎたけどよ。
「まあまあ、落ち着け小僧。フェンも揶揄うのをやめろ。また喧嘩をして面倒ごとを増やす気か?」
「わ、わかった。やめるぞ」
「え!? シュテルフォール様!? 何故ここに!?」
「転移魔術で転移して来たからだが?」
「い、いえ、そういう事ではなく……」
流石師匠。キレてたエルセスを一瞬で正気に戻しやがった。流石俺の師匠……いや、俺の嫁さんでエルセスのトラウマだな! ……それにしても、エルセスは何時までトラウマを引きずるつもりかねぇ? そろそろ克服してもいい頃合いだと思うんだが……。
「なんじゃ、小僧。まだ私を怖がっているのか?」
「え、いや、その……」
「模擬戦でちょいと身体を二つに分けてしまっただけではないか。直ぐに傷痕一つなく治して謝っただろう?」
「い、いえ、これは僕の精神面の問題でして……シュテルフォール様を見ると、身体が二つになった時の事を思い出してしまって……」
あー、俺もそれに似たの昔なったなぁ。古代竜と戦ってる時に他の古代竜が乱入してきて、死にかけたことがあってよ。それから暫くの間、背後に誰かがいると乱入してきた古代竜に攻撃された事を思い出すことがあったな。
それと似た様な物だと考えると、そりゃあ……キツイわな。
「ふむ……。時間が解決する、というやつか」
「え、ええ、そういうことです」
「ならば、今後は小僧を刺激しない様に今まで通り過ごすとしよう。ところで小僧」
「は、はい? なんでしょうか?」
「……敬語はいらんぞ。小僧はいつも通り喋ればいいのだ。で、フェンに用があったようだが、それはいいのか?」
「あっ」
「忘れていたな? まあいいか。……あ、小僧。私もお前に伝える事があった。先に言わせてもらうぞ」
「拒否権ないじゃないで……じゃないか。まあいいけどね。それで、なんだい?」
「フェンと私が結婚したぞ」
「……おめでとう?」
「なんで疑問形なのかはわからんが、ありがとう」
えー? 今言うのか……。もうちょっと後まで言わないでおいて、驚かそうと思ったんだけどなぁ……。
「フェン、えー? 今言うのか……。みたいな顔をするな」
「え? 顔にでてたか?」
「ああ、誰でもわかるくらいには」
「ん、わかりやすい」
「うん。とても」
「珍しい物をみたわぁ~」
「まじか……」
俺、そんなに分かりやすい顔してたのか。……今思ったんだが、パルを娘に迎えてから少し変わったよな? 俺。考え込むことが多くなったり、今のもそうだが、感情が顔に出やすくなったり……あれか? 精神的な年齢が下がっ、言い方悪いな。若返ったっぽいな? ということは……パルの効果すげぇな! ……この思考も若返った影響だな。
「まあ、このことは置いといて。んで、エルセスよ。俺に用ってのはなんなんだ?」
「……ああ、そのことなんだけどね。新しく魔術を作ったのはいいんだけれど、この魔術を一番うまく使えるのがフェシオンしかいないと思ってね。その魔術の説明と習得方法を教えようと思って来たんだ」
「なるほど、じゃあ今から軽く教えてくれねぇか?」
「僕はいいけど……」
「けど?」
「フェシオン、君たちは今日の宿が無いんじゃなかったのかい? もうそろそろ日が落ちるよ?」
「あっ」
「忘れていたのかい……。よし、領主様。ちょっといいかい?」
「あら? 何かしら?」
「フェシオン達をこの館に泊めてあげられないかな?」
おお! ナイスエルセス! いやー、宿のこと完全に忘れてたわ。本当に助かったぜ、エルセス。さてさて? ここで断られると今日の宿がないんだが……どうだ?
「いいわよー」
「即答かよ!」
「ええ、即答よ。だって、最強の冒険者と肉弾戦最強の冒険者が泊まってくれるのよ? こんな機会は滅多にないだろうし、色々話を聞かせてもらえるチャンスなのだから、この機を逃すなんてもったいない事は出来ないわ! あっ、リュース。料理長に食事の量を増やすように言っておいて」
「畏まりました」
いやー、領主君には感謝してもしきれねぇな。よし、色々話してやろうじゃねぇか!
「なるほど、領主様らしい答えで納得しました。フェシオン、これで宿の問題はなくなったね」
「ああ、助かったぜ。ありがとな!」
「いいよ。それに、ここに泊まってくれた方が魔術の事を教えられるから僕にとっても都合がいいしね」
「了解。ま、それはそれで本当にありがとな」
「うむ。私からも言っておこう。感謝する」
「……ん。感謝」
「なんだか照れるね……。あっ、お礼を言うなら領主様にも言いなよ?」
「そうだな! ありがとう領主君」
「いいわよ。さっきも言ったけれど、私にとっても都合がいいのよ」
ふぅ。これで宿問題は解決したし他にやることは、エルセスが新しく作ったっていう魔術の習得と、領主君に色々話すのと、馬鹿弟子のとこに言って色々話すだけか。……だけっていうか、結構忙しくねぇか? 確実に忙しいよな? ……まあ、たまには忙しいのも、いいか。
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