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8話

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『彼女が好きなんだ。』

そうちゃんと気づくことが出来た。
気づくことが出来た。
いや、
前から、薄々そう思っていたのかもしれない。
でも、今日確信することが出来て改めて、彼女と会う時間。話す時間。。
一つ一つが、楽しかった意味が分かった。

そこからの生活は、楽しかった。
学校の帰りは、彼女と少しだけ話し、学校では、まあ特になんてことは無いけどなんかあるよりはマシだ。
この生活がずっと続くと思っていた。

あの時までは。


ー数週間後ー

俺は、その日学校を終えていつものように帰っていた。
いつものように薄暗くて、いつものように人通りが少ない。
いつものようにあの桜の木がある。

でも、一つだけ違うことがあった。

〖 彼女がいない 〗

彼女が、いつものあの桜の木の下にいなかったのだ。
こんなこと、1度もなかったのに。
彼女が居ない公園は、静寂が漂い、俺の心の中に穴が空いた。

「櫻乃さん!櫻乃美月さん!」

何度も、何度も叫んだ。
声がかれるくらいまで。でも、彼女の返事が返ってくることはなかった。

もしも、もしも、もう会うことが出来ないのなら。
今の気持ちを、彼女への気持ちを伝えたい。
この気持ちが彼女に、届いたなら。彼女は、もう一度現れてくれるのではないか。

そうならば。そうだと信じるから!

「俺は。俺は!櫻乃さんが好きです!」

俺の声は、公園中に響いた。
そして、俺のとこまで戻ってきた。
俺の思いの全ての吐き出した。
俺が今まで、彼女に伝えられなかった思い。
彼女は、あんなに俺に素直な想いを伝えてくれたのに、俺は自分の気持ちに気づくことすら出来ていなかった。
そんな自分が少し情けない。
だけど、今の自分は気持ちに気づけて、彼女にこの想いを伝えることも出来る。

そう思って、ずっと声掛け続けた。
でも、いくら見渡しても見当たらなかった。

その時だ。

「大翔…くん…?」

彼女の、櫻乃さんの優しくつつみこむような、あの声が聞こえた。

「櫻乃さん!」
「大翔くん!」

自分の声と彼女の声。
公園中に響き渡る。
薄暗い公園を、彼女の姿を見つけるため見渡す。

でも、俺には彼女の姿が見えなかった。

俺には、ではないのかもしれない。
和樹は、彼女の姿が見えなかった。今の段階で、彼女の姿が見えているのは俺だけだ。

すぐ近くに声は聞こえるのに、姿が見えない。
見つけることが出来ない。

「櫻乃さん!櫻乃さん!」
「大翔くん!」

声は聞こえるのに。なんで。
彼女の姿が見えないんだよ。怖いよ。
見えないのが、怖いよ。
会いたいよ。

櫻乃さんに。
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