俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第一章

第2話 騎士団本部

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 心の中で愚痴りながらしばらく歩くと、東門騎士団の本部に到着する。
 非常に大きな石造りの建物で、一見すると城のようにも見えるここは王都東門領域の軍事的な中心地だ。
 
 おそらくエレノアも、領主になればここで暮らすことになるのであろう。
 そうなればいよいよ俺も諸々の家事やら朝の準備やらから解放される。そう思うと、ほんの少しだけ寂しくなる……。

 門番に挨拶した俺は、城の前にある大きな門を通って中へと入る。
 一体なぜこの本部が大きな門がある城のような形をしているのかと言えば、ここが軍事的な中心地であるのと同時に、魔術的な中心地でもあるからだ。

 この王都は世界でも有数の魔鉱発生地域でもある。
 魔鉱と言うのはいわば魔力の源で、この魔鉱がなければ騎士や従者と言った魔法使い達はただのちょっと強い一般人でしかない。

 世界の軍事的地位の大部分を騎士や従者と言った魔法使いたちが担っているのは、魔法や魔術が戦力として圧倒的に強力だからであり、その強力な魔法や魔術を使うために必要な魔力は魔鉱か魔鉱の保有者と契約することでしか得られない。

 魔鉱が生産する魔力量には限りがあり、その限界量によって【小規模魔鉱】、【中規模魔鉱】、【大規模魔鉱】と呼ばれ分けられている。

 小規模魔鉱では騎士一人を養うのでやっとだが、中規模魔鉱であれば騎士五人と従者数十人を養える。
 領主と呼ばれる人たちは、大多数がこの中規模魔鉱を所持している。

 つまり領主+騎士四人+従者数十人~数百人と言う構成が、領地にとって一番の理想形と言え王都でも基本的に多くの領地がこの形式をとっている。

 そしてこの東門騎士団の本部は、中規模魔鉱ではあるもののその中では最上位の部類である。
 東門騎士団のすべての団員の魔力はほとんどすべてこの魔鉱から産出されているのだ、そりゃこれだけ厳重に守るというものだ。

 本部の中はいつものように人が大勢いる。
 中には俺の知り合いもいるが、これから地獄が待っているのに知り合いと雑談できるほどの心の余裕は俺にはない。

 あえて周りの奴らと目が合わないように気を付けながら石畳の廊下を歩いて訓練場に向かう途中、この東門領域の現領主であるフリデリック=レーナルト様にで出くわしてしまった。

 この方はエレノアの叔父にあたる人物で、エレノアが卒業するのと同時に領主の座を奪われるのが決まってしまっている可哀想なお方だ。
 別に能力が低いわけでもなく、並程度の実力と並程度の実績を誇る、並程度の人物だ。

 悪いのは運だけだろう。悲しいことに、姪が余りにも優秀過ぎたのだ。

「おはようございます」

 俺が挨拶すると、ちらりと視線をこちらに向けてくる。
 なんともまあ、ごみを見るような目線だ。昔はもう少し優しい方だった気がするが、俺がエレノアに近いこともあり、色々と思う所もあるんだろう。

「ああ、君か。今日も訓練の協力か?」

「ええ、指令が来ましたので」

「そうか、まあ頑張りなさい。君にはそれくらいしかできることは無いのだからね」

 冷たい声でそう言うと、興味を無くしたのか視線を外し執務室の方へと歩いていく。
 俺がエレノアの家に拾われた当初、俺が【不死の魔法】を使えることが分かった時には将来の騎士だなんだともてはやされたものだが、今は領主にすらこの扱いである。

 実に悲しいものだ……。
 【不死の魔法】なんて大層な名前のこの魔法は、確かに非常に強力な魔法ではあるのだろう。そもそも魔法を使える人間の絶対数が少ないこの世界で、どんな傷を受けても即座に回復する俺はまさしく無敵と言ってもいい。
 
 無敵、そう、俺は無敵なのだ。
 魔力が尽きるまでの俺を殺し切れる相手は、この世に誰一人として存在しない。
 ただ惜しむらくは、俺の魔力量が一般の騎士の半分にも満たない事と、騎士の戦闘の基本とも言える魔術がそこらの子供でも使えるレベルまでしか使えないことである。

 悲しいことに、魔法以外の才能が全くというほどになかったのだ。
 これではいくら【不死】であっても、死なないだけの役立たずでしかない。
 というかその不死能力も、何度か回復した段階で魔力が底をついてただの役立たずの人間に成り下がってしまう

 まあ端的に言えば、俺は期待外れのお荷物従者だということだ。非常に残念なことに、これはきっと生涯揺るぐことのない事実だ。

 そう考えると、さっきの領主様のゴミを見るような目にも多少の納得がいくというものだ。おそらく、始め俺の魔法を知った時は大いに期待してくれたに違いない。
 
 なんだかもうしわけなく……ならないな、うん。
 あの態度は普通に気に障る。領主でなければぶん殴っている所だ。まあ多分勝てないけど……。
 
 そんなお荷物な俺でも、重要な仕事が三つある。
 一つは今朝のように将来の領主、エレノアの面倒を見ることだ。
 朝の準備からメンタルケアまで、住み込みの俺にしかできない大事な仕事である。

 二つ目は、いまから行う訓練の”協力”だ。
 俺の不死能力を活かした俺にしかできない重要な任務である。

 ここまで言えば大体想像できるだろうが、ヒントを上げよう。
 サンドバッグの擬人化、とでも言えばいいだろうか?まあ、最後までは言わないこととする。……どうせすぐにわかるしね。

 三つ目については、まあ、うん。
 これも後でいいだろう。ヒントは肉の盾とか、身代わり人形とかそう言うあれだ。

 自分で自分の役割を見つめなおすと、だんだんと憂鬱になってきた。
 ほんと、俺ってなんなんだろうか。転職しようかな……。
 土建屋とかいいんじゃないか?最悪高い所から落ちても死なないし危険無くそこそこの給料で生きていける。天職かもしれないな。

 なんてこと考えてるうちに、いよいよ訓練場に到着した。

 鉄製の大きな扉を開け、中に入ると広々とした空間がある。
 俺の通う学校が丸ごと入るほどの大きさだ。
 何人もの従者達が今まさにここで訓練の真っ最中だ。魔法や魔術が飛び交っている。

 エレノアの家にある訓練場も相当だがここまでではない。まさに圧巻である。

 そんな大きな訓練場の入り口近くに、小さな扉がある。

 今回の目的地はそちらなのでノックをすると、ややあって扉が開く。
 目の前にはクマのような大男がたっている。腕や足は俺の倍以上に太く、背もハインツよりも更に高い。

 彼はベンノ=ダンジェルマイア。この東門領域の騎士で、第二席次だ。

 基本的に各領地に騎士は四人いて、強さに応じて第一席次から第四席次までの順位が付けられる。
 このことから、騎士になる事を『席に座る』なんて言ったりもする。

 第二席次のベンノさんは、単純に言えばこの領地で二番目に強い人物だということだ。

「悪いな、わざわざ来てもらって」

「いえ、これが僕の役割ですので」

「そうは言うが、なあ……」

 頭を掻いて申し訳なさそうにする。
 これから散々な目に合う俺を心配してくれているのか、ベンノさんは非常にバツが悪そうである。

 ベンノさんは騎士団の中でも人格者であると評判の人物だ。人格破綻者の第一席次とバランスの良いコンビを組んでいる。

「僕は大丈夫ですから、さっさと始めましょう」

 これからやる訓練の協力は、正直本当に反吐が出るほどいやで逃げ出してしまいたいが、そんな事ベンノさんに言っても仕方ない。彼だって指示に従っているだけなのだから。

 俺はそう思い、扉の先にある階段を下りていく。
 この階段は地下まで繋がっており、地下では魔法や魔術を使った小規模な訓練などが行われていることが多い。

 階段を降りると、さらに一枚鉄製の扉があるので力を込めて開ける。
 音や衝撃が漏れないようにこんな造りになっている、らしい。俺もそんなに詳しいわけではないが……。

 扉の先には上の訓練場の二十分の一もない小さな訓練場がある。

 木の床で出来た訓練場の真ん中で、一人の女の子が退屈そうに寝転がっている。

 これが今日の訓練相手か……。またずいぶんと生意気そうな顔をしているものだ。
 銀色の髪を三つ編みにして横に纏めた彼女の顔が、こちらを向く。

「お兄さんが、今日の訓練相手になってくれるっていう従者さんー?」

 甘ったるい声でそう聞いてくる。見た目や声の感じからして、14歳くらいだろうか?

「ああ、そうだよ。今日はよろしく」

「よろしくお願いしまーす」

 ずいぶんとまあ、やる気のなさそうな女の子だ。

「この子はかなりの有望株として最近市井から見いだされた子でね、魔法も使えるんだ」

 ベンノさんが俺に説明してくる。

「それはすごいですね、どんな魔法なんですか?」

「ああ、それは――」

「それは教えちゃだーめ。今から戦うんでしょう? ならフェアじゃないと、ね?」

 少女が自分の口に人差し指を立ててベンノさんをたしなめる。
 戦う、って認識でいるのか。まあそう言う風に思っていてもおかしくはないか。
 ……というかなんか、今のベンノさんの黙り方がとても不自然に見えたのは気のせいだろうか?
 
 まあいい……。それよりも今は目の前の事に集中するべきだ。

「それもそうだな。では早速、準備をしてくれ」

 そう言うとベンノさんは俺に木刀を渡してくる。

「君はこれだ。打ち込んでも大丈夫だ。怪我は……まあ木刀で出来るくらいの傷ならば問題はないだろう。」

 いや、結構痛いよ木刀も……。俺の方が痛いけど。
 なにせ、女の子が使う武器は木刀でもなければ刃をつぶした模造刀でもなく、正真正銘人を切れる鉄の剣だ。
 
 普通の人間ならば簡単に死んでしまう。痛みは遮断できないから、これから俺は文字通り“死ぬほど”痛い目に合うのだろう。

「真剣で人を切るなんてはじめてなんで、お手柔らかにお願いしまーす」

 気の抜けた声でそう言うと、女の子は訓練場の真ん中に立ち剣を構える。
 俺も覚悟を決めて彼女の正面に立ち、木刀を構える。

「あ、名前を言い忘れてましたね。ドロシー=ライトマイヤでーす」

「ルイス=シュスラーだ。よろしく頼む」

 俺がそう言うと、ベンノさんが俺たちの真ん中に立つ。

「では、はじめ!」

 こうして、地獄の訓練が幕を開けた。
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