俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第一章

第9話 除名宣言

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「大体理解したわ」

 カンナ様が辺りを見渡した後呟く。
 そしてそのまま、何の迷いもなくナギサの元へ走り出す。

「な……!」

 ナギサの心臓を一突きにし、体を蹴り倒す。
 事切れたのを一瞥して確認したカンナ様は、そのまま俺たちの方に向きなおす。

 到着してから、一分もたたないうちの出来事であった。

「す、すごい……」
 
 ハインツが感嘆の声を上げる。
 だが、ナギサ相手に一度殺したからと油断して言い訳が無い。

「そいつは蘇ります!」

 既にエレノアの元へ歩み寄っていたカンナ様がその一言で振り返る。

「もう遅いです!『雷よ 強く 轟き 敵を貫け』」

 ナギサがこの戦いでずっと使い続け、俺たちを何度も傷つけた雷鳴がカンナ様の胸元に迫る。
 だが、カンナ様は無表情でただ立ったままその攻撃を受け入れている。
 そしてその雷は、またしても体に届く前に搔き消えた。まるでそんな魔術最初からなかったかのように、静寂だけがこの場を包む。

「なんで……!」

 ナギサが動揺する。
 その隙を見逃さず、カンナ様は無表情でナギサに近づき再度斬りかかる。

 ハルバードで防御しようとするも間に合わず肩から腰にかけて斜めに斬りつけられ、またしてもナギサは息絶える。

「まだ死んでいないのよね?」

 復活しようとしている、倒れ込んだナギサの胸元に向かい剣を振り下ろし更なる追撃を加えようとする。

 が、その攻撃はただ地面を突き刺すだけだった。
 ナギサの体は既にそこにはなく、漆黒の悪魔がカンナ様とやや距離を取り大事そうに抱きかかえている。

「それ以上はやらせないわ」

 玄関の階段にナギサを座らせた漆黒の悪魔が、髪をかけ上げながらカンナ様に向かってそう宣言する。
 今、一体どうやってナギサを運んだんだ?漆黒の悪魔の動きなんて全く見えなかったぞ……?

「……」

 カンナ様が黙り込んで何かを考えている。
 もしかしたら、カンナ様にも今の動きが見えていなかったのかもしれない。

「怪我人三人を守りながらあなたと戦うのは、少し不利ね」

「あら、王国最強の騎士様にそんな風に思ってもらえるなんて光栄だわ」

 やはりカンナ様でも漆黒の悪魔相手に戦うのは不利なのか!
 カンナ様の魔法、【絶対防御の魔法】なら、魔術、魔法、飛び道具は全て防げるはずだが……。

「足手まといの中に次期領主様がいないなら別だけど、人質にされてしまったらどうしようもないから」

 確かに、エレノアを人質にされれば騎士として従わざる負えないだろう。

「そんな野蛮な事するとでも?」

「あなた達ほど野蛮な人たち、私は知らない」

「あら、酷い」

 くすくすと笑いながら漆黒の悪魔が答える。
 こいつらは国家的な犯罪者集団だ。目的のためならどんなことでもするだろう。
 だからこそ、俺たちはずっと戦い続けているんだから。

「で、どうするの?」

 漆黒の悪魔がまるで友人の予定を聞くかのように問いかける。

「撤退する」

 カンナ様は即座に決断する。確かに、現状そうする以外にないだろう。

「させるとでも思っているの? 足手まといを三人抱えて私から逃げられるとでも? ここまでされた以上、容赦はしないわよ」

 漆黒の悪魔がカンナ様を睨みつける。
 ナギサを何度も殺された事が相当頭に来ているのだろうか?

「三人? ああ、あれはここに置いていくわ」

 カンナ様は俺を指差しながら当然のことのように言い放つ。
 ……え?
 どういうことだ……?

「あなた達、本当に屑ね。虫唾が走るわ」

 漆黒の悪魔が心底軽蔑した目でカンナ様を見る。

「ま、待ってください……! 騎士が仲間を見捨てて帰るなんて、そんなこと騎士団は認めていません!」

 虫の息のエレノアが必死に抗議する。

「ふむ、確かにそうですね」

 カンナ様が納得した様に頷く。
 よ、よかった……!どうやら俺も助かるらしい。

「あなた、名前は?」

 ギリギリのところでまだ何とか立てている俺の元へ、カンナ様が近づいてくる。

「ルイス=シュスラーです」

「そう。今まで従者としての任務ご苦労でした」

 労ってくれている?何故、今なんだ?
嫌な予感がしてくる。

「ルイス=シュスラー、第一席次権限により現時刻をもってあなたを東門騎士団から除名することをここに宣言します。以降は騎士団に関わりのない一般人として暮らすように」

 俺の手のひらにある、魔鉱との契約を示す紋章が消えていく。
 俺と騎士団の繋がりは、完全に消えてなくなった。

「……は?」

 無機質な、なんの感情もこもっていない声で淡々と除名を告げてくる。
 全く理解できず、俺はただ呆然と立ち尽くすほかなかった。

「どういう事ですか!」

 ハインツが怒りの声を上げる。

「エレノア様のおっしゃる通り、騎士団は仲間を見捨てることを認めていない。だから彼を騎士団から除名しました」

「……腐りきってるわね」

 漆黒の悪魔が吐き捨てる。

「あなた達のような犯罪者集団を相手にするにはそれ相応の覚悟が必要なのよ」

事もなげにそう答えると、エレノアを担ぎ上げる。

「ま、待て! 私はこんな事認めない!」

 エレノアが叫ぶ。

「現時点では貴女にはなんの権限もありません。私に対する指揮権は領主様以外は保有していませんので、私への命令は不可能です」

 機械のように淡々と告げる。

「いや、いやだ! 待って! ルイス……!」

ほとんど喋る体力もないはずのエレノアが必死で抵抗する。
 それだけで、今まで仕えてきた事が間違いではなかったと心底思えてしまう自分は、間違いなくエレノアの従者として幸せだったのだと気づく。

「あなた達を逃がすとでも?」

 漆黒の悪魔が剣を抜き戦闘態勢に入る。
 
いくらカンナ様でも、片手を塞がれていては追撃を逃れきれるだろうか……。
もし追いつかれれば、全員共倒れになってしまう。エレノアを死なせることだけは、絶対にあってはならない。
 ならば、俺のやることは一つしかない。
 
 エレノアの従者だったものとして、最後のご奉公をする時が来た。
 
「俺が時間を稼ぎます。その間に出来るだけ遠くに逃げてください」

 漆黒の悪魔とカンナ様の間に立ち、剣を構える。
 カンナ様の冷めた目線が目に入る。きっと、彼女には一人でどうにかできる策があったのかもしれない。
 
それでも、意地は貫き通したい。

「だめだ! 命令する! お前も一緒に逃げろ……!」

「エレノア、俺はもうお前の従者じゃない。だから、その命令には従わない」

 俺は人生で初めて、彼女の命令に逆らう。
エレノアの顔を見れば、決意が揺らいでしまうかもしれない。だから、漆黒の悪魔の方を向く。

「そんな死にかけの体で、私を足止め出来ると思ってるの?」

 心なしか温かみのある優しい声で、漆黒の悪魔が俺に問いかける。

「命に代えて、必ずやり遂げる」

「あなたは、本当に最高ね」

 頬に手を当て、熱い視線を送ってくる。

「なら、見逃してくれないか?」

「あなたには悪いけど、それは無理ね。あなたは私のものにするの」

 恐ろしい事を言ってくる。トラウゴッドさんのように意思のない獣にされてしまうのだろうか?
 そうなれば、もうエレノアと話すことも出来ないのか……。

「エレノア、今まで君の傍に入れて幸せだった。ありがとう」

 もう一度エレノアの方を向きなおす。

「駄目だ……! お前は私のもので、ずっと私の傍にいるんだ……!」

 エレノアは泣きながら、子供のように駄々をこねる。

「大丈夫、従者じゃなくても俺は最後までエレノアのものだよ。ずっとそうだっただろ?」

 エレノアの涙を拭う。
 こんなにも泣きじゃくるエレノアを見るのは初めてかもしれない。

「ハインツ、後を頼む」

 俺は無二の親友で、一番の敵であったハインツにエレノアを託す。
 彼ならばエレノアの騎士として彼女を支えてくれるだろう。

「……わかった」

 一言だけそういって頷くと、ハインツはカンナ様の隣に立つ。あいつはまだ動けるから一緒に逃げられるのだろう。

 俺は、もう限界に近い。
 魔力が尽きたせいで傷は全く回復していない。立っているのも不思議なほどで、このままだと数刻もしないうちに死ぬだろう
 何度も死にかけて来た自分が言うのだ、間違いない。

「もういいわね?」

 カンナ様が俺に問う。
 ここまで待ってくれたのは、きっと彼女なりの情けなのだろう。

「はい、ありがとうございました」

 泣き続けるエレノアを肩に載せ無言で俺を一瞥すると、すぐに走り出していった。

 俺は漆黒の悪魔の方を見る。

「……追わないのか?」

 こちらを見つめたまま動かない漆黒の悪魔に尋ねる。

「追わないわ」

「……何故?」

 さっきまで容赦しないと言っていたはずだ。

「あなたの忠誠と勇気を無駄にしたくないもの」

 笑顔でそう答えると、こちらに歩み寄ってくる。

 俺は剣を構えて迎え撃つ準備をするが、体の支えが無くなったことで地面に向かって倒れそうになる。

「危ないわよ?」

 倒れかけた俺を、漆黒の悪魔が抱き止める。
 エレノア以外の女性に抱きしめられるなんて初めてだ。

「なんで……」

 意識が朦朧とする。もう起きている事すら難しい。

「あなたには死んでほしくないの」

 俺を胸に抱きしめながら信じられない事を言い出す。
 何を言っているんだ?
 だがもはや問いただす事すらできないほどに、俺の意識は途切れかけていた。

「大丈夫、私があなたを助けてあげる」

 最後に聞こえたのは俺を慈しむような声だった。
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