俺は貴女の不死の騎士〜【不死】の魔法を使う俺は騎士団に捨てられて(愛の重い)悪の女幹部に捕まったけど、溺愛されて楽しく暮らしてます〜

平田直人

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第二章

第5話 加速

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 着いた場所は残念ながら外ではなく寧ろその反対、地下であった。
 ちょうど俺がよくサンドバッグになっていた騎士団の地下訓練場と同じ様なサイズで、なんとなく嫌な感覚になってしまう。

 部屋の中はランプがたくさんあるのでそれなりに明るく、汚れなどもほとんどないため清潔感があった。

「割と綺麗にしてるんだな」

「そう? まあ、余り使わないから」

 クオンは余り汗臭い努力とかが似合いそうなタイプにはみえないので、使っている姿を想像できなかった。

「さ、そこに立って」

 部屋の真ん中に立つよう促される。

「目をつぶって、頭の中に時計を思い浮かべなさい」

 クオンが俺の周りを回るように歩きながら指示を出す。
 言われた通りに思い浮かべる。
 頭の中の小さな時計が秒針を刻み、ゆっくりと時が流れていく。

「その時計の針を倍速で回すようにイメージしながら、言葉に魔力を込めて【アクセル】と口に出してみて」

 そう言ったクオンが、「一、二、三……」と秒数を数えだす。
 俺はその声を聞きながら、ゆっくりと回っていた時計の針を勢い良く回していく。
 そしてそのまま、魔力を練っていく。

「【アクセル】」

 目を開けると、俺の周りを歩くクオンの速度が明らかに遅い。 
 まるでスローモーションの様にゆっくりと歩いている。
 クオンの声に耳を傾けると秒数を数えるクオンの声すらもゆっくりと聞こえ、今起きている事を理解する。

 これが、時魔法の効果なのか。
 自分の時だけが倍速で動き、周りがゆっくりと動いているように見える。

 こんな状態で戦闘をして、負けることなんてあるんだろうか?
 これなら、ハインツの攻撃にも対抗できるかもしれない。

「どう? これが時魔法よ」

 クオンも時魔法を使ったのか、話している言葉が普通に聞き取れるようになる。

「すごいな……」

 俺はただ感動する。
 
「もっと早く動けるし、逆に相手をゆっくり動くようにしたり色々応用もできるのよ」

「過去に戻れたりも出来るのか?」

 もしそうなら、やり直したいことは山ほどある。

「出来なくはないけど、信じられないほど膨大な魔力が必要ね」

「どれくらい?」

「うーん……。中央の大規模魔鉱と直接繋がって、尚且つ世界人口七割分くらいの魔力を奪い取ればもしかしたら出来るかもしれないわね」

 そんなことできるわけがない。
 まあ流石に過去に戻るのは不可能ってことか……。

「過去に戻るなんて美味しい話はないってことか」

「そういう事よ、だから後悔しないように生きなさい」

 ……後悔しないように、か。
 俺の人生は今まで後悔の連続だ。
 こうしていればもっと良くなったかもしれないと、そればかり考えてしまう。

「少なくとも、これからのルイスの人生で後悔なんてさせないわ」

「俺も……」

 俺もお前を後悔させないように頑張るよ、と言いかけてギリギリで止める。
 いつかここから逃げ出すことになれば、クオンはきっと後悔するだろう。

「……どうして途中でやめるのよ」

 クオンが不満そうな顔をする。

「噓はつきたくないからな」

「……そう」

 クオンが今どんな顔をしているのか見たくなくて、咄嗟に後ろを向く。
 ちょうど魔法の効果が切れたのか、やけに自分の身体がゆっくりと動く。

「違和感がすごいな」

「そこら辺は慣れよ。まずはその速度で戦闘が出来るように少しずつ練習して行きましょう」

 クオンも俺に合わせて魔法を切ってようだ。

「じゃあ、これから指導のほどよろしくお願いします」

 俺はそういって頭を下げる。
 教えを請うのだ、これくらいは礼儀だろう。

「ええ、引き受けたわ。これから頑張りましょうね」

 こうして俺たちに、生徒と教師と言う新しい繋がりが出来たのだった。

  *

「うん、すごく美味しいわ」

 テーブルの上に並ぶ俺の料理を食べながら、クオンが幸せそうな顔をする。
 満面の笑みで食べ続ける姿を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。
 
 訓練が終わった俺は、すぐに晩御飯を作りクオンに振舞っていた。

「口に合ったなら良かったよ」

「それもあるけど、やっぱりルイスが作ってくれたものを食べられているっていうのが一番大きいわね」

 ……これは褒めてるのか?
 俺が作ったんじゃなかったらそんなにおいしくもないとも聞こえるけど……。
 
「あ、えっともちろんそうじゃなくても美味しいわよ!」

 自分が失言をしたと思ったのか、慌てて訂正してくる。

「無理しなくていいぞ……」

 慌てたクオンがかわいらしく見えて、わざと落ち込んだ素振りをしてみる。
 
「本当に最高に美味しいのよ! 毎日だって食べたいくらいよ?」

「冗談だよ、わかってる」

 必死に俺の機嫌を取ろうとするクオンに笑いながらそう言うと、安心した様にため息をつく。

 どんだけ俺に嫌われたくないんだよ……。

「よかったわ……」

「けど、そんなに気に入ったならご飯は俺が担当しようか?」

 流石に何もせずにここに居続けるのはいたたまれない。

「うーん、私の料理をルイスに食べてもらえるのもとても幸せなの。だから交代で作るって言うのはどうかしら?」

 交代か……。
 クオンの料理を食べられなくなるのは辛いし、それもいいかもしれないな。

「ならそうしようか、俺もクオンが作った料理は好きだし」

 その一言で、クオンの表情が一気に明るくなる。

「そんな風に思っててくれたの? なら、明日は張り切って作るわね」

 そう言うと、俺の料理を黙々と食べながら云々唸っている。
 多分明日の献立を考えているんだろう。

 真剣な表情でいるクオンに話しかけるのが忍びなくて、俺も黙々と夕ご飯を食べ続けることにした。

  *

「ご馳走さま、美味しかったわ」

 夕ご飯を食べ終わったクオンがお礼を言ってくる。
 ちなみに、例によって一瞬で皿が片付いている。

 ……どう考えても魔力がもったいないよな。

「想像よりもずっと美味しかったのだけど、ルイスはいつから料理をしているの?」

「十年前位かな? エレノアの家に引き取られてから家事をするようになったな」

「エレノアって、何度も名前が出てるあなたの隣にいた女よね?」

 クオンが目を細くして訪ねてくる。
 ちなみに既に俺たちはソファの上で隣り合って座っていて、クオンとの距離はとても近い。

「そうだよ。当時はあいつの親父もすでに亡くなっていて色々大変な時期だったよ」

「そうなのね、けど十年前ってルイスはまだ子供よね? どうして家事なんてしていたの?」

 机の上に置いてある紅茶に口をつけながら聞いてくる。

「あの時は居場所を作るのに必死だったんだよ、捨てられたら野垂れ死にだし」

「子供ながらに不安だったのね、かわいそうに……」

 そう言って俺の手にそっと触れてくる。
 昔を思い出し少し冷えた俺の心が、その手の暖かさでほんの少し安らぐのを感じる。

「元々エレノアの家とは縁がある家系だったから、早々捨てられるなんてことはなかったとは思うんだけどな」

「両親がいなくなって他人の家に引き取られたんだもの、子供が不安になるのは仕方ないわよ。……家事以外には何かしていたの?」

「うーん、エレノアの面倒を見ていたな」

「……面倒?」

 クオンの声が低くなる。
 やばい、地雷を踏んだかもしれない。

「いや、朝を起こしたりとかその程度だよ」

 出来る限り刺激しないように細心の注意を払う。
 
「お風呂の面倒とかも見ていたのね」

 昨日の自分の発言が襲い掛かってくる。
 なんで俺はあんな軽率な発言をしたんだ!

「い、いやそんな事滅多にないぞ? たまたま偶然が重なって……」

「どっちが言い出した事なの?」

 どう答えてもまずい質問な気がする。
 それなら本当のことを言った方がまだましだろう……。

「エ、エレノアからかな」

「そう、あの女がじっと機会を伺ってたわけね……」

 クオンの目が更に細くなり、獲物を狩る猛獣のような顔をしている。

「……ルイスはどうして騎士になりたかったの?」

 やや間が空いて、クオンが穏やかな声で聞いてくる。
 この質問に正直に答えたら、又クオンが怖くなる気がする。

 けど、この質問にだけは嘘をつけない。
 もし嘘をつけばこれまでの自分を否定することになってしまう。

「エレノアの隣に立ちたかったからだよ。彼女を支えたかったから、俺は騎士になりたかったんだ」

「……そう。ルイスは、あの女を愛していたの?」

 クオンが俺の目をじっと見つめて聞いてくる。
 まるで、嘘は赦さないと訴えかけるような瞳だ。

 ……俺は、エレノアを愛していたんだろうか?
 確かに、ずっと傍にいたかったし今でもそうなりたいという気持ちはある。

 だがそれが恋愛感情なのかといわれると、俺にはわからない。
 ずっと忠誠の対象として見続けるために、そういったことを極力考えないようにしていた。

「……わからない」

 クオンの瞳を真っすぐ見つめて真剣に答える。

「まあ、もうあなたには関係ない事よね」

 関係ない、のだろうか?
 このままクオンと過ごし続ければ、いずれそうなってしまうだろう。

 そうでなくても騎士団から追放された俺に、エレノアとの繋がりは最早ないのかもしれない。
 それでも、俺はクオンの言葉に頷くことが出来なかった。

 俺が言葉に詰まり返事が出来ずにいると、クオンの顔が目の前まで迫ってきた。
 両手が顔を抑え、二人の唇がぶつかる。

「んっ……」

 クオンの舌が俺の口に割って入り、口の中を舐めていく。
 
 暫く俺の口内を蹂躙したクオンは、満足そうに顔を離す。

「……駄目よ? あなたは私の物。そうでしょ?」

 唾液で妖しく濡れる唇でそう言うと、俺の顔から手を離す。
 俺が黙って頷くと、クオンは満足そうな顔で立ち上がりは慣れていった。


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