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第二章
第4話 新たな力
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窓から日差しが入り込み、外からは小鳥の囀りが聞こえる。
どうやら、クオンを抱きしめながら寝るという苦行なのか褒賞なのかわからない時間を過ごした俺はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
やや痺れている左腕からは人肌の温かさと控えめな重さを感じ、右腕からは柔らかな肌の感触が伝わってくる。
俺は一晩たっても未だにクオンを抱きしめたままらしい。
目を開けると、既に目を覚ましていたクオンと目が合う。
慈しむように俺を見つめていたが、目が覚めたのがわかり微笑みかけてくる。
「おはよう」
「先に起きてたのか」
「ええ、ずっとあなたの寝顔を見ていたわ、とてもかわいかったわよ?」
悪戯っぽく笑いながらからかってくる。
その表情がとても可愛く見えて、照れてしまう。
「ほら、早く起きるぞ」
そういって抱きしめていた手を離し、クオンの頭の下から腕を抜く。
名残惜しそうなクオンの表情にまたしても心が揺れ動き、俺は必死に抑え込む。
「顔、先に洗ってきて良いわよ」
「そうさせてもらうよ」
俺はそういって風呂場に向かう。
出来るだけ早くこの気持ちを鎮めたかった。
きっと顔を洗って目が覚めればこの鼓動の速さもおさまるはずだ。
*
顔を洗いリビングに着くと、既に朝食が出来上がっていた。
トーストとベーコンエッグが机に並んでいて、かなり豪勢だ。
「紅茶は欲しい?」
「頂くよ」
そう言うと、高そうな白いティーポットから紅茶を注いでくれる。
何から何まで至れり尽くせりでなんだかいたたまれなくなるな……。
「わざわざ悪いな」
「ルイスのためにするなら寧ろご褒美みたいなものよ」
そう言って目の前の椅子に座る。
本当にこれでいいんだろうか?
なんだかこのままだとダメ人間になってしまうような気がする……。
考えてみたら、会ったばかりの女に飯を作らせて住む場所も提供させてその上なんの対価も払わないって男として相当まずいのでは……?
「ほら、早く食べて?」
「あ、ああ」
俺は促されるままに朝食を口にする。
相変わらずとても美味しい。
「やっぱりクオンは料理が上手だな。本当に美味しいよ」
俺が褒めると、クオンが小さくガッツポーズをしながら小声で「よし!」と言っているのが見える。
「そう言えば、ルイスは料理とかするの?」
「ああ、するよ。寧ろ俺が家事全般を担当してた」
あの家で居場所を作るために必死で練習したものだ。
今ではかなりの腕前になったと自負している。
「じゃあ、今度何か作ってくれない? ルイスの料理、食べてみたいわ」
「それなら今夜は俺が作るよ」
半ば無理矢理ここに住まわされているとはいえ、流石にこのまま何もせずに居座るのは具合が悪すぎる。
料理やら家事が出来るなら寧ろ願ったりだ。
「本当? 楽しみにしておくわね」
嬉しそうに笑うクオンの顔を見ていると、よりやる気がわいてくる。
俺が出来る一番美味しい料理を作ってやりたいところだ。
「材料とかはあるのか?」
「大抵の食材は地下の保管庫に置いてあるわ、どうしてもなかったらナギサを呼んで市場に買いに行かせるわ」
……ナギサって、あの夜俺達が戦った小さな子か。
とんでもない強さだったのを思い出し、少し体が震えてくる。
「大丈夫、ナギサは味方よ」
俺が小刻みに震えているのを見て心配したのか声をかけてくる。
「ああ、わかってるよ」
クオンの味方なら俺を襲うことはないだろう。
何より、別にあの子が凶暴な子には見えなかった。
……信じられないくらい強かったけど。
「ところで、家事はルイスが担当してたって言ってたわよね?」
クオンが訝しげな顔をする。
……なにか引っかかるところだったか?
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「ルイスって誰と住んでいたの? ご両親は?」
食事の手を止め、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
「いや、両親はだいぶ前に死んだんだ。それからずっとエレノアの家で暮らしてた」
「へ、へー……そう、なのね」
今まで見たことないくらい動揺しているのがみてとれる。
そのまま俯いてぶつぶつと何か独り言を呟いている。
「ど、どうした?」
「一緒に住んでいたって、二人暮らしってこと?」
先ほどよりも更に真剣な目をしている。
「いや、エレノアのお母さんも一緒だったよ」
クオンが深く息を吐く。だいぶ安心した様子だ。
「そ、それならいいのだけど……」
「何をそんなに焦ってたんだ?」
クオンが恥ずかしそうに目をそらす。
なんだろう、気になるな……。
俺がしばらく見つめ続けると、観念した様に話し始める。
「二人暮らしだったのかもって、思ったのよ」
「別に、そうだとしても良くないか?」
主従が二人で暮らすなんて、割とよくある話だ。
主の身の回りの世話をしなければいけないし、一番効率がいい。
もちろん、手を出したりするのは赦されないが……。
「だ、駄目よ! 不健全だわ!」
物凄い剣幕で立ち上がりテーブルを叩く。
「それなら俺達が一緒に住むのもやっぱり駄目じゃないか」
「うっ……」
図星を突かれややうろたえる。
そのまま頭を抱えて小さく唸っている。
……意外な一面が見れて少し得した気分だ。
ややすると、言い訳を思いついたのか顔を上げて髪をかき上げる。
「私は不健全でも構わないわ」
クールに言い放つが、内容が割と酷い。
「俺が構うよ……」
「いつまでそう言っていられるかしら」
うーん、実際昨日はかなり危なかった。
いつまでもと答えたいところだが、ちょっと怪しいかも知れないと不安な自分もいる。
「しばらくは大丈夫だよ」
取り敢えずあいまいに返事をする。
あまり納得していない様子だが、幸いなことにそれ以上の追及はなかった。
*
朝食を食べ終わった俺は、リビングのソファで一休みしていた。
ちなみに食器なんかは目を離した瞬間に綺麗に片づけられていた。
飯を作らせ片づけまでさせる。
……余りにも酷いな、あとでせめて片づけだけはやらせてほしいって頼んでみるか。
「隣、座るわよ」
ネグリジェから黒いワンピースに着替えたクオンがリビングにやって来る。
相変わらず黒色が好きだな、【漆黒の悪魔】って二つ名に合わせてるのか?
「どーぞ」
リビングは白と黒のコントラストが描かれた絨毯が敷いてあり、その上に向かい合った二つのソファが置いてあるシンプルな部屋だ。
二人掛けのソファは意外と小さく、お互いの肩が触れ合っている。
「向かいに座らないのか?」
「出来るだけ近くにいたいのよ」
「お、おう」
そういわれたらもう黙るしかない。
「ルイスの状態について説明していないことがあったから、今から簡単に説明するわね」
俺が黙っていると、クオンが割と重要そうなことを言い出す。
俺の状態……?
「スライム、なんだよな? 殆ど自覚はないけど」
「ええ、そうよ。今は私の魔法で出来なくしてあるけれどスライムに姿を変えることもできるわ」
あんまり変えたいとは思わないな……。
「なんで出来なくしてるんだ?」
「だって、逃げられちゃうじゃない」
……確かに、俺の想像する形のスライムになれるなら簡単に逃げ出すことができるだろう。
「まあ、確かにな」
「でしょう? けど、全部を封じているわけではないの」
「というと?」
部分的にならスライムになったりするのか?
「あなたは今、自分をルイス=シュスラーであると定義することによってその形をしているの」
「そう言ってたな」
「その応用であなたが誰かを取り込めば、あなたはその人の魔法や、能力、姿形を再現することもできるのよ」
魔法を再現する……?
「それって、例えばクオンを取り込めば時魔法を使えるようになるのか?」
もしそうなら、とんでもないぞ。
場合によってはいくつもの魔法を使いこなせるってことだ。
「完全に、とはいかないまでも私を全て取り込めば七割位なら再現できるはずよ。……それに、別にすべてを取り込む必要はないの」
「体の一部ってことか?」
「そう。腕や足でもいいし、体液とかでも多少なら使えるはずよ。もちろん、取り込む量によって使える回数とか質は変わってくると思うけど」
クオンが立ち上がり俺の目の前へとやってくる。
「試してみましょうか」
そう言うと、懐から取り出したナイフで右手の甲を切る。
瞬く間にクオンの白く小さな手の甲に赤い一本の線が出来る。
「舐めなさい」
血の滴る右手を俺の口元に突き出し、舐めるように促してくる。
手の甲を伝って中指から滴り落ちるクオンの血液が、俺の膝の上へと落ちていく。
俺は促されるままに血の滴る中指を舐める。
鉄の味が口の中に広がり、喉の奥まで流れていく。
俺は出来るだけクオンの体液だと思わないように、ただ無心で中指を舐め続け血液を体内へと運んでいく。
ふとクオンの顔を見ると、頬が赤く染まり愉快そうに顔を歪ませている。
それは普段の笑顔とは違う妖しい表情で、淫靡な雰囲気を纏っている。
「……そろそろ大丈夫だろ?」
俺がそういうと、名残惜しそうに右手を下げる。
「……」
そのまま無言で自分の右手を見つめ、中指を口に含む。
「おい」
「あ、ごめんなさい。つい……」
慌てて右手をハンカチで拭き取る。
いや今更遅いよ……。
「まあいいけど……」
「それで、どう? 変わった感じはする?」
正直なところ、何も変わった気がしない。
このままでは昼間からちょっと特殊なプレイをしただけで終わってしまう。
「そう……。ちょっと試しに行ってみましょうか」
「どこに?」
外に出られるんだろうか?
そろそろ陽の光を浴びたいし、もしそうならありがたい。
「訓練スペースがあるの、ついてきて」
そんなところがあるのか……。
出来れば外であって欲しいと願いながら、俺は立ち上がりクオンの後をついて歩き出した。
どうやら、クオンを抱きしめながら寝るという苦行なのか褒賞なのかわからない時間を過ごした俺はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
やや痺れている左腕からは人肌の温かさと控えめな重さを感じ、右腕からは柔らかな肌の感触が伝わってくる。
俺は一晩たっても未だにクオンを抱きしめたままらしい。
目を開けると、既に目を覚ましていたクオンと目が合う。
慈しむように俺を見つめていたが、目が覚めたのがわかり微笑みかけてくる。
「おはよう」
「先に起きてたのか」
「ええ、ずっとあなたの寝顔を見ていたわ、とてもかわいかったわよ?」
悪戯っぽく笑いながらからかってくる。
その表情がとても可愛く見えて、照れてしまう。
「ほら、早く起きるぞ」
そういって抱きしめていた手を離し、クオンの頭の下から腕を抜く。
名残惜しそうなクオンの表情にまたしても心が揺れ動き、俺は必死に抑え込む。
「顔、先に洗ってきて良いわよ」
「そうさせてもらうよ」
俺はそういって風呂場に向かう。
出来るだけ早くこの気持ちを鎮めたかった。
きっと顔を洗って目が覚めればこの鼓動の速さもおさまるはずだ。
*
顔を洗いリビングに着くと、既に朝食が出来上がっていた。
トーストとベーコンエッグが机に並んでいて、かなり豪勢だ。
「紅茶は欲しい?」
「頂くよ」
そう言うと、高そうな白いティーポットから紅茶を注いでくれる。
何から何まで至れり尽くせりでなんだかいたたまれなくなるな……。
「わざわざ悪いな」
「ルイスのためにするなら寧ろご褒美みたいなものよ」
そう言って目の前の椅子に座る。
本当にこれでいいんだろうか?
なんだかこのままだとダメ人間になってしまうような気がする……。
考えてみたら、会ったばかりの女に飯を作らせて住む場所も提供させてその上なんの対価も払わないって男として相当まずいのでは……?
「ほら、早く食べて?」
「あ、ああ」
俺は促されるままに朝食を口にする。
相変わらずとても美味しい。
「やっぱりクオンは料理が上手だな。本当に美味しいよ」
俺が褒めると、クオンが小さくガッツポーズをしながら小声で「よし!」と言っているのが見える。
「そう言えば、ルイスは料理とかするの?」
「ああ、するよ。寧ろ俺が家事全般を担当してた」
あの家で居場所を作るために必死で練習したものだ。
今ではかなりの腕前になったと自負している。
「じゃあ、今度何か作ってくれない? ルイスの料理、食べてみたいわ」
「それなら今夜は俺が作るよ」
半ば無理矢理ここに住まわされているとはいえ、流石にこのまま何もせずに居座るのは具合が悪すぎる。
料理やら家事が出来るなら寧ろ願ったりだ。
「本当? 楽しみにしておくわね」
嬉しそうに笑うクオンの顔を見ていると、よりやる気がわいてくる。
俺が出来る一番美味しい料理を作ってやりたいところだ。
「材料とかはあるのか?」
「大抵の食材は地下の保管庫に置いてあるわ、どうしてもなかったらナギサを呼んで市場に買いに行かせるわ」
……ナギサって、あの夜俺達が戦った小さな子か。
とんでもない強さだったのを思い出し、少し体が震えてくる。
「大丈夫、ナギサは味方よ」
俺が小刻みに震えているのを見て心配したのか声をかけてくる。
「ああ、わかってるよ」
クオンの味方なら俺を襲うことはないだろう。
何より、別にあの子が凶暴な子には見えなかった。
……信じられないくらい強かったけど。
「ところで、家事はルイスが担当してたって言ってたわよね?」
クオンが訝しげな顔をする。
……なにか引っかかるところだったか?
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「ルイスって誰と住んでいたの? ご両親は?」
食事の手を止め、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
「いや、両親はだいぶ前に死んだんだ。それからずっとエレノアの家で暮らしてた」
「へ、へー……そう、なのね」
今まで見たことないくらい動揺しているのがみてとれる。
そのまま俯いてぶつぶつと何か独り言を呟いている。
「ど、どうした?」
「一緒に住んでいたって、二人暮らしってこと?」
先ほどよりも更に真剣な目をしている。
「いや、エレノアのお母さんも一緒だったよ」
クオンが深く息を吐く。だいぶ安心した様子だ。
「そ、それならいいのだけど……」
「何をそんなに焦ってたんだ?」
クオンが恥ずかしそうに目をそらす。
なんだろう、気になるな……。
俺がしばらく見つめ続けると、観念した様に話し始める。
「二人暮らしだったのかもって、思ったのよ」
「別に、そうだとしても良くないか?」
主従が二人で暮らすなんて、割とよくある話だ。
主の身の回りの世話をしなければいけないし、一番効率がいい。
もちろん、手を出したりするのは赦されないが……。
「だ、駄目よ! 不健全だわ!」
物凄い剣幕で立ち上がりテーブルを叩く。
「それなら俺達が一緒に住むのもやっぱり駄目じゃないか」
「うっ……」
図星を突かれややうろたえる。
そのまま頭を抱えて小さく唸っている。
……意外な一面が見れて少し得した気分だ。
ややすると、言い訳を思いついたのか顔を上げて髪をかき上げる。
「私は不健全でも構わないわ」
クールに言い放つが、内容が割と酷い。
「俺が構うよ……」
「いつまでそう言っていられるかしら」
うーん、実際昨日はかなり危なかった。
いつまでもと答えたいところだが、ちょっと怪しいかも知れないと不安な自分もいる。
「しばらくは大丈夫だよ」
取り敢えずあいまいに返事をする。
あまり納得していない様子だが、幸いなことにそれ以上の追及はなかった。
*
朝食を食べ終わった俺は、リビングのソファで一休みしていた。
ちなみに食器なんかは目を離した瞬間に綺麗に片づけられていた。
飯を作らせ片づけまでさせる。
……余りにも酷いな、あとでせめて片づけだけはやらせてほしいって頼んでみるか。
「隣、座るわよ」
ネグリジェから黒いワンピースに着替えたクオンがリビングにやって来る。
相変わらず黒色が好きだな、【漆黒の悪魔】って二つ名に合わせてるのか?
「どーぞ」
リビングは白と黒のコントラストが描かれた絨毯が敷いてあり、その上に向かい合った二つのソファが置いてあるシンプルな部屋だ。
二人掛けのソファは意外と小さく、お互いの肩が触れ合っている。
「向かいに座らないのか?」
「出来るだけ近くにいたいのよ」
「お、おう」
そういわれたらもう黙るしかない。
「ルイスの状態について説明していないことがあったから、今から簡単に説明するわね」
俺が黙っていると、クオンが割と重要そうなことを言い出す。
俺の状態……?
「スライム、なんだよな? 殆ど自覚はないけど」
「ええ、そうよ。今は私の魔法で出来なくしてあるけれどスライムに姿を変えることもできるわ」
あんまり変えたいとは思わないな……。
「なんで出来なくしてるんだ?」
「だって、逃げられちゃうじゃない」
……確かに、俺の想像する形のスライムになれるなら簡単に逃げ出すことができるだろう。
「まあ、確かにな」
「でしょう? けど、全部を封じているわけではないの」
「というと?」
部分的にならスライムになったりするのか?
「あなたは今、自分をルイス=シュスラーであると定義することによってその形をしているの」
「そう言ってたな」
「その応用であなたが誰かを取り込めば、あなたはその人の魔法や、能力、姿形を再現することもできるのよ」
魔法を再現する……?
「それって、例えばクオンを取り込めば時魔法を使えるようになるのか?」
もしそうなら、とんでもないぞ。
場合によってはいくつもの魔法を使いこなせるってことだ。
「完全に、とはいかないまでも私を全て取り込めば七割位なら再現できるはずよ。……それに、別にすべてを取り込む必要はないの」
「体の一部ってことか?」
「そう。腕や足でもいいし、体液とかでも多少なら使えるはずよ。もちろん、取り込む量によって使える回数とか質は変わってくると思うけど」
クオンが立ち上がり俺の目の前へとやってくる。
「試してみましょうか」
そう言うと、懐から取り出したナイフで右手の甲を切る。
瞬く間にクオンの白く小さな手の甲に赤い一本の線が出来る。
「舐めなさい」
血の滴る右手を俺の口元に突き出し、舐めるように促してくる。
手の甲を伝って中指から滴り落ちるクオンの血液が、俺の膝の上へと落ちていく。
俺は促されるままに血の滴る中指を舐める。
鉄の味が口の中に広がり、喉の奥まで流れていく。
俺は出来るだけクオンの体液だと思わないように、ただ無心で中指を舐め続け血液を体内へと運んでいく。
ふとクオンの顔を見ると、頬が赤く染まり愉快そうに顔を歪ませている。
それは普段の笑顔とは違う妖しい表情で、淫靡な雰囲気を纏っている。
「……そろそろ大丈夫だろ?」
俺がそういうと、名残惜しそうに右手を下げる。
「……」
そのまま無言で自分の右手を見つめ、中指を口に含む。
「おい」
「あ、ごめんなさい。つい……」
慌てて右手をハンカチで拭き取る。
いや今更遅いよ……。
「まあいいけど……」
「それで、どう? 変わった感じはする?」
正直なところ、何も変わった気がしない。
このままでは昼間からちょっと特殊なプレイをしただけで終わってしまう。
「そう……。ちょっと試しに行ってみましょうか」
「どこに?」
外に出られるんだろうか?
そろそろ陽の光を浴びたいし、もしそうならありがたい。
「訓練スペースがあるの、ついてきて」
そんなところがあるのか……。
出来れば外であって欲しいと願いながら、俺は立ち上がりクオンの後をついて歩き出した。
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