I don't like you, but I love you

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「I don't like you, but I …………っ……Fuckっ!…休憩を…すぐ戻る…」
苦々しくそう呟き、あの人…この物語の主人公である「あの人」は部屋から出ていってしまった。
少ない数だが、会場に集まった報道陣が苛ついたオーラを放つあの人の背中にカメラを向ける。
会場がざわつき始めた。
それもそうだろう。
主役の「あの人」が役目を放棄した上に、放送禁止用語を苦々しく口にしたのだ。
会場のざわつきが次第に大きくなっていく。
「…シイ」
私は「あの人」の名を呟く。
それから「あの人」が読み上げる予定であった原稿のコピーに目を落とした。

『I don't like you, but I love you』
『君が好きじゃないけど、愛しているんだ』
ある意味でのワンパターンな決まり文句だ。
決まり文句であるが故に、色んなジャンルのシングソングライター達も己の作品に使用するフレーズだ。
『決まり文句』
そう、『決まり文句』として、よりしっくりくる例えをすると…
『本日はお日柄もよく』
だとか、
『この度は御愁傷様』的な感じだろうか?
それだからこそだ。
「あの人』…シイは何故あんなに不快度MAXで会場から姿を消してしまったのか?
…分からないのだ、ここで、ざわつく報道陣達は。
わかっている事は、明日のあらゆるタイプの記事にはよろしくない事を書かれる、ということだけだ。
『お騒がせセレブの奇行』的なおちょくる記事のタイトルが私の目の裏に浮かび上がった。
まあ、それはいい。
いや、細かい事言えば、ダメだけども…外野の言語統制なんて不可能な事に頭を悩ませている場合ではないのだ。
私はシイとは親しい事もあり、シイの裏方的な…補佐する仕事もこれまでに何度も引き受けてきた。
だから、シイが途中で読み上げる事を放棄した原稿を再度読み直した。

『I don't like you, but I love you』

この部分の何が気に食わなかったのだろう?
原稿を書いた人間は別の人物だが、原稿にOKを出したのは私だ。
シイは我儘な人間だが、我慢強い人だ。
私の知っているシイは短気を起こして役目放棄する人間ではない。
「付き合い長いくせに…まるでわかってないよ、私」
私は呟く間に二往復程、原稿の文字を追った。

「ああ、ダメだ…分からない」
ここにいる報道陣達同様私も分からない。
その事実に私はへこむ。
自分の事を『シイと親しい』と言っておきながら、ここにいる報道陣と同じレベルでわかっていないのだから。
何故、シイが不快度MAXで出て行ってしまったのか。

私はギブアップのため息を吐いて、シイに直接聞く覚悟を決めた。

シイが会場を後にした出口とは全く違う出口を探し、会場を後にする。
「Fuckっ!』
シイが苦々しく吐き捨てた放送禁止用語が耳元で蘇る。
ああ、もしかしたら…あれは私に向けて放たれた言葉かもしれない。
そう思うと、体が一度だけブルっと震えた。
どうでもいい人…ああ、表現が冷たくてごめんなさい。
その…どうでもいい人ならば、『私の過失』にされ、挙げ句クビを言い渡されても…いつの日か、その事実もドライに受け入れ割り切れる。
だけども、私とシイは『ドライに割り切れる』程、簡単な関係ではないのだ。

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