I don't like you, but I love you

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2 ロク

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自己紹介が遅れたわね。
私の名はロク。
エピローグで紹介した通り、私はシイの仕事も補佐や裏方的な仕事をしていた。
それ以前の私は、シイのBOSS且つ、三番目の養父でもある人物に「あるにうりょく」を買われ、彼の元で働いていた。
私の「能力」…それは相手のオーラの色が見えるのだ。
見えるだけでは、BOSSは私の「能力」を買わなかった。
私の場合は、「オーラの色が見える」プラス「オーラ色の出方」や、「オーラ色混ざり具合」…それ等を読み解き、相手の考えている事を解釈できる。
BOSSには、その能力を重用されて側に置いて貰った。
そのBOSSが亡くなった後、期間限定という条件で後を継いだ養子であるシイ。
シイにも、亡くなったBOSS同様、私を重用された。
こういう言い方をすると、シイと私は仕事上のドライな関係だと思ってしまうかも知れない。
が、実はそうではない。
先のBOSSとは仕事限定のドライな関係だったが、シイとはお互いのプライベート部分まで干渉する程の…親しい間柄になった。
原因はお互いの生い立ち部分が、似ている部分は影響しているだろう。
キーワードをいくつか挙げると…
田舎の閉鎖的な村育ち。
はとこ、の存在
実の父に「傷」を負わされた事…等等だ。
さて、私がシイの控え室に辿り着くまでの間、軽く私の生い立ちについて話しておきましょうか。
私の生まれ育った故郷の村。
そこは産業と呼べるものは無く、自給自足の生活を営む閉鎖的な村だった。
勉学への関心は全体的に薄く、子供達は成人前から労働力として期待され家庭持ちになる年も全体的に早めだった。
こういう言い方をすると、私自身が村で数パターンしか存在しない「レールに敷かれた人生」に唾棄する感情を抱いていたのでは?と薄く想像するでしょう?
それは半分正解だ。
閉鎖的村ならではの…「他人との境界線の無さ」に対し偶に辟易しながらも、私は平均的な村人として「レールに敷かれた人生」に洗脳され、その人生を楽しんでいたのだ。
もっと砕けた言い方をすると、自分自身の胸が膨らみ始めた頃から、異性に色気づき始めていた。
暇さえあれば…誰が気になるだとか、誰と結婚したいだの…発情期も動物状態であったと思う。
毎日毎日…年の近い友人達と色恋話題を、黄色い声を上げて騒ぎ過ごしていたのだ。
ここまでは村人として平均的で且つ、順調な人生だった。
結果、私は村人として「いとこのいとこ」に該当する男性の子供を産んだ。
しかし「いとこのいとこ」は私と結婚してくれなかった。
ここから先は、村人としての「転落人生」だ。
娘が未婚のまま子供を産んだ。
閉鎖的な村の中では、それは大問題だった。
そして判を押した様に、こういうケースで悪者扱いは女だ。
どこの世界も、狭いコミュニティーは大体そうだ。
無論、私の村も例外ではない。
私は村の「恥」とされ、ある選択を迫られた。
「産んだ赤ん坊を殺す」か「『恥』としての罰「足を折られ」産んだ赤ん坊と共に村から出て行く」か、だ。
私は後者を選んだ。
足を折る理由は、折られた足で逃げられるなら逃げてみろ…そういう意味らしい。
父に足を折られた後遺症として、私は足を少し引きずって歩く。
しかし、不思議な事も起きた。
先に述べた能力である「相手のオーラが見える」を得たのだ。
足と「相手のオーラが見える」能力との因果関係は不明だ。
だが、不自由さと引き換えに発現した能力だと…自分で解釈している。
世の中には私の様に、オーラが見える能力者が、それなりの人数が居るのかもしれない。
その事を私がシイに言うと、シイはこう返してきた。
「かもね。だが、『オーラが見えた上』で、相手の感情の細かい解釈と、その的確さは見事だ。義父が君の能力を高く評価したのも頷ける。」
そこから、私とシイの付き合いが始まった。

話終わった所で、丁度シイの控え室に着いたわ。
「シイ、入っていい?」
ドアをノックし、私はシイに声をかけた。
「やめて!放っておいてくれ」
秒で断られた事に…私は思わず面食らった。
今までの私達に、こんなケースは存在しなかったからだ。
どんなに気まずくても、お互いの「根っこ」ある程度の着地点を模索する姿勢があったのだ。
それを思い出すし、私は少し悲しくなってきた。
私達の関係が変わってきたのかもしれない…寂しさがじんわり込み上げてきたのだ。
それを押し殺してシイに声をかける。
「原稿に、受け入れ難い…何かがあったのよね?…矛盾とか?」
「姿が見えなくても…オーラが見えるの?」
私の質問にシイが力無く応えた。
「まさか…そこまで私は優秀じゃないわ。後で来た方がいいなら…そうするよ?」
シイは返答しなかった。
が、中から足音が聞こえた。
ドアの直ぐ向こうに、シイの気配を濃く感じた。

キイっ

軽く軋む音を立てて、ドアが開く。
そこには、聖職者独自の出で立ちの…鬱屈とした表情をしたシイがいた。
私はシイと至近距離で「睨めっこ状態」となった。
「反発」「怒り」「呆れ」「恥」「迷い」「矛盾」
シイから…それらの色が発せられている。
静かな湖に出現した波紋の如く、それらが広がっている。
矛盾だけは当たっていたわ。
そんな事を思いながら、私はシイに話しかけた。
「色の出方からして、激しい動揺は見受けられないわ。落ち着いてきたんじゃない」
シイはため息を吐いて、ドアも入り口を塞いでいる自分の体を斜めにずらした。
ああ、入れって事ね。
私はシイの要求通りに、ソファまで来て腰掛けた。
「…急に具合が悪くあり、中止してしまったと…報道陣に説明してくれる?…仲間達には、後で私から直接の謝罪と説明をするから。」
「…え?ああ、私のやる事は文書を作成して、報道に渡せばいい…って事?」
「…うん。いつも迷惑をかけてごめん」
それだけの会話をすると、シイは黙ってテーブルをぼんやり見つめ…動かなくなった。
やっぱり、会場での苛立ちの原因を話す気はない様だ。
今は、だけど…ね。
近いうちに話てくれるかしら。
そこを気にしつつ、私はシイが自分が「やらかした事」の後処理を一番に口にした事に少しホッとした。
いつも通り、私の知っている冷静なシイだ。
「早速、取り掛かるわ。」
言いながら、私が席を立とうとした。
すると、急にシイが両手で私の手を握ってきた。
聖職者として被っている頭巾に私の手が当たる。
私はシイの行動に一瞬だけ驚き、シイを諌めた。
「マスコミが…ウロウロしているかもしれないよ?誤解される事は避けるものよ。」
シイが少しだけ、力無く笑って言った。
「私がレズビアンだと…報道される事を心配してくれてる訳?」
私は思わず…声を上げて笑った。
「そうじゃないって事は…私が一番よく知っているわ、嫌って程。」
シイが握りしめた私の手に、自分のおでこをくっつけて言った。
「それ、嫌味で言ってるよね、絶対」
「ふふふ、何言ってんのよ。」
私はシイが握りしめた両手から、自分の両手をするりと脱出させた。
脱出させた自分の両手で、私はシイの両頬を挟んだ。
「ホント…男の子になってたら、私のものだったのにね、あなたは。」
シイは目を伏せた状態のまま…否定も肯定もせず、黙って私の両手に自分の顔を預けた。
私は今までの、「私達の付き合いの長い歴史」に思いを馳せた。
これまでの話の中で、私がシイを一度も「彼女」という代名詞で語れなかった。
「私達の付き合いの長い歴史」の中に…勿論その理由がある。
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