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燈の婚約者 雲丹亀玄静登場
雲丹亀玄静 その2
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宗次郎は目を覚ますと違和感に気付いた。
ベットの上で寝ていたはずなのに、いつの間にか椅子の上で腕を組んで眠っている。部屋も闘技場の宿舎から薄暗い天幕に変わっていた。
宗次郎は立ち上がって体を伸ばす。
「おお、起きたか」
話しかけてきた男性を見て、宗次郎はこれが夢だと悟った。
身長は百七十半ばほど。漆黒を基調とした鎧には所々金色の装飾が施され、この場にいる三人の中で身分が一番高いことを示している。短く整えられた黒髪と柔らかい笑みに人柄の良さが窺える。瞳は少年のようにらんらんと輝き、これから起きる戦いの結果がどうであれ、人が死ぬ事実を前にしてもなお、己の夢のために前へ進むという意志を感じさせた。
彼の名前は皇大地。
大陸の支配を目論む魔神・天修羅、そして天修羅が作り出した化け物である妖《あやかし》と戦い、のちに勝利を収めた初代国王である。
「起きたのなら作戦会議に参加してくれ」
「ああ」
宗次郎は大地の隣に並ぶ。
机に広げられた地図には円形をした巨大な大都市があり、その上には白と黒の駒が大中小三つに分けられ、ところどころに置かれている。
「何だ。やっとお目覚めか」
挑発的な声がする方を睨む。
癖のある黒髪を肩まで無造作に伸ばした長身の男だった。その表情は無で、目は宗次郎を見ているようで見ていない空虚さを感じさせる。
彼こそ雲丹亀壕。玄静の先祖にして、大地に軍師として仕えている波動師だった。
━━━ホント、何の因果なんだかな。
ここにいる二人の子孫と縁を結ぶことになる宗次郎は、夢を見ているからこそ味わえる感慨深さに浸った。
「うるせえな。疲れてんだよ、俺は」
「ふん。明日もこき使ってやるから覚悟しろ」
「ああん!」
「こらこら」
犬猿の仲である宗次郎と壕を制する大地。いつもの光景だった。
「壕、頼む」
「御意」
大地の指示を受け、恭しく礼をしてから壕は机の地図を使いつつ作戦の説明を始める。
このとき、大地たちは主京の奪還作戦を展開しようとしていた。
主京は大陸の中心に位置する最大の都市であり、のちの皇王国の首都・皇京となる最重要拠点である。妖の手から解放できれば人々の士気は高まり、また前線の拠点としても活用できる。
まさに一大決戦ともいえる奪還作戦がうまくいくかどうかは、この場にいる三人にかかっている。
しかし、
「だから! 作戦が分かりにくいんだって! 混乱したら犠牲が出るのは現場にいる戦士なんだぞ!」
「それをうまく統制するのがお前の役割だろう! 重要なのはタイミングなんだ! どこか一つでも遅れが生じたら取り返しがつかない!」
宗次郎と壕は十分とたたずに喧嘩を始めてしまった。
互いの言い分を言い合えば言い合うだけ、主である大地が頭を抱える。
━━━こんなこともあったなあ。
どうしようもないなつかしさが宗次郎の胸にかなわぬ願いを抱かせる。
戻りたい。
歴史上は千年も昔でも、宗次郎の体感では一年前の出来事だ。記憶を取り戻した今なら鮮やかに思い出せる。
楽しかった。そう、楽しかったのだ。
つらい思い出もある。妖との戦いは壮絶で、死んだ仲間も大勢いたし、自身も死ぬかもしれないと何度も思った。
それでも、かけがえのない仲間とともに過ごした日々は、かけがえのない思い出なのだ。
記憶を取り戻して一週間と少し。毎日のように過去の夢を見ては、懐かしさに身を震わせていた。
よくない傾向だと宗次郎自身わかっている。
思い出に浸っても過去には戻れない。時間は前にしか進まないのに。
━━━せめて、現代に戻ってきた理由がわかればな……。
大地や壕と別れ、もと居た時代に戻ってきた理由を宗次郎は思い出せていない。そのせいで余計に胸がもやもやするのだ。
郷愁に浸っていると、夢の光景に変化が生まれた。
ランプの光がテントに照らしていた人影がうねり、天井に届くほど大きくなり、やがて燈の姿になった。
━━━大入道みたいだ。
そびえ立つような燈に、ついふざけた感想を抱く宗次郎。
この大きさは燈の印象が反映されているのかもしれない。なんとなく不機嫌そうにしている。
━━━あぁ、わかっている。
いい加減にしなさい、と怒られたような気がした。
理由がどうあれ宗次郎は現代に戻ってきた。燈の剣になると約束したのだ。過去にとらわれてくよくよしている場合じゃない。
それはそれとして、この懐かしい夢を味わいたいと思ったそのとき、
「うお!」
ジリリリリリリリリリリリリリ、とけたたましい音に宗次郎は飛び起きる。
発信源に目をやると隣ベッドの端に持ち主を起こそうと躍起になっている目覚まし時計が置いてあった。その時針は午前五時を指している。
「……早すぎんだろ」
椎菜のお出迎えは午前八時。何を準備する必要があって三時間も前に目覚ましを鳴らすのか。
宗次郎が恨みがましく声をかけようとすると、隣の布団から無言で手が伸びて目覚まし時計の息の根を止めた。
しばし、沈黙。
「いや、起きないのかよ」
「僕は二度寝しないと起きれないんだ。お休み」
玄静は寝息を立て始め、ベットを覆う布団が規則正しく上下運動を始める。
━━━最悪だ。
要らぬ早起きを強いられたせいで意識は完全に覚醒してしまった。
宗次郎はすることもないので、外に出て体を動かすことにした。
ベットの上で寝ていたはずなのに、いつの間にか椅子の上で腕を組んで眠っている。部屋も闘技場の宿舎から薄暗い天幕に変わっていた。
宗次郎は立ち上がって体を伸ばす。
「おお、起きたか」
話しかけてきた男性を見て、宗次郎はこれが夢だと悟った。
身長は百七十半ばほど。漆黒を基調とした鎧には所々金色の装飾が施され、この場にいる三人の中で身分が一番高いことを示している。短く整えられた黒髪と柔らかい笑みに人柄の良さが窺える。瞳は少年のようにらんらんと輝き、これから起きる戦いの結果がどうであれ、人が死ぬ事実を前にしてもなお、己の夢のために前へ進むという意志を感じさせた。
彼の名前は皇大地。
大陸の支配を目論む魔神・天修羅、そして天修羅が作り出した化け物である妖《あやかし》と戦い、のちに勝利を収めた初代国王である。
「起きたのなら作戦会議に参加してくれ」
「ああ」
宗次郎は大地の隣に並ぶ。
机に広げられた地図には円形をした巨大な大都市があり、その上には白と黒の駒が大中小三つに分けられ、ところどころに置かれている。
「何だ。やっとお目覚めか」
挑発的な声がする方を睨む。
癖のある黒髪を肩まで無造作に伸ばした長身の男だった。その表情は無で、目は宗次郎を見ているようで見ていない空虚さを感じさせる。
彼こそ雲丹亀壕。玄静の先祖にして、大地に軍師として仕えている波動師だった。
━━━ホント、何の因果なんだかな。
ここにいる二人の子孫と縁を結ぶことになる宗次郎は、夢を見ているからこそ味わえる感慨深さに浸った。
「うるせえな。疲れてんだよ、俺は」
「ふん。明日もこき使ってやるから覚悟しろ」
「ああん!」
「こらこら」
犬猿の仲である宗次郎と壕を制する大地。いつもの光景だった。
「壕、頼む」
「御意」
大地の指示を受け、恭しく礼をしてから壕は机の地図を使いつつ作戦の説明を始める。
このとき、大地たちは主京の奪還作戦を展開しようとしていた。
主京は大陸の中心に位置する最大の都市であり、のちの皇王国の首都・皇京となる最重要拠点である。妖の手から解放できれば人々の士気は高まり、また前線の拠点としても活用できる。
まさに一大決戦ともいえる奪還作戦がうまくいくかどうかは、この場にいる三人にかかっている。
しかし、
「だから! 作戦が分かりにくいんだって! 混乱したら犠牲が出るのは現場にいる戦士なんだぞ!」
「それをうまく統制するのがお前の役割だろう! 重要なのはタイミングなんだ! どこか一つでも遅れが生じたら取り返しがつかない!」
宗次郎と壕は十分とたたずに喧嘩を始めてしまった。
互いの言い分を言い合えば言い合うだけ、主である大地が頭を抱える。
━━━こんなこともあったなあ。
どうしようもないなつかしさが宗次郎の胸にかなわぬ願いを抱かせる。
戻りたい。
歴史上は千年も昔でも、宗次郎の体感では一年前の出来事だ。記憶を取り戻した今なら鮮やかに思い出せる。
楽しかった。そう、楽しかったのだ。
つらい思い出もある。妖との戦いは壮絶で、死んだ仲間も大勢いたし、自身も死ぬかもしれないと何度も思った。
それでも、かけがえのない仲間とともに過ごした日々は、かけがえのない思い出なのだ。
記憶を取り戻して一週間と少し。毎日のように過去の夢を見ては、懐かしさに身を震わせていた。
よくない傾向だと宗次郎自身わかっている。
思い出に浸っても過去には戻れない。時間は前にしか進まないのに。
━━━せめて、現代に戻ってきた理由がわかればな……。
大地や壕と別れ、もと居た時代に戻ってきた理由を宗次郎は思い出せていない。そのせいで余計に胸がもやもやするのだ。
郷愁に浸っていると、夢の光景に変化が生まれた。
ランプの光がテントに照らしていた人影がうねり、天井に届くほど大きくなり、やがて燈の姿になった。
━━━大入道みたいだ。
そびえ立つような燈に、ついふざけた感想を抱く宗次郎。
この大きさは燈の印象が反映されているのかもしれない。なんとなく不機嫌そうにしている。
━━━あぁ、わかっている。
いい加減にしなさい、と怒られたような気がした。
理由がどうあれ宗次郎は現代に戻ってきた。燈の剣になると約束したのだ。過去にとらわれてくよくよしている場合じゃない。
それはそれとして、この懐かしい夢を味わいたいと思ったそのとき、
「うお!」
ジリリリリリリリリリリリリリ、とけたたましい音に宗次郎は飛び起きる。
発信源に目をやると隣ベッドの端に持ち主を起こそうと躍起になっている目覚まし時計が置いてあった。その時針は午前五時を指している。
「……早すぎんだろ」
椎菜のお出迎えは午前八時。何を準備する必要があって三時間も前に目覚ましを鳴らすのか。
宗次郎が恨みがましく声をかけようとすると、隣の布団から無言で手が伸びて目覚まし時計の息の根を止めた。
しばし、沈黙。
「いや、起きないのかよ」
「僕は二度寝しないと起きれないんだ。お休み」
玄静は寝息を立て始め、ベットを覆う布団が規則正しく上下運動を始める。
━━━最悪だ。
要らぬ早起きを強いられたせいで意識は完全に覚醒してしまった。
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