王の剣(つるぎ) 〜冷血の雪姫と呼ばれるドS王女に首輪を付けられた主人公の逆転譚〜

リッキー

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燈の婚約者 雲丹亀玄静登場

皐月杯 第一回戦 その4

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 第二試合もつつがなく終わり、皐月杯の初日は無事終わった。



 その夜、食堂では宗次郎の勝利を祝って祝勝会が開かれた。食事の内容は簡素ながらも第八訓練場の皆が集まってくれ、飲んで食べて大いに笑った。



「あー、食った食った」



 膨れたおなかをさすりながら夜道を歩く。



 森山は家事があるので一足先に宿舎に戻り、玄静は相変わらずどこかをほっつき歩いている。燈は仕事で夜は市長と話があるそうだ。



 ━━━楽しいなあ。



 たった一人、雲に覆われた夜空を見上げて千年前に思いをはせる。



 妖との戦いでも、勝利のたびに宴を開いてどんちゃん騒ぎをしたものだ。生き残った喜びを、仲間を失った悲しみを、酒とともに洗い流す。



 こういうところは今も昔も変わらないのだ。



「お」



 懐にしまっていた端末が鳴る。電源を入れるとメッセージが来ていた。



「第二駐車場に迎えに来なさい」



 手短ながら燈らしさが全開に出ている。



 宗次郎はふっと笑って踵を返した。















 宗次郎が駐車場につくと、ちょうど燈を乗せた車がやってきた。



「宗次郎、お待たせ」



「いいよ。今来たことだし」



 燈の格好は大会に備えた礼装から普段の十二神将のものへと変わっていた。宗次郎にも見慣れた格好である。



「お疲れ。市長との会食はどうだった?」



「楽しかったわ。市長は椎菜の父親だし、椎菜もいたから。家にお邪魔したような気分だったの」



 上機嫌な燈とともに駐車場を出る。夜空には分厚い雲が浮かび、ゴロゴロと雷が控えめなうなり声をあげている。



「明日は雨かな」



「予報だと今日の夜に降るみたいよ。明日出場する選手は大変でしょうね」



「ああ」



 ぬかるんだ地面で戦わなくて済んだ。その意味では初日で戦えたのはラッキーかもしれない。



 ━━━あれ、明日は確か。



 明日の一回戦第四試合は玄静が出場するはずだ。相手は雷の波動を操る剣士だったはず。



「まずは一勝おめでとう。見事な活躍だったわ」



「ん? ああ、ありがとう」



 いつの間にか燈が目の前にいる。



 顔が近い。まつ毛の一本一本がくっきりとわかる。



「なんだよ」



 ドキドキする心臓を何とかするため、顔をそらす。



「ご褒美よ。私の顔を近くで見る栄誉をあげるわ」



「あっそ」



 そっけない返事をしつつ、宗次郎は内面を表情に出さないよう必死に取り繕った。



「もう少し嬉しそうにしなさい。宗次郎のくせに生意気ね」



「そんなこと言われてもな」



「なら、腕を組んで一緒に歩きましょう。文句ないでしょう?」



「あるわ。誰かに見られたらどうするんだよ」 



 いくら夜で人気がないとはいえ、闘技場の敷地内だ。燈と腕を組んで歩いているところを見られたら間違いなく誤解される。



「気にしなくていいんじゃないかしら。宗次郎は私の剣になるのだし」



「まだなってないぜ。それに玄静に見られたらどうするんだ。婚約者だろう」



 しまった、と口をつぐんでももう遅い。



 ━━━何を言ってるんだ馬鹿か俺は。



 玄静と燈の婚約は両家の父が決めたことだ。本人同士は気にも留めていない。なのに宗次郎が意識してしまっている。



「ふふ」



「なんだよ」



「いいえ。記憶と波動が戻っても宗次郎は可愛いままだなと思っただけ」



 顔から火が出る思いをしながら、宗次郎は自分の未熟さを恥じる。



「あっそ。ところで褒美といえば相談してもいいかな」



「何か欲しいものでもあるの?」



「これを外したいんだ」



 宗次郎は首輪に指をひっかけてアピールした。



 この首輪は宗次郎が燈と初めて出会ったときに燈からつけられたものだ。それも気絶している間に。燈とシオンとの戦いに割って入ってしまったため、燈から天主極楽教の協力者でないかと疑いをかけられたのだ。



 初対面の相手からじろじろと見られるし、そのたびに説明するのも面倒なのだ。何よりも、つけ慣れているという事実を否定したかった。



「屈辱だわ。贈り物を捨てたいと面と向かって言われるなんて」



「いやいや、つけてるほうも結構な屈辱だぜ」



「似合うのに」



「嬉しくねえって」



 待遇の改善を要求するも雇い主は難色を示している。それも個人的な理由で。



「どうしても外してくれないのか? 優勝しても?」



「もちろん」



 何を当たり前なことを、と言いたげな表情をして燈が宗次郎を見つめる。



「宗次郎は初代国王の剣なのよ。王国記に伝わる伝説の英雄。最強の波動師。なら、優勝は当然じゃない」



「……」



 燈の論理は正論ではある。



 宗次郎には他の出場者に対して有利な点がいくつもある。五年にも及ぶ妖との死闘をくぐり抜けて得た実戦経験。時間と空間、特殊な属性を二つも持つ波動はその総量とて燈に並ぶ。そしてそれらを対戦相手に知られてない。



 弱体化しているとはいえ、これらの優位を活かせば負けるはずがないのは確かだ。



「一つ、聞いてもいいかしら?」



「何を?」



「天修羅のことよ」



「……」



「一時は大陸の半分を支配し、当時の名だたる戦士を打ち倒した、最強の生命体である天修羅。その天修羅は宗次郎

が斬ったんでしょう。他ならぬ、初代王の剣であるあなたが」



 天修羅。千年前に宇宙から大陸北部に飛来した地球外の生命体。人々を妖という化け物に変貌させるなど陣地を超えた力を持つ魔神は、宗次郎によって倒されたとされている。



「悪いが、大したことは言えないぞ」



 あっさりと言い放つ宗次郎に燈がキョトンとする。



「どうして?」



「覚えていないんだ」



 宗次郎は無意識のうちに曇天を仰いだ。



「例の時間停止による記憶障害?」



 宗次郎は現代に戻るにあたり、記憶と波動を失った。天斬剣の封印を解いたことで回復したものの、まだ思い出せていない部分がある。



「違う。それとは関係ない」



 宗次郎は視線を燈に戻して続ける。



「勝ったことは覚えてる。こいつで斬った感触も。ただ、どうやって斬ったのかは覚えていない」



 宗次郎は腰にぶら下げた天斬剣をポンと叩く。



「天修羅は本当に強かった。間違いなく、今まで戦ったどんな相手よりも。一手指し間違えれば確実に死ぬ。そんな状態が何時間も続いたせいで頭がおかしくなったんだと思う。気がついたら俺は血がびっしりとこびりついた天斬剣を握っていた。真っ二つになった天修羅は一緒に戦っていた仲間の屍と共に横たわっていたんだ」



 宗次郎はため息をついて会話を区切る。



「だから、多分何をやっても思い出せないと思う。期待に応えられなくて悪い」



「そう。なら、自信を持ちなさい」



 燈は蒼い瞳を真っ直ぐに向けて告げた。



「これから戦う相手はどんな相手であれ、天修羅より弱い。そうでしょう?」



「……まあ、そうだな」



 燈から遠巻きに励まされた。その事実が宗次郎の心を軽くする。



 ━━━燈には助けられてばっかりだな。



 宗次郎は全盛時より弱体化している。波動の総量は落ち、術のキレやコントロールはお粗末なレベルだ。おかげで訓練中は何度も弱気になることもあった。



 けれど、



 ━━━それが、どうした。



 弱くなったのならまた強くなればいいだけだ。宗次郎には目指すべき強さのイメージがはっきりしている。



 宗次郎には千年前と同じかそれ以上に頼れる主がいるのだから。



「宗次郎。あなたは誰にもなし得ない偉業を成し遂げたの。今この大陸に争いがないのは、あなたのおかげでもあるの。それを忘れないで」



「……」



 ここまで言われると流石に照れ臭くなって、宗次郎は頬をかいた。



「ありがとう。燈」



「ん。どういたしまして」



 ここで燈は何かに気づいたようにはっとして、したり顔をした。



「首輪の件、正式に私の剣になったら外してあげてもいいわよ。それならどうかしら」



「ああ。いいよ」



「それまでちゃんとつけたままでいるのよ。私への忠誠の証として、ね」



「心配するな」



 宿舎が見えてきたところで、宗次郎は首に手を当てた。



「こんなもので縛らなくても、俺は君に従う」



「……」



 燈は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ呆気にとられてからにっこりと微笑んだ。



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