王の剣(つるぎ) 〜冷血の雪姫と呼ばれるドS王女に首輪を付けられた主人公の逆転譚〜

リッキー

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果たされた約束

国王との謁見 その2

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 宗次郎達が謁見する前日。



「祝宴の席が本番だと思って頂戴」



 要人達の資料を覚えたかどうかの最終確認をしていたら、おもむろに燈が言った。



「どういう意味だ?」



「明日は国王に謁見してから、祝宴の席があるでしょう。要人と顔を合わせるのは、祝宴の席になるのよ」



 燈はお猪口を口にした。



 酒を飲んでいる燈の頬はほんのりと赤い。ちょうど良いほろ酔い気分を味わっている。



 少し前、宗次郎は燈から『私が要人の名前をあげるから、その人の外見的特徴と経歴を言いなさい。十人連続で』との問題を出された。結果、答えられたのは七人目まで。



 燈が目の前でクピクピ酒盃を煽っているのは、失敗した宗次郎へのお仕置きである。



 ━━━こういうところは変わってねぇよなぁ。



 宗次郎の首にはいまだに首輪がついている。天斬剣が強奪された際、シオンの仲間だと疑われてあかりにつけられたものだ。



「謁見は正午過ぎ。六大貴族も十二神将も政務がある時間帯よ。厄介な大臣が謁見にはこないように手も回してあるし」



「へー」



 ちょうど大臣の資料を開いていた宗次郎は、その顔写真をまじまじと眺める。



 顔がまるっとした初老の男性だ。微笑んでいるが、目がどことなく虚な気がする。



 ━━━確か、燈とは敵対してるんだっけ……。



 前の謁見では煮湯を飲まされそうになったと燈が愚痴っていたのを、宗次郎は思い出す。



「じゃあ謁見では何をするんだ?」



「文字通り国王との顔合わせよ。まぁ、父は優しすぎるくらい優しい人だから、大丈夫よ。……あ、でも」



 燈は机を指でトントンと叩いた。



「今回の謁見では論功行賞が行われるわ。今回の謁見は、闘技場での妖討伐を記念して行われるから。欲しい褒美を考えておいて」

「褒美ねー……ていうか、欲しいものがもらえるものなのか?」



「通常は無理よ。ただ、今回はお父様が張り切っちゃって。謁見も自分でやるし、褒美も好きなものでいいと言って聞かないそうよ」



 褒美が欲しくて戦った訳では無い宗次郎は頭をかいた。



 なんてやりとりを宿でしたのを思い出し、宗次郎は意識を現実に引き戻す。



「これより、此度の件についてそなたの口から余に説明をしてもらう。十二神将が第八神将、皇燈」



「御意。国王陛下の許しを得て申し上げます」



 皇王国、第十代目国王・皇悠馬の指示を受け、燈が静かにことの顛末を語り始める。



 皐月杯の動員数、売り上げ、観客の反応。そして妖の出現とその戦闘状況について細やかに説明した。



 ある一つの真実を除いて。



 妖の正体が黒金圓尾である事実を知っているのは、燈、宗次郎、玄静、そして圓尾の息子である壱覇の四人だけだ。



 天修羅の細胞に侵食されることによって生まれる化け物、妖。宗次郎は妖となった圓尾を元に戻すと壱覇と約束し、時間の波動を使ってその約束を守った。



 もしここで圓尾の正体を話してしまうと、妖から人間に戻った実例として名が広まってしまう。それを危惧した燈はただの妖としか報告していない。



 妖の正体が誰であれ、討伐したことに変わりはない。もとより圓尾は罪人であり、刑罰を受ける身分だ。



 それより問題なのは━━━



「甕星みかぼしだと!? なんだそいつは?」



「そいつが妖を生み出していると?」



「一体何者なのだ!?」



 白フードの話になった途端、謁見の間がざわついた。



「……」



 国王が手を翳して群臣を静かにさせる。



「以上が、皐月杯についての報告になります」



「うむ」



 国王は鷹揚に頷いて、立ち上がった。 



「まずは皆のもの。此度の騒動において、殉職した八咫烏三名に、黙祷を捧げよう」



 ━━━おおう、そこからか。



 宗次郎は内心驚いた。



 話の流れからして甕星についての対策を話し合うのかとばかり思っていたのだ。



「黙祷」



 謁見の間を沈黙が支配する。宗次郎達を含めた皆が死者に祈りを捧げた。



 剣爛闘技場の元第八訓練場監督、黒金圓尾。彼は屯所の地下にある独房で巨大な妖に変貌した。皐月杯の決勝を観戦するため屋内にいたものが多かったため、幸いにも一般市民の犠牲者は出なかった。



 しかし、屯所地下は完全に崩壊し、独房を警備していた八咫烏数名が亡くなってしまったのだ。



 ━━━しかも本気か……。



 うっすら目を開けると、玉座の上で国王は心底悲しそうな顔をしていた。



「優しすぎるくらい優しい人よ」



 燈が自分の父をそう評価していたのを思い出す。尊敬できるしいい人ではあるのだが、それだけだ、と。そのせいで家臣や貴族からいいように操られてしまっているらしい。



「直るがいい」



 一分ほどの時間が過ぎ、国王が黙とうの終了を告げた。



「燈よ。今回の活躍、余は高く評価したいと考える」



 威厳がありながらも、国王の声はどこかうわずっていた。



「天斬剣献上の儀の警備から始まりし此度の任務。天斬剣の強奪、さらに封印の解放という不測の事態に対処すべく、代替案として皐月杯の出場を提案したその慧眼。結果、今回の皐月杯はこれまでにない盛況ぶりを見せたと、剣爛市の市長及び闘技場の場長より報告を受けている」



「もったいないお言葉。感謝いたします、陛下」



 感謝をしているのは燈の方なのに、国王の方が早口になっている。娘の活躍がよほど嬉しいらしい。



 ━━━本当にいい人なんだな……。



 ここまでくると、宗次郎は国王が可愛く思えてきた。おかげで当初の緊張はどこかへ消えた。



「その功績を讃え、これより論功行賞を行う。この決定は国王である私、皇悠馬とその剣、阿路刹羅の名の下に行う」



 おおおおお、と群臣の間にどよめきが起こる。



 ━━━褒美、ねぇ。



 宗次郎は馬の盛り上がりに反比例するテンションで、ぼんやりと考えた。
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