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柔らかい時間
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私は突然の先生からの頼みごとを片付けて、あの公園の桜の木まで急いだ。
初めは小走りで、だんだん所作無さげに空を見つめる彼が浮かんできて、最後は全速力で走った。
角を曲がると、そこには想像通りの彼が居て、息を切らす私を見つけると、柔らかく微笑んでくれた。
それだけで、走ったことも相まって、顔に熱が集中した。
「ゆっくり来ればよかったのに」
私を心配そうに見つめる瞳には、きっと髪をボサボサにして顔を真っ赤にした格好悪い女が映ってるんだと思うと恥ずかしくなって、思わず俯いた。
「つらい?なにかジュースでも買ってこようか」
財布を出し始める彼に私は慌てて口を開いた。
「大丈夫大丈夫!ちょっと苦しかっただけ。ダイエットしなきゃかも」
しまった、と思った。
彼の前でダイエットなどと言ったら、私の体型を再確認しようとするに決まっているのに。
「いや、さっきのは俺より早いよ。それより美味しいもの食べたほうがいいと思うなぁ」
そう言って鞄からポッキーを出してくれる優しい彼を、好きになるなというほうが無理な話じゃないのか。
ポッキーを食べながら二人でのんびり帰る。
きっと彼にとってはなんでもない、その道中のお喋りが、私の1日の一番の楽しみだとは胸にしまっておく。
「クラスの男の子達が、雄哉君はモテて羨ましいって言ってたよ」
そんな話は毎度出るけれど。
「真面目な男を誑かしたいと思う女子が多いだけだよ」
「謙遜なんかしなくていいのに。好きな女の子とかいないの?」
いる、と言われたくないのに、言われたいとも思っている臆病なもう一人の私がいた。
本気になる前に、勘違いする前に、悲しいだけならまだしも、悔しくなんかなる前に、気持ちを断たせて欲しいとも思う私が。
「可愛い子を見ると付き合えたらどうなんだろう、とか時々思うんだけどさ。なんかそうやって浮ついてる自分が好きじゃないんだよなぁ。お前はそんな安い男なのか!みたいな」
軽快に笑うその姿もどこか上品で、確かに恋なんて浮ついたものに夢中になるには整いすぎてる気がした。
「あはは、そのままじゃ山月記の主人公みたいになっちゃうよ」
「そういう夏奈は?好きな奴いないの」
そんなこと聞かないで欲しい。
自分で聞いたのは棚に上げて、心の中で彼を責めた。
何故か、好きな人がいるか聞くより、聞かれるほうが、その何十倍も辛かった。
お前になんて興味ない、取るに足らない存在だと言われてる気がして。
諦めたいと思っているくせに、こうやって傷つくことを拒否するなんて、なんて虫がいい話だろう。
こんな中途半端な奴、誰も好きにはなってくれないに違いないのに。
「んー、どっちかっていうと、誰か一人でも私のこと好きになってくれる人いるの!?みたいなレベルかな」
「そっち?」
「だって、好きになったって、その人が私のこと好きになってくれなかったら意味ないじゃん?」
「恋愛したこともない俺が言うのも変だけど、意味ないことじゃないと思う。夏奈だって好きになってくれる人が欲しいわけだろ?それでその人を好きになる可能性だってあるじゃん?」
分かってる。
その言葉に傷つくのはお門違いだ。
初めは小走りで、だんだん所作無さげに空を見つめる彼が浮かんできて、最後は全速力で走った。
角を曲がると、そこには想像通りの彼が居て、息を切らす私を見つけると、柔らかく微笑んでくれた。
それだけで、走ったことも相まって、顔に熱が集中した。
「ゆっくり来ればよかったのに」
私を心配そうに見つめる瞳には、きっと髪をボサボサにして顔を真っ赤にした格好悪い女が映ってるんだと思うと恥ずかしくなって、思わず俯いた。
「つらい?なにかジュースでも買ってこようか」
財布を出し始める彼に私は慌てて口を開いた。
「大丈夫大丈夫!ちょっと苦しかっただけ。ダイエットしなきゃかも」
しまった、と思った。
彼の前でダイエットなどと言ったら、私の体型を再確認しようとするに決まっているのに。
「いや、さっきのは俺より早いよ。それより美味しいもの食べたほうがいいと思うなぁ」
そう言って鞄からポッキーを出してくれる優しい彼を、好きになるなというほうが無理な話じゃないのか。
ポッキーを食べながら二人でのんびり帰る。
きっと彼にとってはなんでもない、その道中のお喋りが、私の1日の一番の楽しみだとは胸にしまっておく。
「クラスの男の子達が、雄哉君はモテて羨ましいって言ってたよ」
そんな話は毎度出るけれど。
「真面目な男を誑かしたいと思う女子が多いだけだよ」
「謙遜なんかしなくていいのに。好きな女の子とかいないの?」
いる、と言われたくないのに、言われたいとも思っている臆病なもう一人の私がいた。
本気になる前に、勘違いする前に、悲しいだけならまだしも、悔しくなんかなる前に、気持ちを断たせて欲しいとも思う私が。
「可愛い子を見ると付き合えたらどうなんだろう、とか時々思うんだけどさ。なんかそうやって浮ついてる自分が好きじゃないんだよなぁ。お前はそんな安い男なのか!みたいな」
軽快に笑うその姿もどこか上品で、確かに恋なんて浮ついたものに夢中になるには整いすぎてる気がした。
「あはは、そのままじゃ山月記の主人公みたいになっちゃうよ」
「そういう夏奈は?好きな奴いないの」
そんなこと聞かないで欲しい。
自分で聞いたのは棚に上げて、心の中で彼を責めた。
何故か、好きな人がいるか聞くより、聞かれるほうが、その何十倍も辛かった。
お前になんて興味ない、取るに足らない存在だと言われてる気がして。
諦めたいと思っているくせに、こうやって傷つくことを拒否するなんて、なんて虫がいい話だろう。
こんな中途半端な奴、誰も好きにはなってくれないに違いないのに。
「んー、どっちかっていうと、誰か一人でも私のこと好きになってくれる人いるの!?みたいなレベルかな」
「そっち?」
「だって、好きになったって、その人が私のこと好きになってくれなかったら意味ないじゃん?」
「恋愛したこともない俺が言うのも変だけど、意味ないことじゃないと思う。夏奈だって好きになってくれる人が欲しいわけだろ?それでその人を好きになる可能性だってあるじゃん?」
分かってる。
その言葉に傷つくのはお門違いだ。
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