無冠の皇帝

有喜多亜里

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【01】連合から来た男

11 幹部会議しました

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 何とか自力で基地に帰還できてから間もなく、今度は幹部会議に出席しろというメールがドレイクの元に届いた。

「これ、例の同僚との顔合わせ? 出撃した後から? 普通、順番逆じゃない?」

 顔をしかめてディスプレイを睨みつけているドレイクに、イルホンは自分の執務机から「そうですね」と軽く応じた。

「でも、あのときの大佐は〝大佐〟の仕事はしていませんでしたからね。結局、黙って見ていられなくて、旗艦撃ち落としちゃいましたけど」

 ついでに殿下に説教までしちゃいましたけど、という言葉はイルホンの胸の中にしまっておいた。

「まさか、そのことで吊し上げ食らうの?」
「そんなことはないと思いますが……俺も初めてのことなのでわかりません」
「俺、こういう会議ってほんと苦手なんだよなあ。副官も同席OKかなあ。駄目でも許可してもらえねえかなあ。言葉がわからないので通訳として、とか」
「そんな大嘘、今さら通用しませんよ」

 いろいろ不安要素はあったが、出席しろと言われたら出席するしかない。二人は指定された日時に指定された会議室へと向かったが、三分前くらいでいいよと言うドレイクを無理矢理引っ張って、集合時刻の十五分前に到着したのにもかかわらず、すでに六人の大佐たちは円卓に着席していた。
 自動ドアが開いた瞬間、彼らはいっせいにこちらを向いたが、すぐに顔をそらせてしまった。二人とも、そのような態度をとられることは想定の範囲内だったので、特別驚きもしなければ傷つきもしなかった。

「イルホンくん。俺たち、時間間違ってないよね?」

 ドレイクが腕時計を確認してから、声を潜めて訊ねてきた。

「はい。間違っていません」
「『帝国』では〝何分前行動〟が常識なの? ちなみに『連合』では〝五分前〟だった」
「『帝国』でも同じですよ。可能性としては、幹部会議では〝十五分以上前行動〟が常識になっているか、他の大佐方の集合時刻が俺たちより早めになっていたかです」
「なるほど。でも、俺はもう〝五分前〟でいいや。……おう、副官も同席できるらしいぞ。でも、スペース的に俺たち、殿下の席の隣だよね? 何で? 転入生紹介でもしてくれるの?」

 言われて見てみれば、司令官が座るであろう中央の席――まだ空席だった――の左隣が確かにぽっかり空いている。

「転入生……」

 イルホンは噴き出しそうになったが、何とかこらえきった。

「そうですね、もしかしたら、してくれるかもしれませんね。ただ、殿下が大佐のことをどう紹介するつもりなのか、まったく想像がつきませんけど」
「俺もだよ。でも、それ以上に自己紹介しろとか言われたら嫌だな」
「ああ、それは俺も嫌ですね。大佐は何を言い出すかわかりませんから」

 小声で囁きあいながら、二人は〝転入生〟席についた。
 副官の椅子は〝大佐〟のそれの左斜め後ろに置かれていた。ドレイクたちの左隣には、かなり間隔はあったが、ドレイクより若干年上と思われる痩せぎすの金髪の〝大佐〟とその副官が座っていた。が、彼らは二人に一瞥も与えなかった。

「いやあ、ここまではっきり無視されると、いっそ清々しいよね」

 さわやかにドレイクは笑った。

「作り笑顔で仲よくしようなんて握手されるよりずっといいや」
「すっかりひねくれちゃって……」
「君も一度後ろからレーザー砲撃たれてみなさいよ」

 ドレイクがそう言い返してきたとき、イルホンたちが入ってきた自動ドアとは別のドアから、司令官とその側近であるヴォルフが入室してきた。大佐たちは立ち上がりかけたが、司令官が手を挙げて制止する。

「いつも言っている。起立も敬礼もいらない。すぐに会議を始める」
「うわー、ほんとに合理主義ー」

 ドレイクがイルホンだけに聞こえる大きさの声で言った。

「あと、残念ながら〝五分前〟では間に合わないことが判明した」

 司令官たちが姿を現したのは、集合時刻のまさに五分前だった。司令官は中央の席に座り、ヴォルフはそのまま彼の右斜め後方に立つ。

(近くで見ても、やっぱりものすごく綺麗な人だな)

 イルホンはドレイクの陰から司令官に見入った。
 波打つ金髪と青玉せいぎょくの瞳。傷一つない白い肌。
 もしやと思ってドレイクを覗きこむと、彼は実に嬉しそうにニタニタしていた。

「ここは特等席だなあ、イルホンくん」
「聞こえますよ」

 本当に聞こえたらしく、司令官はドレイクを見たが、何も言わずに前を向いた。

「本題に入る前に、一つ、連絡事項がある。すでに聞き及んでいることだろうが、この艦隊に〝大佐〟が一名加わった。名前はエドガー・ドレイク。今、私の隣でふんぞりかえっている男だ。『連合』からの亡命者で元軍人。階級は〝大佐〟だった。だが、私は〝大佐〟だったからここでも〝大佐〟としたわけではない。それを忘れるな」
「……ひでえ紹介」

 ドレイクはぼやいたが、イルホンは逆に、この司令官は非常に高くドレイクを買っていて、しかも気に入っているのだと思った。
 司令官は暗に言っている。このドレイクには、ここの〝大佐〟になれるだけの実力がある――つまり、おまえたちと立場は対等なのだと。
 確かに、ドレイクは「連合」にいたときには無人砲撃艦を一〇〇〇隻近くまで撃ち落とし、「帝国」に亡命してきてからは「連合」の艦隊二〇〇〇隻をたった一人で殲滅した(ドレイクによると〝はったりが効いただけ〟だそうだが)。実力的には、今ここにいるドレイク以外の大佐たちよりも上なのではないだろうか。〝ふんぞりかえっている〟という表現も、蔑みではなく親しみがこめられている気がする。現にドレイクに〝説教〟されても、この司令官はまだ彼に処罰のようなものは与えていない。

「ドレイク」

 その司令官が、彼を見ないまま名前を呼んだ。

「あい」

 別段、驚いた様子もなく、ふぬけた返事をする。

「おまえの同僚を紹介する。一度しか紹介しないから、そのつもりで覚えろ。右から順に、アルスター大佐、ウェーバー大佐、コールタン大佐、ダーナ大佐、パラディン大佐、マクスウェル大佐。……覚えたか?」

 ――また意地の悪いことを。もしかして、これが処罰?
 イルホンは眉をひそめたが、彼の直属の上官は即答した。

「はい、覚えました。皆さん、よろしくお願いしまーす」
「右から三番目にいるのは?」
「コールタン大佐」
「左から二番目は?」
「パラディン大佐」

 精悍な顔をした赤毛の男――コールタンや、柔和な顔をした黒髪の男――パラディン以外の大佐たちの顔にも、少なからず驚きの表情が浮かんだ。
 そういえば、ドレイクは部下の顔と名前もすぐに覚えた。そして、これまで一度も間違えたことがない(イルホンを〝エロホン〟と呼んでいたのは故意だ)。
 ドレイクは言う。テスト一問間違えるより、名前一回間違えたほうが致命的。
 まさにそのとおりだと、イルホンは今、心から思った。
 司令官は満足そうに笑ってドレイクを見やった。だが、またすぐに正面を向いてしまった。

「では、本題に入る。各自、手元の端末を見てくれ」

 司令官の一言で、卓上に設置されたディスプレイにグラフが表示された。

「それは、私が約三〇〇〇隻の艦艇を出撃させるようになってから現在までの、『連合』を〝全艦殲滅〟するまでにかかった時間の推移だ。最初のうちは戦うたびに短縮されていたのに、一年前の中頃を境にして、逆に長期化している。現在は二年前の終わりと変わらないくらいだ。しかし、奴らが送りこんでくる艦艇数は毎回約三〇〇〇隻と一定している。……これはいったいどうしたわけだ?」

 会議室内の空気が一瞬にして張りつめる。イルホンがドレイクの表情を窺うと、彼は興味深そうにグラフを眺めていた。
 ドレイクの〝説教〟に対して、司令官はこのように切り返してきた。ドレイクはこのデータをどのように分析したのだろう。ぜひ訊いてみたかったが、この場では無理そうだった。
 一方、円卓を見渡していた司令官は、自分の右側から二番目に座っていた〝大佐〟に目を留めた。

「ウェーバー大佐。どうだ?」
 
 黒髪に白髪が交じりはじめている小太りな男である。司令官から名指しされた彼は、見ているだけで気の毒になるくらい動揺していた。

「そ、それは……『連合』も我々との戦い方を学習したということではないかと……」
「ほう。では、このままの状態で戦いつづければ、我々はいつか『連合』に敗れるかもしれないということか?」
「い、いえ、そのようなことはないと存じますが……」

 ――これでよく〝大佐〟になれたな。
 失礼ながら、イルホンはそう思ってしまった。同時に、なぜ司令官がドレイクを〝大佐〟にしたのか、改めてわかったような気がした。
 その司令官はウェーバーを無表情に眺めていた。が、これ以上質問を続けても埒が明かないと思ったのか、今度はコールタンの右隣にいる大佐に目を転じた。

「ダーナ大佐はどうだ?」
「そうですね。確かに『連合』が我々に慣れたということもあるでしょうが、我々自身が戦いに慣れてしまったということもあるのではないでしょうか」

 赤みががった金髪の、知的そうな顔立ちをした男である。イルホンより年上、ドレイクより年下と見える彼は、話し方も態度も落ち着いていて、ウェーバーよりは使えそうに見えた。

「戦いに慣れた?」
「言葉は悪いですが、『連合』と戦うことに飽きてしまったということです。戦闘時間が最短になった時期は、戦闘形式が完成された頃なのだと思います。以後はその形式にのっとって戦ってきた。しかし、同じことの繰り返しは倦怠を招きます。その結果、戦闘時間が長引いてしまっているのではないかと」
「という意見が出ているが、『連合』出身者はどう考える? ドレイク大佐」
「え、俺にも振るんですか?」

 ドレイクは迷惑そうな顔をしたが、イルホンは心の中で司令官に感謝した。

「そうですねえ……この資料一つだけじゃ何とも言えないですが……根本的な要因はダーナ大佐のおっしゃるとおりなんじゃないですか? 現場の人間がそう言ってるんだから」
「同じことの繰り返しに飽きているということか?」
「少なくとも、ダーナ大佐は」

 ダーナがドレイクを睨みつける。しかし、ドレイクはまったく意にも介さなかった。

「では、おまえはどうすれば戦闘時間を短縮することができると思う?」
「究極は、旗艦以外全部無人艦にしちまうことですかね。しかし、こいつはリスクが高すぎる。もしも遠隔操作できなくなったら、それでアウトですからね。そういうときのために、有人艦も出撃させておかなきゃならない。……そうなんでしょう?」
「……そうだな」

 一見そっけない司令官の返事を聞いてから、ドレイクは腕組みをして椅子の背もたれに寄りかかった。

「殿下。殿下ならこの資料も作成していらっしゃると思うんですが、それを見せたら一発でわかるんじゃないですかね。……無人艦と有人艦の帰還率の推移」

 ざわめきが起こった。イルホンは呆然と、司令官は眉をひそめてドレイクを見ていた。が、わずかに溜め息を吐き出すと、司令官はコンソールを操作した。先ほどのグラフに、無人艦と有人艦の帰還率のそれが重ねられる。
 有人艦の帰還率が常に百パーセント近いのに対し、無人艦の帰還率は戦闘時間が長くなるごとに低下していた。
 会議室内が静まり返る。体を起こしてディスプレイを眺めてから、ドレイクは再び椅子にもたれかかった。

「殿下。もうはっきり言っておやんなさいよ。やる気のないおまえらを守るのに無人艦を使わなきゃならないから、その分戦力が落ちて、戦闘が長引いちまってるんだって。同じことを繰り返すことに飽きただぁ? だったら人生そのものやめちまえ。人生自体、同じことの繰り返しだ」

 後半は明らかにダーナに向けられていた。冷静と思えたダーナだったが、顔を紅潮させて立ち上がりかけた。それを副官が止めようとしたとき、司令官はダーナを制するように凝視した。

「ドレイク。……そこまでにしておけ」
「はい、殿下」

 軽く頭を垂れて、ドレイクは素直に引き下がった。
 ダーナは憤りがおさまらない様子だったが、司令官の無言の圧力に屈して、不本意そうに椅子に座り直す。それを確認してから、司令官は再度口を開いた。

「戦闘時間長期化の原因が何であれ、次回出撃時には、以前達成した最短時間内に戦闘を終了させる。同時に、敵の艦艇数が二〇〇〇隻を切った時点で、無人艦は無条件に撤収する。この資料はあとで皆に送信しておくが、異議のある者はいるか? いなければこのまま会議を終了する」

 * * *

「大佐……俺、自分の人を見る目に自信がなくなりました」

 執務室に戻った後、ドレイク用の薄いコーヒーを差し出しながら、イルホンはどんよりとした気分で告白した。
 執務机の椅子ではなくソファにどっかりと座っているドレイクは、コーヒーを一口飲んでから言った。

「ウェーバーより、ダーナのほうができる奴だと思っちゃったのね」

 普通の濃さのコーヒーを飲んでいたイルホンは、思わず噴き出しそうになった。

「な、何でわかるんですか?」
「イルホンくんより年食ってるから」

 あっさりドレイクは答える。

「そんなに落ちこまなくてもいいよ。仕事ができるかできないかは、実際やらせてみなくちゃわかんないから。俺は単にダーナみたいなのが嫌いでね。ウェーバーをダシにして自分のほうが優れてるとアピールしようとして、逆に墓穴を掘ってることに気づかない。ウェーバーは少なくとも同僚の足は引っ張らなかった。『連合』が戦い方を学習したっていうのも間違っちゃいない。戦闘時間を延長させることには成功してるからな」
「殿下はあんなことをおっしゃいましたけど……本当に短縮できるんでしょうか?」
「荒療治だよねえ。でも、俺だったら〝達成できなかったら減給〟ってつけくわえるけどね」
「それでやる気になるのは大佐くらいですよ。それにしても、大佐は確実にダーナ大佐を敵に回しましたね」
「あー、俺の悪い癖だよなあ」

 ドレイクは天井を見上げて嘆息した。

「殿下の思惑にまんまと乗せられちまった」
「思惑?」
「俺はあいつらの発憤材料でもあるんだよ。それでも駄目な奴はたぶん〝大佐〟じゃなくされる。俺に言われるまでもなく、殿下も自分でわかっちゃいたんだ。だから俺はいまだに処罰されてない」
「それ以前に大佐、殿下にずいぶん気に入られてるように見えますけど……」
「俺はうまく利用されてる気がするがなあ。まあ、殿下にならいくら利用されてもいいさ。給料さえきちんと払ってくれれば」

 イルホンは少し考えてから、ドレイクに訊ねた。

「大佐、殿下のこと、好きなんですよね?」

 ドレイクの〝襲撃&告白言い逃げ事件〟は、悪夢の出来事として箝口令かんこうれいを敷かれていたのだが、言い逃げした本人が亡命してきたため、いまや完全に有名無実化していた。

「いくら好きでも、お金がなくちゃ生きていけません」

 真顔できっぱり言いきるドレイクを見てイルホンは思った。
 ――変態でも、やっぱり愛より金なんだな。

 * * *

 「帝国」皇帝軍護衛艦隊司令官の執務室を初めて訪れた者は、まずその普通さに驚かされる。佐官クラスの執務室と広さも設備もほとんど変わらないのだ。
 二年前、アーウィンが就任したときには、司令官の執務室は最高級ホテルのスイート並みだった。

 ――広すぎる。

 一目見て一言そう評したアーウィンは、そこは次の司令官のために〝開かずの間〟とし、別の部屋を新たな執務室としたのだった。
 その執務室では、キャルが一人で端末を操作していた。彼は主人が戻ってきたことを知ると、手は休めずに顔だけを向けた。

「お帰りなさいませ、マスター」
「何か変わったことは?」
「マスターの機嫌がとてもよさそうなことくらいです」

 アーウィンは硬直して〈フラガラック〉専属オペレータを見つめ、ヴォルフは彼の背後で苦笑いを噛み殺していた。
 この無表情なオペレータは、〈フラガラック〉にいるときにはアーウィンの命令に忠実に従うが、船を降りると少々皮肉屋になる。否。本人は事実そのままを口にしているだけで、皮肉のつもりではないのかもしれない。
 確かに、アーウィンはとても機嫌がよかった。と言っても、彼の〝機嫌がよい〟は親しい者でないとわかりにくい。他の人間なら普通の状態が、彼の〝機嫌がよい〟状態だからだ。

「あー、やっと座れる」

 ヴォルフは自分専用の大きめのソファに座り、アーウィンはその向かいにある普通サイズのソファに腰を下ろす。
 この執務室に執務机は二つしかない。アーウィンとキャルの分だ。ヴォルフはあくまでアーウィンの護衛であって、副官でも補佐官でもない。しかし、手が足りなくなると、彼もこのソファセットで事務仕事をさせられるのだった。

「幹部会議が終わった後は、いつも怒って帰ってこられるので驚きました」

 淡々とキャルは言い、サーバーから注いだコーヒーを二人の前に置いた。

「今日は何かよいことでもあったのですか?」
「〝新入り〟が期待以上の仕事してくれたんで嬉しいんだ」

 ヴォルフはにやにやして、自分には小さすぎるコーヒーカップを傾ける。

「新入り……ドレイク大佐ですか?」
「〝変態〟でいい、〝変態〟で」

 アーウィンはぞんざいに言ってコーヒーを飲んだ。

「その〝変態〟がおまえの言いたかったこと、代わりにほとんど言ってくれたんだろうが。事前に打ちあわせしてあったんじゃないかって、俺まで疑いたくなったぞ」
「本当にそんなことをしていたら、あんな人生観まで語らせたりはしない」
「俺は個人的に、あの人生観にいちばん感銘を受けたがな。とにかく、おまえがあの男を〝大佐〟のまま採用した理由は今日でよくわかった。そして、あの男が上官や同僚に殺されそうになった理由もよくわかった」
「ここではそんなことは絶対にさせん。変態だが有能な男だ。ただ、それだけに使い方が難しい。そのうえ今は〈ワイバーン〉も熟達した部下もない。さてどうするか」

 独りごちたアーウィンは、カップを持ったままソファから立ち上がると、自分の執務机に行って黙考しはじめた。

「楽しそうですね。マスター」
「そりゃ、何の打ちあわせもなしに自分の言いたいこと言ってくれる部下がいたら、楽しくもなるだろうさ。あんまり楽しすぎて、今は他の大佐のことなんかすっかり忘れちまってるだろ」
「私はまだ、ドレイク大佐に直接お会いしたことがありません」
「そういえばそうか。俺も顔は合わせるが、話したことはまだ一度もないな」
「……〈ワイバーン〉を沈めてしまいました」

 唐突で口調も平坦だったが、そこに自責や後悔に似たものを感じて、ヴォルフは小柄なオペレータを見上げた。

「あのときはしょうがなかっただろ、敵だったんだから。奴もおまえを恨んじゃいない。あいつが恨んでいたのは、自分ごと部下を殺そうとした『連合』だ」
「いつかは直接お会いできるでしょうか」
「いつかはな。でも、そう遠い先のことじゃないと思うぞ。たぶん、アーウィンは〈フラガラック〉に奴を連れてくる」
「それほどお気に入りですか」
「変態でも有能だから。……ってだけでもないよな、あれは」

 今度は端末を操作しはじめたアーウィンには、部下たちの会話など、まったく聞こえていないようだった。
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