67 / 169
【02】マクスウェルの悪魔たち(上)
閑話 すれ違いまくっていました
しおりを挟む
「ドックに戻る前に、六班長のこと、電話でみんなに知らせとくか?」
そう言ってキメイスが自分の少し後方を歩くフォルカスを振り返ったのは、〝ドレイク棟〟のエントランスを出てからのことだった。
「あ、ああ……そうだな……」
そう答えはしたものの、フォルカスの表情は沈みきっていて、見るからに心ここにあらずといった様子である。理由はわざわざ訊ねるまでもなかったが、その理由の起因がキメイスにはわからなかった。
「なあ、フォルカス。前から不思議に思ってたんだが、おまえ、あの六班長のどこがそんなに嫌なんだ? マクスウェル大佐隊の班長の中では、あの人はまともなほうだっただろ?」
「確かにな」
渋々フォルカスは同意する。
「最初のうちは俺もそう思ってたよ。あの隊に配属されて、これで俺の人生終わったって思ったけど、班長はまともそうで助かったってさ。実際、真面目で面倒見もよかった」
「なら、どうして……」
フォルカスは数秒黙ると、自分の額にかかる白金の髪を指先でつまみ上げ、紺碧の目で上目遣いに見つめた。
「よく言われるけど、俺のこの髪の色って、脱色とかじゃなくて地毛なんだ」
「それは知ってるが……眉も睫もその色だし……」
ついでに言うなら、その色のせいで人の目はもっぱら髪に集中し、実は非常に整った顔立ちをしていると気づかれにくいのだが、それはティプトリーの女顔と同様、本人の前では言ってはいけないことにドレイク大佐隊内ではなっていた。たとえどんなに顔が崩れようが、フォルカスは陽気に笑っていたほうがいい。
「で? その色がどうした?」
「うーん……六班に配属されてしばらく経った頃にな、同じ班で程度の悪い奴らに、新入りのくせに髪染めてるのかって絡まれたんだ。うんざりして地毛ですって答えたら、本当か、下の毛も見せてみろって言われてな……」
「ほんとに程度悪いな」
キメイスは笑っても崩れない端整な顔をしかめたが、それくらいのことはあの隊なら日常茶飯事だった。ドレイク大佐隊は程度がよすぎるのである。敬礼は苦手だが。
「ああ、やっぱりこの隊は嫌だと心底思ったな。でも、その次の瞬間には、そいつらみんな吹っ飛んでた」
「え? 実はおまえ、念動力者?」
「そうだったらよかったんだけどな……」
フォルカスは生ぬるく笑って、路面に視線を落とす。
「いつからそこにいたのか、六班長がそいつらを殴ったんだ……」
一拍おいてから、キメイスは問い返した。
「あの六班長が?」
「そう、あの六班長が。三、四人いたと思うが、無言で全員ぶっ飛ばして、その中でもリーダー格だった男を執拗に殴りつづけてた。そいつが失神してもやめようとしないから、さすがに周りも見かねて止めようとしたんだが、あのガタイだからうかつに近寄れなくてなあ。俺も恐ろしかったが、一応助けてもらったことには違いないから、勇気を振りしぼって、班長、もういいです、やめてくださいって言ったんだ」
「そのまま殴らせつづけとけばよかったのに」
思ったままを口にすれば、呆れたような目をフォルカスに向けられる。
「俺が原因で死人出したくないだろ。やっぱりおまえ、過激派だな」
「いや、そのときの六班長の怒りがわからないでもないから。で、どうなった?」
「ぴたっと殴るのをやめると、普段どおりに笑って、不快な思いをさせてすまなかったと俺に謝った。……返り血を浴びた顔で」
これにはキメイスもこう呟かずにはいられなかった。
「ひええ……」
「俺だけじゃなく、そのとき周りにいた人間、全員ドン引きしてたよ……」
「でも、それはまだかろうじて、班内の風紀を粛正したと言えないか?」
「粛正か……」
フォルカスはまた生ぬるく笑う。
「そいつら全員、病院送りにされたまま退役したけどな……」
「ああ……それならもう〝粛清〟だな……」
「とにかく俺、それで六班長が怖くなってな。その後は極力近づかないようにした。でも、そしたら逆に向こうがやたらと俺に話しかけてくるようになってな。整備も六班長の軍艦に固定されちまって、ちょくちょく所在確認されるようになった」
「それって……ストーカー……?」
「に近いものはあったな。俺ももうあの〝血の粛清〟は見たくないから、なるべく整備仲間とつるんで単独行動はしないようにしてたんだが、この髪の色のせいか、外歩ってると結構絡まれてな。かわして逃げようとする前に、なぜか六班長が現れて、あのときと同じことを繰り返すんだ……」
キメイスは言葉を失った。が、何とか気を取り直して口を開いた。
「まあ……やりすぎでも、一応おまえを守ってくれてたんだから、少しは感謝してもいいんじゃないのか?」
「あんな守り方されてもなあ。いきなり殴ることはないだろ。まず口で注意すりゃいいじゃねえか」
「そりゃそうだが……おまえは六班長が嫌いっていうより、怖いのか?」
「……そうだな」
少し考えてから、フォルカスは硬い表情でうなずいた。
「実は、この髪の色を変えれば目立たなくなるかと思って、一度黒く染めたことがある」
「え。……想像がつかない」
「自分では気に入ってたんだが、その日のうちに六班長に元の髪の色に戻せと言われた。……髪が傷むからって」
沈黙が落ちた。自分は訊いてはいけないことを訊いてしまったかもしれない。公園の遊歩道のような道を歩きながらキメイスは後悔しはじめていたが、ここまで来たらもう打ち切ることもできない。
「その理由も何だが……嘘だな。絶対おまえの地毛の色を気に入ってたな」
「な? 怖いだろ?」
すがるように問われて、キメイスは迷いなく認めた。
「ああ。……めちゃくちゃ怖い」
「どうしよう……俺、もう出勤できないかもしれない……」
「そうだな……だったら、マシムを護衛艦がわりにしたらどうだ? あれならあの六班長を前にしても絶対動じない」
「なるほど!」
フォルカスは瞳を輝かせて握り拳を作った。気分が上向くほど美形度は下がる。損なのか。得なのか。
「マシムなら六班長とほとんど身長変わらないしな。俺のこと、〝〈ワイバーン〉の面倒見てくれる人〟って認識してるから、頼めば引き受けてくれるな」
「いや、別にそうじゃなくても、マシムはおまえの言うことをきくと思うが……」
「年上だからか?」
「……おまえ、何で六班長が多少常軌を逸していても、自分のことを守りつづけてくれたと思ってるんだ?」
フォルカスは眉をひそめて両腕を組んだ。
「それがわからないから怖いんだよ……」
このとき、キメイスは例の〝血の粛清〟の話を聞かされたときよりも愕然とした。
「ええっ!」
「……何だよ。その信じられないものを見るような目は」
「わからない? 本当にわからないのか? そんなストーカーまがいのことをされてても?」
「心当たりといえば、この髪の色くらいしか……」
そう言うフォルカスの顔はあくまで真剣である。キメイスは思わず自分の額を右手で覆った。
「俺……ちょっと六班長に同情したくなってきた……」
「何でだよ。同期なんだから、俺のほうに同情しろよ」
「……もしかして、おまえ、マクスウェル大佐隊からじゃなくて、あの六班長から逃げ出したかったのか?」
「いや、六班長もこみでマクスウェル大佐隊だから。あんな隊だからあんなのが班長してるんだ」
憤然とそう言い張る同僚に、キメイスは憐憫の眼差しを向ける。
「よかったな。うちの隊に転属させてもらえて」
しかし、フォルカスはキメイスの言葉を額面どおりに受け取ったらしく、全開の笑顔で答えた。
「ああ、よかった! 転属願は今まで何度も出してたんだけど、なぜか返却もされなかったんだよな」
「え?」
「転属願は却下されたら〝大佐〟通して返却されるだろ? それが今まで一度もなかった」
「……当然、六班長には黙って出してたんだよな?」
「当然だろ。何でわざわざ断る必要がある」
不愉快そうにフォルカスは言ったが、キメイスにはそのからくりの想像がついた。
おそらく、総務部から返却されただろうフォルカスの転属願は、マクスウェルの目に触れる前に、何者かの手によってすべて秘密裏に処分されていたのだ。そんなことができるのはマクスウェルの副官くらいで、その副官はキメイスの元上官――四班長とつながっていた。六班長はあの男と何らかの取引をして、フォルカスの転属願を握り潰していたに違いない。
「うん……そうだな……世の中には知らないほうが幸せってこともあるよな……」
力なくキメイスは笑った。できれば、自分も知りたくはなかった。
「何だよ、それ」
「まあ、とにかく耐えろ。ギブスンのために」
「そうか。それならギブスンにも護衛艦になってもらうか。あの二人の陰なら完全に隠れられる」
「重症だな」
「何とでも言え。おまえも俺の立場になったらわかる。ろくに話もしたことないのに過剰に守られる恐怖が」
「え? やたらと話しかけられてたんだろ?」
「適当にはぐらかしてすぐに逃げてたから。俺は別に六班長と話したいことなんかなかったし」
平然とそう言いきったフォルカスを見て、キメイスは大きな溜め息を一つついた。
「六班長……哀れだ……」
「だから、何で俺に同情しないんだよ」
フォルカスの察しのよさは、自分に対する他人の感情には発揮されないようだった。
そう言ってキメイスが自分の少し後方を歩くフォルカスを振り返ったのは、〝ドレイク棟〟のエントランスを出てからのことだった。
「あ、ああ……そうだな……」
そう答えはしたものの、フォルカスの表情は沈みきっていて、見るからに心ここにあらずといった様子である。理由はわざわざ訊ねるまでもなかったが、その理由の起因がキメイスにはわからなかった。
「なあ、フォルカス。前から不思議に思ってたんだが、おまえ、あの六班長のどこがそんなに嫌なんだ? マクスウェル大佐隊の班長の中では、あの人はまともなほうだっただろ?」
「確かにな」
渋々フォルカスは同意する。
「最初のうちは俺もそう思ってたよ。あの隊に配属されて、これで俺の人生終わったって思ったけど、班長はまともそうで助かったってさ。実際、真面目で面倒見もよかった」
「なら、どうして……」
フォルカスは数秒黙ると、自分の額にかかる白金の髪を指先でつまみ上げ、紺碧の目で上目遣いに見つめた。
「よく言われるけど、俺のこの髪の色って、脱色とかじゃなくて地毛なんだ」
「それは知ってるが……眉も睫もその色だし……」
ついでに言うなら、その色のせいで人の目はもっぱら髪に集中し、実は非常に整った顔立ちをしていると気づかれにくいのだが、それはティプトリーの女顔と同様、本人の前では言ってはいけないことにドレイク大佐隊内ではなっていた。たとえどんなに顔が崩れようが、フォルカスは陽気に笑っていたほうがいい。
「で? その色がどうした?」
「うーん……六班に配属されてしばらく経った頃にな、同じ班で程度の悪い奴らに、新入りのくせに髪染めてるのかって絡まれたんだ。うんざりして地毛ですって答えたら、本当か、下の毛も見せてみろって言われてな……」
「ほんとに程度悪いな」
キメイスは笑っても崩れない端整な顔をしかめたが、それくらいのことはあの隊なら日常茶飯事だった。ドレイク大佐隊は程度がよすぎるのである。敬礼は苦手だが。
「ああ、やっぱりこの隊は嫌だと心底思ったな。でも、その次の瞬間には、そいつらみんな吹っ飛んでた」
「え? 実はおまえ、念動力者?」
「そうだったらよかったんだけどな……」
フォルカスは生ぬるく笑って、路面に視線を落とす。
「いつからそこにいたのか、六班長がそいつらを殴ったんだ……」
一拍おいてから、キメイスは問い返した。
「あの六班長が?」
「そう、あの六班長が。三、四人いたと思うが、無言で全員ぶっ飛ばして、その中でもリーダー格だった男を執拗に殴りつづけてた。そいつが失神してもやめようとしないから、さすがに周りも見かねて止めようとしたんだが、あのガタイだからうかつに近寄れなくてなあ。俺も恐ろしかったが、一応助けてもらったことには違いないから、勇気を振りしぼって、班長、もういいです、やめてくださいって言ったんだ」
「そのまま殴らせつづけとけばよかったのに」
思ったままを口にすれば、呆れたような目をフォルカスに向けられる。
「俺が原因で死人出したくないだろ。やっぱりおまえ、過激派だな」
「いや、そのときの六班長の怒りがわからないでもないから。で、どうなった?」
「ぴたっと殴るのをやめると、普段どおりに笑って、不快な思いをさせてすまなかったと俺に謝った。……返り血を浴びた顔で」
これにはキメイスもこう呟かずにはいられなかった。
「ひええ……」
「俺だけじゃなく、そのとき周りにいた人間、全員ドン引きしてたよ……」
「でも、それはまだかろうじて、班内の風紀を粛正したと言えないか?」
「粛正か……」
フォルカスはまた生ぬるく笑う。
「そいつら全員、病院送りにされたまま退役したけどな……」
「ああ……それならもう〝粛清〟だな……」
「とにかく俺、それで六班長が怖くなってな。その後は極力近づかないようにした。でも、そしたら逆に向こうがやたらと俺に話しかけてくるようになってな。整備も六班長の軍艦に固定されちまって、ちょくちょく所在確認されるようになった」
「それって……ストーカー……?」
「に近いものはあったな。俺ももうあの〝血の粛清〟は見たくないから、なるべく整備仲間とつるんで単独行動はしないようにしてたんだが、この髪の色のせいか、外歩ってると結構絡まれてな。かわして逃げようとする前に、なぜか六班長が現れて、あのときと同じことを繰り返すんだ……」
キメイスは言葉を失った。が、何とか気を取り直して口を開いた。
「まあ……やりすぎでも、一応おまえを守ってくれてたんだから、少しは感謝してもいいんじゃないのか?」
「あんな守り方されてもなあ。いきなり殴ることはないだろ。まず口で注意すりゃいいじゃねえか」
「そりゃそうだが……おまえは六班長が嫌いっていうより、怖いのか?」
「……そうだな」
少し考えてから、フォルカスは硬い表情でうなずいた。
「実は、この髪の色を変えれば目立たなくなるかと思って、一度黒く染めたことがある」
「え。……想像がつかない」
「自分では気に入ってたんだが、その日のうちに六班長に元の髪の色に戻せと言われた。……髪が傷むからって」
沈黙が落ちた。自分は訊いてはいけないことを訊いてしまったかもしれない。公園の遊歩道のような道を歩きながらキメイスは後悔しはじめていたが、ここまで来たらもう打ち切ることもできない。
「その理由も何だが……嘘だな。絶対おまえの地毛の色を気に入ってたな」
「な? 怖いだろ?」
すがるように問われて、キメイスは迷いなく認めた。
「ああ。……めちゃくちゃ怖い」
「どうしよう……俺、もう出勤できないかもしれない……」
「そうだな……だったら、マシムを護衛艦がわりにしたらどうだ? あれならあの六班長を前にしても絶対動じない」
「なるほど!」
フォルカスは瞳を輝かせて握り拳を作った。気分が上向くほど美形度は下がる。損なのか。得なのか。
「マシムなら六班長とほとんど身長変わらないしな。俺のこと、〝〈ワイバーン〉の面倒見てくれる人〟って認識してるから、頼めば引き受けてくれるな」
「いや、別にそうじゃなくても、マシムはおまえの言うことをきくと思うが……」
「年上だからか?」
「……おまえ、何で六班長が多少常軌を逸していても、自分のことを守りつづけてくれたと思ってるんだ?」
フォルカスは眉をひそめて両腕を組んだ。
「それがわからないから怖いんだよ……」
このとき、キメイスは例の〝血の粛清〟の話を聞かされたときよりも愕然とした。
「ええっ!」
「……何だよ。その信じられないものを見るような目は」
「わからない? 本当にわからないのか? そんなストーカーまがいのことをされてても?」
「心当たりといえば、この髪の色くらいしか……」
そう言うフォルカスの顔はあくまで真剣である。キメイスは思わず自分の額を右手で覆った。
「俺……ちょっと六班長に同情したくなってきた……」
「何でだよ。同期なんだから、俺のほうに同情しろよ」
「……もしかして、おまえ、マクスウェル大佐隊からじゃなくて、あの六班長から逃げ出したかったのか?」
「いや、六班長もこみでマクスウェル大佐隊だから。あんな隊だからあんなのが班長してるんだ」
憤然とそう言い張る同僚に、キメイスは憐憫の眼差しを向ける。
「よかったな。うちの隊に転属させてもらえて」
しかし、フォルカスはキメイスの言葉を額面どおりに受け取ったらしく、全開の笑顔で答えた。
「ああ、よかった! 転属願は今まで何度も出してたんだけど、なぜか返却もされなかったんだよな」
「え?」
「転属願は却下されたら〝大佐〟通して返却されるだろ? それが今まで一度もなかった」
「……当然、六班長には黙って出してたんだよな?」
「当然だろ。何でわざわざ断る必要がある」
不愉快そうにフォルカスは言ったが、キメイスにはそのからくりの想像がついた。
おそらく、総務部から返却されただろうフォルカスの転属願は、マクスウェルの目に触れる前に、何者かの手によってすべて秘密裏に処分されていたのだ。そんなことができるのはマクスウェルの副官くらいで、その副官はキメイスの元上官――四班長とつながっていた。六班長はあの男と何らかの取引をして、フォルカスの転属願を握り潰していたに違いない。
「うん……そうだな……世の中には知らないほうが幸せってこともあるよな……」
力なくキメイスは笑った。できれば、自分も知りたくはなかった。
「何だよ、それ」
「まあ、とにかく耐えろ。ギブスンのために」
「そうか。それならギブスンにも護衛艦になってもらうか。あの二人の陰なら完全に隠れられる」
「重症だな」
「何とでも言え。おまえも俺の立場になったらわかる。ろくに話もしたことないのに過剰に守られる恐怖が」
「え? やたらと話しかけられてたんだろ?」
「適当にはぐらかしてすぐに逃げてたから。俺は別に六班長と話したいことなんかなかったし」
平然とそう言いきったフォルカスを見て、キメイスは大きな溜め息を一つついた。
「六班長……哀れだ……」
「だから、何で俺に同情しないんだよ」
フォルカスの察しのよさは、自分に対する他人の感情には発揮されないようだった。
20
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる