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【02】マクスウェルの悪魔たち(上)
エピローグ
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「結局、九人全員、ダーナ大佐隊から調達してきたな……」
端末のディスプレイに表示されている、ドレイクから送られてきたばかりの四人分の転属願を、ヴォルフは呆れながらアーウィンの背後から眺めた。
「まあ、どの隊員も生粋のダーナ大佐隊員ではないがな」
一方、アーウィンはずっと楽しげに笑っている。
「九人のうち班長だった者が六人。とんでもないな。特に最後の一人がすごい。操縦士だったからダーナ大佐隊からもぎとったのが丸わかりだ」
「もぎとった?」
「ダーナがサインをしているところを見ると、あの転属願はあの隊員たちが勝手に出したのではなく、ダーナの命令で出されたものだったのだろう」
ヴォルフは驚いて金色の目を見開いた。
「何でまたそんな真似を?」
「さあな。そればかりはダーナに訊いてみないことにはわからないが、結局、こういう形で収束させることになったのだろう。それなら私が介入して事を荒立てることもあるまい。それより、あの変態は配置図が早く欲しいらしいぞ」
「それはドレイクばかりじゃないだろう。他の大佐たちだって、催促はしてこないが欲しいと思ってるんじゃないのか?」
「……あの変態のところだけ、送らないでいてやろうか」
「どうしてそんな嫌がらせを……」
「冗談だ。キャル。とりあえず配置図だけ、大佐全員に一斉送信してやれ」
「承知しました」
「ドレイクのところには、また別に送信するのか?」
「うむ。何か一言言ってやりたいのだが、これはという文句が思い浮かばん」
「ならやめとけよ。そんなことを考えている時間があったら仕事をしろ、仕事を」
「……ヴォルフ。おまえはいつも暇そうでいいな」
「最近はそうでもなくなってきたぞ。ちょっと目を離すと、おまえがしなくてもいい仕事をしているからな。……おいこら。どうして転属手続きまで自分でしようとしてるんだ。それくらい、キャルか人事に任せろ」
「あの変態の隊に関することで、私に把握できないことがあるのは嫌だ」
「だからって、手続き事務までする必要がどこにある! 結果さえ確認できればそれでいいだろうが!」
「手続きの過程で、何か重大な発見が……」
「アーウィン……おまえにはもっと気にかけるべき重大な事案が山ほどあるだろう? キャル! 俺がこの男を拘束してる間に、おまえがドレイクのところの転属手続きを完了させろ!」
「私を拘束したら、他の仕事ができないぞ!」
「仕事だと? どうせ今のおまえはドレイク関係のことしかしないだろ! このストーカーが!」
「私のどこがストーカーだ! 定番の盗聴器や盗撮カメラは仕掛けていない!」
「いばれることか! 本当にそこまでしていたら、本気で俺はおまえを侮蔑する!」
「……ヴォルフ。手続き完了しました」
冷静にキャルが報告する。
結局、ヴォルフはアーウィンに触れることなく目的を達成した。
「くそう……これでもし何か問題が起こったら、ヴォルフ、おまえの責任だ!」
「それ以前にアーウィン! おまえのその思考回路のほうが問題だ!」
二人が低レベルすぎる言い争いをしている間に、キャルは一通のメールを作成し、ドレイクにあてて送信した。
――ドレイク様。四名分の転属手続き完了いたしました。一言だけでもかまいませんので、マスターにメッセージをお願いいたします。……マスターが荒れています。
キャルがドレイクに四名分の転属手続き完了を知らせるメールを送信してから数分後。
いつものように明らかに副官の代筆で、それに対する謝礼メールが返信されてきた。
「わざわざ副官に代筆させなくても、〝ありがとうございました〟の一言でかまわんのだがな」
そう言いながら、アーウィンはドレイクの〝一言〟を求めて、形式的な謝礼部分を読み飛ばす。
「向こうはおまえがそう考えてるとは知らないだろ。メールは副官に代筆させることができるから、おまえあてにはまともなのをよこしてるんじゃないか? 追伸以外」
その〝追伸〟にだけ興味があるヴォルフは、例によってアーウィンの背後からディスプレイを見下ろしていた。
「……あった。が、何だこれは?」
一瞬、嬉しそうな顔はしたものの、すぐにアーウィンは柳眉をひそめる。
「さあ……一応、おまえに感謝してるんじゃないのか?」
「私には嫌味としか思えないが……」
ヴォルフもそう思わないでもなかったが、メールを〝検閲〟されていると知っているだろうドレイクが、こう書きたくなる気持ちもわからないでもなかった。
――運命の出逢いと言えるかどうかはわかりませんが、殿下が見て見ぬふりをしてくださったおかげで、残りの隊員四名追加できました。ありがとうございました。
―【02】了―
端末のディスプレイに表示されている、ドレイクから送られてきたばかりの四人分の転属願を、ヴォルフは呆れながらアーウィンの背後から眺めた。
「まあ、どの隊員も生粋のダーナ大佐隊員ではないがな」
一方、アーウィンはずっと楽しげに笑っている。
「九人のうち班長だった者が六人。とんでもないな。特に最後の一人がすごい。操縦士だったからダーナ大佐隊からもぎとったのが丸わかりだ」
「もぎとった?」
「ダーナがサインをしているところを見ると、あの転属願はあの隊員たちが勝手に出したのではなく、ダーナの命令で出されたものだったのだろう」
ヴォルフは驚いて金色の目を見開いた。
「何でまたそんな真似を?」
「さあな。そればかりはダーナに訊いてみないことにはわからないが、結局、こういう形で収束させることになったのだろう。それなら私が介入して事を荒立てることもあるまい。それより、あの変態は配置図が早く欲しいらしいぞ」
「それはドレイクばかりじゃないだろう。他の大佐たちだって、催促はしてこないが欲しいと思ってるんじゃないのか?」
「……あの変態のところだけ、送らないでいてやろうか」
「どうしてそんな嫌がらせを……」
「冗談だ。キャル。とりあえず配置図だけ、大佐全員に一斉送信してやれ」
「承知しました」
「ドレイクのところには、また別に送信するのか?」
「うむ。何か一言言ってやりたいのだが、これはという文句が思い浮かばん」
「ならやめとけよ。そんなことを考えている時間があったら仕事をしろ、仕事を」
「……ヴォルフ。おまえはいつも暇そうでいいな」
「最近はそうでもなくなってきたぞ。ちょっと目を離すと、おまえがしなくてもいい仕事をしているからな。……おいこら。どうして転属手続きまで自分でしようとしてるんだ。それくらい、キャルか人事に任せろ」
「あの変態の隊に関することで、私に把握できないことがあるのは嫌だ」
「だからって、手続き事務までする必要がどこにある! 結果さえ確認できればそれでいいだろうが!」
「手続きの過程で、何か重大な発見が……」
「アーウィン……おまえにはもっと気にかけるべき重大な事案が山ほどあるだろう? キャル! 俺がこの男を拘束してる間に、おまえがドレイクのところの転属手続きを完了させろ!」
「私を拘束したら、他の仕事ができないぞ!」
「仕事だと? どうせ今のおまえはドレイク関係のことしかしないだろ! このストーカーが!」
「私のどこがストーカーだ! 定番の盗聴器や盗撮カメラは仕掛けていない!」
「いばれることか! 本当にそこまでしていたら、本気で俺はおまえを侮蔑する!」
「……ヴォルフ。手続き完了しました」
冷静にキャルが報告する。
結局、ヴォルフはアーウィンに触れることなく目的を達成した。
「くそう……これでもし何か問題が起こったら、ヴォルフ、おまえの責任だ!」
「それ以前にアーウィン! おまえのその思考回路のほうが問題だ!」
二人が低レベルすぎる言い争いをしている間に、キャルは一通のメールを作成し、ドレイクにあてて送信した。
――ドレイク様。四名分の転属手続き完了いたしました。一言だけでもかまいませんので、マスターにメッセージをお願いいたします。……マスターが荒れています。
キャルがドレイクに四名分の転属手続き完了を知らせるメールを送信してから数分後。
いつものように明らかに副官の代筆で、それに対する謝礼メールが返信されてきた。
「わざわざ副官に代筆させなくても、〝ありがとうございました〟の一言でかまわんのだがな」
そう言いながら、アーウィンはドレイクの〝一言〟を求めて、形式的な謝礼部分を読み飛ばす。
「向こうはおまえがそう考えてるとは知らないだろ。メールは副官に代筆させることができるから、おまえあてにはまともなのをよこしてるんじゃないか? 追伸以外」
その〝追伸〟にだけ興味があるヴォルフは、例によってアーウィンの背後からディスプレイを見下ろしていた。
「……あった。が、何だこれは?」
一瞬、嬉しそうな顔はしたものの、すぐにアーウィンは柳眉をひそめる。
「さあ……一応、おまえに感謝してるんじゃないのか?」
「私には嫌味としか思えないが……」
ヴォルフもそう思わないでもなかったが、メールを〝検閲〟されていると知っているだろうドレイクが、こう書きたくなる気持ちもわからないでもなかった。
――運命の出逢いと言えるかどうかはわかりませんが、殿下が見て見ぬふりをしてくださったおかげで、残りの隊員四名追加できました。ありがとうございました。
―【02】了―
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