無冠の皇帝

有喜多亜里

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【06】始まりの終わり(下)

10 個人面談をしていました【二日目】(後)

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 七班長セイヤーズ以降の個人面談は、再びほぼ流れ作業になった。
 だが、昨日とは違い、パラディンは退屈しなかったようだ。最後の十班長ポーターが逃げるように退室すると、一人掛けのソファに座ったまま、にやにやしてエリゴールを振り返った。

「やれやれ。ようやく全員終わったよ。一言でいいから、私を労ってくれないか?」

 エリゴールはモルトヴァンの執務机のそばにまだ立っていた。一瞬眉をひそめたが、淡々と答えた。

「お疲れ様でした」
「本当に一言だね」
「一言でいいとおっしゃったのは大佐殿です」
「それは確かにそうだけれども。もっと何か言ってくれると思っていた」
「……お疲れ様でした。相変わらず、素晴らしい嫌味でした」
「ありがとう。君にならそう言われても素直に喜べるよ」

 本気で嬉しそうにパラディンは微笑むと、モルトヴァンに向かって一言、コーヒーと命じた。
 モルトヴァンは了解しましたと一言返して席を立ち――二言以上話してもパラディンには喜ばれない――給湯室に入った。今日は茶菓子もつけなくてよさそうだ。パラディンは昨日ほど疲れてはいない。

(素晴らしい嫌味……確かに、大佐でなかったら、舐められて終わっていただろうな)

 三人分のコーヒーを淹れる準備をしながら、クリスティの後の四人の面談内容を振り返る。昨日の五人にもした問いにはおおむね同じ答えを返してきたが――彼らもまたパラディンとエリゴールを見て驚いていた――作戦説明室以外は人払いをしようと発案したのは誰かという質問に対しては、多少ばらつきが出た。

 七班長・セイヤーズ。髪色は濃茶色。真面目そうな長身の男だったが、発案者が誰だったかと問われると、迷いなくクリスティだと答えた。クリスティからの引き継ぎは確実にあっただろうから、もう隠す必要はないと判断したのだろう。しかし、モルトヴァンにはクリスティに対して思うところがあって正直に話したように見えた。
 八班長・ディクスン。髪色は金。コリンズを細身にしたような男だったが、応答は彼よりもしっかりしていた。だが、質問には言葉を濁し、誰かは覚えていないと答えた。模範解答ではあるが、セイヤーズと比較すると保身感は否めない。
 九班長・ハイスミス。髪色は黒。この隊にしては珍しく優男風の男だったが、質問にはセイヤーズと同じくクリスティと即答した。これに対して、パラディンが面白半分にコリンズではないのかと訊ねると、最終的にとりまとめたのはそうですと笑顔で答えた。クリスティに似た何かを感じさせる班長だった。
 そして、十班長・ポーター。髪色は褐色。中肉中背で、コリンズの次くらいに緊張していたが、質問にはクリスティとよどみなく回答した。モルトヴァンは意外に思ったが、これだけはそう答えようと事前に決めていたのかもしれない。

(元ウェーバー大佐隊は大佐を大歓迎してくれたけどな……若くて美形だって。元アルスター大佐隊と比べると、本当に可愛げがある……部下としては問題があるけど)

 コーヒーカップをトレーに乗せて給湯室を出ると、エリゴールは奥のソファに端然と座していた。そこに移動するようまたパラディンに命じられたのだろう。見るからに不本意そうな顔をしていた。
 一方、パラディンはといえば、そんなエリゴールを眺めてにたにたと笑っていた。間違いなく、目の保養と思っている。モルトヴァンは無言でローテーブルの上にコーヒーを並べると、自分の分を持って執務机に戻った。誰も労ってはくれないが、モルトヴァンもそれなりに疲れているのだ。たまには一服させてもらってもいいだろう。

「さて」

 コーヒーを一口飲んでから、もったいぶった調子でパラディンは口を開いた。

「君の要望どおり、個人面談は終わった。これからどうする? エリゴール中佐」

 エリゴールは両膝に手を置いたまま、呆れたような眼差しをパラディンに向けた。

「たまにはご自分で考えられたらどうですか? ここの指揮官は大佐殿でしょう」

 もっともと言えばもっともである。しかし、パラディンは涼しい顔で肩をすくめた。

「確かに指揮官は私だが、ここの内情を探るようドレイク大佐に言われたのは君だろう」
「大佐殿はドレイク大佐殿の部下ですか?」
「現時点では同僚だけど、彼の助言には極力従うよ。私もそのとおりだと思えるかぎりは」

 ――一応、覚えてはいたんだ。
 隠れてコーヒーを飲みながら、ひとまずモルトヴァンは安堵した。
 エリゴールもこれには反論しなかったが、いかにも憂鬱そうに溜め息を吐き出した。

「そうですね。今度は第四軍港隊と顔合わせをさせましょうか。第四、第五と区別をつけたことも、まだ第四軍港隊には話していませんし」
「え、話していなかったのかい?」

 よほど意外だったのか、パラディンはコーヒーを飲むのを中断してエリゴールを見やった。

「君、毎日必ず一班の待機室に行っているじゃないか」
「行ってはいますが話してはいません。それくらいは大佐殿がご自分の口から説明してください」
「それくらいって……まあ、それもそうか」

 少なくとも、第四軍港隊こと元ウェーバー大佐隊に関しては、ほとんどエリゴールに丸投げしていることを思い出したのか、パラディンは神妙な面持ちでコーヒーを啜った。

「で、顔合わせはどこでやるんだい? またここの作戦説明室?」
「いえ、ここの大会議室で。あそこなら、向かい合わせに座らせられます」
「向かい合わせねえ。ディベートでもやらせるつもりかい?」
「それも面白そうではありますが、顔と名前を一致させるだけです。いちいち第四軍港隊一班長、第五軍港隊一班長などと呼び分けるのは面倒でしょう」
「確かに面倒だけど、二十二人の班長の名前を覚えるのも面倒じゃないか?」
「意地でも覚えてください。上官の義務です」
「義務か。それなら仕方ないね。ところで、君はもう全員覚えているのかい?」
「自分はただの平隊員ですので」
「君はそのつもりでも、第五軍港隊の班長たちはそう思っていないよ」
「どう思われていようが、自分が平隊員なのは事実なので」

 エリゴールは真顔で言い張ると、ようやくコーヒーカップを手に取った。

「何はともあれ、この第五軍港隊では、六班のクリスティ班長がオピニオンリーダー的な存在であることはわかりました」
「おや。もう断言してしまうのかい?」

 からかうようにパラディンは笑ったが、おそらく彼自身もそう思っているはずだ。
 エリゴールはパラディンを一瞥してから、もう冷めはじめているだろうコーヒーを飲んだ。

「はい。断言します。詰めは甘いですが、あの班長は自分が知っている元班長によく似ています」
「……なるほど。そう言われてみればそうかな」

 エリゴールの言う元班長が誰なのか察したパラディンは、意地の悪い笑みを浮かべた。

「私の指揮下にいる間、その元班長は完璧に猫を被りつづけていた。彼に比べたらクリスティ班長は詰めが甘いが、甘くなければ私の手には余ってしまう。……と、彼の元同僚として君も思っているんじゃないのかい? エリゴール中佐」
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