【完結】人型兵器は電気猫の夢を見るか?

有喜多亜里

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第5章 夕飯は鶏鍋(塩味)

5―3

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 何となく、嫌な予感はしていた。
 それはタケダ以外の三人の管制室長たちも同じだったようだ。アシュトンの口からはっきりと『今日の午後、ナイトリーが死んだ』と知らされると、驚くより先に嘆きの声を漏らした。

「アシュトンさん。あなたのことを疑ってるわけじゃないけど、あとで博士に会わせてもらえないかしら?」

 アシュトンの簡単な説明を聞いた後、深くうなだれたままそう言ったのは、タケダの左隣に座っていた赤毛の大男――ハートだった。女言葉を使い化粧もしているが(おまけにそれが板についてもいるが)、それは一種の鎧だろうとこの場にいる全員がおそらく知っている。

「私、ここしばらくあの子と直接会ってなかったの。最後にお礼とお別れを言いたいわ。本当は生きてるうちに言いたかったけど」
「承知しました。この後、霊安室にご案内いたします」

 日本的に言うと会議机の上座――タケダの斜め右にいるアシュトンが軽く頭を下げる。
 その〝霊安室〟という言葉に触発されたのか、今度はタケダの向かいに座っていた金髪の男――マクミランが今時珍しい眼鏡をかけた緑眼をアシュトンに向けた。

「アシュトン殿。博士のご遺体をいち早く冷凍保存されたかったのは理解できます。しかし、本当に死因は明らかにしなくてよかったのですか?」
「おそらく、そのためには博士のお体を切り刻まなければならなかったでしょう」

 目を伏せて淡々とアシュトンは弁明する。

「そして、たぶんそこまでしても博士の死因は我々にはわからなかったはずです。カガミ様以外のパイロットの方々にはあくまで可能性の一つとして申し上げましたが、私は博士は服毒自殺されたものと考えております」

 これにはマクミランだけでなく、管制室長全員が同じ言葉を叫んだ。

「どうして!」
「さあ。それは私にもわかりかねますが、博士はかねてより、ご自身の代行を用意されておりました。研究や開発に関すること以外なら、これからその代行が博士の代わりを務めてくれます」
「代行? そんな方がいたのですか?」

 マクミランの右隣かつハートの向かいにいた白髪交じりの黒人の男――スミスが、ただでさえ大きな黒い目をさらに大きくする。今度は口には出さなかったが、タケダも同感だった。たぶん、他の二人も同様だろう。

「はい。ですから、何か新たな動きがあるまでは、博士は研究室に引きこもって研究に没頭されていることにいたします。パイロットの方々も外部に博士の死去は知らせないと約束してくださいました。博士が直々に選ばれた方々です、約束を破られることはないでしょう」
「あれ? それ、カガミのダンナにも言いました?」

 ふと気になって訊ねると、アシュトンは首を横に振った。

「いえ、カガミ様には博士が亡くなられたことしかお伝えできませんでした。……何かあったのですか?」
「いや、逆ですよ。何もなかった。今日の出撃前、俺が博士のことを口にしても、あの人はまったくいつもどおりに受け答えてました。きっと事前に打ち合わせしてあったんでしょうが、副官さんのほうも博士が死んだなんて一言も言わなかったしね。あ、でも、帰ってきたときには様子がおかしかったな。えらく怒ってて、朝まで電話もするなとまで言われちまった。まあ、〝ジャバ〟が出たら向こうから管制室に来てくれるでしょうが」
「さすが猫キチ侍さん。言われなくても言っちゃいけないことは言わないわね」

 ハートが少々呆れたように口を挟む。

「今日出たのがⅠ型一体で本当によかったわ。猫キチ侍さんじゃなかったら、きっとあんなにきっちりお仕事できなかったわよ。ただし、猫の持ちこみ必須だけど」

 ――ああ、そうか。その猫の扱い方がおかしかったんだ。

 ハートにダイナのことを言われてタケダは気づいたが、ここで話さなければならないことでもないと考え、以後は黙った。
 ナイトリーが死んだ。それも服毒自殺をした。
 ハートのようにアシュトンを疑うわけではないが、やはりタケダには信じられない。今ナイトリーあてに電話をかけたら、開口一番、こう言われそうな気がする。

 ――タケダ! やっぱりカガミはすごいよね! 私が死んでも、いつもどおりに〝ジャバウォック〟を切ってくれたよ!
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