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第10章 鼠じゃないけど鼠色
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〝ジャバ〟四種はいずれも厄介だが、Ⅲ型はある意味あのⅠ型よりも厄介である。
外見は白い猿によく似ている。ただし、顔と手足は真っ黒で口の中まで黒い。一見、顔全体に穴が開いているかのようにも見える。
攻撃方法自体は非常に原始的で、攻撃対象に飛びつき殴る。殴る。ひたすら殴る。〝白血球〟なら三回殴れば攻撃不能にできる。
しかし、このⅢ型には他の三種にはない実に面倒な特性があった。
――瞬間移動。
正確には出現と消失を繰り返しているのだけなのかもしれない。その証拠に移動距離は長くはなくタイムラグもある。だが、〝白血球〟たちにとってはⅠ型よりも攻撃しづらい〝ジャバ〟だった。
たとえば、〝白血球A〟を殴っているⅢ型を〝白血球B〟がレーザー砲で攻撃したとする。しかし、そのレーザーはⅢ型に当たる寸前に曲がってしまい、Ⅲ型は〝白血球A〟の上から消失している。運が悪ければ〝白血球B〟のレーザーは〝白血球A〟を破壊してしまっているだろう。
〝ジャバ〟がこちらに出現する際、〝ゆらぎ〟と言われる時空の歪みが発生することはグリフォン基地内では常識となっている。Ⅲ型はこの〝ゆらぎ〟をレーザー砲から身を守る盾として利用しているのだ。
しかも、出現から消失までにかかる時間は驚くほど短い。〝ゆらぎ〟でどこに現れるかは感知できるが、そこから攻撃に移るまでにまた移動されてしまう。
ただし、Ⅲ型は「殴る」ことに固執しているので、侵攻速度は四種の中でいちばん遅い。そこが救いとも言いがたい救いの一つである。
「〝白血球〟退避させて、テニエルに〝数撃ちゃ当たる〟させりゃいいのにな」
メインモニタを見ながらカガミがそう言えば――その膝の上には当たり前のようにチェシャがいる――タケダが苦笑いして彼を振り返った。
「ダンナ、Ⅲ型見るたびそう言ってるよね。試したことあるけど、結局当たらなかったじゃない」
「当たるまで撃ちつづけなかったからだろ」
「経費の無駄遣い。Ⅲ型はもう捕まえて殴るか、隙突いて切るしかないよ」
Ⅲ型もまた〈大鴉〉の刀で切り殺せる。だが、明滅するように出現と消失を繰り返す相手を切るのは、カガミであっても至難の業である。ゆえに、Ⅰ型がカガミ専任となっているように、Ⅲ型もクロフト専任となっていた。
「しかし、何で鼠色にしたんだろうな」
「大尉、それも毎回言ってますよね」
待機室掃除を中断して管制室に駆けつけたテイラーは呆れて笑ったが、実はテイラー自身もそう思っている。たぶん、あの色のせいでクロフトのあだ名は〝ネズ筋さん〟になってしまったのだ。
クロフトが搭乗している人型兵器は、カラーリングだけでなくデザインも他の三機より地味である。テイラーはいつも体格のいいモデル人形(が実在するかどうかはわからないが)を連想する。色は別として、見かけは無骨そうなクロフトにいかにもふさわしい機体だが、その戦い方もまたふさわしいと言えるかもしれない。
Ⅲ型はまだ第五防衛ラインで出現・殴打・消失を飽くことなく繰り返していた。まるで本当に猿が〝白血球〟をからかって遊んでいるかのようである。間断なく瞬間移動しつづけていれば、どんな攻撃も避けられるとたかをくくっているのだろう。
自分に接近してくる人型兵器に特に関心を向けないのもこのⅢ型の特徴の一つである。ちょっと毛色の違う〝白血球〟が来た程度に思っているのかもしれない。確かに航行状態だとテイラーの目にもそう見える。
しかし、その特徴こそⅢ型につけいる最大にして唯一の隙だ。嬉々として〝白血球〟を殴ろうとしていたⅢ型の右の二の腕を後ろからひっつかみ、背中に膝蹴りして〝白血球〟にめりこませる。その間にⅢ型をつかんでいる指先からかぎ爪を出してしっかり肉に食いこませ――〝ジャバ〟には血液はないのか出血はしない――空いている手でⅢ型の後頭部を中心に殴りつける。
実はⅢ型は自分一体でなければ瞬間移動ができない。つまり、適当な〝白血球〟に張りつき、それを殴りにきたⅢ型の体のどこか一部分でもつかんでしまえば、Ⅲ型の瞬間移動を封じられる。
そして、殴るのが大好きなⅢ型はとても殴られ弱い。すでに顔が〝白血球〟の中に潜りこんでしまっているので悲鳴を上げているのかどうかもさだかではないが、やがて白く発光して消滅するまで、白い猿型サンドバッグ状態となる。
――どう見ても、小動物の戦い方じゃない。
単なる個体識別名だと思いつつも、テイラーはいつもそう思わずにはいられない。
クロフトいわく、鼠でも栗鼠でもない。Ⅲ型を殴り殺して駆逐する、あの人型兵器の名称は〈ヤマネ〉だった。
外見は白い猿によく似ている。ただし、顔と手足は真っ黒で口の中まで黒い。一見、顔全体に穴が開いているかのようにも見える。
攻撃方法自体は非常に原始的で、攻撃対象に飛びつき殴る。殴る。ひたすら殴る。〝白血球〟なら三回殴れば攻撃不能にできる。
しかし、このⅢ型には他の三種にはない実に面倒な特性があった。
――瞬間移動。
正確には出現と消失を繰り返しているのだけなのかもしれない。その証拠に移動距離は長くはなくタイムラグもある。だが、〝白血球〟たちにとってはⅠ型よりも攻撃しづらい〝ジャバ〟だった。
たとえば、〝白血球A〟を殴っているⅢ型を〝白血球B〟がレーザー砲で攻撃したとする。しかし、そのレーザーはⅢ型に当たる寸前に曲がってしまい、Ⅲ型は〝白血球A〟の上から消失している。運が悪ければ〝白血球B〟のレーザーは〝白血球A〟を破壊してしまっているだろう。
〝ジャバ〟がこちらに出現する際、〝ゆらぎ〟と言われる時空の歪みが発生することはグリフォン基地内では常識となっている。Ⅲ型はこの〝ゆらぎ〟をレーザー砲から身を守る盾として利用しているのだ。
しかも、出現から消失までにかかる時間は驚くほど短い。〝ゆらぎ〟でどこに現れるかは感知できるが、そこから攻撃に移るまでにまた移動されてしまう。
ただし、Ⅲ型は「殴る」ことに固執しているので、侵攻速度は四種の中でいちばん遅い。そこが救いとも言いがたい救いの一つである。
「〝白血球〟退避させて、テニエルに〝数撃ちゃ当たる〟させりゃいいのにな」
メインモニタを見ながらカガミがそう言えば――その膝の上には当たり前のようにチェシャがいる――タケダが苦笑いして彼を振り返った。
「ダンナ、Ⅲ型見るたびそう言ってるよね。試したことあるけど、結局当たらなかったじゃない」
「当たるまで撃ちつづけなかったからだろ」
「経費の無駄遣い。Ⅲ型はもう捕まえて殴るか、隙突いて切るしかないよ」
Ⅲ型もまた〈大鴉〉の刀で切り殺せる。だが、明滅するように出現と消失を繰り返す相手を切るのは、カガミであっても至難の業である。ゆえに、Ⅰ型がカガミ専任となっているように、Ⅲ型もクロフト専任となっていた。
「しかし、何で鼠色にしたんだろうな」
「大尉、それも毎回言ってますよね」
待機室掃除を中断して管制室に駆けつけたテイラーは呆れて笑ったが、実はテイラー自身もそう思っている。たぶん、あの色のせいでクロフトのあだ名は〝ネズ筋さん〟になってしまったのだ。
クロフトが搭乗している人型兵器は、カラーリングだけでなくデザインも他の三機より地味である。テイラーはいつも体格のいいモデル人形(が実在するかどうかはわからないが)を連想する。色は別として、見かけは無骨そうなクロフトにいかにもふさわしい機体だが、その戦い方もまたふさわしいと言えるかもしれない。
Ⅲ型はまだ第五防衛ラインで出現・殴打・消失を飽くことなく繰り返していた。まるで本当に猿が〝白血球〟をからかって遊んでいるかのようである。間断なく瞬間移動しつづけていれば、どんな攻撃も避けられるとたかをくくっているのだろう。
自分に接近してくる人型兵器に特に関心を向けないのもこのⅢ型の特徴の一つである。ちょっと毛色の違う〝白血球〟が来た程度に思っているのかもしれない。確かに航行状態だとテイラーの目にもそう見える。
しかし、その特徴こそⅢ型につけいる最大にして唯一の隙だ。嬉々として〝白血球〟を殴ろうとしていたⅢ型の右の二の腕を後ろからひっつかみ、背中に膝蹴りして〝白血球〟にめりこませる。その間にⅢ型をつかんでいる指先からかぎ爪を出してしっかり肉に食いこませ――〝ジャバ〟には血液はないのか出血はしない――空いている手でⅢ型の後頭部を中心に殴りつける。
実はⅢ型は自分一体でなければ瞬間移動ができない。つまり、適当な〝白血球〟に張りつき、それを殴りにきたⅢ型の体のどこか一部分でもつかんでしまえば、Ⅲ型の瞬間移動を封じられる。
そして、殴るのが大好きなⅢ型はとても殴られ弱い。すでに顔が〝白血球〟の中に潜りこんでしまっているので悲鳴を上げているのかどうかもさだかではないが、やがて白く発光して消滅するまで、白い猿型サンドバッグ状態となる。
――どう見ても、小動物の戦い方じゃない。
単なる個体識別名だと思いつつも、テイラーはいつもそう思わずにはいられない。
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