【完結】人型兵器は電気猫の夢を見るか?

有喜多亜里

文字の大きさ
30 / 39
第10章 鼠じゃないけど鼠色

10―3

しおりを挟む
 〝ジャバ〟四種はいずれも厄介だが、Ⅲ型はある意味あのⅠ型よりも厄介である。
 外見は白い猿によく似ている。ただし、顔と手足は真っ黒で口の中まで黒い。一見、顔全体に穴が開いているかのようにも見える。
 攻撃方法自体は非常に原始的で、攻撃対象に飛びつき殴る。殴る。ひたすら殴る。〝白血球〟なら三回殴れば攻撃不能にできる。
 しかし、このⅢ型には他の三種にはない実に面倒な特性があった。

 ――瞬間移動。

 正確には出現と消失を繰り返しているのだけなのかもしれない。その証拠に移動距離は長くはなくタイムラグもある。だが、〝白血球〟たちにとってはⅠ型よりも攻撃しづらい〝ジャバ〟だった。
 たとえば、〝白血球A〟を殴っているⅢ型を〝白血球B〟がレーザー砲で攻撃したとする。しかし、そのレーザーはⅢ型に当たる寸前に曲がってしまい、Ⅲ型は〝白血球A〟の上から消失している。運が悪ければ〝白血球B〟のレーザーは〝白血球A〟を破壊してしまっているだろう。
 〝ジャバ〟がこちらに出現する際、〝ゆらぎ〟と言われる時空の歪みが発生することはグリフォン基地内では常識となっている。Ⅲ型はこの〝ゆらぎ〟をレーザー砲から身を守る盾として利用しているのだ。
 しかも、出現から消失までにかかる時間は驚くほど短い。〝ゆらぎ〟でどこに現れるかは感知できるが、そこから攻撃に移るまでにまた移動されてしまう。
 ただし、Ⅲ型は「殴る」ことに固執しているので、侵攻速度は四種の中でいちばん遅い。そこが救いとも言いがたい救いの一つである。

「〝白血球〟退避させて、テニエルに〝数撃ちゃ当たる〟させりゃいいのにな」

 メインモニタを見ながらカガミがそう言えば――その膝の上には当たり前のようにチェシャがいる――タケダが苦笑いして彼を振り返った。

「ダンナ、Ⅲ型見るたびそう言ってるよね。試したことあるけど、結局当たらなかったじゃない」
「当たるまで撃ちつづけなかったからだろ」
「経費の無駄遣い。Ⅲ型はもう捕まえて殴るか、隙突いて切るしかないよ」

 Ⅲ型もまた〈大鴉レイヴン〉の刀で切り殺せる。だが、明滅するように出現と消失を繰り返す相手を切るのは、カガミであっても至難の業である。ゆえに、Ⅰ型がカガミ専任となっているように、Ⅲ型もクロフト専任となっていた。

「しかし、何で鼠色にしたんだろうな」
「大尉、それも毎回言ってますよね」

 待機室掃除を中断して管制室に駆けつけたテイラーは呆れて笑ったが、実はテイラー自身もそう思っている。たぶん、あの色のせいでクロフトのあだ名は〝ネズ筋さん〟になってしまったのだ。
 クロフトが搭乗している人型兵器は、カラーリングだけでなくデザインも他の三機より地味である。テイラーはいつも体格のいいモデル人形(が実在するかどうかはわからないが)を連想する。色は別として、見かけは無骨そうなクロフトにいかにもふさわしい機体だが、その戦い方もまたふさわしいと言えるかもしれない。
 Ⅲ型はまだ第五防衛ラインで出現・殴打・消失を飽くことなく繰り返していた。まるで本当に猿が〝白血球〟をからかって遊んでいるかのようである。間断なく瞬間移動しつづけていれば、どんな攻撃も避けられるとたかをくくっているのだろう。
 自分に接近してくる人型兵器に特に関心を向けないのもこのⅢ型の特徴の一つである。ちょっと毛色の違う〝白血球〟が来た程度に思っているのかもしれない。確かに航行状態だとテイラーの目にもそう見える。
 しかし、その特徴こそⅢ型につけいる最大にして唯一の隙だ。嬉々として〝白血球〟を殴ろうとしていたⅢ型の右の二の腕を後ろからひっつかみ、背中に膝蹴りして〝白血球〟にめりこませる。その間にⅢ型をつかんでいる指先からかぎ爪を出してしっかり肉に食いこませ――〝ジャバ〟には血液はないのか出血はしない――空いている手でⅢ型の後頭部を中心に殴りつける。
 実はⅢ型は自分一体でなければ瞬間移動ができない。つまり、適当な〝白血球〟に張りつき、それを殴りにきたⅢ型の体のどこか一部分でもつかんでしまえば、Ⅲ型の瞬間移動を封じられる。
 そして、殴るのが大好きなⅢ型はとても殴られ弱い。すでに顔が〝白血球〟の中に潜りこんでしまっているので悲鳴を上げているのかどうかもさだかではないが、やがて白く発光して消滅するまで、白い猿型サンドバッグ状態となる。

 ――どう見ても、小動物の戦い方じゃない。

 単なる個体識別名だと思いつつも、テイラーはいつもそう思わずにはいられない。
 クロフトいわく、鼠でも栗鼠でもない。Ⅲ型を殴り殺して駆逐する、あの人型兵器の名称は〈ヤマネドーマウス〉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【第一部完結】カフェと雪の女王と、多分、恋の話

凍星
BL
親の店を継ぎ、運河沿いのカフェで見習店長をつとめる高槻泉水には、人に言えない悩みがあった。 誰かを好きになっても、踏み込んだ関係になれない。つまり、SEXが苦手で体の関係にまで進めないこと。 それは過去の手酷い失恋によるものなのだが、それをどうしたら解消できるのか分からなくて…… 呪いのような心の傷と、二人の男性との出会い。自分を変えたい泉水の葛藤と、彼を好きになった年下ホスト蓮のもだもだした両片想いの物語。BLです。 「*」マーク付きの話は、性的描写ありです。閲覧にご注意ください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

処理中です...