【完結】悪魔の方舟【R18】

有喜多亜里

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悪魔の恋人

1 食堂(朝)

「やっぱり、あのエレベーターにベッドは入らなかった」

 真顔でエドに言われた瞬間、ウィルは喉にトーストをつまらせそうになった。

「病院用のエレベーターなら確実に入れられたんだがなあ。それとも、軍艦ふね中探せば、組立式のベッドもあるかな」
「エ、エド……そこまでして展望ラウンジにベッドを持ちこもうとしなくていいから」

 あわててコーヒーを飲んでから、ウィルは引きつった笑顔で答えた。

「俺はほんとにどこでもいいんだ……ブリッジと自分の部屋以外なら」
「そうか? じゃあ、今日のところは医務室で」

 さらりと言われて、ついうなずきそうになってから、はっと我に返った。

「え?」
「だから、今日――いや、明日〇時に医務室で」
「昨日の今日で?」
「体、きついか?」

 ふと心配そうな顔になって、ウィルを覗きこんでくる。
 それで、昨日――正確には今日――のことを生々しく思い出してしまったウィルは、赤くなってうつむいた。

「いや、多少筋肉痛なだけで……大丈夫」

 ウィルとしては、日常生活に支障はないという意味での〝大丈夫〟のつもりだったのだが、エドには違う意味での〝大丈夫〟だと思われてしまったようだ。

「よし、じゃあ、〇時に医務室な」
「あ……」

 ウィルが訂正しようと思ったときには、エドは自分のトレーを持って席を立ってしまっていた。

「まさか、これから毎日……」

 口に出したとたん、恐怖とも期待ともつかない感情に襲われたウィルは、自分の隣の椅子の上で寝ていたレオを抱き上げ、そのまま抱きしめた。
 ウィルには〝忠猫〟のレオは、いきなり抱き上げられても抱きしめられても、ぬいぐるみのようにおとなしくじっとしていた。
 エドことエドワード・リーは、もともと遭難者だったが、昨日付でウィルの恋人になった男である。
 そう――〝男〟である。
 たとえモデル並みに整った容姿をしていようが、魅惑的な声の持ち主だろうが、頭がよくて料理も得意だろうが、ウィルと同じ〝男〟なのである。
 二十四歳のウィルより若干年上と思われる東洋系のこの男は、昨日、突然ウィルに〝恋人になってほしい〟と申し出てきた。
 ウィルは一度は断ったものの――やはり、男同士というのにどうしても抵抗があった――その後いろいろあって、結局、彼の思いを受け入れ、なしくずしに体も受け入れた。
 多少デリカシーに欠けるところはあるが、エドはウィルにとても優しい。初対面から優しかったが、まさかそのときから、ウィルを恋人にしようと思っていたわけではないだろう。
 だが、エドが恋人になってくれと言い出してきたのは、この宇宙軍艦〈レイヴン〉の中に生きている人間は自分一人しかいなかったからではないかと、実は今でもウィルは疑っている。
 もちろん、エドは否定したが、もしウィル以外の人間が一人でもいたら、自分を恋人にしたいとは思わなかったのではないだろうか。

(俺は……エドじゃなきゃ嫌だけど)

 ウィルは自分の肩の上にレオを乗せると、今日から一時間遅くなった朝食のトレーを、エドがいる厨房へと運んだ。
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