寂しいからそばにいて(仮)【『無冠の皇帝』スピンオフ】

有喜多亜里

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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

02 初顔合わせの後・元ウェーバー大佐隊(フィリップス視点)

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 フィリップスが作戦説明室に戻ると、何箇所かに固まって立ち話をしていた九人の班長たちは、一斉にフィリップスに注目した。

「おまえらなあ……騒ぐんだったら、せめて大佐がエントランス出てからにしろよ……あの大佐じゃなかったら、おまえら全員、あの場で班長クビにされてたぞ……」

 そばかすの散った顔をしかめてフィリップスが文句を言えば、班長たちは蒼白になって新入り隊員のように頭を下げた。

「たいへん申し訳ございませんでした!」

 本当に申し訳ないことをしでかしてくれたが、しでかしてしまったものは仕方がない。
 一班長・ハワードには黙っておこうとフィリップスが考えていると、七班長・カットナーがおそるおそる訊ねてきた。

「大佐……怒ってました?」

 基本は小心者集団である。フィリップスは苦笑いして、作戦説明室の自動ドアを顎で指した。

「内心はともかく、笑って流してくれたよ。ただ、ここの防音設備のほうが心配だと嫌味は言われた」
「重ねて申し訳ございませんでした!」

 カットナーだけでなく、他の班長たちも再び頭を垂れる。
 こいつらは本当に班長なのか。フィリップスは嘆息して片手を振った。

「本当に申し訳ございませんでした、だよ。大佐に直接謝罪はしなくていいから、もう二度とするなよ?」
「了解しました! 一班長、入院しててよかった!」

 良くも悪くもカットナーは全員の心の代弁者だ。笑いたくなるのをこらえつつ、フィリップスはしかつめらしい表情を作った。

「一班長に言ったら、今度こそ完全に胃に穴があきそうだから、俺が適当にごまかしておく。とりあえずみんな、これから自分の班に戻ったら、元マクスウェル大佐隊員に事情を話して、その場で転属願を書いてもらえ! 今回だけは多少の不備があっても全員受理される!」

 班長たちは怪訝そうに互いの顔を見合わせた。その中で、十班長・ヒールドが自信なさげに問い返してくる。

「元マクスウェル大佐隊員だから……ですか?」
「ああ! 元マクスウェル大佐隊員だからだ! どうせ古巣に戻すなら、最初から転属させるな、こん畜生!」

 途中で腹が立って怒鳴り散らしたが、フィリップスとは同世代の四班長・ワンドレイは感心したようにうなずいていた。

「さすがフィリップス。誰に対する罵りかわからないように罵るな」

 それを聞いたカットナーが天井を見上げて呟く。

「えーと。……ダーナ大佐?」
「いや、殿下じゃないかな?」

 カットナーの隣に立っていた八班長・ブロックがのんびりと答える。
 そんな二人を、五班長・ロングは苛立たしげに叱りつけた。

「せっかく伏せたものをわざわざ裏返すな、この変態どもが」
「え! 俺はカットナーみたいなことは言ってなかったのに!」

 いかにも不本意とばかりにブロックが反論する。
 それにロングとワンドレイは冷静に切り返した。

「俺も言ってなかったが、連帯責任で謝ったぞ」
「雄叫び上げてた時点で充分同罪だろ。だから俺も謝った」

 しかし、当のカットナーは我関せずで、フィリップスに新たな質問を浴びせていた。

「そういえば、今日大佐が連れてきた二人。一人は副官だって紹介ありましたけど、もう一人は? えらい男前でしたけど!」
「今度はそこに食いつくか、この変態が」

 忌々しげにロングが罵ったが、言われ慣れている上に自覚もあるカットナーはまったく気にも留めていない。
 フィリップスとしてはロングに同感だが、正体を知りたいカットナーの気持ちもわかる。カットナー以外の班長にも聞こえるように、声を張って答えた。

「ああ、俺にも紹介なかったけど、たぶん、パラディン大佐隊にいた元マクスウェル大佐隊員じゃねえかな。現時点ではコールタン大佐隊に所属してることになってるから、大佐も紹介しなかったし、本人もあえて自己紹介しなかったんじゃないか。……と思って、俺もあえて無視をした」
「え? ということは?」

 六班長・ラムレイが、眉をひそめて首をかしげている。
 フィリップスは端的に、誰もが知りたいだろう結論を述べた。

「少なくとも、あの男前はこっちに転属されてくる」
「やったー!」

 と歓声を上げたのは、もちろん〝変態〟カットナーだ。

「元マクスウェル大佐隊でも、あんな美形なら大歓迎!」
「この変態、どうにかならねえか?」

 ロングが呆れ果てたようにカットナーを親指で指す。それにワンドレイは投げやりに応じた。

「こいつを置いてドレイク大佐隊に逃亡したバラードに訊け」

 前七班長・バラードは、ドレイク大佐隊に転属された五人の班長のうちの一人だ。カットナーとは正反対の堅物な男だったが、カットナーを副班長に指名した。たとえ変態でも、背に腹は代えられなかったのだろう。

「少なくともって……もっと転属されてくるってことですか?」

 ロングたちの不毛なやりとりを尻目に、今度は九班長・ビショップが真顔でフィリップスに訊ねてくる。

「ああ。俺にこっちの予備ドックはどうなってるって訊いてきたから……たぶん、パラディン大佐隊にいた元マクスウェル大佐隊員全員」

「くそ! 元マクスウェル大佐隊員去ってまた元マクスウェル大佐隊員か!」とワンドレイ。
「この艦隊内限定のことわざだな」とロング。
 彼ら古参の班長たちより、カットナーのような新米班長たちのほうが真剣にフィリップスの話を聞いてくれている。フィリップスは顔には出さず、ワンドレイたちを心の中で罵った。

「とにかく、明日は大佐の専属班が来て〝大佐棟〟の整備をする。で、明後日、また今日と同じ時間に班長だけここに集合。……そのときにはあの男前の正体も明かすだろ」
「しかし、全隊員の前で訓辞はしないというのには驚いた。それほど忙しいのか?」

 今まで黙っていた三班長・プライスが、年長者らしいことを口にした。
 プライスもフィリップスたちと同世代ではあるが、前班長と前副班長が同時に戦死したため、アルスターによっていきなり班長に任命された。ほとんどの班長は副班長を経由しているから、その意味ではカットナーたちよりも新米班長である。

「そりゃ忙しいだろ。再来週にはたぶん出撃だぞ? その間に引っ越しも訓練も済ませなきゃならない。やることは山積みだ」
「そういえばそうか……急に不安になってきた……」

 二班長・キャンベルが、口元に手をやって独りごちる。
 彼は前班長の戦死により班長に繰り上がった元副班長だ。ゆえに、世代的にはカットナーたちと同じなのだが、班長会議のときの席順の関係か、あまり一緒に話しているところを見かけない。かと言って、古参の班長たちと親しいわけでもなく、何となく孤立しているようにフィリップスには思える。

「そうか? 俺は期待しかないけどな。大佐には悪いが、殿下の人事に改めて感謝する!」

 あえて明るくそう締めくくると、キャンベルだけでなく他の班長たちも笑顔でうなずいたのだった。
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