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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO

#068:強弁な(あるいは、僕のはどこにあるんだろう、否、ないんだろう)

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「それでは、準決勝まで勝ち上がりました、精鋭チームのメンバーをご紹介いたします!! みなさんは『ファーストインプレッションボタン』を押して、推しダメを応援してくださいねっ」

 黄緑実況少女リアちゃんが高揚した声で場を盛り上げてくるが、え? メンバー紹介なんて今日ここに来て初めてだけど。

「……おそらくは少年の名前ネタを潰しに来やがったな。つくづく汚えやり口だぜ」

 アオナギの言ってる事が、何となく僕にも実感されてきた。確かにここで名前出されたら、ネタとしてはもう使えない。でも何故そうまでして僕らチームを叩こうとしているのかは分からないままだ。

「チームナンバー19!! 紅の瞬殺オーバーキルメイドっ!! 室戸ぉーミサーキー!!」

 そしていきなり僕からだ。とりあえず僕は片手を遠慮がちに上げ、周囲の観客席に笑顔で手を振ってみる。と、

「……うおおおおおぁぁぁぉぉぉああああぁぁぁおおおおっ!!!」

 予想以上の歓声が地鳴りのように周りから湧き上がって来た。えー何これ。もしかして注目されてる?

「ファーストインプレッションポイント!! ……何と、5,092!! さすがの人気です」

 よくわからないけど、何とかポイントがリアルタイムで集計されたようだ。バックスタンドに位置する巨大なビジョンに、「室戸岬」という僕の名前と共に、そのポイントが表示される。ポイントはともかく、名前ネタは響きも綴りも完全に潰された感ありだ。やはりアオナギの危惧するところは当たっているのかも知れない。

「続いて、蒼い音羽屋、今回のその出で立ちは一体どんな奇手の前ぶれかっ!? 後方腐敗、碧薙あおなぎ 頼善よりよし七段!!」

 歌舞伎メイクのメイド服、が既に奇手のような気がしてならないが。アオナギは気の抜けた顔で適当に右腕を突き上げている。ちなみにポイントは3,988。

「最後に控えしは、黎明期からダメを知る男、溜王でついに才能開花か? 茨城県出身、溜ノ井部屋、藤堂とうどう 佳秀よしひで五段っ!!」

 丸男はこなれてきた感のある、雲龍型の土俵入りで歓声に応えている。ポイントは3,666。

「続いてはチームナンバー29の紹介に移ります!! ここ数年、常に6組から出場し、決勝トーナメントへの椅子をもぎ取っている実力派集団、毎年メンバーの入れ替えはあるものの、その魂は着実に継承され続けているっ……!! 常勝エリート軍団、仰北ぎょうほく大学、ガベッジノーツのみなさんですっ!!」

 歓声がひときわ高く押し寄せて来た。どうやら相手チームはかなりの人気のようだ。や、やりにくい事になった……

「行きまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!!」

 それに応えるかのように、中央にいた若い男性が気合いを込めて雄叫びを上げた。細いがウェアから伸びる腕・脚はしなやかに筋肉がついている。こりゃやばいって。アスリートじゃんかー。この時点で絶望しかけた僕だったが、これが熾烈な死闘の始まりだったことをまだ知らなかったわけで。

 早くも会場のボルテージは最高潮。でも僕らも負けてはいられないんだっ。気合いを込めて我がチームメンバーを振り返ってみたものの、そこには退屈そうにぽかんと口を開けたおっさんが二人いるだけだった。余裕のあらわれですよね!? やる気出していこう? ほんとに。

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