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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#085:高邁な(あるいは、プロフェッショナル気質)
しおりを挟む「ぃぃぃぃぃぃぃぃ……っ!!」
ひとしきり上空でびよんびよんした後、地上1mくらいまで戻ってきた丸男は、係員の手によって二人がかりで人工芝の上に降ろされたのだけれど。
「……」
白目を剥いてどうやら本当に失神しているようだ。高い所が駄目なんだろうか。珍しく見せた丸男の頑張りもむなしく、僕らは痛い一敗を喫してしまったわけで。それだけじゃあなく、相手マルオの底知れぬ強さをも見せつけられてしまったわけで、打つ手が見当たらない。
「……つ、強い」
思わずそう口に出してしまった僕をちらりを見やると、隣に座っていたアオナギがふん、と鼻を鳴らした。
「『カウンター重視/超防御型』ってとこか。少年の『リード重視/超攻撃型』とはちょうど真反対のスタイルになるな」
う、まあ、そう言えなくもないこともないかも知れない。いやよく分からないカテゴリー(初出)だけど。
「だが、こいつは勝ち抜き戦だ。手の内をどんどん晒していくことで、対応はしやすくなってくるってゆー寸法よ。我に策あり。相棒の分までヤツにゲドゲドの恐怖面をさせてやるぜ」
強気の発言。しかし相手のマルオは何というか、打っても響かないどころか無意識の鋭いカウンターを放ってくるんですよ!? 本当に、大丈夫なんでしょうか? と、アオナギは僕に背を向けたまま静かに声を発した。
「けどなあ……万が一……もしもの時は、少年、お前さんに任せる。さっき『この一日で自分は飽きられ始めている』って言ってたよな?」
アオナギが時折ふっと見せる、肩の力の抜けた感じで僕にそう言ってくる。何だろう、こういう時のアオナギが本当のアオナギなのだろうか。すごい自然体だ。
「全然違うぞ。何で評価が落ちてきているか? そいつぁお前さんがこの一日の内に、凄まじいスピードで成長していっているからなんだぜ。付いて来れてない審査者の評点が鈍くなってるってだけのこった。じきにまたお前さんの流れが来る。いや、今までの5戦だって悪い流れとは思えねえ。自信を持て少年。何も取り柄もないとか、人前でのプレゼンが苦手とか言ってたお前さんが、勝ちを積み上げて来て、こうまで客を沸かせてるんじゃねえか。90万をかっ掴んで、行こうぜ、決勝によぉ」
リングロープに手を掛けながら、後ろの僕をちらりと振り返りつつアオナギはそう言う。すごい、僕にとって励まされるいい事を言ってくれた。それはひどくありがたいのだけれど、いい事を言いすぎて、ぽっく、と逝ってしまわないか非常に心配になってきた。ふぁ、Fasten your seatbelt!!
「さてさてぇ……あ、痩せても枯れても、元B1っ!! 七段んん~プロの手筋、しっかり、あ、しいっかりぃぃぃぃぃぃっ……」
ここで溜めを入れ、
「ごろうじなされやぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
柝も入らなければ、碧薙屋と声が掛かるわけでもない。でも、その時、僕は確かに戦いの舞台へと赴くひとりのプロフェッショナルの背中を見たわけで。やって……やってやってください!!
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