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Jitoh-29:圧縮タイ!(あるいは、凝天化/このスパツィオきテンポに集縮を!)
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「ッッセヤハァァァァィィィィッ!!」
ようわからん野太い歓喜の叫びが、結構広いこの地下スタジアムとでも呼ぶべき巨大空間に要らん反響をもってして響き渡るのだが。
案内嬢に無理言って三人各々の「マーク」からの「ハズれ距離」を測定してもらった。〇・一ミリ単位で測れるというのは誇張でもなんでもなく、ほぼほぼ差が無いだろうくらいに「マーク」にぴちり乗っているように見えた九つの球の距離が秒で弾き出される。
<一位:右側の人:計一・八ミリ、二位:中央の人:計二・五ミリ、三位:左側の人:計三・二ミリ……です。ですけどええ……>
案内嬢の驚愕の震え声が告げたのは、無情にもJ級戦士の勝利であったわけで。それを受けての即応の雄叫びが冒頭のそれであるが、ち、ちきしょう……ッ!!
「ィィィイイイイイイッハァァァアアアアアアアッ!!」
天使もここまで来て拒んだりしたらとんでもなく荒れそうな予感がしたのか、割と従順にそして極めて事務的に済ませてしまおう感もりもりの素っ気なさで、満面の笑みという題名の絵画のような浮世離れをした表情を具現化させている巨顔の横の、もみあげの終点辺りに触れるか触れないかにその可憐な唇を寄せると、瞬間、脊髄反射でビクついたのかと思わせるような性急さで刹那触れさせることにより、そのタチの悪い罰ゲームを済ませることに成功したようだが。
俺は何故……ッ、あそこで自らの全精力を傾けなかったのだ……ッ!! 〇・七ミリの差。それは地球の大きさに比べたのならば些末な距離に過ぎないかも知れないが、宇宙では命を落としかねない差異……それが、それが正に厳然と今、俺と角刈りの間に横たわっていた……ッ!!
そんな慟哭を何とか嚙み殺した俺を含む我がチーム面子は、アリーナからはけた所の控室的な所に案内されそこで結果を待つことに。と、
――ぃレディィスエェン、ジェントルメェンッ!! いよいよ決勝進出三十二組の発表だァッ!!
張りのある壮年の男のアナウンスが、作りじゃなくて本当に楽しんでるな、と思わせるような滲み出るテンションと共に何かの会議室のような素っ気ない作りの大部屋に響き渡る。言うて我らがチーム五名は凪ぎつつ次の本戦に向けてのテンションを静かに高めていたところなのだが。ここで終わっちゃあ、あの凄絶なシゴきは何だったんだって再度しつこく言うが、それに加えて最大命題「優勝賞金」への照準を緩めちゃあいられねえ。過分にアオりをカマした壮年の「予選通過者のチームナンバー読み上げ」が続いて為されるものの、いやそんな数字を羅列されたところで盛り上がりにくいだろうがよ……が、俺らの番号も確かに呼ばれたことを確認して、互いに……というか男三人がエビノ氏と必死で視線を合わせようと挙動不審な目つきで頷き合う。
「予選三位通過って、なかなかやん」
そんな俺の耳元に、息を吹きかけることがメインのような腹式ながら空気の抜けたような声で国富が告げてくる。何か今日つけてる香りは初めて嗅ぐやつなんだがこう透き通る甘酸っぱい感じというか脈動を揺さぶってくるぜ……ジャージ下から覗く深淵の谷底からそれは薫ってくるようで俺は目と意識を慌ててそこから逸らす。が、「三位」か……結構会心の放り込みと思えたが、上には上がいたっつうことか……油断慢心はもとよりするつもりもねえが、さらに気は引き締めないといけねえな……
とか自分なりに自分を高める俺だったが。
「……なかなかか。基本はなかなかに出来ているようだが……ふっ、本戦ではそうはいくまい」
大勢の参加者らが一喜一憂している部屋の一角で深紅のエルビスィックスーツへと着替えを強要されていた俺がズボンを降ろすか降ろさないかの瞬間……例の黒いばら車椅子を静かに転がしながら現れた、モロ諸塚とか確か名乗っていた動いて喋るタイプの亀頭に分類されるだろう輩が声を掛けてきた案件に、上げるか下げるか迷った中途半端な中腰のまま、なぜか応対させられるのだが。
「とは言え、あまりやり合いたくは無い相手ではあるかな。予測不能という点で」
とか逡巡していたら、その横から現れた、白く脱色したであろう肩までの長髪の毛先の方を目の覚める水色に染め、白詰襟の何をモチーフにしているか分からない恰好であまり娑婆感は無いものの、高齢過疎化が否応進む近郊県の人手不足食品工場なんかでは若いというだけで即時現場採用されそうな、おばちゃんらに好かれそうな顔だちの細面野郎がさも自然に声をかけてくるのであった。日之影氏……とか傍らで思わせぶりに鉄腕がその名前を呟くが、
「健常者ごときに何が出来るというのだ……」
そのさらに横からは、深緑色のタンクトップにJ顔負けの筋肉上半身を包むというよりは負荷をかけるためにぴっちりさせてんじゃねえかと思わんばかりのパンプアップボディのごついと表現する他は無い、その玄武岩のような顔面質も誰かさんと染色体を分け合ったかのような相似性を見せる巨漢が腹の底の底からのよう響く声にて何故かこちらを威嚇するように言葉を発してくる。延岡氏……とまたも鉄腕がそう何故か確認するかのように紹介するかのように呟きを放ってくるのだが。
いやいっぱい出て来たねえ……そしてここに来ていきなりのライバル感を各々醸し出してきたねえ……その何とも言えない雰囲気に呑まれることは勿論いまの俺にはあり得なかったが、もっとさあ人の着替えが済んでからとかそういう間の取り方はあろうはずだろうがよ……
「ハハッ、完膚無きまでに叩き潰してあげますよ」
「まあ最終的に叩き潰すにしろせいぜい大差がつく面白味の無い試合だけは避けたいものですがね」
「……不愉快だ。ゆえに叩き潰す」
そんな、こちらの無視以上の無反応を意にも介せず、その諸塚・日之影・延岡の三人は、そのような、フリにしてはあからさまだけどそうじゃねえよな頼むからそこはそう言ってくれよと思わず念押ししたくなるほどのカマセじみたセリフの如き言の葉を、お題が「叩き潰す」なのかと不安になって問いたくなるくらい自分勝手に置き去りにしていってしまうのだが。
はたして。
【本戦一回戦/第三試合:
チームTHEトー(時任・五ヶ瀬・那加井) VS GDBF (延岡・串間・三股)】
――ああーっとぉ!! ジトー選手の中空からの重爆撃がッ!! 相手の的球包囲網を嘲笑うかのように飛び越えッ!! 的球を巻き込み掠めとる強烈なバックスピンンンンンッ!! その先にはッ!! なんということだ、先ほど失投と思われたゴカセ選手の死に球がッ!? 手引きをするように待ち構えていたぞこれは何というぅぅぅぅ、逆転劇ッ!! 勝負あった!! 二対〇ッ!! 『チーム210』のぉぉぉぉッ、勝利だッ!!
「何でもあり」言うてたが、運営上の都合からか、まあ普通の団体戦だった。そこもそことて特筆すべきところも無かったのだが、試合内容もあっさりと。カマせ以上あるいは以下の何者でも無くさりとて何物も残さないままに、思わせぶりに現れたかのように思えた輩の一角、Jガイル君の2Pカラーのような延岡氏は大した見せ場も無くダイジェスト気味に圧縮された時空間に挟み込まれ散り去っていったのだった……
うん……まあ俺らの成長が著しかったと、そう思おう。何より立ち止まってる暇はねえのだから……と気合いを入れ直す俺だったが、今日のところは本戦一回戦十六試合をやって続きは明日、という余裕取り過ぎじゃね? というような大会スケジュールを唐突に告げられたところで一日目が終了するのであった。まあ何つうかショービジネスとかの意味合いが色濃いよな、という印象だった……見世物感がハンパねえ。それにおそらくは賭けなんかも繰り広げられているのだろう、汚え野次も飛び交うわだったが全く意に介さねえ面子であるからそれはどうでも良かったものの、ただ天使と国富にだけ野太い声援が濃かったよな純粋にボッチャの真髄を見てくれっつうの……
一回戦通過チームにはこのカジノ建屋内のホテルの部屋が割り振られるそうで、豪奢なスイートは地上二十五階とやらでデッキチェアが横にしておける広さのバルコニーからの湾岸のイルミネーションは格別の眺めであったが、Jの字との相部屋にされたので既に相当量のワインや何やらを上機嫌でカッ喰らった挙句ベッドにダイブしてのち二秒くらいで高いびきと無呼吸のセットを繰り返すようになった巨体が放つ音声が気になってあまり堪能は出来ねえ。心地よい誘眠も出来そうにねえ。
「……!!」
なもんで、下のバーで強めのカクテルでも煽ってさくりと寝るべえ……と、高級な内装にそぐわないジャージ姿でエレベーターホールまで出て見れば、そこには箱を待つ先客の姿があったわけで。こんな時間に……と思ったらレモンイエローのパーカーみたいなジャケットを羽織った国富。そして、
今日という一日は、まだ終わりを見せそうに無かったわけで。
ようわからん野太い歓喜の叫びが、結構広いこの地下スタジアムとでも呼ぶべき巨大空間に要らん反響をもってして響き渡るのだが。
案内嬢に無理言って三人各々の「マーク」からの「ハズれ距離」を測定してもらった。〇・一ミリ単位で測れるというのは誇張でもなんでもなく、ほぼほぼ差が無いだろうくらいに「マーク」にぴちり乗っているように見えた九つの球の距離が秒で弾き出される。
<一位:右側の人:計一・八ミリ、二位:中央の人:計二・五ミリ、三位:左側の人:計三・二ミリ……です。ですけどええ……>
案内嬢の驚愕の震え声が告げたのは、無情にもJ級戦士の勝利であったわけで。それを受けての即応の雄叫びが冒頭のそれであるが、ち、ちきしょう……ッ!!
「ィィィイイイイイイッハァァァアアアアアアアッ!!」
天使もここまで来て拒んだりしたらとんでもなく荒れそうな予感がしたのか、割と従順にそして極めて事務的に済ませてしまおう感もりもりの素っ気なさで、満面の笑みという題名の絵画のような浮世離れをした表情を具現化させている巨顔の横の、もみあげの終点辺りに触れるか触れないかにその可憐な唇を寄せると、瞬間、脊髄反射でビクついたのかと思わせるような性急さで刹那触れさせることにより、そのタチの悪い罰ゲームを済ませることに成功したようだが。
俺は何故……ッ、あそこで自らの全精力を傾けなかったのだ……ッ!! 〇・七ミリの差。それは地球の大きさに比べたのならば些末な距離に過ぎないかも知れないが、宇宙では命を落としかねない差異……それが、それが正に厳然と今、俺と角刈りの間に横たわっていた……ッ!!
そんな慟哭を何とか嚙み殺した俺を含む我がチーム面子は、アリーナからはけた所の控室的な所に案内されそこで結果を待つことに。と、
――ぃレディィスエェン、ジェントルメェンッ!! いよいよ決勝進出三十二組の発表だァッ!!
張りのある壮年の男のアナウンスが、作りじゃなくて本当に楽しんでるな、と思わせるような滲み出るテンションと共に何かの会議室のような素っ気ない作りの大部屋に響き渡る。言うて我らがチーム五名は凪ぎつつ次の本戦に向けてのテンションを静かに高めていたところなのだが。ここで終わっちゃあ、あの凄絶なシゴきは何だったんだって再度しつこく言うが、それに加えて最大命題「優勝賞金」への照準を緩めちゃあいられねえ。過分にアオりをカマした壮年の「予選通過者のチームナンバー読み上げ」が続いて為されるものの、いやそんな数字を羅列されたところで盛り上がりにくいだろうがよ……が、俺らの番号も確かに呼ばれたことを確認して、互いに……というか男三人がエビノ氏と必死で視線を合わせようと挙動不審な目つきで頷き合う。
「予選三位通過って、なかなかやん」
そんな俺の耳元に、息を吹きかけることがメインのような腹式ながら空気の抜けたような声で国富が告げてくる。何か今日つけてる香りは初めて嗅ぐやつなんだがこう透き通る甘酸っぱい感じというか脈動を揺さぶってくるぜ……ジャージ下から覗く深淵の谷底からそれは薫ってくるようで俺は目と意識を慌ててそこから逸らす。が、「三位」か……結構会心の放り込みと思えたが、上には上がいたっつうことか……油断慢心はもとよりするつもりもねえが、さらに気は引き締めないといけねえな……
とか自分なりに自分を高める俺だったが。
「……なかなかか。基本はなかなかに出来ているようだが……ふっ、本戦ではそうはいくまい」
大勢の参加者らが一喜一憂している部屋の一角で深紅のエルビスィックスーツへと着替えを強要されていた俺がズボンを降ろすか降ろさないかの瞬間……例の黒いばら車椅子を静かに転がしながら現れた、モロ諸塚とか確か名乗っていた動いて喋るタイプの亀頭に分類されるだろう輩が声を掛けてきた案件に、上げるか下げるか迷った中途半端な中腰のまま、なぜか応対させられるのだが。
「とは言え、あまりやり合いたくは無い相手ではあるかな。予測不能という点で」
とか逡巡していたら、その横から現れた、白く脱色したであろう肩までの長髪の毛先の方を目の覚める水色に染め、白詰襟の何をモチーフにしているか分からない恰好であまり娑婆感は無いものの、高齢過疎化が否応進む近郊県の人手不足食品工場なんかでは若いというだけで即時現場採用されそうな、おばちゃんらに好かれそうな顔だちの細面野郎がさも自然に声をかけてくるのであった。日之影氏……とか傍らで思わせぶりに鉄腕がその名前を呟くが、
「健常者ごときに何が出来るというのだ……」
そのさらに横からは、深緑色のタンクトップにJ顔負けの筋肉上半身を包むというよりは負荷をかけるためにぴっちりさせてんじゃねえかと思わんばかりのパンプアップボディのごついと表現する他は無い、その玄武岩のような顔面質も誰かさんと染色体を分け合ったかのような相似性を見せる巨漢が腹の底の底からのよう響く声にて何故かこちらを威嚇するように言葉を発してくる。延岡氏……とまたも鉄腕がそう何故か確認するかのように紹介するかのように呟きを放ってくるのだが。
いやいっぱい出て来たねえ……そしてここに来ていきなりのライバル感を各々醸し出してきたねえ……その何とも言えない雰囲気に呑まれることは勿論いまの俺にはあり得なかったが、もっとさあ人の着替えが済んでからとかそういう間の取り方はあろうはずだろうがよ……
「ハハッ、完膚無きまでに叩き潰してあげますよ」
「まあ最終的に叩き潰すにしろせいぜい大差がつく面白味の無い試合だけは避けたいものですがね」
「……不愉快だ。ゆえに叩き潰す」
そんな、こちらの無視以上の無反応を意にも介せず、その諸塚・日之影・延岡の三人は、そのような、フリにしてはあからさまだけどそうじゃねえよな頼むからそこはそう言ってくれよと思わず念押ししたくなるほどのカマセじみたセリフの如き言の葉を、お題が「叩き潰す」なのかと不安になって問いたくなるくらい自分勝手に置き去りにしていってしまうのだが。
はたして。
【本戦一回戦/第三試合:
チームTHEトー(時任・五ヶ瀬・那加井) VS GDBF (延岡・串間・三股)】
――ああーっとぉ!! ジトー選手の中空からの重爆撃がッ!! 相手の的球包囲網を嘲笑うかのように飛び越えッ!! 的球を巻き込み掠めとる強烈なバックスピンンンンンッ!! その先にはッ!! なんということだ、先ほど失投と思われたゴカセ選手の死に球がッ!? 手引きをするように待ち構えていたぞこれは何というぅぅぅぅ、逆転劇ッ!! 勝負あった!! 二対〇ッ!! 『チーム210』のぉぉぉぉッ、勝利だッ!!
「何でもあり」言うてたが、運営上の都合からか、まあ普通の団体戦だった。そこもそことて特筆すべきところも無かったのだが、試合内容もあっさりと。カマせ以上あるいは以下の何者でも無くさりとて何物も残さないままに、思わせぶりに現れたかのように思えた輩の一角、Jガイル君の2Pカラーのような延岡氏は大した見せ場も無くダイジェスト気味に圧縮された時空間に挟み込まれ散り去っていったのだった……
うん……まあ俺らの成長が著しかったと、そう思おう。何より立ち止まってる暇はねえのだから……と気合いを入れ直す俺だったが、今日のところは本戦一回戦十六試合をやって続きは明日、という余裕取り過ぎじゃね? というような大会スケジュールを唐突に告げられたところで一日目が終了するのであった。まあ何つうかショービジネスとかの意味合いが色濃いよな、という印象だった……見世物感がハンパねえ。それにおそらくは賭けなんかも繰り広げられているのだろう、汚え野次も飛び交うわだったが全く意に介さねえ面子であるからそれはどうでも良かったものの、ただ天使と国富にだけ野太い声援が濃かったよな純粋にボッチャの真髄を見てくれっつうの……
一回戦通過チームにはこのカジノ建屋内のホテルの部屋が割り振られるそうで、豪奢なスイートは地上二十五階とやらでデッキチェアが横にしておける広さのバルコニーからの湾岸のイルミネーションは格別の眺めであったが、Jの字との相部屋にされたので既に相当量のワインや何やらを上機嫌でカッ喰らった挙句ベッドにダイブしてのち二秒くらいで高いびきと無呼吸のセットを繰り返すようになった巨体が放つ音声が気になってあまり堪能は出来ねえ。心地よい誘眠も出来そうにねえ。
「……!!」
なもんで、下のバーで強めのカクテルでも煽ってさくりと寝るべえ……と、高級な内装にそぐわないジャージ姿でエレベーターホールまで出て見れば、そこには箱を待つ先客の姿があったわけで。こんな時間に……と思ったらレモンイエローのパーカーみたいなジャケットを羽織った国富。そして、
今日という一日は、まだ終わりを見せそうに無かったわけで。
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